この録音が、島民の誰かが聞いてくれるのを信じて残すことにする
これを聞いている時、俺はあの島と一緒に運命を共にしたんだろう
みんなにはすまないと思ってる
何も相談せず勝手なことして
特に、母さんにはまた辛い思いをさせちゃった
ごめん。母さん、みんな
でも、俺は、あの子を1人にはできなかった
目覚めて、岩戸から出て、一緒に過ごして、繋がって、還っていった彼女の子を
彼女の時と違って、一緒にいる時間が少なかった
だからこそ、一分一秒でも長く、島に還るまで一緒にいたかった
って、そういえば、まだ俺の名前言ってなかった! せっかく録音したのに名乗らないと誰からのメッセージじゃわからないじゃん……
時間あんまないのに何やってんだ俺。こういうの、総士だったら無駄にちゃんとしてそうだな……
あー、えー、んんっ! それじゃ気を取り直して、まずは自己紹介から。俺の名前は……
外に出なくなって部屋に籠ってから、何日経ったんだろうか。
ベッドで寝っ転がっていた体を起こして、閉めていたカーテンを少しだけずらして窓の外を見る。
憎たらしいくらいに、いい天気だった。爛々と輝く太陽の日差し。風に揺れる草木たち。雲一つない澄み切った
少し前までは、学校行ったり、放課後は虫取りや島の探索で走り回ってたのが嘘みたいに、外が遠い場所にあるように感じた。壁一つ隔てているだけなのに。
見ていると泣きたくなって、思い出したくないことが頭に浮かんでしまうのに。
空を見上げてしまう。そして思い出してしまう。
妹が飛んでいって、いなくなった空を。
島を守っていなくなった妹が眠る墓を汚されたことを。
信じられなかった。
妹がその身を犠牲にしてまで守った島の中に、あんなことをする人がいることを。
それからだ。外に出たくなくなったのは。
あんなことをする人がいる、外に出るのが怖い。
学校に行けば妹について聞かれるのが嫌だ。
そんな人がいるこの島を守るために、ファフナーに乗って命を懸けてフェストゥムと戦う意味が分からなかった。
最初は死にたくなった。でも、自分までいなくなれば母さんを悲しませてしまう。
でも、外に出たり、学校行ったり、戦ったりなどはしたくなかった。
その結果がこの怠惰な生活だ。
今日もまた起きて、食べて、ボーっとして、食べて、寝て……で終わるだろう。
と考えたその時だった。
玄関から呼び鈴が鳴った。
誰かが家の前に来たようだ。
咲良たちや真矢は一度来た時に追い返して以降は、来ていないからあり得ない。
だとしたら母の関係者であるだろう。今はアルヴィスにいると伝えて、伝言があるなら伝えておくと言えばいいだろう。
とにかく早く追い返して1人になりたい一心で、鈍った体を引きずるかのように動かして玄関へ赴き、扉を開けた。
そこにいたのは同級生や大人たちではなく、部活の後輩の女の子、
俺に付き合って色々な虫たちをたくさん捕まえて妹へ見せに来てくれたり、妹をオンブして森を歩いている時には先導して危険はないか確認してくれたりなど、沢山世話になった。
俺が席を外している時は二人で、たまに真矢も混ざってガールズトーク? でいいのかな。ともかく色々話して仲が良かったのは事実だ。
「先輩……お久しぶりです……」
嬉しさと悲しみが織り交ざった涙目の笑みをしながら彼女は自分にそう言った。
なんだか少し窶れているようにも見えた。
予想外の客であったので、なんと返事を返せばいいのかわからなかった俺は、とりあえず久しぶりと返した。
「久しぶり、じゃないですよ! 学校に来なくなって、心配してたんですよ! 翔子先輩だけじゃなくて先輩にまで何かあったら……私……私……」
最初は大きかった声は段々小さくなっていき、我慢の限界だったのか、彼女の両目が決壊し、涙が滝の如き勢いで流れ落ちていく。
