ピーターパンしてたら世界が変わってた 作:霧丹
「反乱軍たちよ!君たちと戦う意思はない!下がれ!」
「敵はクロコダイルとその部下たちだ!巻き込まれないように離れるんだ!」
国王や側近からのそんな忠告の声を聞き、反乱軍の集団はクロコダイルたちから離れていく。だが、逃げようとしていた者すらも斬り伏せながらクロコダイルたちは笑っていた。
国王軍もどれだけ数がいるのか知らないが、能力者と戦えるのはそんなに多くないだろう。反乱軍を巻き込まないために下がらせるのは良い判断だな。
しかしクロコダイルの能力はそんな数を関係ないとばかりに巻き込んでいくことに戦慄を覚える。能力者としてこんなにも差があるとは思わなかった…
俺ができる事って紙にしたり紙を生み出すだけだから、個人的には満足はしてるけど戦闘となると不向きな能力だと思っているが。
「クハハハ!この程度か?これなら反乱軍なんぞにわざわざ手を貸してやる必要もなかったな」
砂嵐を巻き起こしたりしながら見下す発言をして笑うクロコダイル。確かに10万人もの戦力と地の利もあって本人の能力も戦闘にも向いている能力なんだろう。
だが何もクロコダイルや能力者たちと1対1で戦う必要はない。俺たちはそんな相手でも身を守れるだけの力を身に付けてきたんだ。
「仲間たちよ!すまないがクロコダイルを止めるのを手伝ってくれ!」
「「「おう!」」」「「「こっちは俺たちに任せろ!」」」「「「ならこっちは俺たちだ!」」」
俺の呼びかけに応えてくれたのはこの場に一緒に来た者たちだけでない。反乱軍の中からも、そして国王軍の中からも、更にはバロックワークスの中からすらもその声に応えて仲間たちが飛び出してきた。
クロコダイルよ。お前は10万人の戦力をかき集めてきたんだろうが、俺たちにもネバーランドから一緒に来てくれた仲間やこの国にいる仲間たちで1万人以上いるんだ。たぶん。
もちろん全員が参加しているわけではなく、避難させたり後方援護だったりとアラバスタ国内でも散らばってはいるが…
それでもバロックワークスの集団を相手に次々と打ち倒していく仲間たち。
能力者たちを相手にしてもそれは変わらない。むしろこっちが終始優勢な状況だ。
敵の攻撃は見聞色の覇気で躱し、武装色の覇気を使える者は纏いながら攻撃を当てていく。
六式は全部使えたり1つしか使えなかったりの差はあるが、みんながそれぞれ利点を活かして戦っている。
「てめぇら!どうして
「なんの話だ?俺たちはみんな護身用に身を守る力を持っているだけだ」
「ふざけるな!!なぜこの前半の海でそれだけの人数がその力を使えていやがる!?」
クロコダイルが言っているのがどの力の事なのかわからないが、前半だろうと後半だろうと人間がやることはそう変わらない。
虐待されていたりする子や戦災孤児などを助けていくのに場所を選ぶはずがない以上、どこにいても身を守って逃げられるだけの力を身につけるのは当然の事だろう。
そしてみんなが小さい頃から磨いてきたその力は、アラバスタという国を乗っ取ろうとしているクロコダイルとその部下たちに対しても遺憾なく発揮されている。
もうバロックワークスとか言っていた集団の大半の人間は倒れており、手の空いた仲間たちも残った敵やクロコダイルへと向かおうとしている。
クロコダイルはこちらを警戒してか、直接戦おうとはせずに遠距離から攻撃したり避けながら様子を見ていたようだ。
もはや決着は時間の問題だろうと思われたが、クロコダイルが思わぬ行動に出た。
「チィッ、使えねぇヤツらだ。だが
「くそ!砂嵐で視界が…」
「ピーター!クロコダイルが王宮のほうに逃げたぞ!」「おい!国王と王女もいないぞ!どこいった!?」
