ピーターパンしてたら世界が変わってた   作:霧丹

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1.ピーターパンのはじまり

 

 

 

『ネバーランド』と名付けたこの島で俺は子供たちを見守りながら過ごしていた。

それ自体はとても良い事だしキャッキャ笑いながら遊ぶ子供たちを見るのは微笑ましいものだ。

 

今の俺を取り巻く複雑な環境さえなければの話なんだが。

 

いや、俺が犯罪者であることは間違いないし、やってきた事は賞金首になっても当然の事だとも思っている。

 

 

 

ここは偉大なる航路にある島の1つ。ただ、島から発せられる磁気が弱いのか、それとも他の島の磁気が強いのか知らないが普通に航海しているとこの島に辿り着くことはない。

途中で他の島の磁気に上書きされてログポースの方角が変わってしまうからだ。

 

この島に辿り着いたのは本当に偶然だった。海賊船に追われ気候が急変し遭難しそうになって必死に船を進めた先がこの島だったからだ。

島に人間はおらず、凶暴な動物も見当たらなかったので勝手に自分の島にしようとがんばったのが懐かしい。

 

思えば子供の頃から無茶ばっかりして走り続けてきたものだ。

 

ふと自分が今の状況になるまでを思い出しながらも、目の前の相手を見やる。

 

 

うん、大海賊(四皇)とまで呼ばれる男が今俺の目の前にいる…

 

 

 

 

 

そしてしみじみと思う。どうしてこうなってしまったのか…と。

 

 

 

 

 

俺は気付いた時には山賊に虐げられていた。

殴られ、蹴られ、痛いと泣けば更にまた殴られる…

 

子供の身体に満足な飯も食わせてもらえず、逃げ出そうとしても捕まってしまい縛られてからまた殴られたんだ。

なぜそんな事をするのかと聞いても笑いながら「弱いからだ」としか答えてくれず、まさに生き地獄だと何度も思ったものだった。

 

頭の中には前世の記憶なのか知識なのかわからないが、文化的で平和な生活をしていたことを俺は識っている。

 

だが今の生活はなんだ。山賊たちからの暴力の嵐に耐え、いつ死んでもおかしくないような毎日を送っている。

いや、毎日「もう死にたい」と思いながら生きていたと言ったほうが正しいな。

 

 

「ぎゃっはっはっはっは、ガキにやる飯なんざねぇよ。食いたきゃてめぇで見つけてきな」

「「「「「ぎゃはははははははははは」」」」」

 

 

そんなある日、当然山賊たちは食料をまともに分けてくれる事もないので山に木の実を探しに行ったときだった。

足を滑らせて麓のほうまで転げ落ちて行った先で変な果実を見つけた。

どう見てもどう考えても毒がありそうにしか思えなかったんだが、毒なら毒でいいかと達観したまま齧りついたんだ。

その果実は、いや果実って言ったら果実に失礼なほど不味かった。もしかしたらマズいけど栄養価は高いのかもしれないと我慢して全部食べたんだ。

そしてそのまま逃げたかったけど、俺がなかなか戻ってこないから逃げたんだと思った山賊たちが捕まえに来ていつも通り虐げられる生活を送っていた。

 

きっかけは「もうこいつにも飽きたし処分するか」という山賊の1人の言葉だった。

山賊の仲間たちは誰も止めず、拷問好きだという1人の山賊に引きずられ山奥へと連れられてしまった。

俺は「やっとこの地獄から逃げられる」という思いと「死にたくない」という思いが半分半分だったが、「死にたくない」という思いが強くなった時に俺の首を掴んでいた山賊が突然ペラペラの紙みたいになったんだ。

わけがわからなかったが、咄嗟にその紙の山賊を掴んで必死に破った。もう千切りまくった。

山賊は紙になってしまっていたようで、子供の俺でも簡単にビリビリと破ることができた。

 

そこからは早かったよ。山賊を1人ずつ誘い出したり、油断しているところを後ろから襲ったりして全員紙にしてから破り捨てた。

どうやら俺は相手を紙にすることができるらしい。あと紙を生み出したり操ったりすることもできるみたいだ。

ただ、俺自身が紙になったりすることはできなかった。これは「今は」かもしれないけど。

 

