ピーターパンしてたら世界が変わってた 作:霧丹
アラバスタでの騒動が一段落したので、ネバーランドから一緒に出発した仲間と共に俺たちは島へと戻ってきた。
ロビンはしばらくアラバスタに留まり国の歴史などを聞いたり調べたりしながら過ごすようだ。
ネバーランドに戻ってきた俺たちは互いに労いながら日常へと戻っていった。
いつも訓練しているとはいえ、やはり実戦というのは精神的に疲れるものだな。
戻ってきた時に「おかえりピーター!」と迎えてくれる子供たちのなんと愛らしい事か。
特に今回はロギア系なんていう珍しい能力者であり、七武海なんていう名の知れた実力者が相手だったのだからこの疲労も当然だろう。
まぁ俺はそんなに戦ってないんだけど…
しかしクロコダイルが逃げ出すとは思わなかったな。アラバスタの兵士たちは探しているらしいけど、なんとか見つけて捕まえることができればいいけどな。
いくら見た目フック船長とはいえ、俺では荷が勝ちすぎる相手だと思う。
「…………そうか。その男を捕まえられなかったのは残念かもしれないが、それでも生きて戻ってくることができたんなら喜ぶべきだな」
「ああ、まったくだよ。なんでそんなに生き急いでんだってくらい無茶な事を仕出かす隊長だよ」
「助けてくれた仲間たちには俺からもお礼を言っておくよ」
「礼と言えばピーター。今俺たちがいる船の船長がピーターに礼を言いたいんだってさ。できればこっちに来てくれるとありがたいんだが…」
「うん?礼なら手伝ってくれた仲間に言ったほうがいいと思うぞ?俺は今回何もしてないからな」
「もちろん直接助けてくれた仲間たちもちゃんと礼をするんだが、ピーターにも会いたいみたいだ」
「…まぁいいか。みんなも世話になってるみたいだし、挨拶くらいしておくのも悪くないな。それじゃこっちも支度をしてから向かうよ」
アラバスタのほうは無事に解決したといってもいいが、ネバーランドを発つ前に協力の要請を受けていた情報提供のほうがまだ完全には解決していなかった。
というのも、俺たちがアラバスタで関わっていた出来事の間に、白ひげ海賊団のところにいた仲間たちのほうも情報提供の協力を得たおかげで探している男を捕捉できたらしい。
どうやら白ひげの船から逃げ出してから仲間を増やしながら移動しているようで、別の男たちと一緒に町を歩いているところを見つけたようだ。
本来ならちゃんと準備して挑むべきだが、燃える隊長のほうは我慢できなかったのか、居場所の連絡を聞いてすぐに周囲が止めるのも聞かずに飛び出してしまったらしい。
本人曰く「あいつは2番隊の部下だった。だから隊長の俺がケジメを付けなきゃならねぇ」ということなんだと。
しかも1人乗りの結構スピードの出る乗り物で飛び出していったせいで、仲間たちも追いかけたが追いつけなかったという事だった。
燃える隊長がどれだけ強いのかわからないが、殺されたのは別の部隊を率いる隊長だと言っていたはずだ。
つまり最低でも隊長を殺せるような男を相手に、しかも仲間までいるようでは何も考えず感情に身を任せて単身突っ込んでたら、いくら隊長であろうとも危ないでは済まないかもしれない。
そう考えた白ひげ海賊団にいる仲間たちは、探している男が滞在する場所にいるネバーランドの仲間に救援を求めたらしい。
とはいっても、加勢してくれという内容ではなく「燃える隊長が危険に陥るようなら救出してやってほしい」という内容だった。
そんな頼みを聞いた仲間たちは、なるべく見つからないように裏切り者の男と燃える隊長の戦いを見守っていた。
だが、健闘むなしく燃える隊長が負けたため、決闘が終わって気が緩んだ隙を突いて助け出してそのまま離脱したらしい。
助け出した隊長はかなり大怪我をしていたようだが、命に別状はなく意識を失っているだけだったようだ。
そして白ひげ海賊団にいる仲間に引き渡されて治療されているとの事だったんだが、ここでなぜか白ひげ船長が「助けてくれた礼をしたい」と俺に会いたいと言っているそうなんだ。
この場合俺よりも助けた本人たちに言ったほうが良くないか?と言ったんだが、そっちにももちろん礼をするが俺にも会ってみたいということだった。
もしかして以前シャンクスが白ひげ船長に俺の事を伝えておくって言っていたから、それで会う丁度いい機会だと思ったのかな?
