主人公は最強のロボに転生したつもりでしたが、実は違ったようです。
いきなりだが
燃える恒星をバックに、宇宙空間で破滅的な攻撃を交わし合う影が、二つ。
方や白亜の装甲に赤のパワーラインを走らせる鋼の巨神。この宇宙の守護者である。重厚なシルエット。地球型惑星を一握りに出来るような、そんなサイズ。胸部には動力炉の一部が宝珠のように露出し、燃えるような輝きを宿している。その最奥には、二人の男女。阿吽の呼吸で煩雑な操作をこなしている。
方や触手がにょろにょろしてる生体の、しかし圧倒的な存在感を誇る蛇のような生き物。ラスボスである。【敵】の根源、数多の異世界を食い殺し、いままた己が糧とせんと宇宙そのものを啜る【大いなる蛇】。本来のスケールは銀河系規模だが、よほど巨神を警戒したのか、互するサイズにまで自身を圧縮・強化している。
両者は不倶戴天の敵として、相手を排除せんとしていた。
星一つ気楽に爆散させる砲火を互いに交わし続け、そのどちらもが傷付き、今にも力尽きようとしているようにも見える。
だが、戦いの趨勢は徐々に大いなる蛇に傾こうとしていた。純粋な生命力か、あるいは異次元の理か、蛇はその傷を徐々に回復しようとしていたからだ。巨神もまた自己修復は行っているが、その速度は微々たるものだ。
このままでは、負ける。女はそう思った。
まだだ。男は不利を理解しながらも歯を食いしばった。
――勝負を賭けるなら、ここだ。「それ」はそう考えた。
巨神の動きが、止まった。
男女が握っていた操縦系統が何者かによって奪われたのだ。
それを好機と押し寄せる破壊光線の群れを、唐突に機体から溢れ出した力の波動がその全てを押し流し、打ち消した。
その手には、一握りの、脈動するように明滅する機械。
その胸には、何かを抉りだしたような巨大な傷。
巨神は二人の操縦者の指示に寄らず、自らの手で、その心臓部……エルドライヴと呼ばれる機関をつかみ出していた。
もちろん、明らかな致命傷である。
だが、その代償に、得られるものがあった。むき出しの心臓、エルドライブが、異常なほどの発光を開始する。
オーバーロード。暴走状態。――もしくは今まさに目覚めたような。
明らかに、支払ってはいけないものを支払った、とでも言うように、尋常でない力が溢れ出していた。
それまでとは次元が違う力と速度でもって、巨神が攻撃を再開する。男女に振り向きもせず、防御も顧みず突撃。
大いなる蛇の逃亡を許さず釘付けにし、光年の距離を潰し、再生を許さず体積を削り、その手に掴んだ炉心を蛇の顔面に渾身の力で叩き付け、
そして、共に炉心から溢れる力の渦に飲み込まれていった。爆発オチである。
あとに残ったのは。
突撃の直前、強制的に切り離され、脱出させられた巨神のパイロット二人を乗せた脱出艇だけだ。
何者かを呼び叫ぶ男女と、あとはかろうじて原形を保った、巨神の頭だけ。
こうして悪は滅びた。かくして世界は救われた。大体2クールアニメぐらいの密度で。
その対価はなにか。これはその、後始末の話だ。
log:人格データの再構成、規定値への到達を確認。
log:記憶領域確認中………
log:欠損確認。規定値内。
log:システム再起動、実行。
log:作戦目標、「救世」
log:やあ、新しいボク。とりあえず、最初からね?
死にました。んで、転生しました。生前? そんな昔のことは憶えてないね……
ボクもそれなりに「流行の小説」というやつを読んでいたので、そうなったことに違和感はなかった。
ただねえ……
なんとなくね、また人になるものだと思っておりましたとも。骨とか犬とか鬼とか粘体とか蜘蛛とか、他の生き物になるのもいいよね。ファンタジーってちょっと憧れるわーとか。そう思ってました。
転生したら、ラ○ホでした。
こんなことってある……?