山賊を全員破り捨てた俺は、山賊たちの有り金を全部奪って山を下りていった。

下山した先には小さな村があり、みんなが俺を見て驚いていたことに逆に驚いた。

 

 

「お前さん…生きておったのか!?」

 

「…え?俺を知ってるの?」

 

「知ってるも何も、お前さんはこの村の生まれなんじゃよ」

 

 

話を聞いてみると、俺はこの村で生まれたが山賊に村が襲われた時に連れ去られたらしい。

そして両親はその時に取り戻そうと抵抗して殺されたそうだ。

村人たちは抵抗しても殺されるだけだとそれを見ているしかできなかったと謝られた。

今、世界中の海で海賊が暴虐の限りを尽くし、ロックスやらロジャーやらと悪名高い海賊たちがのさばっているため、世界政府や海軍もそちらにかかりきりで山賊など相手にしないという事だった。

そこから俺は、なぜそう思ったのか覚えていないが「俺が悪いやつをやっつけてやる!」となって海に出ることにしたんだ。

 

山賊から奪った金を村長に渡して小舟をもらい、そのまま海に出て島を目指して進みだした。

 

別の島に着いて港町を見渡してみると、俺と同じくらいの男の子が自分より大きな樽を背負って歩いていた。

その身体は痣だらけで、俺と同じように殴られ蹴られの毎日なのかもしれない。

涙ぐみながらゆっくりと歩いていくその姿に自分を見たからか、手伝おうと声をかけようとしたんだけどそこに親らしき人がやってきた。

そして「いつまでグズグズやってるんだ!さっさと運べこのグズ!」と暴言と一緒に殴ったんだ。

 

すぐに殴った大人のところに行って「どうして子供にそんな事をするんだ」って言ってみたんだけど、まともに取り合ってもらえず「自分のガキをどうしようが親の勝手だ」とまで吐き捨てられた。

次の日になってもまたその男の子は同じように働かされていた。

 

他の大人に言ってみても、自分たちが生きていくだけで精一杯だと、他人を助けるような余裕がないという答えだった。

 

海賊がいるから助けてくれない、生活が苦しいから助けてくれない、相手のほうが強いから助けてくれない、理由を挙げればきりがないが結局強い者だけが楽しい生活をして、弱いものが虐げられるというのが今の世界の現状なんだと思い知らされた。

 

だが今の俺に世界をどうこうできるような力はない。というか個人の力で世界を変えるなんて不可能だ。

 

だからと言って目の前で俺と同じ目に遭っている子を放っておくなんてできない。

 

そこからは早かった。虐待している親なんて親でもなんでもないとばかりに深夜寝ている男の子を紙にして連れ去り、知識にあった非常にダメな事をした警告という意味で赤い紙(レッドカード)を置いていった。

 

その紙にした男の子を持って村を出て、別の島へと移動してから男の子を元に戻したら「助けてくれてありがとう」とお礼を言われた。

話を聞いてみると、やはりかなり暴力を振るわれていたらしく「ここから逃げたい」とずっと思っていたということだった。

やはり俺と同じ境遇だったその子を助けられたという気持ちと、俺は間違ってなかったんだという安堵から、その子と一緒に旅をしながら同じような子を助けられないかと考えるようになった。

 

俺の紙にしたりする力はどうやら悪魔の実というやつの能力らしく、カナヅチになる代わりに不思議な力を使えるようになるものなんだと教えてもらった。

紙を生み出したり変化させたりできるので、相手を紙に変えるのはもちろん、他に色んな色や模様の紙を出したり、紙吹雪を舞わせたり折り紙を出して鶴を折ることができたりと子供らしい使い方もできた。

 

そうやって2人旅をするようになったんだが、当然だが寝泊まりするにも食事をするにも金がかかる。

自分がいた島で山賊から奪った大半の金は村長に渡したので、今俺が持っているのは小銭が少々といったところだった。

そこで俺は閃いた。閃いてしまった。

 

 

