ピーターパンしてたら世界が変わってた   作:霧丹

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5.ネバーランドと大海賊

 

 

 

俺は今海賊船から降りてきた男と対峙している。

 

この男が船長なのかどうかはわからないが、赤髪の隻腕の男だ。

 

先手必勝といきたいところだが、今のところ相手に戦う気配がないのでひとまず用件を聞いてみることにした。

 

「この島は見ての通り何もない島なんだが、海賊が一体何をしに来た?」

 

「あー…そう警戒しないでくれ。俺たちは別に島を荒らしに来たわけじゃないんだ。少しばかり補給をさせてもらいたいのと、ちょっと聞きたいことがあってな。とりあえず怖がらせないように俺だけ来たんだが、仲間たちも島に入っても構わないか?」

 

「……略奪しにきたなら最初から襲ってきているか。いくつか条件があるが、それで良ければ補給なども許可しよう」

 

「助かる。ちなみに条件ってのは?」

 

「この島の事を外部に漏らさないこと。この島で一切暴れないこと。この島に武器を持ち込まないこと。この3つだ」

 

「この島を知られたくない理由はわからないが、わかった。約束する」

 

この約束が守られるかどうかは俺にはわからないが、最悪の事も考えて海軍にいる仲間に確認しておくか。

少しばかり心配ではあるが、海賊船から船員たちが降りてきている間に建物へと戻り一旦みんなに大丈夫だと告げて部屋に戻るように促した。

だが好奇心旺盛な子供は海賊を見てみたいと遠目から覗いていたり、中には普通に話しかける子もいたりで俺のほうがヒヤヒヤさせられた。

どうやらこの海賊たちはやたらと暴力を振るう海賊ではなさそうだが、海軍の仲間から海賊というものがどんな奴らなのか聞かされていただけに油断はできない。

 

…どうやら海軍の仲間からの情報ではこの海賊は赤髪海賊団という、世界三大勢力の1つである四皇という海賊たちの一角ですごい有名らしい。

どうも海賊や海軍なんかは基本的に避けているせいでそのあたり疎くなってしまっているな。

世界中の仲間から集められる情報は基本的に頭に入れているが、赤髪海賊団も名前くらいは聞いたことがあっても具体的な情報はなかった気がする。

 

そんな赤髪海賊団の船員たちも、この島が子供ばかりで大人がほとんどいない事には驚いていたようだ。

だが、どうやら子供好きな船員も多いようで、それぞれ子供たちと楽しそうに話している。

 

 

「そういや自己紹介が遅れたな。俺はこの赤髪海賊団の船長やってるシャンクスというものだ。お前さんの名前も教えてくれないか?」

 

「俺はここネバーランドの…なんだろ?まぁ、みんなの面倒を見ているピーターだ」

 

「なぁピーター。お前さんは赤髪海賊団って聞いて驚いたり騒いだりしないのか?」

 

「うん?四皇っていうすごい海賊だっていうのは聞いたが驚くべきなのか?」

 

 

どうやらシャンクスが言いたいのはそういうことではないらしい。

赤髪海賊団は世界中の住民の間で嫌悪されているらしく、なぜかやってもいない人さらいなどの濡れ衣を着せられているということだ。

そして自分たちの旅をしながらその噂の原因を探し出すために調査もしているようで、この島が有力な手がかりだということを突き止めやってきたらしい。

 

よくわからないな。人さらいならどちらかと言うと俺たちのほうがやっているはずなんだが…

 

しかも住民たちは赤髪海賊団を見るや否や「あかがみが来たぞ!子供を隠せ!そして拐った子供を返せ!」とか言われるため意味がわからずシャンクスだけでなく船員たちも困惑しっぱなしらしい。

今俺が見ている限りではシャンクスは人さらいとかやりそうにないんだが、やっぱり海賊だけに人身売買とかやっているのだろうか。

 

 

 

しかしなんでシャンクスって断定してるんだろ?拐っていった現場に赤い髪でも落ちてたのか?

 

 

 

赤い髪じゃなくて赤い紙なら俺たちが置いていってる…ってまさか!?