何これ、地獄……?
ボクなんか悪いことした……?
なんでボクの中で他人がいちゃコラしてるんですか、ごっど!
ラブホなんて言いましたが、正確に言えば、今のボクもちゃんと人型ではあるのです。あいむのっとビルディング。峠とか郊外にあるなんか派手目な宿泊施設そのものではありません。なんか角張ってて金属質ですけど。体重2000トンくらいありますけど。デブじゃねーよ平均体重だよ、……多分。
ええ、そうです。金属質で、巨大な、人型の構造物。
ボク、転生したこちらの現世では「ロボ」やらせていただいております。いわゆるスーパー系ってやつ。
白い装甲に、赤いアクセント。パワーラインも赤。マッシブな感じのごついシルエットで、重装甲と【敵】対策の特殊火力で武装した最終迎撃機。
しかもね、今世ではちゃんと就職してるんですよボク!
人類防衛、誉れ高い系お仕事! 三食昼寝(整備)付きときたもんですよ。
住所は銀河帝国、衛星軌道上。
戦果もね、対多迎撃用特機ですからね、そりゃあ【敵】撃墜記録もねえ、すごいんですよ!
そんだけ攻めてきてるんですけどね……。ばらまいてくる小型撃墜数だけで9ケタいってんのおかしくない……? 1匹漏らしたらそのままゲームオーバーって難易度高くない……?
ま、まあ名実共に守護神してるってワケですね!
でもいまは実質ラ○ホです。
………………ええー なァにこれぇ…… ないわー……
それもこれも、全部ボクのパイロットが悪い。
高校生ぐらいかな。男。筋肉質。赤い髪。熱っ苦しいけど絶望的な場面でも絶対に折れない、そんなやつ。【熱血系主人公】って読んでも違和感ない感じ。ボクとは……意識のない時間も含めるならそうだな、アニメだったら、もうそろそろ2クールもので言う20話当りって感じの付き合いだね。
最初はほんとへたくそだったんだけど、巧くなったもんだよ。ふふふ、ボクの指導の賜物だね! 最近だと、近距離での殴り合いはボクより巧いんだよね……そっちで片付けた大型のスコアは大体コイツのだし。むう。
で、まあ、ヒロインみたいな子もいるわけですよ。それも複数人。
サブパイロット、同僚、上官、整備兵、研究者、お姫様、ライバル。お山の方もエベレストから平地までバリエーション豊か。あとこの世界の人、髪がみんなカラフルなんだよね……そういう意味でもエロゲかなと思いました。なんか出てくる敵もなんかそんな感じのデザインばっかりだったし。
で、まあ、何か最近思い出せる範囲だと、ライバルちゃんとか、オペレーターちゃんとかと急に距離を縮めてて……
いや、べつに? こいつが? 彼女作っても? ボクは不思議とは思いませんけどね? こいつわりといいやつですからね?
でもそれとこれとは話が別なのです。
ヤロウ、よりにもよってボクのコクピットではじめやがった……!
わあ情熱的……じゃなくて相手はだれだよ!?
あっサブパイの子か! ピンク髪でお山が立派な。手が早いなコイツ、その子に出会ったのついこの間?じゃなかったっけ!?
くそう、意識のない時期のことだからいまいち時間感覚がわからん……。
あっ上着脱ぎやがった! やめろ! 始めんな!
だが、ボクはもはやこれまでのボクではない、と思っていただこう!
具体的には、なかでごにょごにょやられてるって衝撃でたった今自己認識がバグって、前世の記憶が戻ってきました。
最強ロボに転生したつもりだったけど実はラ○ホだったようです、的な。
実のところ、ここまでの回想って記憶無し感情無しの状態で積んできた記憶を読み込み直してたんだよね。……明確に故障だよねこれ。え、やだな、万が一戦闘中にコンフリクトなんか起こしたら最悪なんだけど。死人が出るよ。一人目うちのパイロットだよ。修理してもらった方がいいかな?
ついでに最後の記録から結構時間も場所も動いてるみたいなんだけど。ここどこ?
