システリア法国──大聖堂。
そこに、一人の司祭が立っていた。司祭の前には五人の人影。それぞれがそれぞれに歴戦を思わせる風体をしているものの、そこに会話はなく、空気は劣悪の名を恣にしている。
「──では、これより君達を魔王討伐隊とする。人々に安寧を。よろしく頼むぞ」
「……」
無言。頷く者は一人だけで、他は皆不機嫌そうに自分以外の者を見渡し、舌打ちさえする者もいた。
ここに集うた、魔王討伐パーティが五人。
彼らの関係性は──最悪、であった。
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いやはや、いやはや、いやはやはやはや。
もっといい人選あったでしょうよ、と言いたい。司祭サンにも、神様にも。
一年程前に現れた魔王サン。一時代に一人は現れるらしい魔王サンは、歴史的に見ても意欲的だったみたい。魔物をわんさか引き連れて、周囲の村々や国々を破壊して破壊して破壊の限りを尽くしたとさ。
ということで、通常であればどこぞの村から突然排出される勇者クンが魔王を倒す旅に出るんだけど、今回ばかりはそんなもの待ってられないってことで魔王討伐隊が編まれたワケさ。
で、人選をどうするかって話になる。通常時に勇者クンがその責務を任されていたのは、めちゃくちゃ強いから、って話らしい。人望とカリスマも兼ね備えた、けれど血統も家柄もなんもない田舎モンが必ず一人選出されるってんだから、なんらかの作為性を感じずにはいられないよねぇ、なんて思ったり。
ホントならそのカリスマバリバリの勇者クンが仲間を集めて魔王サンを倒してくれていた所、今回は勇者クンがまだ見つかってないんで最初から掻き集められた"各国の強いヤツ"でパーティを組んでいくわけなんだけどさ。
まず、ボクね。うんうん、盗賊連合がお頭をやらせてもらってるミスティってモンなのさ。まずおかしいよね、盗賊だよ盗賊。自分で言うのもなんだけどガチ犯罪者なのよ。まぁボクら盗賊も魔物の被害には困っていたし、システリア法国とは色々繋がりがあるから今回の提案は吝かでもなかったんだけどサ。
こんな人選だ、なんて聞いてないよね。
次に前衛、になるのかな。本来は勇者クンが努める役割にいるのが、ウガスカン。血濡れのウガスカンって言ったらそりゃ有名よ有名。大帝国の大将軍サマで、その身分にあっても戦場では先陣を突っ切って、敵国を血の海に沈めるんだから。敵国であれば女子供も関係なく容赦なく叩き潰すから、恨みつらみは相当だろうね。戦争に関係ない国でも彼の事を嫌ってる、あるいは苦手に思ってる人は少なくないと思うよ。
そんな大帝国と今まさに戦争中な共和国からエリンジュちゃん。精霊使いで、歴代でも極めて珍しい七属性精霊を従えてる稀代の天才チャン。彼女の両親はそれはもう高名な精霊学者で、まさになるべくしてなった精霊使いって感じヨネ。
ただし、そのご両親は亡くなってる。ほかならぬウガスカンに殺されたんだぜ、酷いよなぁ。
その次、公星のお爺ちゃん。東方にあるカナギリってとこから来たお爺ちゃんで、ここは絶賛国閉じ中。昔から周辺諸国と喧嘩してたし、共和国とも大帝国とも仲が悪い上、お爺ちゃんの気質が他人を見下す感じの……なんというか、お偉いサン、って感じだから、正直ボクは嫌いだね。ボクら盗賊は偉いヤツが嫌いなんだ。基本、そいつらのせいで盗賊やってるからね。
で最後。コイツに関しちゃよくわからない部分は大きい。
システリア法国が聖女、ロキちゃん。システリア法国自体がそこそこ闇に包まれているけれど、内部事情を知るボクら盗賊からしても正体不明。システリア法国も他の国々と仲が良いとは言えないし、世間ではボクら盗賊連合と繋がってるんじゃないか、って正解な噂が囁かれてるから、みんな疑いの目を向けている感じだね。
役割は回復師になるんだけど、司祭サン曰く強力な神聖術も使えるらしいんで期待半分警戒半分。
とまぁ、こんな感じの五人が魔王討伐隊なワケさ。
今の所パーティでの会話はナシ。法国の街中を歩き、大門から出た所で、けれど誰も何も言わないと来た。うひゃー、嫌だ嫌だ。洞穴で焚火囲んでゲラゲラ笑い合ってたいねぇ、ボクみたいな外れものはさ。こんな面倒な人間関係に巻き込まれたくないよ。