 

 

 

「あー…シャンクス。少し2人で話さないか?ちょっと伝えておきたい事があるんだが…」

 

「ん?別に構わないが、なんでそんな言いづらそうな顔してるんだ?」

 

「いや、ちょっとその濡れ衣に心当たりがあってな。大きな声で言う事ではないというか、一体どうしたもんかと思ってな」

 

「本当か!?ちょっとでも何か手がかりがあるなら教えてくれ!こっちも困ってたんだ!」

 

ひとまず俺の部屋へと案内し、冷えたお茶を出して落ち着いてもらう。

酒なんて出してその勢いのまま暴れられても困るからな。素面で冷静に話を聞いてもらわなければならない。

 

黙っててもいつかはシャンクスも事実を知る時が来るだろうし、それならばこのまま黙ってやり過ごすよりも話してしまったほうがいいだろう。

 

 

 

 

 

そしてしみじみと思う。どうしてこうなってしまったのか…と。

 

 

 

 

 

どうやって言い出そうかとか、なんでこうなったのかと今までの自分の半生をしみじみ考えていると、シャンクスから催促のお言葉が飛んできた。

 

「ピーター。お前さんが何を知っているのか教えてくれ。俺たちもやってもない人さらいの濡れ衣には迷惑してるんだよ」

 

「あー…あー…シャンクス。落ち着いて聞いてくれ。たぶんだが原因がわかった。てかなんでそんな事になっているのかはまったくわからないが、少なくとも原因だけは心当たりがある」

 

「うん?原因に心当たりがあるのか?もしお前さんたちが噂を流していたとしても世界中に広がるとも思えないんだが」

 

「いや、そうじゃない。俺たちがわざわざシャンクスの悪評を広める意味もないし、そんな事はしていないんだが原因は俺たちのせいだろうな」

 

そこから俺はシャンクスに、今までやってきた事やネバーランドを作った経緯などを説明していった。

山賊に理由もなく虐げられ、そこから解放されて同じ境遇の子供たちを拐ってでも助けていったことや、そこから島を見つけ開拓して仲間たちが世界中に散らばっていることなどだ。

そして今回の誤解の原因となった、拐った子供の場所に赤い紙を置いてくるというのが広まっていき、レッドカードではなく赤紙と伝えられてしまったんだろう。

そこに赤髪海賊団が発足してしまったので、何も知らない人間たちの間で赤紙=赤髪と認識されてしまったのが今回の騒動の原因になってしまったようだ。

 

これについては推測だが間違っていないと思う。子供を拐われた親などは自分がその子供を虐げていた事も気にせず「子供を拐われて赤い紙が落ちていた!」と騒ぎ、何も知らない住民たちは赤紙に拐われたと認識していたが、丁度赤髪海賊団という海賊が現れたために「あかがみというのは赤髪の事だったのか」と逆に勘違いしたのだろう。

そして噂が噂を呼び、最早真実などどうでもいいとばかりに赤髪=人さらいという図式で定着してしまったのではないだろうか。

 

たまたま赤髪であるシャンクスが船長で名前を赤髪海賊団にした事が完全に風評被害を呼んでいた。

 

ひとまず事情を説明し、俺たちの悪評を完全に肩代わりさせられていたシャンクスに頭を下げて謝罪しておいた。

 

「あー…なんて言ったらいいんだ。悪気もまったくなくて赤髪海賊団が出来るよりも前どころか、下手すりゃ俺が生まれる前から子供たちを助けてたんだから、俺から文句を言うのもなぁ…完全に噂が先走っただけの勘違いだったのかよ…」

 

「なんと言ったらいいのかわからないが、原因は間違いなく俺たちだし謝るしかできないんだが、かと言って世界中に俺たちの事を広めるわけにもいかないんだ」

 

「言いたい事はわかってる。まぁ故意に悪評をバラ撒いてるならと思って探してたんだが、原因がわかって良かった。解決はできそうにないが、だからと言ってここの事を言いふらしたりはしないから安心してくれ」

 

「すまない。俺たちはこれからもこの活動を続けていくつもりだが、できる範囲で俺たちも噂が誤解であることを伝えていくようにはしてみよう。後は仲間たちに事情を話しておいて、シャンクスたちがどこか島に立ち寄った時には協力するように伝えておく」

 

シャンクスに噂の原因というか真相を話し、部屋を出てみんなが集まっている場所へ行ってみると子供たちが冒険譚を聞きたくて集まっていたようだ。

そこで船員たちが自慢げに数々の冒険の話を聞かせているようで、子供たちもそんな話を目をキラキラと輝かせながら聞いていた。

 

