ムゲン団なんて所詮は集団幻覚だ。
 でも万一があったらマズい。だからはるばるガラルに来た。
 最悪でもユウリを一人にしないように、おれだけでもバトルで食らい付いてやらないと。

―――――――――――――――――――――――

 ホップ君、わたしの前から消えちゃった。そりゃ、そうだよね。わたしがキミの夢を壊したんだもん。
 でもその時。私といても潰れなくて、それどころか、同じ道を歩いてくれる人がいるって気づいたんだ。
 勝手に褒めて、勝手に挫折して、勝手に離れていく周りの皆なんていらない。
 わたしは、この人だけ居てくれたらいいや。

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 ムゲン団のまとめ記事見てたら、いつの間にか書きあがってました。


プロローグ≒エピローグ

「ムゲンダイナ、かえんほうしゃ!」

 

 ガラル地方、超満員のシュートスタジアム。

 

 巨大なムカデのような、赤と青の毒々しい色合いをした竜にも見えるポケモンが、主の呼びかけに答えて顔の前に炎を生み出し、集めていく。

 

 やがて巨大な火球となったそれは、一瞬の閃光を経て熱線となって撃ち出された。急激に熱された空気により周囲に暴風を生み出しながら、熱線は真っすぐ相手のポケモン――ダイマックスしたメタグロスに直撃する。

 

 効果は抜群だ。しかも元々、メタグロスはそれなりのダメージを受けていた。ダイマックス前に二体と戦い、勝った後なのだから当然だ。

 

だが巨大化して持ち前のタフさに磨きのかかったメタグロスは、苦痛に身じろぎしながら、それでも倒れない。

 

 スタジアムが地鳴りのような歓声に包まれる。少なくともこのガラルリーグで、チャンピオンのムゲンダイナを前に「一撃耐える」とは、それほどのことだ。それが手負いの状態からなら、なおのこと離れ業である。

 

「メタグロス、ダイサイコ!!」

 

 挑戦者の指示が飛ぶ。さながら重戦車のごとく熱線を耐えきったメタグロスは、爆炎の消え切らない内からサイコエネルギーを集中させ、敵に向けて投射する。

 

 独特な効果音と衝撃と共に、ムゲンダイナが苦悶の鳴き声を上げる。

 

 戦えている。それだけでも、詰めかけた観客にとって驚異的である。

 

 方やホウエン最強と言われるはがねタイプの雄、方や最近ガラルを滅ぼしかけた伝説のポケモン。

 

 既にお互いあと1体。切り札同士の怪獣大決戦の様相に、観客の興奮も最高潮だ。

 

 今年のチャンピオン防衛戦も、昨年と同じ顔ぶれで、昨年と同じく白熱した戦いとなった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「いやー、負けた負けた!!」

 

 2時間後。スタジアムに併設されている、関係者用のラウンジ。

 

 先ほど挑戦者としてメタグロスを使役していた少年が、すがすがしい顔で悪態をつく。

 

「ったくゴリ押しで相性ひっくり返しやがって、これだから伝説厨はよ」

「だってジン君、どうやったってメタ張ってくるじゃん!! こうするしかないもん!」

 

 それにぶーたれながら返答しているのも、同い年か少し年下くらいに見える少女だ。名はユウリ、現・ガラルリーグチャンピオンだ。

 

 ダンデの時代を終わらせた女、ガラル史上最高の天才、ムゲンダイナのおまけ。敬称から蔑称まで数あれど、とてもそんな大仰な肩書を背負っているようには見えない。

 

 外見だけならその辺を探せば見つけられそうな、クラスで3番目くらいにかわいい女の子といった風だ。今でこそスポンサー企業のロゴで埋め尽くされた衣装に身を包んでいるが、普段はかなりの「お洒落さん」であることも、向かいに座る少年は知っている。

 

「何のこったよ、おれぁいつも『はがね』統一じゃねえか」

「複合タイプがズルしてくるんですぅ!!」

 

 少年は何食わぬ顔で返答し、ユウリがそれにかみつく。いつもの光景だ。

 

 少年の名は、ユウリが呼んだ通り「ジン」。現・はがねジムリーダーにして、序列はダントツの1位。最もチャンピオンに近い男と言われ続ける、ユウリの同期である。

 

「ユウリ選手、ジン選手。そろそろお時間です」

 

「「うぇ~い」」

 

 近寄ってきたスタッフの誘導に、二人して同じ、気の抜けた答えを返す。休憩時間は終わり、またファンサービスに戻らねば。

 

 二人は同時に立ち上がると、雑談を続けながらスタッフの後ろについて歩き出す。先ほどまでの言い合いの内容はすっかり忘れられたようだった。

 

 言ってみれば、気の置けない友人同士の軽口の言い合いだ。少なくとも、ジンはそう信じている。

 

 彼らはジムチャレンジの同期であり、初めから最後までしのぎを削り続けたライバルであり……そして今は、他と隔絶した高みでただ二人、同じ土俵で渡り合う理解者だった。

 

 ――彼らの年のジムチャレンジ参加者は、俗に黄金世代と言われるとてつもない当たり年であった。

 

 フェアリータイプのジムリーダーとして1年目からメジャーの座に食らいついているビート。

 

 セミファイナルトーナメントで現チャンプを相手に善戦し、現在はポケモン研究者の道を進んでいるホップ。

 

 兄からスパイクタウンのジムリーダーを任され、それを立派に勤め上げるマリィ。

 