そのまま自分の胸元に寄りかかり、両手を背中に回して抱きしめながら涙で乱れた顔を上げてきたことにより、目があった。あってしまった。
「目にすごい隈ができてるし、顔色も酷いじゃないですか……」
「……すまない」
最近鏡を見ていないので自分がどんな風に見えるのかわからなかったが、思っていた以上に自分の顔は酷いことになっているようだ。更に心配させてしまったせいなのか、両目から流れている涙の滝が勢いが増してるように見えてしまい、そんな彼女に何と答えればいいか分からず、謝ってしまった。
「謝らないでください。こうしてまた会えたんですから……良かった……まだ、ここにいる。先輩が、ここにいる……」
再び顔を胸元に押し付けて泣きながら抱きしめてくる。自分が生きているのをしっかりと確かめているかのように。
もう追い返すという選択肢は失せていた。心配してくれてる彼女の背に自分も手を回して抱きしめる。普段こんなに異性に触れたことがないが上の緊張と、ここ最近身体を動かしていなかったせいでうまく腕の力が入らず、抱きしめているというより、触れているような感じであったが、ちゃんと彼女の熱は伝わってくる。
「ありがとう、心配してくれて。俺はまだ、ちゃんとここにいるよ、芹……」
今はまず彼女の涙を止めて安心させなければいけないと、背に回していた手の片方を目元を拭った。それと同時に、あんなに流れていた滝が嘘のように止まった。泣きすぎたせいで目元は真っ赤になっているが、彼女の顔はさっきよりも良い笑顔を顔に浮かべていた。
それから数分立ち、自分と芹は自分たちが今第三者から見たら誤解されてしまいそうな光景を作り出しているのに気づき、慌てて同時に離れた。さっきまでは顔を合わせていたのに今は恥ずかしくて顔が燃えるように熱い上に、視線は下の方を向いたまま動かず、直視できなくっていた。さっきチラッと芹をみたが顔の顔は結構赤くなってたようにも見えたのでおそらく自分と似たような状態であろうと思う。
せっかく心配して来てくれたのに、このまま彼女を帰すのはアレだと思った自分は、少しお茶していかないか? と誘ってみた。
自分からの急なお誘いに顔をグイっと上げて、え!? え!? と驚いていた。まだ熱が冷まし切れていないのか、上げられた顔はまだ赤みがあった。
少ししてから、ようやく落ち着いてきたような雰囲気になった芹は少し考え込むように沈黙していたが、若干横に視線を向けながらも、無言でこくんとまっすぐに頷いて誘いを受ける肯定の意を確認した自分は、彼女を家に上げさせた。
居間に連れていく前に洗面所に連れていって顔を洗うようにといい、その間自分は台所へ行き、お茶が入ったコップを用意して、居間のテーブルに飲み物を置いて、芹が来るまで椅子に座って待っていた。
ふと、窓際の棚の上に飾られていた写真が目に入ってきた。自分と妹、そして母さんの三人が写っている家族写真。ずっと前に体調がかなり良かった妹を連れて浜辺に遊びに行ってきた奴であった。写真の中にいる妹を見ていると、ここ最近の自分の生活を振り返って、とても妹にはみせられない醜態をさらし続けてたと、いまさらながらに後悔した。
そんな自分を見ていた母さんも、妹がいなくなった悲しみで辛いはずなのに、自分がこんなことになってしまってさらに苦しかったはずだ。それでもなおアルヴィスで働きながらも見捨てずに身の回りの世話をしてくれた。
帰ってきたら、ここ最近の自分に関して謝ってから、ありがとうと言わなきゃと決意していると、顔を洗い終わった芹が居間にやってきたので、写真から視線を外し、向かい側に座る彼女と向き合う。
何から話せば良いか分からずお互い黙ってしまっていたが、まずは一口お茶を飲んでゆっくりしながらでと言いながら、入れてきたお茶を飲んだ。
その時飲んだお茶は、これまでよりも冷たく、美味しかったような気がした。