「お前」
「ん?」
とと、びっくりした。突然声をかける、というか、喋るんだもん。
「なんだい」
「不審な動きを見せたら、叩き潰す。理解しておくことだ」
「ヤだな、そんなことしないさ。君らみたいな大切なモノを盗まれても表情一つ変えなそうなヤツから盗んでも面白くないだろ?」
「ふん。どうだかな、盗賊というのは得てして卑怯なものだ。そもそも犯罪者と共に行動するなど……全く、国は何を考えている」
「虐殺者が言えた事ではないでしょう。盗む相手を選定できる分、そこな盗人の方が人としての位が上かと?」
「なんだ、俺に親を殺された事がそんなにも憎いか? だがな、小娘。戦争において弱者の死は必定だ。そいつらは弱かった。それだけだろう」
「戦地にも出ていない民間人が弱者であるのは当たり前では? 戦地にある者のみが生死の境を分ける。その分別さえもできない虐殺者がよくもまぁ戦いを語れますね」
「ほほ、醜いのう醜いのう。これだから国外はイカん。もう少し心に余裕を持たんか、若輩者め。ささくれに驚いて怒り散らすなど、三流の行いよなぁ」
「うわ、ウザいノリじゃん。お爺ちゃん、もうそういう時代は終わったぜ。そうやって一歩引いて眺めて、観戦者に回って笑ってるだけの臆病者の時代はサ」
「……」
突然会話が増えたと思えば、コレである。
うーん、仲良くするとか無理かなぁ~。
そして会話に入ってくる気配のないロキちゃん。何考えてんだろうねぇこの人。
「ほほ、魔王討伐完了までの辛抱よ。なんでもいうが良いぞ、若輩者。数十年前にすべて聞き飽いたわい」
「老いて耳が聞こえなくなってるだけだろ、それ」
あと多分、ボクの方が年上だし。なんてことは言わないでおいてサ。
どうしたもんかなぁ、って感じ。このまま行くのかな、魔王討伐。
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「魔王討伐……オレ達が?」
荘厳な大聖堂に、五人の少年少女が集められていた。
リーダー格だろう少年の腰には煌びやかな装飾の為された剣が二本。彼に並ぶは身長よりも長い杖を持つ少女。さらには肩の上にデフォルメされたドラゴンを連れた少女と、腰や太腿に幾本もの針を巻いた少女、大きなカバンを背負った少年。
彼ら彼女らは所謂幼馴染という関係性であり、仲良し五人組で旅に出て、この聖堂へ辿り着いた。
「うむ。頼めるか?」
「……わかりました。任せてください!」
大丈夫なのか、という問いは起きない。全員がリーダー格の少年を信頼しているし、少年もまた幼馴染達を信頼しているからだ。
「あの……」
けれど、一人……カバンを背負う少年だけが、口を出した。
「どうしたのだ?」
「法国から援助などは出るのですか?」
「エリック、やめろよ。大丈夫です司祭様。オレ達は自分達の手で道を切り拓いて見せます」
「うむ、頼んだぞ」
不安そうな顔を見せる少年を、リーダー格の少年が制す。それは当然の欲求であったのだろうが、"カッコよくない"とリーダー格の少年は思ってしまったらしい。カバンの少年もそれ以上何かを口に出す事は無く、大人しく引き下がる。
多少、カバンの少年を見る少女らの目が白くなったが、いつもの事なのだろう、足を踏んだり、背中をつねったりする者はいない。
「では──」
「はい! 行って参ります!」
食い気味に。
リーダー格の少年を始めとした魔王討伐隊は、足早に大聖堂を出ていくのだった。
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「魔王討伐ゥ? ……なんでンなもん、学生のアタシらがやんなきゃなんねぇんだよ」
「ウィリちゃん、ダメだよ。司祭様なんだから、敬語使わなきゃ!」
「う、うるせぇなリノン。でもオカシイだろ、アタシらはまだ学生なんだ、ソーユーのは大人がやるもんだろ」
「……ウィリもだけど、リノンも司祭様を無視しすぎ。困ってるよ」
「あ、ご、ごめんなさい司祭様! でも、その……ウィリちゃんの言う通り、私達はまだ学生で……」
「ああ、よって、引率としてこの者をつける」
「……げ」
「うわ、戦闘科のヨルムじゃねぇか!」
「あ、ヨルム先生だー!」
「想像通りの反応だなウィリ、レミニ。そして可愛い反応をありがとうリノン」
