ピーターパンしてたら世界が変わってた 作:霧丹
「ピーター!お久しぶりですね。突然どうしたんです?」
「たまには顔を出すのも悪くないと思ってね。少しばかり寄らせてもらったんだよ。ドラゴンはここにいるのかい?」
「そうでしたか。残念ながらドラゴンさんはここにはいませんね。何か用事でもありましたか?」
「いや、少しばかり聞いてみたい事があっただけなんだ。いなかったらまたの機会にするよ」
あれからネバーランドを出発し、ビブルカードを頼りに海を進みながら革命軍の仲間たちの元へとやってきた。
ちょうど見張りをしていたのが仲間の1人だったので問題なく受け入れられ、元気そうにしている事を確認できたが肝心のドラゴンは留守のようだった。
そのまま近況を聞いてみると、革命軍は世界政府加盟国のいくつかで革命を起こしているらしい。
そういえば確かに革命軍経由でネバーランドに来る政府の被害者の子供たちが多くなってきていたな…
ということは革命が成功したのか失敗したのかわからないが、それが原因で難民となっている子供が増えているのか?
それとも革命が起きなかったら、話に聞いていたワノ国みたいに一部の人間がその他大勢を虐げるような国だったのだろうか?
こればっかりは直接聞かないとわからない事だけに、ドラゴンの留守は残念だった。
「あ、ピーター!どうしてここに?」
「久しぶりだね。サボがあんまりネバーランドにいないから元気にしているか見に来たよ」
「うっ、それを言われると…みんなは元気にしてる?」
「ああ、みんな何も変わらず元気にしているよ。そうそう、ロビンがこの前海に出てね。サボもロビンを知っているだろう?どこかの海で出会うかもしれないから教えてあげようと思ったんだ」
「そっかぁ、ついに海に出ることにしたんだな。なら確かにどこかで会うかもしれないな」
サボも元気そうにしているな。あと確か女の子も革命軍にいたはずなんだが…
世界政府というか、天竜人にひどい事をされていたという女の子も何人か預かっていて、革命軍が連れてきた1人がもう誰もそんな目に遭わなくてもいいようにって頑張っていたのを思い出した。
「あれ?ピーター?」
「おお、ちょうど君の事を考えていたんだ。元気そうな顔が見れて嬉しいよ。えーと…」
「あはは、ピーターの事だからあたしの名前思い出せないんでしょ?あたしの名前はコアラだよ」
「そうそう、コアラだ。君が来た時の事は思い出せるんだが、昔の事ばかり思い出すのは年なのかもしれないな」
「そんな事言いながら今でも覇気や能力を鍛えてるの知ってるんだから。あたしが一番ネバーランドのみんなと連絡取ってるんだからね。あとロビン姉さんが旅に出たのもとっくに教えてもらったよ」
どうやらコアラは俺が名前を思い出せないのを知っていたようだ。
…もしかしてネバーランドのみんなが知っている事なのか?俺だけが知られていないつもりだったとかだったら落ち込みそうだ。
しかもコアラが革命軍でネバーランドと連絡する係でもやってるんだろうか?