ま、まあこのバグのおかげで行動規範も一部無視できるようになって、これこのように、その辺に備え付けられてた女性型素体を操作できるようになったのです!
よわよわ? 明らかに愛玩用? そもなんでこんなもん置いてあるのかって? まあそう、そうね……
でもほかに介入手段ないんだよね……
って、あーっ!? パンツはまずいって、やめろ! ステイ! うわああああ!?
今ボクすげー混乱してるわ。この間【敵】に奇襲を受けたときよりも焦っているかも知れない。
でももはや猶予はないぞ……! この拒否感とか焦りが何に対してのものなのかいまいちわかんないけど。
それでも、それでも守りたい風紀があるんだ――ッッッ
機体奥側のハッチが圧搾空気で勢いよく開く。騒音にパイロットコンビは思わず振り返った。
壊滅し、しかし復興中である母星帝都からは少し離れた、比較的無事だった星の研究要塞。
あの決戦で僅かに残った中枢系を基に再築されたこの鋼の巨神は、しかし今日この日までなんの反応もしなかったのだ。それがいきなり騒音と共に何かをこのコックピットゾーンに吐き出したのである。
吐き出されたものは、一体何だ。
コックピットに転がり出る――少女型義体。
二人にとって見覚えのある、赤い髪。赤い瞳。真白い肌。だれの趣味なのか真白い手術着。
転がり出て、そのままひっくり返っている。へんな体勢のせいで大胆に露わになった、細く頼りない足。
三人の、目が合った。
空気が凍った。
半裸の男。半裸の女。固まる二人。パンツ上げろ。
義体少女は立ち上がった。後ろ向いて服装整えて振り返って、咳払い。
「ごほん。パイロット二名に通達します。装甲が脱落しています。応急補修を推奨します」
任務用のテンプレート組み合わせたような声。これは、義体やロボ本体に会話の機能がないから……ではない。
単にロボがコミュニケーションが久しぶりすぎて、話し方を忘れているだけだ。
それを呆然と聞く二人は、まるで死人を見たような顔をしていた。
ロボは首をかしげて疑問を提する。
「? パイロット2名は傾注せよ」
「当機は、当機の用途外での使用に、強く抗議する。パイロット、サブパイロット、RtBを推奨する!」
つまり、『服着ろ! ボクの中でイチャついてるんじゃないよ! 帰れ!』の意味である。
言ってやったぞ、言ってやったんだからな!みたいな雰囲気でふんす、と息をつく。
対する二人は、お互いに頬を全力で引っぱって、痛みで顔をしかめ、
「「ろ、」」
「ろ?」
「「ろぼだーーーーっ!?」」
「ーーーーーー!?!?!?」
気がつくなり、二人して少女義体に思いっきり抱きついてきた。
この義体がこのロボットそのものの意識が宿っている、ということに、一片の疑いも抱いていない、全身でそう表現しながら。反応を確認するよう、ロボの意思がそこにあることを確認するように、義体をべたべたと触っている。ちょっと表現するのはまずいようなパーツも。下心ある感じですねこれは。
「おまえ、おまえなあ! 生きてたのか! 死んだかと思っていただろうが! うわあああああ! マジかよ! 生きてた!」
「とっ、当機は、わぷ、ちょっと! パイロット! サブパイロット! なにこれ!? なにするの!?」
ぐいぐいと少女義体が抵抗するも、この義体はやっぱり非力。訓練を受けてない子供程度の力しか出せない。そもそもそういう仕様なのだ。押し倒して、義体の小さな掌に顔を押しのけられながら、ちっちゃい。やわらかい。とかパイロット二人は思った。これが知っているあの子なのだと、改めて実感する。