「おい、クソレズ教師! リノンの色目使ってんじゃねえ!」
「あ、ちょ、ちょっとウィリちゃんっ、恥ずかしいよ……」
「……そろそろ話を進めるべき」
「では、四人共、魔王討伐を頼んだぞ」
「……無反応は恐るべし」
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「僕、が、魔王討伐を……?」
「ばっか俺達で、だよ!」
「ふん、分析によれば僕一人で十分だ。君達は後ろに下がってビクビク震えているといい」
「ハァ!? 舐めたクチ聞いてんじゃねぇぞメガネ! 俺達でやんだよ! 俺達で!」
「……やります。やらせてください!」
「うむ。頼んだぞ」
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「我らに任務と聞いた。仔細を」
「魔王討伐を」
「承知」
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任せたぞ。
本日最後のパーティにその言葉を吐いて、ようやく一息ついた。
大聖堂の扉を施錠し、裏へ戻る。休憩室にまで来て──そのまま、身を投げ出してベッドへ入る。休憩室で休んでいた子らが会釈をしてくれて、いやほんと、君達もこんな遅い時間までありがとうね。
「ふぃー……。いや、本当に。個性強すぎだろ。つかもっと人の話聞けよ……」
司祭として振舞っていた時の口調からはかけ離れて砕けたそれに、しかし文句を言う者は一人もいない。
そりゃそうだ。このシステリア法国においては僕が一番偉いし、僕が一番働いている。僕の気苦労をわかっている子しかいないから、当然、僕の口調だとか振舞いに文句を言う子もいない。
「お疲れ様です、ヨゥキ先生」
「うん、ありがとう。でも先に上がってても良かったんだよ?」
「とんでもないです。世界のために頑張ってる先生をおいて先に上がるなんて……」
良い子過ぎて涙出そう。
先程まで口を衝いていた愚痴なんて引っ込んじゃった。
「ま、これは僕にしか出来ないコトだからね」
「……今日旅に出た彼らは……いずれ、
「うん、そう。……際立ったスキルだよ、ホント」
"対象のコミュニティをパーティ追放モノ並みのモラルに変化させる能力"──。
それが僕の、生来より授かったスキル。誰かを仲違いさせるくらいにしか使えないこのスキルだけど、何の工夫も、応用もせずに、額面通り受け取って使用する事で強力な事象を起こす事が出来る。
「追放された者の集結。討伐隊から追放された者は、最終的にその討伐隊全員の力を合わせても勝てない程の戦闘力を有す事になることは前例から分かっている。所謂蟲毒さ。討伐隊ごとに一人、蟲毒によって選出された強力な者が出てきて、それが同時期に幾人も出てくれば。つまり、同じ境遇の者が幾人も出たのなら、それらが集結するのは当然の摂理。追放された者程魔王討伐への責任感が強くなる事もわかっているからね」
「そうなった、追放者だけの討伐隊でなければ……魔王は倒せませんか」
「うん。それくらい強いよ、魔王は。なんせ僕と真逆の力を持ってる」
"対象のコミュニティを熱血友情モノ並みのモラルに変化させる能力"。それが魔王の持つスキル。彼女はこれを使う事によって、本来は唯我独尊利己主義自己至上主義な魔族達をまとめ上げ、非常に強固な国を作っている。
そもそもが個として強い魔族が人間の様に群れたらどうなるか、なんて考えるだけで恐ろしい話だ。
それを倒すには、より洗練された個を纏めてぶつけるしかない。
「……勝てますか、人類は」
「厳しい戦いになると思うよ。明日も沢山の討伐隊を送り出す。そのために、今日はもう上がらせてもらおうかな」
「あ、はい! 本当に、お疲れ様です」
「うん、ありがとう」
一応司祭だから書類系統の仕事もなくはないんだけど、一日やらない程度で回らなくなるシステリア法国じゃない。だからまぁ、大丈夫だろう。
「おやすみ」
「はい! おやすみなさい!」
うん、ホント良い子。泣きそうになるね。
/
出ていった司祭の足音が消えてから、深い深い溜息を吐いた。
「……正直、人類の敵はあの人だと思うのよね」
──"ク、この魔王と内通しているお前が言うか?"