シャンクスも副船長だという男に俺からの話を伝えているようで、副船長の男も「そりゃもう巡り合わせが悪かったとしか言えんな」と苦笑いしていた。

 

赤髪海賊団はそこからしばらくネバーランドに滞在し、子供たちにせがまれては嘘か本当かわからないような冒険の話をしては子供たちに「海賊は自由でいいぞ!」と勧誘まがいの事をしていたが、海賊になって冒険したい!という子には「まだ早い」と笑っていたのだが、六式や覇気を使えると聞くと大層驚いていた。

 

うちの子たちは自衛のために六式と覇気を教えていると自慢気に話してやると「どこまで過保護なんだよ…」と呆れたような視線で見られたが、もう弱いからと逃げられもせずに暴力を受けるような目には遭わせたくなかったので仕方ないんだ。

 

更に世界中にいるネバーランドの仲間たちもほぼ全員六式や覇気を使うことができると自慢してやった。

これでも半世紀近くかけて苦境にいた子供たちを勝手に救ってきたのだ。もはや仲間たちの数は数え切れない。

本当に戦うのが嫌だという子もいるから、そういう子にはせめて逃げるための手段として剃という技術と見聞色の覇気だけは習得させるようにしている。

 

ちなみにネバーランドにいる子の何人かは海を冒険してみたい!とやる気になってしまっていたので、シャンクスに頼んで海賊体験させてやってくれとお願いしてみた。

一応みんな六式も覇気も使えるし、実戦の経験はないけど役には立つと思うよということでアピールしてみたところ、渋られたが最後は「まぁ戦える術は持ってるし見習いからな」と了承してもらえた。

ついでとばかりに、もし立ち寄った先で虐げられている子供などを見つけたら保護するか教えてほしいとも言ってある。

四皇というのがどれくらいすごいのかは俺にはわからないが、シャンクスたちとも良い関係を築くことができればまた少し助けられる範囲が広がるかもしれないからだ。

 

俺たちは革命軍のように名前を付けて活動しているわけでもないので、同盟とかそういうものではないが、困った時に助け合える関係くらいになれたらいいなという事をみんなのいる前で話し、赤髪海賊団と協力関係を結ぶことに成功した。

 

何せうちの仲間が赤髪海賊団の見習いになるからな。いくら巣立っていくからと言ってもそれで仲間との関係が終わるわけではない。

たまには連絡して冒険譚を聞くのもいいと思って電伝虫の番号も聞いておいた。

 

まぁ協力関係と言っても俺たちは戦力にはならないから、あくまでもお互いに何かあった時に情報提供しあうくらいの関係だ。

 

「ところでシャンクス。ちょっと聞きたいんだが、冒険してる中でポーネグリフっていうの見たことあるか?」

 

「…どこでそれを知ったのかわからんが、そこに手を出したら政府に目を付けられるぞ?」

 

「うちの子が歴史を知りたいって言っててな。もし見たことがあるんならどこにあるか教えてもらおうかと思ったんだが…」

 

「そういうことか。悪いが俺から何かを言うわけにはいかん。ただまぁ、歴史が知りたいんならいずれは海に出る必要があるだろうな」

 

「なるほどな。まぁ俺にはよくわからんがその子にはそう伝えておくよ」

 

四皇であるシャンクスでさえ具体的に言うのが憚られるような何かなんて想像もつかない。

大体、歴史を調べるのがダメっていう時点でよく理解できないんだよな。俺にどこかの世界の知識があるからかもしれないが、昔を知るからこそ今をもっと良くできたりするんじゃないのか?

 

もしかして世界政府が禁止するくらいだからめちゃくちゃ危ない生き物とかいるのかな?「世界の歴史を知りたければ我を倒してからだ!」とか言って立ち塞がるボスがいるみたいな…

それで世界政府は本当は自分たちも知りたいけど、挑んでも返り討ちにされてしまうため世間には犠牲を出させないために禁止にしてるとかなら理解できるな。

 

なんか頭の中に海にいるめっちゃでっかいドラゴンが浮かんできた。革命軍のドラゴンではない。竜のほうだ。こんなの海の上で戦って勝てる気がしないな…

少なくとも俺にわかったのはロビンを勝手に行かせないで正解だったって事だけだ。

今も仲間たちと楽しく過ごしながらいろいろと学んでいるロビンだが、いずれは歴史を求めて世界中を旅することになるんだろうな。

俺の想像が正解なのか不正解なのかわからないが、世界中に仲間がいるからみんなに協力してもらいながら、自分のペースで歴史を探していけばきっと知りたい事を知れる日が来るはずだ。