「クロコダイルが国王と王女を連れて行ったみたいだぞ!」「追いかけるぞ!」
「みんな!俺とあと数人でクロコダイルを追いかける!残った仲間たちはクロコダイルたちにやられた怪我人の手当てを頼む!」
「ピーター。私も行くわ。相手は能力者、しかも自然系ですもの。こっちも能力者がいたほうがいいわ」
「わかった。それじゃ一緒に来てくれ」
まさかクロコダイルが国王と王女を連れて逃げるとは思わなかった。
俺はこの場に残る仲間に怪我をした者たちの治療を頼み、ロビンを含め数人を連れて王宮へと向かっていった。
「クソが!まさかここまで計画が狂うとはな…だがまぁいい。プルトンさえ手に入ればこの国とはおさらばだ」
本来ならば反乱軍のバカ共を指揮して国王を倒してしまえば、そのまま俺がこの国の王となっていたものを…とんだ邪魔が入ったもんだぜ。
俺が集めた能力者たちと社員ども、そして反乱軍の戦力をまとめ上げて最後に強大な古代兵器を手に入れれば世界政府ですらもう俺に手を出すことはできない。
今まさにあと一歩ってところまで来ていたものを、わけのわからねぇ集団が邪魔しにきやがった。
それだけなら蹴散らして終わりだったはずだ。だが、あいつらはあの力…覇気を使っていやがった。
あれは後半の海では使い手も多いが、この前半の海では使えるヤツなんてほとんどいなかったはずだ。
それが大量に現れやがったんだ。あれじゃ部下の能力者たちであろうと勝ち目は薄いだろう。
だからといってただ退くわけにはいかねぇ。
せめてプルトンだけはもらっていく…それで俺の勝ちだ。
「…七武海として海賊を狩るのは見せかけだけだったというわけか」
「クハハハ。コブラよ、てめぇの大事な国民はバカばっかりで助かったぜ。ちょっと海賊を倒してやれば手のひら返して媚びてきやがる」
「例え私やビビを人質にしたところで意味はない。彼らならきっとお前を倒してくれるはずだ」
「クハハ、あんな厄介なヤツらとわざわざ戦おうなんぞ思ってねぇさ。それにあいつらだっていつまでもこの国にいるとは限らねぇだろ?ちょっとてめぇに
「くっ、こんな男を信じていたとは…」
「てめぇは知っているはずだ。この国に
歴代の王を祀ってある葬祭殿、まさかそこに地下通路があったとはな。これじゃあ俺が王になったとしても探すのにかなりの手間がかかったかもしれん。
まぁいい。これで古代兵器は俺のものだ!
「ここがそうか。…で?古代兵器の在り処はどこだ?」
「…この石碑がそうだ。だがこれは誰にも読めん。もちろん私にもな」
なんだと!?誰にも読めねぇモンを後生大事に置いてやがったのか!
古代兵器の情報を聞きつけて、時間をかけて手間をかけて目当てのものがやっと手に入るっていう時に…
「…ならばもうてめぇらを生かしておく必要もねぇな。この葬祭殿をてめぇら王族の死に場所にしてやる。運ぶ手間も省けるだろう?」
「くっ!ここまでか…」
「クハハ、往生際の良いヤツは好きだぜ。そのうち俺の邪魔をしやがったヤツらもてめぇのところに送ってやる…死にな!」
「「剃!!」」
「大丈夫か国王さん。王女も無事だから安心しろ」
「君たちは…私もビビも助けてくれて感謝する」
「すまないが俺の仲間と一緒に下がっててくれ。仲間たちは国王と王女を頼む」
ギリギリ間に合った…危うくクロコダイルに国王も王女もやられるところだった。
なんとか探し当てることができて仲間と一緒に助け出したはいいけど、俺たちだけでこの地下空間で戦うには分が悪いかもしれないな。
なんだこの大きな石は…?なんか部分的に読めるな…もしかしてこれ暗号で使ってる古代文字で刻まれてるのか?