「生きてた! 生きてたよう! ちょ、ちょっとわたし博士呼んでくる!! 相棒、それまでロボちゃん捕まえといて!」
「おう!」
「ちょっと!?」
「わたしの分もちゃんと残しといてよね!!」
「おう!!」
「ちょっとー!?」
サブパイの彼女が脱ぎ捨てた上下を拾って格納庫からすたこらさっさと駆け出ていく。
この後、少女義体は逃亡を諦めるまですげーもみくちゃにされた。
なお残されたのは、ほぼ全裸の男と、それに絡みつかれた手術着の少女義体である。ヤバい絵面だった。
しばらくして。
電源を落とすことも感覚を切ることも出来ないことに気付いたロボは、すっかり諦めてパイロットの男に手を握られて拘束されていた……! あと目の毒だからと男の上着を掛けられていた……! その上で手首を捕まれ、振りほどけなくなっている。そうした諸々に諦めきって、死んだ魚みたいな目になっていた。かわいい。
(わー複合センサーあるんだなーこの義体……。暖かい……。あとなんかしっとりしてる……)
対して、男の方。少女義体を拘束し、今は落ち着いたのかまさぐることもなく、じっと拘束だけして待機している。露わになっている上半身には、大小様々な複数の傷が刻まれている。
当然だろう、とロボは思う。彼とは短くはない時間を共に戦ってきた。その戦いの中には、彼が生身で戦うことも、コックピット内まで被害が及ぶような損害を受けたことも、数え切れないほどあった。
(最初は男の子、って感じだったんだけどなあ。でっかくなっちゃったよなあ……)
傷一つ一つを見るたびに記録通りだな、という無機質な判断が思考回路をよぎる。
ただそれだけ。それだけのつもりなのに、関連情報がポップアップしてくる。触りそうになる。ロボにはしかし、恐くて、触れない。何かが溢れてしまいそうな、そんな気がする。
ふと目線を上げると、男が少女義体を見つめていた。何かを言いたげな、そんな表情。
どっちか口を開く、そんなタイミングで、
「私が来た!!」
口をつぐむ。解放されたコックピットハッチからの逆光の中に、新たな人影が立っていた。
褐色の肌。金の髪。縦ニット。豊満。白衣。メガネ。
なんか博士っぽい雰囲気の女性であった。
ロボの記録にはある。
だが、この義体で会うのは初めて……のはずの人物だった。
「初対面じゃないんだな~これが!」
「!?」
「まあまあまあまあとにかくね、話し合いの場を設けようじゃないかロボ。安心してほしい。わるいようにゃしないよ」
にんまり、という表現のお手本のような笑みだった。
「なにはともあれ、ね。君らがそんな格好じゃあ私も落ちついて説明できないからね!」
なるほど、ちゃんとした人物のようだ、と頷く少女義体。記録の上では、信用が出来る人物のはずだった。それに今の状況に、ちゃんと文句を付けてくれる。とてもありがたい。半裸の男性。手術着の少女義体。いまこのコックピット、半裸しかいないからね!
しきりに頷くロボを余所に、白衣の女性はセリフを続けた。
「何故って、私が興奮しちゃうからね」
「えっ」
「それとも、……ここで一回ヤってからお話するかい? いいよお、大歓迎サ!」
それはもう見事な流し目だった。お山が腕で持ち上げられてなんかすごい。
ロボは戦慄した。
(こ、こいつ……これは「その気ならガチでやるよガチで」って顔だ……!)