「人間で蟲毒をやろう、なんて、善なる心を持ってるヒトの言葉じゃないわ」
──"時代が違えば、あるいは種族が違えば、奴の方が魔王になっていただろうな"
「貴女の能力で、あの人の能力を相殺する事は出来ないの?」
──"出来ると言えば出来る。だがやると思うのか? それに、それをしたとして、お前に何の意味がある"
「だって、可哀想じゃない。これから旅をしていく内に信頼が生まれるかもしれない人達。既にある信頼をより高めていけるかしれない人達。家族や恋仲の関係の人達もいたし、これからそうなるかもしれない人達もいた。だというのに、あの人のスキルのせいで、必ずその輪は崩壊するのよ」
──"優しいなぁ、お前は。それで? そんな非道をするあの司祭を前に、お前はどうしたいのだったか"
「……システリア法国は、本当に正しい国になるために……あの人を追い出す」
──"ククッ、そうかそうか。ぜひ頑張ってくれ。応援しているぞ"
「何度も言うけど、魔王国のため、じゃないからね」
──"あぁ、その事で笑ったわけじゃない。ククク……ああ、そろそろ切るぞ。用事があるのでな"
もう一度、溜息を吐く。
システリア法国の司祭と、魔王国の魔王。鏡合わせのような能力を持つ二人。
……けれど、たとえ人類が魔王国に負ける事となっても、やっぱりあの人の能力は……許しては、いけないと思う。
/
「自由の身になる準備は順調に進んでいるようだな、ヨゥキ」
「そりゃ勿論。十分育てたからね。良い子ばっかりだし、もう僕が居なくても十分でしょ」
「ククク、対象のコミュニティをパーティ追放モノ並みのモラルに変化させる能力……その対象は国にまで及ぶか。つくづく、恐ろしい能力だ」
「お互い様でしょ。その能力を僕に使って、僕を惚れさせたんだから」
「ふん、わかってて付いてくる選択を取ったお前に何を言われる筋合いはないな」
カツン、とぶつかるグラス。声に出さない乾杯は、満天の星空の下行われた。
あと少しだ。あと少しで──コイツが手に入る。
魔王国の魔族として生まれ、魔王にまで上り詰め、そして見つけた、人間の男。
否、存在自体は昔から……それこそ生まれた時から知っていた。
自身の能力の対となる能力を持つ存在。そういうのがいるというのは知っていた。
「シャニー」
「ん」
「たとえ切っ掛けが能力による恋心だったとしても……今は心から、君を愛している。君は?」
「恥ずかし気もなくよく言うものだ。だが、その答えは決まっている。勿論、愛している。最強の魂を持つ男……これに惹かれぬ魔族の女はいないさ」
「顔は?」
「そこまで好みではないな」
「酷いなぁ」
嗤うのだ。笑って、そして男は、唇に指を当てた。
「顔が好みじゃない男とは、キス。してくれる?」
「……気障な男だ。本当に」
口付けは、甘い酒の香りと共に。
私達二人の能力で混迷に帰している世界を眼前に広げ、静かな夜が過ぎていった。