まぁネバーランドの仲間もそれなりの人数がお世話になっているようだし、一度顔を合わせておくのも悪くないかもしれない。
シャンクスも交流ありそうな感じだったし、仲間たちもいるんだから悪い海賊ではないのだろうと思う。
あと燃える隊長のお見舞いなんかも持って行ったほうがいいか。
白ひげ海賊団は偉大なる航路後半の海を周っているらしいので、また少しばかりネバーランドを留守にする事を伝えてから今回救出に動いてくれた仲間と合流して向かうことにした。
「はじめまして白ひげ船長。俺はピーターと名乗っている。そして今回そちらの隊長を救出してくれた仲間も一緒に来たよ。あと他にもこの船には俺の仲間たちがたくさん世話になっていると聞いているよ」
「グララララ、おれぁ白ひげだ。お前には一度会ってみたかったんでな。だが…まずはエースを助けてくれた事、礼を言う」
「あれは仲間たちが頑張ってくれただけさ。俺はそんな事があったのを後で聞いてね。そうそう、お土産とお見舞いを持ってきたんだ。お土産は酒が好きだと聞いてたから酒にしようと思っていたんだけど、みんなに飲みすぎだって心配されてるらしいじゃないか。だから身体に良い薬膳のお茶を持ってきたよ」
「…酒じゃねぇのかよ。おれぁ飲みたいときに飲んでるだけだぞ」
「我慢しろとは言わないが、俺も白ひげ船長と同じく心配される身なんでね。そんな仲間の心配を無下にするわけにもいくまい?だからお裾分けさ」
「グラララ、変わった野郎だな。うちの船や傘下の船に乗ってるヤツらからも、そして赤髪の小僧からもお前の話は聞いている。仲間からはずいぶんと慕われているみたいだな。みんなが声を揃えてお前の事を「恩人であり育ての親だ」って言ってたぞ?」
そう言ってくれるのは嬉しいがそんな大袈裟な事でもないだろうに。
一緒に来た仲間は別の船員やこの船に乗っている仲間と話に行ったので、お見舞いの品を渡してもらうように頼んでおいて俺は白ひげ船長と一緒に酒を飲みながら話している。
この白ひげ船長は船員たちから「オヤジ」と呼ばれ慕われているようで、聞いてみると行き場のないゴロツキだった者たちが拾われてこの船にいたりするらしい。
なるほど。俺たちが子供を救っているように、白ひげ船長は行き場のない若者を救っているのか。
そう考えると俺たちは似たようなものなのかもしれないな。そう伝えると「そんな大層なもんじゃねぇよ」と笑い飛ばされたが。
船員もみんなこっちに来ては「エースを助けてくれてありがとう」と言っていくので、かの隊長もみんなから好かれているのだろう。
あまり外部の人間がおせっかいを焼く必要はないかもしれないが、いや外部の人間だからこそ苦言を言っておくべきか?
そう思っていたら体中に包帯を巻いた男がこっちにやってきた。少々渋い表情をしているが、何かあったんだろうか?
「あー…あんたたちが俺を助けてくれたんだってな。俺はエース、ポートガス・D・エースだ」
「はじめましてエース。俺はピーターと名乗っているよ。ところでどうしてそんな表情をしているんだ?」
「……俺は勝手に飛び出していって返り討ちにあって、あんたらに助け出されてここに戻ってきた。それが情けなくってさ」
「それでも君は生きている。おそらく君は「俺ならやれる」という気持ちがあったんだろうけれど、今回の事で1人ではできないことがあると理解したはずだ。俺が仲間たちに言い続けていることだけど、何かあれば仲間を頼りなさい。ここには君を心配し、生きて戻ってきたことを心から安堵している仲間がたくさんいるじゃないか」
周りで聞いていたみんなはウンウン頷いているが、そう言っても本人はなかなか納得はできなさそうだな。
まぁこの手のタイプはネバーランドにだって何人もいた。普段は聞き分けいいはずなんだが、思い込んだら一直線というかなんというか。
なので諌めるために例え話として、ついこの前あったアラバスタでの出来事を話して聞かせる。
何せあの件は俺はほとんど戦わず仲間たちが成し遂げたと言っても良い出来事だからだ。
七武海という有名で実力のある海賊を相手に仲間たちが力を合わせて立ち向かった結果、最後は逃げられてしまったとはいえ降参させて捕まえることができたんだから。
そんな出来事を話していれば、聞いていた白ひげ船長も七武海のクロコダイルは知っていたようで少々驚きながらも「あれはお前らの仕業だったのか…まぁお前の仲間ならそれくらいできるか」と納得もしていた。
白ひげ船長、俺が言いたいところはそこじゃないぞ。
自分に自信を持つのは結構な事だが、それを過信した結果が今回の結末だったわけだしな。
1対1で戦って負けたっていうのが悔しい気持ちはわからないでもないが、だからといって「今度は負けない!」なんていう根拠のない自信で突っ走るほど考えなしじゃないだろう。
「エース。許せないという気持ちは君だけじゃなくみんなが持っているんだ。そうじゃなかったら俺たちに協力を求めたりしないはずだ。だから君は1人で突っ走るんじゃなく仲間と一緒に挑むべきだったんだ」
「ぐっ……だけどさ!」
「君にも君なりの考えがあった事は確かなんだろう。俺にはそれを間違っているかどうかわからない。だから俺が言っているのは、
「グラララ、エースよ。ピーターの言う通りだぜ。アイツを許せねぇのはここにいる全員が同じ気持ちだ。だからお前は今よりもっと強くなれ。力だけじゃねぇ、心もだ」
「オヤジ…」
なんだ、ちゃんと冷静に受け止める事もできてるじゃないか。いや、オヤジと慕う白ひげ船長を想うが故に突っ走っちゃったのかな?