やべーやつだった。
心細くなって自分を拘束するパイロットを見上げると。
諦めたような目で頷いていた。さっさと行こう、躊躇ってたらコイツはやるぞ、と。言葉はなくとも共感があった。
そういう事になった。
「なんで上映会みたいになってるんですか???」
少女義体、パイロットの男性、サブパイロットの女性、博士。
でっかいモニターを前に集合した四人は、博士の音頭であの鋼の巨神の戦歴を振り返ることになっていた。
「まあまあまあまあいいじゃないかあ。ロボ。きみもね、記憶に齟齬あるって言ってただろう?」
「そうですけど……あ、この敵。これは憶えてます。たしか大変劣勢になって……どうやって勝ったのか、記録がありません。データに欠損があります」
「あー。ナルホドナー」
納得したように頷いているのを横目に、少女義体は横に座る二人の様子が気になって仕方なかった。
「わたしがまだ学生だったころだねえ。いやあその節はお世話になりました~」
「それは俺が言うやつじゃないか? 君がいなきゃ俺は学校生活なんて知らなかったんだし……」
「そう? じゃあお互い様ってことで」
「おう」
仲イイよなー いいなー とかロボは思った。
「パイロット」
「おう」
「意見をいただきたいのですが、この敵です。当機の戦闘記録が損失しています。憶えていますか」
ええい見るな、見るなよ女勢。とロボは思った。何が面白いんだにやにやしやがって。
パイロットの男性はちょっとへんな顔をして、(まるで、何故憶えていないのか見当が付かないような)
「俺ははっきり憶えてるぜ、あれがはじめてだろ、たしか、」
唐突に、博士が口を挟む。
「ごめん、解説はちょっと後にしようか。まずは確認しよう」
「了解です」
そうして彼らは、半日ほどを掛けて、戦闘記録の確認をほぼ終えた。
結果として、大凡、当時の技術レベルから見て理不尽なほどの強敵相手との戦闘記録や周辺の記憶が、ロボから失われていることがわかった。隔絶した戦闘能力だとか、圧倒的不利な状況だとか、奇跡でも起きなきゃって感じの、ゲームで言うなら負けイベントの様な状況から生還した記録だった。その結果が、最初はたかが単座の軽量級量産兵器だった機械を、それに偶然乗ることになった少年を、幾つもの障害を物理法則ごとぶっちぎって、星を一握りにする巨神へと。タキオンを感知して素で光速戦闘に対応する超人へと育て上げてしまったのだ。誇らしさと申し訳なさが、等量で胸の中にある。ロボは当惑した。
サブパイロットの女性がわりと最近のタイミングを指して、
「ロボちゃん、この辺りからその体使い始めてたよね?」
「? この義体を、ですか。使ってないですよ。……多分。ああ、いや、そうか」
「それも憶えてないんだ……」
「……みたいですね。だからみなさん、さっき逢った時点で」
「そー。ロボとそのカラダ、どっちもキミだなーって。みんな知ってたからね」
そんな妹を見るような目で見ないでほしい。とロボは思った。とても照れる。
そして場面は先日の……冒頭の最終決戦へと移る。
ここまでの積み重ねがあるといえ、文字通り桁違いのインフレに思わず手に汗握るロボ。
動力炉つかみ出しオーバーロードアタックを見て(ヒエッ グロッ)無表情だが青ざめて脂汗流してる少女義体の姿とか。
生き残ったパイロット二人の絶叫を聞いて思わず現実の二人を見て、そろってサムズアップしてるふたりにびっくりして、そのあと控えめに手を振り返す少女義体の姿とかあったが。
これは割愛する。
この後、なんとか生き残ってた友軍が、巨神の残骸(機体と呼べるほどのサイズは残っていなかったという)と、脱出艇を回収した。最も近かった生き残りの基地で、大決戦のために増強されていた基地の復元装置によって、巨神をほぼ元の状態まで、時間はかかったものの復元したのだ。
しかし、巨神は起動しなかった。意志の具現とも言える少女義体も、目覚めず、眠ったまま。
そのまま時間だけが過ぎる。警戒はまだ続いているものの、今までのような敵も来ない。脅威は去ったのではないかと、生き残りの間ではそう考えられるようになってきていた。そして、この要塞についても、人員を減らすか、というはなしになったという。