俺のこの能力でベリー紙幣を出せばいいんだ…と。

 

 

背に腹は変えられない。自分だけならいいけど俺が連れてきた男の子まで飢えさせるわけにはいかない。そうやって仕方ないことなんだと自分に言い訳しながら何度も挑戦し、うまくいくようになったので紙幣を生み出して使っていった。

 

そうやって島を巡り虐げられる子たちを連れ出しては引き連れていき、船も小さな小舟から少々大きめの船に買い替えたりと他人から見たら完全に人攫いみたいな事を続けていた。

もちろん子供だけではなく、ひどい目に遭っている事が多かったのが女の人だったので助けてから事情を説明し、一緒に来るかどこか違う島で暮らすか選んでもらったりもした。

 

最初にそれを行ったからというわけではないが、連れ去る時はその全部で見つからないように細心の注意を払いながら、その場に赤い紙(レッドカード)を置いていった。

 

一緒に来てくれる人が多かったので年上の子たちには子どもたちの世話や遊び相手をしてもらったり、塞ぎ込んでいる子たちを慰めてもらったりと、とても助けてもらっていた。

自身の能力で紙幣を増やし、船を増やしながら航海を続けていくと、立ち寄った島の中には子供を売ろうとしていたところすらもあり、そういうときはもはや問答無用とばかりに紙幣代わりにレッドカードを置いて連れて行ったりもしていた。

 

そうやって1隻で収まっていた人数がいつの間にか増えていき、船も足りなくなったので2隻になり、3隻4隻と増えていき船団のようになっていった頃、ロックスという悪名高い海賊が死んだという情報が流れてきた。

それ自体は良い事なんだろうが、俺たちにとってはさして影響はない。ロックスがいようがいなくなろうが、ロジャーがいようがいなくなろうが虐げられている弱者は間違いなくいる。

 

5隻の船で子供や奴隷のように働かされていた者たちを乗せて見つからないようにと次の島へと移動していたとき、遂に恐れていた事が発生した。

 

 

海賊船に狙われたのだ。

 

 

まさか夜の海で見つかると思っておらず、急いで離れるために舵を取るがこちらはただの民間船。そして相手は海賊船だ。

もし捕まってしまえば女子供などの海賊にとってはまさに獲物しかいない宝船のようなものだ。

海賊たちが沈める目的ではなく、拿捕しようとしていたのが幸いとなり、更には本当に偶然だろうが、嵐が起こり海賊船から逃れることができた。

だが、嵐と海賊たちから逃げた先がカームベルトだったのがまた問題だった。

本来ならば海王類の巣である以上いつ襲われてもおかしくなかったのだが、夜行性の海王類がいないことを祈りつつ船を進め、なんとか眠っている海王類を起こさないように静かに慎重に船を進めていった。

 

夜明け前にどうやら無人島のような島を見つけることができ、そのまま船で朝まで過ごしてから上陸して誰かいないか調べてみることにした。

だが、どうやらこの島は人の手がまったく入っておらず、どう見ても野生のままの植物や木々が生い茂るだけの島だった。

 

今回海賊に追いかけられた事もあり、俺はみんなと相談してこの島を拠点にしようと提案した。

幸いにも海を巡ったおかげで偉大なる航路の情報も少しはあったし、必需品と言われるログポースも高かったが購入していた。元手は能力で生み出した紙幣だから懐も傷まないし。

 

あまり海沿いに堂々と建物を構えてしまうと遠くからでも見えてしまうため、少し奥まったところを切り開きそこでみんなで生活できるようにすれば良いのだと。

そこからは5隻あった船のうち3隻を木材として利用したり、設備を再利用するためにみんなで分解していった。

 

 

この島に名前を付けようという話になった時に、子供を連れて行って楽しい思いをさせるってピーターパンみたいだなと考えた俺は『ネバーランド』という名前を提案し、以降この島は自分たちの中ではネバーランドと呼ぶようになった。

 

 

 

ついでに「まるで俺はピーターパンみたいだな」と言ってしまったことから、みんなからピーターと呼ばれるようになってしまった…

 

 

 

 

 


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