「またてめぇらか…俺はてめぇらに用はないんだがな」
「俺もお前になんて用はないさ。大人しくこの国から出ていくというなら俺から言うことはない」
「クハハ。言われなくても出ていくさ…だが俺の邪魔をしたてめぇにはこの地下で埋まってもらうがな。
「なっ!みんな急いで避難しろ!崩れ落ちるぞ!」
だがそんな事は後回しだ。クロコダイルのやつめ!最後に自分ごと埋まるつもりなのか!?
それともあの砂になる能力は周囲の砂とも同化できたりするんだろうか?
とにかく今は逃げる事が最優先だ。
「クハハハハ!これで全部砂の下だ。長年の計画が潰れたのは痛いがまだ当てはあるんでな。もうこの国に用はねぇ。また俺は次に向かえばいいだけだ……あ?」
「…はぁはぁ、みんな無事か?」
「ええ、大丈夫よ。王様も王女様もピーターが一旦紙にしてくれたおかげで速度を落とす事なく連れ出せたわ」
「そうか、それなら良かった」
生き埋めなんて冗談じゃない。それに人間1人担いで逃げるのだって自分だけで走るよりも遅くなる以上、俺たちのように移動できない国王と王女は紙にして丸めて持って出たんだ。
別に破れたりさえしなければクシャクシャにしても丸めても畳んでも元には戻るんだが、だからといってクシャクシャにするのは気が引けるし丁寧に畳む時間もなかったので、消去法で丸めた筒みたいにして持って走った。
「てめぇらまだ生きてやがったのか。だがてめぇは
「あら、いつから私たちしかいないなんて思っていたの?いつの時代だって大きな力を持った悪者を倒すのは、たくさんの仲間を連れた
ロビン?突然何を言い出すの?それって確か昔読んであげた絵本の話じゃなかったっけ?
大きな竜に連れ去られたお姫様を助けるために勇者が旅立って、いろんな人に協力してもらいながら最後はお姫様を取り戻すハッピーエンドのやつだよね。
ほら、クロコダイルもわけわかんないって顔してるよ。
「あぁ?何を言ってやがる」
「わからないのかしら?こっちに集中してないで周りをよく見なさい」
「……なっ!?どこから湧いて出やがった!?」
「「「「「待たせたなピーター!助けに来たぞ!!」」」」」
そこには次々と集まってくる仲間たちがいた。俺が念のために「手を貸してほしい」と伝えていたのもあるが明らかに数が多い。
もしかして王女の手助けをするって決めた段階で仲間のほうでも助力を頼んでいたのか?
「悪いなピーター。大急ぎだったもんで今はこれだけしかいないんだ」
「いや、これだけっていうか…来てくれるのは嬉しいが何人いるんだ?1万人くらいいそうな勢いなんだが…」
「俺たちも何人いるのかなんてわからないな。でもそれくらいいるんじゃないかな?何しろピーターの手助けができるっていうんならみんな喜んで集まるさ」
今アラバスタには元からいる1万人以上の仲間に加えて、近隣から急いで集まってくれた仲間が更に1万人近くいる事になるのか…
そんなに多くの仲間が協力して手を貸してくれたり、集まってくれた事に思わず感動してしまいそうになる。
俺にとってはとても心強い援軍だが、クロコダイルにとっては予想外の展開だろう。
だが俺たちが勝手にクロコダイルをどうこうするわけにはいかない。
これはこの国の出来事なのだから、ちゃんとこの国で裁くなり追放するなり決めなければいけないと思うからだ。
「国王、あなたがクロコダイルの処遇を決めてくれ。元々この国で起きた出来事なんだから、クロコダイルがこの国の転覆を目論んでいたということを、あなたたちが国民に知らせなければいけないと俺は思う」
「…ありがとう。クロコダイルよ!私は世界政府に今回の事を報告し、お前の七武海としての権限を剥奪することを進言する。そしてお前自身は海軍に引き渡し裁きを受けるがいい」