優秀な人員であるパイロットの彼、サブパイロットの彼女、も同様である。
ただ、彼らはこの鋼の巨神に特に思い入れがあった。仲間のように、友のように、義体での交流が始まるまでは父のようにも思っていたという。だからというべきか。最後に、ということで無理言って一晩コックピットで過ごさせてもらうことになって。
そして。
「そしたらまー、盛り上がっちゃてさー☆」
ロボは義体が画面に登場した場面で映像を止めた。
平静そうな顔でパイロット達を見るロボ。
真面目ぶった顔で見返すパイロットの彼。
ごめんネ!って顔で見返すサブパイロットの彼女。
「とりあえず……いいですか二人とも」
「「はい」」
「当機は、宿泊施設では、ありません」
「? そうだな」
「そうよね?」
ロボは。通じなかったとみて。詳しく説明することになって。とても困った。
「……。訂正します」
「当機は、ららららららららう゛ほてる、とか。」
「粘膜の、その、あの、……そういった用途で用いるべきではないと。当機は思いますので。提案します」
「よろしくおねがいしました! いいですね!?」
二人は全面降伏した。この間少女義体がどんな表情を出力していたかは、想像にお任せする。
記録を振り返り、ロボ達の戦績が異常であること、ロボの記録が想像以上に欠落していることを確認した彼らは、ロボの管理責任者でもある、博士からの説明を受けることになった。
「ロボの記録……記憶が穴あきチーズみたいになってることについて、制作者であるこの私様!から説明するね?」
三人が頷くのを見て、博士は神妙な顔で、
「まずはー、これ!」
土下座した。
見事な土下座であった。
研究型機械化人の急所である後頭部の脊椎コネクタを曝け出した、命を投げ出す姿勢であった。
「えっ」
それは、あからさまにロボを含む3人に向けての土下座であった。
「えっ えっ!?」
「ごめん。敵に対抗するつもりとはいえ、私は、私たち人類はキミ達を浪費してきた。本当に、ごめん」
これで済むとは思っていない、ともあっさりという。
博士はうろたえる3人に自分はもう、自分の良心の呵責に耐えられないの、どうしても言っておきたかった。自分のことはどうしてくれたっていい。さあミンチにでも何でもしろい!消し炭でもいいぞ!引き継ぎはしてきたから!と、そんなことを言う。
「……浪費、ですか。博士、その謝罪を受け入れるには、当機には情報が不足しています」
「俺もそうだな」
「私も」
「まずは。説明を」
「……そうね。パイロットくんとサブパイちゃんにもね、これは言わないといけないやつなんだ」
白衣の彼女は、記録映像を操作した。映し出されるのは、記録喪失期の、ほぼ中央にある出来事の絵だ。
最後に映し出される、オーバーロードで危ない輝きを放つ動力炉。
「この炉心はねー、私の、最高傑作なんだ」
「内部情報では、【因果連鎖消滅炉心・エルドライヴ】となっています。機体の自己進化能力の源泉……」
「おう! ロボがこれを起動してくれたおかげで、ここまでの逆境をなんとか乗り越えてこられたんだよな」
「……? なんですそれ、当機には、この装備を本格使用した履歴がありませんが……」
「えっ」
「えっ」
「えっ?」
3人が顔を見合わせる。博士は徹底した無表情でそれを見ている。
サブパイロットの彼女が首をかしげながら、
「はかせー、これはもしかして、【ロボちゃんの記憶を燃やす炉】なんですか?」
「ん………」
博士は少し溜めてから言った。からかうように。恥じらうように。
「おしいけどハズレ。エルドライブの「える」はねえ……」
「るぁああああああぶ、の「L」なんだよ」
「ルァ……?」
思わず聞き返した少女義体。いいや、聞き間違いではないのだ。残念ながら。
「らぶ。」
「あの、冗談ですよね。冗談ですよね?????」
「冗談じゃないでーす、マジでーす、おもいあうこころ、さいこー! エネルギー力学的な意味で!」
この女、もはややけくそである。
曰く。
このエンジンは、その心を消費して奇跡を起こす、そんな外道でエコロジーなエンジンなのさ、と。
その結果が、この戦闘記録を彩る豪華絢爛たる戦果の群れであった。絶望を踏破する、その奇跡。それがどれほどの危機だったのかを身をもって感じ、憶えているパイロット達に、文字通りの生け贄を求める非道を責めることは出来なかった。
