自分がもしも転生したら、こんな感じなんだろうな〜って。
『〇△さんの作品マジで神ってる!!』
『投稿待ってましたっ!』 『いいね!』
『これは泣ける』『素晴らしい!』
「……ハハ。そうかい、そうかい」
薄暗い部屋の中で電光に映った、自らを褒め称える言葉の数々を眺める。好意的でない意見が埋もれる程の彼らの賞賛は、悲しい独り身の男を笑顔にするには十分だった様だ。
「──の作品が一番好評だったから、次はこの続きを上げようかな」
次に上げる話を決め、皆はどの様な反応を返してくれるだろうかと男は想像する。先程の光景が頭に広がって行き、今度もまた、周囲は自分を認めてくれるのだろうかと顔を綻ばせた。
男──佐藤は転生者である。
前世は小説家を志望していたが幾万と居る同業者の才能には敵わず、この世界だけで生きていくには自分は厳しいと思い知った。
そして「仕方が無い」と夢を諦め、胸に燻る不満から目を逸らし、果てに車に轢かれて転生したのである。
転生した時には「すわ此処は異世界か」と前世との相違点を探してみたり、「自分に特別な能力が宿っているかもしれない」と家族に白い目で見られながら呪文を大声で唱えてみたりもしたが、何も起きなかった。本当に、何も起きなかった。
更に言うと此処は現代日本で、前世のFラン大卒の知識を使って所謂学力tueeeeや知識tueeeeをして見た目も頭脳も正真正銘子供な学校の同級生にマウントをとるくらいしか出来ない事も判明し、佐藤は床に崩れ落ちた。Fランェ……!
その時の落ち込み具合はと言えば、居間で新聞を見ていた今世の親父に「お前は死にかけの魚か」と言わしめた程である。哀れなり、転生者佐藤。
佐藤が部屋で塞ぎ込み、真っ暗な布団の中でブスブスしていると、彼の頭の中に一つの天啓が舞い降りて来た。それは悪魔の契約の様にも見えるし、彼を哀れに思った神が授けた知恵の実の様にも見える。
彼に降りた天啓。その内容は──
──前世の作品をパクり、その評価を自分のものとしてしまう事である。
この世界と前世の相違点を探す時、佐藤は一番に小説やアニメ、漫画等に自分が知っているものが無いかと調べていた。
彼が元々夢にしていた創作の類ならば一番分かりやすいし、作品というのは文化に多大な影響を受けて作られるものだから、この世界での他の出来事も同時に知る事が出来ると思ったのだ。
彼が汗水垂らして得た成果は「何も分からない」というモノのみであったが。
が、それを逆手に取って前世の作品をパクれば良いのではと、前世と同じくFラン大学に受かった春に、彼は今更ながらに気付いたのだ。
幸い、作品が無い事以外はこの世界も前世と何ら変わらなかったので、今世での人々の価値観も同じく変わらない筈だ。だから絶対に俺は売れる。そう彼は結論付け、
「こうしちゃいられない。似た様な作品が出る前に、早くパクっていかないと」
世界を跨いだ大胆な剽窃行為に及んだのである。
彼のこの割と最悪な部類に入る行動は、ある意味悪魔の契約でも、神が禁じた知恵の実を食す様な背徳的な行為でもあるのかもしれない。そもそも剽窃という考えが浮かぶ所からして、中々の外道ではあるが。
その後はというと、彼の予想した通りに作品が売れに売れ、冒頭の“誰もが認める〇△さん”になり、その道一本でも遊んで暮らせるレベルになっていったのである。
何時だったか、人は生活レベルを一度上げると中々そのレベルを落とせないものだと風の噂で聞いた事があるが、彼はどんどん調子に乗っていき、贅を尽くし、更に楽をする為に家政婦を雇うレベルにまで金を溶かしに溶かしていった。
前世の、昔の、純粋に「小説家になりたい」という夢は何処へやら。彼は転生世界で剽窃に手を染めてしまって以降、努力も経験も放棄して悪魔の様に心が堕ちて行ったのである。
彼の頭の辞書からは、“オリジナル”という言葉はとうに消え去っていた。これを前世の性格のままの佐藤が見ていれば、全く手に負えないと手を上げているだろうから、最早笑い話だ。
尚も電光を放つパソコンを閉じて、彼は独り笑い続ける。それを人が聞いていれば、彼が自嘲している様だと感じる様な、乾いた笑い声で。
──金も、名声も、人望も得た筈なのに。皆に認められた筈なのに。どうしてこんなに虚しいんだろう。
──幸せな筈なのに、皆に評価されて、好意を寄せられて嬉しい筈なのに。どうしてこんなに、俺は空っぽなんだろう。
「分かって、いるんだよっ……」
幾ら救いようがない悪魔であろうと、自身をそう自身たらしめてしまった原因は自分にあると。彼は、分かりきっていたのだ。
じゃあ。
じゃあ、分かっていたら、何なのだ。
目を逸らしていたそれにまた向き合った所で、とうに努力も初心も捨て去ってしまった彼に出来る事は、
「そうだ。結局お前は、堕ちる所まで堕ちて行くしかないんだよ」
頭を掻き毟る彼に、もう一人の彼が語りかける。その声色は、諦めているとも、馬鹿にしているとも取れる様なもので。
「あ、はは……はハハはハ………………」
それを聞いた彼もまた理解して、自らを狂った様に笑い続ける。嗤い続ける。嘲い続ける。
────そうだ。俺は、借り物の才能を。
「継いで、接いで、堕ちて行くんだな」
そう。諦めて逃げてしまった様な奴の人生が、虚しくなんかない筈がないのだ。
「ハハ、ハハハ…………」
「………………………………」
「……なァ、おい、そこで見てるんだろ」
「アンタらの事だよ。そこで見てるアンタら」
「もしまだ見てるんだったら、これだけは聞いてくれ」
「……俺みたいに、なるんじゃねえぞ」
────俺からの、約束だ。