てかマジで歴史を知るためにボスがいたらどうしよう…それはボスがいたときに考えるか。

 

 

そういえば世界政府が歴史の探求を禁じているって言っても、もしドラゴンたちが世界政府を打倒したら関係なくなるんじゃないだろうか。

それならドラゴンを応援したほうがロビンのためになる気がしてきた。

 

 

いろいろと考えさせられる事が多かったが、赤髪海賊団がネバーランドに来たのは結果的に良かったと言える気がする。

 

 

「結構長居しちまったが、そろそろ俺たちも自分たちの冒険に出ることにする。この島は良い島だったぜ」

 

「そうか。まぁたまには遊びに来てくれ。海に出るとなかなか顔を見れない事も多いからな。後はうちの子をよろしく頼んだ。俺にとってネバーランドの子はみんな仲間であり家族みたいなもんだからな」

 

「家族で仲間か。ピーターと気が合いそうな知り合いがいるが、まぁ約束通りここの事を教える気はないが、仮に教えてもここまでは来ないだろうし会う機会がなさそうだな」

 

「へぇ、ぜひ会ってみたいもんだが俺から海賊に会いに行くってのもなぁ…まぁ島を巡ってる時に運良くいたら声でもかけてみるか。なんて名前なんだ?」

 

「島を巡ってるだけじゃなかなか会えないとは思うが、そいつは白ひげって海賊だ。まぁ俺もなかなか会う事はないが、もし会ったらピーターの事も伝えておくさ」

 

そんな赤髪海賊団もそろそろまた本格的に航海するというので、みんなで見送りにいった。

見習いとして船に乗る仲間にもエールを送り、シャンクスには仲間をよろしくと伝えておいた。

 

 

しかし白ひげか。海賊なのに船員を仲間としてだけでなく家族としても見ているなんて、シャンクスの言う通りなかなか気が合いそうだな。

まぁそういう場合はお互いの家族自慢対決になりかねないんだが、それはそれで是非一度やってみたいものだ。

 

 

 

 

そんな事を考えながら赤髪海賊団の船が島を離れていくのを見送っていった。

 

 

 

 

 

 




予約投稿ここまで。また数話書き溜めてから投稿します。





※以下蛇足


赤髪=赤紙、同音異義語というところから更に、赤紙=戦時中の赤紙(召集令状)や差し押さえ的な赤紙=(人や資産を)連れて行く、に掛けました。

そしてレッドカード=サッカーの警告=周囲へのやってはいけない事(女子供への虐待など)=警告表示という意味も含ませています。


時系列については、1話の「どうしてこうなってしまったのか」から、この5話の「どうしてこうなってしまったのか」までは主人公の回想です。
なのでドラゴンと出会ったりロビンやサボを迎えたりなどの主だったものを思い出しているため時間がかなり飛んでいます。

主人公の年齢については、幼少の頃に船出したあたりでロックスやロジャーが海で名を上げていますので、大体ロジャーやレイリーらと10~15才ほど下くらいです。

原作開始時期には50代中盤から60才くらいの間となっています。


シャンクスのほうもルフィとの出会いは時系列ではなく、評判が悪い中で珍しくあの島は普通だったなと思い出し、合わせてルフィの事も一緒に思い出している感じです。


また風評被害の調査も海賊たちが口頭でしているためどれだけ会話しても
噂を聞いた町人「現場に赤い紙が落ちていたらしいですよ」
海賊「なんでわざわざ赤い髪を…」
みたいになります。

直接拐われた親に聞いたとしても
海賊「どうして赤髪海賊団が子供を拐ったって言えるんだよ!?」
親「うるさい!子供の部屋に赤い紙が落ちてたんだよ!子供を返せ!」
という感じです。
子供との思い出の品として紙を後生大事に保管している親なら虐待などしないでしょうし。

これを解決するには発足の時点で『赤い髪の毛海賊団』と名乗る必要があったのではないでしょうか。


偽札は主人公自身がよくわかっていない異世界知識があるため赤い紙を作る以外に偽札を作るという発想へと至りました。
公式がデザインしている紙幣は透かしがありそうな感じでしたが、果たしてそんな技術がこの世界にあるのかわからなかったのでないものとしています。




表現の仕方が拙くて申し訳ありません。

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