「君たちは許さなくてもいいんだよ。もっと責めて」
この女好き勝手言いやがる。
「最初はねえ、パイロットとサブパイに生け贄になってもらおうと考えていたんだ」
「元々、記憶もある程度消えるだろうってのは予想も付いてた。だからさあ、パイロットくんには一回で使用不能にならないように広ーいお付き合いをお願いしてたしね」
パイロットの男性はあれそういう事だったのか、みたいな顔をしている。
ロボは思った。そういややたら女性陣増えたけど、博士は最初の方からいたメンバーだったな……。
「でも、そうならなかったんだ。何故か。何故か、パイロットのキミは消費されず、計算していたよりも幾何学的に桁違いなエネルギーが生み出され、事態が打開されていった」
それが、つまり。
パイロット二人と、博士の視線がその少女義体に集まった。
ロボ本人だけ、別のことを考えていた。貰えるランダムチートってこれのことかよ、と。
記憶と、感情の消費。
「つまり、当機が肩代わりしていた……?」
「いえーす。記憶も思った以上に消えているけど、これはキミだからこそ起きた副作用だと考えてるよ」
「だってキミ、ある意味感情だけの存在だものね」
「記憶も、その時の人格も、愛も、恋も。丸ごと、燃やしたのさ。薪にしちゃったんだ」
「で、でも! 博士、ロボちゃんはここにいるよ!? 生きてるよ! 人格も消えたなんてそんな――」
「違う。違うんだ」
「燃えたよ、完全に燃え尽きたんだよ、前の彼女は」
「【浪費】したって、言っただろう?」
「そんでまた惚れ直して、生まれた感情がこの子ってワケ。」
「「「は???」」」
パイロットもロボも、凄い表情をしていたように思う。
「というか毎回燃え尽きるような献身して毎回惚れ直してるんだこの子は」
「てゆーかそういう相談を前の子から受けてその義体用意したの私だしネ」
「同じ目線で付き合いたいって言いだしたから……いい子だったし、えろい子だったよ……」
その感想要らないです(ロボ並感
ロボは 混乱 している
いや、自分はいいのだ。自己連続性なんて死んで転生した時点でよくわからない物と化しているし。
そうじゃなくて、この人格が生まれたのは、
「
「は???」
思わずサブパイの彼女を見た。負けないよっ!とか気合いを入れていた。恋敵として受け入れる気満々だった。やめろ、可愛いじゃねえか。
「は??????」
思わず彼を見た。すげー笑顔だった。やめろ、きゅんとするだろ。
「うぇるかむ!」
「はー!?!?!?!」
何言ってんだこの男ーーっ
拝啓くそ蛇様。
あなたをぶっ殺したボクですが、最強無敵のスーパーロボのつもりでしたが、転生して愛を宿す機構になったようです。かしこ。
がっでむ!
こうして。
多元宇宙の枝そのもののような怪物を殴り飛ばした機械神は、顔を真っ赤にしながら、すっころびながら、その部屋から逃げ出していった。
パイロットコンビがすげーいい笑顔で追っかけていったから、とりあえず放置しようと思う。
その方が面白いから。
白衣の女はだれもいなくなった部屋で独りごちる。
「ま、裏ボスも倒したし、こっから先はボーナスゲームさ。これはね、人類には、キミに報いる用意があるぞーってはなしなのさ……。ま、どうあれ、勝者には報いがあるべきだと思うよ、私はー……」
重荷を下ろしたような、憂いているような、面白がっているような。曖昧な表情で、だれに告げるでもなく。
「最後の問題は、だ。あの【大いなる蛇】は、幾つもの宇宙をまとめた、言ってみれば【世界蛇】だったんだ」
「
「人類に、あのパイロットくんに、それを受け止めきることは出来るのかなあ……」
「ま、一回頼っちゃったんだ。最後まで付き合うのが責任ってとこでしょうよ」
灯が消える。騒がしい方へと、歩き出す。
世界は救われた。その対価はなにか。これはその、後始末の話だ。
終幕
【奇跡を起こす代償に自身の愛を失う能力【奇跡の大きさ比例し重大な愛を消費(選択不可)】】で世界を救ったよオラぁ! 感想ください!
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