「チッ!状況が悪すぎるか…なら今は大人しく捕まっていてやる。だが俺は諦めねぇぞ。必ず新たな力を手に入れてやる!」
どうやら国王は世界政府に言って七武海じゃなくなってから、海軍に海賊として引き渡すようだ。
それがこの国のやり方なのだろう。それなら俺たちが何か言う必要もない事だ。
クロコダイルは抵抗せずにこの国の兵士に連れて行かれ、残った仲間たちは「せっかく来たのに何もしないのもなぁ」ということで、砂嵐に埋まってしまった町やお城などを復旧したりするために各地に散らばっていった。
まぁネバーランドにあるものがお手製の物ばかりなので、みんな大工仕事はお手のものだしな。
「本当にどれだけ感謝しても足りないくらいだが、改めて言わせてほしい。この国を救ってくれて本当にありがとう」
「礼には及ばないよ。俺たちは少女の夢を手助けするために勝手に行動しただけさ。今の状況は結果的にそうなったに過ぎない。」
「例えそうであったとしてもだ。君たちに助けられたという事実は変わらない。それに今だって各地の復旧に手を貸してくれている。既にたった数日で砂に埋れた町が元に戻りつつあるという報告も受けている。ビビとイガラムを助けて連れてきてくれて、クロコダイルの企みを打ち破ってくれたのは全部君たちのおかげだ」
そこまで持ち上げられるとむず痒いな。クロコダイルが捕まり仲間たちがそれぞれの場所へ移動して、俺はロビンとネバーランドから来た仲間と一緒に王城にいた。
だがどうも落ち着かない。会う人みんながお礼を言ったりしてくるからだ。
クロコダイルの暗躍の証拠を掴んだのはロビンたちだし、バロックワークスと戦っていたのは仲間たちだ。
俺自身はそこまで褒められるような事をしていないので、余計に居心地が悪い気がするんだ。
「ねぇ王様。1つ聞きたいのだけれど、この国にはあのポーネグリフしかないのかしら?他にもあるなら教えてほしいのだけど」
「我が国にあるのはあれ1つだけだ。少なくとも私が知っているものはな。それに、他にあるのかどうかが書いてあるのかもしれないが、私には読めないのでわからないんだよ」
「そう…確かにあれをクロコダイルが読めたら厄介だったかもしれないわね」
「まさか君はあれを読むことができるのか?」
「…ええ、ピーターも読めたでしょ?」
「うーん、俺はみんなより覚えが悪いから単語だけわかったくらいかなぁ。プルトンっていうのと後いくつかは読めたぞ」
やっぱりあれは古代文字で刻んであったってことか。本当に一部分の単語だけだから、なんて書いてあるのかはわからないけどな。
「…ねぇピーター。正直に答えてほしいんだけど、もし古代兵器があるとしたらピーターは欲しい?」
「いや、いらないだろう。どんなものか知らないけど、そんなの使ったら助けるつもりの子供を巻き込んじゃう気がするぞ?」
「ふふ、やっぱりピーターならそう言うと思ったわ。なら一応あの場にいたみんなにも口止めしておいたほうがいいわよ」
古代兵器っていうのがどんなのか想像もつかないが、どう考えても子供を助けるのには過剰だと思う。
例えば、古代兵器っていうのが異世界知識にある「どこにでも一瞬で行けるドア」みたいなのだったら欲しいけどさ…
ロビンからの忠告通り、あの場にいた仲間には他言無用を伝えておいた。
これでこの国も大丈夫だろうと安心していたのだが、これで一件落着とはならなかった。
海軍に引き渡すはずだったクロコダイルが逃げ出したらしいのだ。
しかも部下の能力者も連れて行ったらしい。この国の兵士が探しているとの事なのだが、砂漠の多いこの国で砂を扱うクロコダイルを探すのは困難だろう。
しばらくは俺も含め復旧などを手伝っていたが「もう大丈夫」ということだったので集まってくれた仲間たちは元の場所へ、俺たちはアラバスタを出てネバーランドへ戻ることにした。