エースは見た感じサボたちと同じくらいの年みたいだし、今回はいい経験だったと糧にしてくれたらいいか。
お小言はそれくらいにしておいて、船上ではみんなで大宴会が始まった。
みんなが笑いながら酒を飲み、エースに「本当に無事で良かったな」と声をかけている。
エースのほうは気まずそうな表情をしていたりするから、まだなかなか素直に良かったとは思えないのかな。
たぶんエースは末っ子気質なんだろうな。みんなに見守られて好き勝手やってるからもう少し大人になるか、弟妹とかでもいれば変わるのかもしれないな。
ネバーランドでは年長者が年少者の面倒を見ながら、成長し年長者が巣立っていけば新たな年少者がやってくるので、みんなが弟妹でありながら兄姉も体験できるというサイクルになっている。
そうやって成長していきながら勉強や人付き合いだけじゃなく、覇気や六式を学んだり教えたりしているのだから。
もちろん最初は事故が起こらないように覇気は教導してくれている革命軍の人間の監視の元でだが。
そんな事を白ひげ船長と教育談義みたいに話していたら、思わぬ言葉が返ってきた。
ネバーランドは子供が大多数を占める島だからか「しばらくの間エースにそんな子供の面倒を見させてやってくれないか?」との事だ。
普通なら息子と呼んでいる仲間を他所にやったりはしないらしいが、俺たちは海賊でもないし似たような部分もあるから一時的に預けて精神的な成長を促したいというのが狙いなのだろう。
確かにそういうのは体験しないと実感沸かない部分だもんな。
白ひげ船長からその事を告げられると、エースは少々渋ったが話を聞き了承していた。
まぁエースに伝えられた表向きの理由は「怪我の療養も兼ねて、助けてくれたピーターたちの島の手伝いをしてきてやれ」となっているが…
「随分と世話になってしまったね。それじゃあエースはしばらくネバーランドで預かるよ」
「グラララ、世話になったのはこっちのほうだ。エースの事は頼んだぜ。エース、お前もしっかり子供の世話を頑張りな」
「ああ、さっさと終わらせて戻ってくるさ。今度こそ負けないように修行もしてくるつもりだ」
数日ほど船に滞在させてもらい、ネバーランドの仲間たちとも顔を合わせいろいろと話した俺たちはエースを連れて別れの挨拶をしていた。
もちろん白ひげ船長にもシャンクスのときにお願いしたのと同じように、虐げられている子供などを保護したら教えてほしいと伝えている。保護できなくても情報だけでも構わないからとも。
ネバーランドへ向かう船の上ではエースに子供たちとの接し方などを話していたのだが、そこでエースからよくわからない質問をされた。
「なぁピーター。あんたはさ、海賊王に子供がいたとしたらどう思う?」
「んー?そりゃ海賊王って言っても人間なんだから子供がいたとしても不思議じゃないだろ?」
「そうじゃねぇ…もし子供がいたとしてさ。その子供は死ぬべきだと思うか?」
「いいや、そうは思わないな。それに聞いているかもしれないがネバーランドは孤児や虐待されていた子供の集まりだ。もしその中に海賊王の子供がいたとしても驚かないさ。…待てよ?そう考えると、もしかしたらネバーランドに実は海賊王の子供がいるかもしれないな」
「いや、いないだろ」
「わからないぞエース。もしその子供が孤児だったり虐待されていたならばいる可能性のほうが高い。ネバーランドにいなくてもネバーネバーランドのほうにいるのかもしれん」
何やらエースが呆れた顔をしているが、世間的に海賊は悪党だしその王様の子供ともなれば命を狙われている可能性が高い。
つまりロビンのように子供の頃から危ない目に遭っていたとしたら、ネバーランドに連れてきていても不思議じゃないんだ。
まぁ子供がいるのかどうかすらわからない例え話なんだろうけど。
「…そうか。もしかしたら俺が育ったかもしれない島か…」
「どうしたエース。ホームシックにはまだ早いぞ?」
「そんなんじゃねぇよ。ちょっと考え事してただけさ」
そうなのか…子供たちの世話はなかなか忙しいから、ネバーランドでゆっくり考え事ができる時間があるといいけどな。