結局、あんまり話さずにただ2人でお茶を飲みながら日が暮れるまでボーっとしていた。少々暑かったのと、最近エアコン頼りで過ごしていたのもあったので、窓を開けて冷たくて気持ちいい風を居間に引き入れた。結果、気持ちのいい空間と化していた。カランと、コップの中から淹れ直したお茶と共にいれた氷たちがぶつかる音と、風の音の音色もまた心地よかったし、それに加えて頬杖を突きながら、風と音を感じている芹は綺麗だった。
多少話題を振ったが、長続きしたのは虫についての話くらいだった。でも、それでよかったと思う。
島や学校では、おそらく自分や妹の根も葉もない噂が飛び回っているのだろう。そのことについて一度聞いてみたが、俯いて口ごもった芹を見て、ああ、やっぱりか。
妹は命令無視で貴重なファフナーを破壊した野郎。それに派生して、自分はたしか、身内が死んだことで怖気ついて家に閉じこもった意気地なしなどであったような気がする。
前者はともかく、後者に関しては決して嘘ではためになんとも言えなかったが。なぜ広まっている噂を知っているのかというと、大人が自分の家の近くでわざとらしく大声でいってきたからだ。カーテンで窓を閉め切っていたので誰が言ったのかはわからないが。
辛くないと言えば嘘になる。今も、そんなことを言われると考えたら体が震える。だが、心配して様子を見に来てくれた上に、妹と自分のために泣いてくれた人が目の前にいるという事実が、残酷な現実と向き合うきっかけになった。
まずは、外に出るのに慣れる事から。明日以降時間があったら外に出て歩く時に付き添ってほしいと芹に頼んだ。それに対し、
「もちろん! 時間はいくらでも作りますので大丈夫です!お付き合いさせてください、先輩!」
と、嬉しそうに返してくれた。
そのあとは玄関先まで芹を見送り、家の中へと戻る。
母さんはまだ仕事が残っているので帰ってくるのは大分遅くなると、朝ご飯が乗ってあったトレイと一緒に置かれていた書置きにあったので、話は明日の朝にしようと、用意されてた夕食を食べて風呂を済ませてから眠りについた。
今夜はよく眠れそうだなと思いながら睡魔に身をゆだねた。
気が付いたら、自分は曇り空の下、草原の真ん中に立っていた。耳を澄ますと穏やかな波の音が聞こえる。
音がする方と歩いていくと、海が見えた。曇り空で暗く見えるが、僅かばかりの雲の隙間から日差しが指していて、その光が海面に当たってキラキラと輝いていた。
ほかにも雲の隙間があって日差しが所々顔を出していた。その中、波打ち際の近くの日差しの下に誰かがいた。
一体誰なんだろうと、確かめるために近づいて行く。
そこにはアルヴィスの制服を着た小さな黒く長い髪をした女の子が海の方をジッと見つめていた。
やがて女の子は自分の存在に気が付いたのか、こちらの方へ顔を向けていた。
そして、
「漸く、また会えたね、彼方……」
まるで、待ち合わせ場所で待ち人が漸くやってきてくれた嬉しそうな感じに、その子は自分ーー羽佐間彼方の名を呼んでいた。
この時はまだ思い出してなかったが
これが彼女との
羽佐間彼方
翔子のお兄ちゃん兼本作主人公。妹が空にいったショックと島民の誰かに墓を汚された事実に加え、誰かさんが流した翔子の噂から派生して生まれた自分の噂話追撃くらって引きこもってた。誰かさんは後でちゃんと謝ろう。
後輩の励ましで少しだけ前向きになった。現在夢の中でとある女の子と遭遇
立上芹
森に設置された虫を捕まえる罠を壊してる時に翔子おんぶしてる彼方とばったり。それがきっかけで、本作でのこの子は羽佐間宅に来訪して翔子とお話ししたり、一緒に外に出たりと交流があったために翔子が飛んでいってしまったことにショック受けてメンタルダメージくらってる。
帰り際にお付き合い云々の発言から妄想して顔真っ赤にして帰ってたかもしれない。
最後に出た女の子
作者が1番ヒロインさせたい子。以上!