 現チャンプとの激戦を高く評価したピオニーの推薦ではがねジムを任され、その年には序列1位になってしまったジン。

 

 その当たり年の面々を薙ぎ払い、圧倒的な才覚をもって絶対王者に君臨したのが、最強のチャレンジャーことユウリだった。無敗記録を続けていた前チャンピオンを死闘の末に破った彼女は、晴れてガラルリーグの頂点に立つ。

 

 そのユウリと唯一、公式戦でまともに戦えているのが、他ならぬジンだった。

 

 戦績的にはユウリが圧倒している。彼女がチャンピオンを継いで2年間、ジンはシーズン中のリーグ戦でまぐれ勝ちすることはあっても、大勝負での勝ちはゼロ。

 

 非公式だとまた話は変わるそうだが、一般に認識される力関係は明確にユウリ>ジンである。

 

 それでもジンは、往年のダンデに対するキバナのように、「唯一チャンピオンとまともな勝負ができる」存在であった。事実ユウリはチャンピオンになる前のジムチャレンジ中を含め、ジン以外のトレーナーに1度も負けたことがない。

 

(……良かった。最悪の事態は防げた)

 

 そのためにホウエンから渡ってきたジンは、誰にも明かしていないが……いわゆる「前世の記憶」を持って生まれた、異世界転生者である。

 

 前世の彼はかなりのポケモン好きであったが、だからこそこの世界がどれだけ危ういバランスの上に成り立っているか知っていた。

 

 ホウエンで生まれ、世界に適応し、ポケモンバトルの修行を積みながら暮らす中で「原作主人公」が同年代に存在することを知った彼は、大部分の問題は主人公たちに丸投げし、鍛え上げたポケモンバトルの腕前をひっさげ単身ガラル地方に渡る。

 

 他地方と違って、チャンピオンになった後の主人公の動向に不安要素があったためだ。

 

 ムゲン団。ネットの一部で囁かれる、荒唐無稽な集団幻覚。それでも彼は、万が一を想定して介入することを決めたのだ。

 

 結論から言って、ジンの危惧は正しかった。案の定ユウリは天才で、故に漫然と「幼馴染がやると言うから」位の理由で始めたバトルであまりにも強くなり、自分と違って本気でチャンピオンを目指すライバルたちを軒並み叩き潰して頂点に君臨した。

 

 だからジンは、必死で彼女に食い下がった。絶望的な才能を持つ「無敗の敗北者」を相手に一歩も引かずに立ち回り、その才を理解し、孤独を許さず、3年かけて関係を改善させた……筈だったの、だが。

 

「ねージン君」

「何だ?」

「またバトルしよーね! 約束!」

 

 彼の計画には、一つの誤算が存在した。

 

「別にいいけど……ユウリおまえ、おれ以外ともちゃんと話してるか?」

「んー……ジン君がいるじゃん?」

「いや答えになってねえんだわ」

 

 自分の強さが初恋の相手を挫折させてしまい、罪悪感と孤独に晒された思春期の少女。

 

 その目の前に唯一、自分に食らいつけるだけの能力をもった異性が現れ、その人が自分を理解してくれ、しかも親身に世話を焼いてくれたとなったらどうなるか。

 

「えへへぇ……ジン君の手、あったかい……」

「おいコラ、まだ話は終わってないぞ、トリップしてる場合か!?」

 

 前世で碌な交際経験もないまま早逝したジンに、少女の感情を読み取れというのは土台、無理な話であった。

 

 確かに、問題は解決された。ユウリは、過去に縋って時を戻そうなどとは考えないだろう。

 

 だがそれは、ユウリの本質が改善されたという事ではない。

 

「~♪」

「ご機嫌なこって」

「そう? わたしいつもご機嫌だよ?」

 

 ――ジン君は、ホップと違って私の前から居なくなったりしないから。

 

 心の中でそう付け加えたユウリは、今日も心底楽しそうだ。

 

(……おれは、成功したのか? 失敗したのか?)

 

 優秀なのに、いやだからこそ、致命的にはならない所で大誤算をしでかす。自ら師と仰ぐホウエン最強の石マニアの血を、彼はしっかりと受け継いでいた。

 

 ジンはユウリを孤独から救った。その代償にジンは、これからもユウリが縋れるだけの強さを見せ続けねばならない。ジンはこの怪物と、生涯に渡って付き合っていかなければならないのだ。ユウリと対等に、同じ道を進んでやれるのは、もはや彼しかいないのだから。

 

(いや、そうじゃないよな。……男は、やったことの責任を取るもんだ)

 

 第一、この数年の付き合いで、ユウリのことは放って置けない人くらいには思っている。何だかんだ言いつつ、懐いてくれるのを心地よく思っている自分がいるのも確かだった。

 

 

 ――これは、人知れずガラルを救った英雄の、たったひとつの想定外が産んだエピローグである。




背番号:505
名前;ジン
 じつは ホウエンの 出身。
 黄金世代の 中でも 特に強く
 自他ともに 認める 最も
 チャンピオンに 近い 男。
 身体の大きな ポケモンを
 多く使い 力強く 豪快な
 バトルを するので
 特に 男性人気が 高い。
 一方で 頭脳派な 一面もあり
 相手のクセや タイプを考慮して
 奇策を 使う こともあるが
 それらの 策は すべて
 ユウリを 倒すためだけに
 用意したものと 公言している。


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