俺が直接連絡を受ける事は少ないからなぁ。大体島にある電伝虫には連絡係が報告を受け取って俺に伝えてもらう事が多いため知らなかった。
別に元気にしているか顔を見るついでだけど、俺が来るより先にロビンが旅だった情報が伝わっていたのか…やっぱり情報伝達が早いって素晴らしい事だ。
他の仲間たちはいないのかと聞いてみたが、コアラの話では革命軍として世界各地にいるようでここにはいないらしい。
ちなみに革命軍として派遣された先でネバーランドの仲間と会う事のほうが多いので、本人たちも結構出先で仲間と会える事は喜んでいるようだ。
そこからサボやコアラも含めてみんなの話を聞かせてもらったりしていった。
もちろんネバーランドとは関係のない革命軍のメンバーも、サボたちの革命軍としての仲間はどんな感じなのか知りたかったので積極的に話すようにしていた。
「そうか…革命軍の計画が成功したことで難民が増えたのかと思ったが、その国自体が相当酷かったんだな」
「ああ。国民を食い物にする国王や貴族たち、そして今日の食べるものすらままならない国民たちを多く見てきたんだ。だから子供たちだけでもネバーランドに連れて行って、国民の力で腐った貴族たちを淘汰しなければいけなかったんだよ」
「そこまでなのか…国民の声が届かない国というのは悲しいものだな」
「まったくだ。つくづく天竜人やそんな連中をなんとかしないといけないって実感してるよ。もし仮にピーターが大量のお金を生み出したとしても焼け石に水の状態だったんだ。もう国民たちも限界にきていたよ」
「うん?どうしてサボは俺がお金を生み出せるなんて知ってるんだ?見せた事はなかったはずだが」
「なぁピーター。ネバーランドはいろいろ自給自足してるのは俺も一緒にやってたから知ってるけどさ。あれだけの人間をあれっぽっちの畑とかで養えるわけがないだろ?そうすると何処かで買ってこないといけない。でも仲間たちからお金が送られて来たりしているわけでもない。更には俺たちが旅立つときには餞別として札束まで渡されてるんだぜ?そしてピーターの能力は紙を操ったり生み出したりすることだ。もう答えは出てるようなもんじゃないか」
「…まいったな。それみんな知ってるのか?」
「いや、俺が勝手に察してただけだから気付いてる仲間はいるかもしれないが、誰かとそういう話をしたことはないな。まぁ、もしかしたら全員ある程度大きくなったら気付いてて言わないだけかもしれないが」
自慢するような事でもないから誰にも言ってなかったが気づかれてる可能性もあるのか…
俺が偽札を作れる事を教えたのは、かなり最初の頃の仲間とロビンくらいだ。
まぁネバーランドで勉強などを教えたりする中にお金についても教えてるはずだから、もしかしたらそれで気づく子もいるのかもしれない。
しかも思い切って聞いてみたらコアラも他の革命軍にいるネバーランドの仲間もこれについては知っているようだった。
そこまでしてあれだけの数のみんなを養ってくれてたわけだから感謝しているとは言われたが、考えてみればそりゃそうだよな。
子供たちを新たに連れて来た時などに積み下ろされる大量の食料とか見てたら、そりゃ買ってきたってわかるだろうし、みんなが旅先で苦労しないようにってサボの言う通り餞別だって渡している。じゃあそのお金の出どころは?ってなるよな。
もしかしてネバーランドの仲間たちは全員、俺がお金を生み出せる能力とか勘違いしてるのかも?その派生で折り紙を出したりしてるとか思われてる可能性もなくはないのか…?
今まで誰かに偽札だって面と向かって言った事はないから、そんな風に考えてる仲間もいそうな気がする。
今のサボとの話だって「ピーターがお金を生み出したとして」って言ってたし、そんな悪魔の実の能力だと思われてるのかもしれない。
それは置いといて、たまには仲間たちに会いに行くのも悪くないな。
いつもはドラゴンじゃないが俺もネバーランドにいない事もあるし、そういう時に戻ってきたりした仲間とは会えない事も多い。
そして仲間たちがいない国や町などを周るようにしているため顔を合わせない事もある。
よし、せっかくだし俺が一番最初に助けたあいつに会いに行こう。
「長居してしまってすまなかったな。俺はもう行くとするよ」
「えー?せっかく来たのにもう行っちゃうの?」
「コアラも身体に気をつけるんだぞ」
「なぁピーター。少しだけいいか?」
「ん?どうしたサボ」
そろそろ出発しようと別れの挨拶をしていると、サボが少し2人だけで話したいようだ。
みんなから離れた場所へと移動しサボの話を聞いてみたんだが、
「ピーター。うちのドラゴンさんが世界政府や海軍から世界最悪の犯罪者って呼ばれてるの知ってるよな?」
「ああ、それは聞いたことがあるがそれがどうしたんだ?」
「それは革命軍が直接世界政府を倒そうとしているから、海賊たちとは別ベクトルで危険視されてるからなんだけど」
「そうだったのか」
「今はまだ大丈夫かもしれないけど、もしかしたらピーターもドラゴンさんと同じように犯罪者として扱われるかもしれないんだ」
「…安心しろサボ。俺がやってきた事を考えれば犯罪者になってておかしくない。むしろ今はまだなってないのが不思議なくらいさ」
「全部覚悟の上ってことか…なら一応だけど言っておくよ。世界政府はまだピーターの事を知らないが、見つかった時の事も考えておいてくれ」
サボが何を心配しているのかわからないが、俺は幼少の頃にすでに両親の仇だったとはいえ山賊を殺めている。
更に生まれた島を出てからはずっと人さらいをしてきたようなもんだからな。
どれだけ取り繕ったところで犯罪者である事には変わりない。
もし見つかってしまったら、俺の首にも数百万ベリーとかの賞金が懸けられるのだろう。
偽札?あれは島に紙幣を作る工場みたいなものがあるわけじゃないし、誰が作ったかなんてたぶんわからないはずだ。
サボからの話も終わり、みんなに別れを告げて海へと出る。
次は最初に出会ったあいつのところに向かってみよう。久しぶりに会うし楽しみだな。
しばらく海を進んでいって着いた島で、かなり久しぶりの懐かしい顔を見ることができた。
「久しぶりだなピーター。お互い年をとったもんだな」
「まったくだ。だが元気そうで何よりだよ」
「それもお互い様だ。まぁ家に来い。今日は時間あるんだろ?」
こいつは俺が生まれた島を出て最初に連れてきた仲間第1号だ。
そして今ネバーランドの仲間たちが、世界中で自分たちと同じような境遇の子供たちを救いたいと言って旅立っていくきっかけを作った第1号でもある。
今は情報を集めたり若い仲間たちのサポートを行っているようで、困った時に相談したりする頼れる先輩といった感じのようだ。
そいつの家に迎えられて、何よりビックリしたのは奥さんと子供がいたことだった。
なんで言わなかったのかと聞いたら「だってお前今も独り身だろ?いくら子供たちに囲まれてるからって、なんか俺だけ結婚したって言うのもなぁ」とか若干こっちを気遣われた。
いや、ネバーランド内でだって結婚する仲間はいるんだから、別にお前が結婚してても文句なんて言わないって。しかも子供までいるんだからお祝いとか渡したよ?
幼少からの知り合いなだけに返ってその気遣いが切ない気持ちにさせられるわ。
「なぁピーター。話は変わるが、ネバーランドに来る子供たちもそうだが、世界中に海賊が増えたり国王が暗愚だったりで様々な所で難民が増えたりしているのは知っているか?」
「ああ、ここに来る前に革命軍にも寄ってきたよ。国王や貴族たちが守るはずの国民を虐げているらしいな」
「その通りだ。俺も世界政府の加盟非加盟問わずいろんな島や国からの情報を聞いているとな。あまりにもその惨状に言葉を失うことも多々あった。そこで俺はネバーランドを増やせないかと思ってな」
「ネバーランドを増やす?そこでも子供たちを助けて育てていくのか?」
「やってる事はネバーランドと同じだ。世界は広い。ネバーランド1つだけだと世界中のそういった者たちを助けられないっていう結論に至ったんだ」
「なるほどな。それをこれからやっていくということか?」
「いや、実はもう第2のネバーランドはあるんだよ。直接伝えたほうがいいかと思ってネバーランドに行ってもなかなかお前と会えなくてな。ちょっと無茶な事もしたが、ノウハウはあったからな。お前もみんなに結構な金を渡してただろ?だからネバーランドの仲間にも協力してもらって作り上げることができたんだ」
「お前…そういうことは俺にも言えよ。お前たちだけでやるなんて大変だろうに」
「ピーターの作り上げた子供たちの楽園を、助けられた俺たちが引き継いでるんだぞって驚かせたかったんだ。何度行ってもあんまり会えないから、そのまま伝えられずに今になるって感じだな」
「名前はネバーランドのままなのか?第2のってなんか変な気がするな」
「そこはピーターに名付けてもらおうと思ってたんだよ。遅くなっちまったが、ぜひピーターが決めてくれ」
「…すぐに言われてもなぁ。確かネバーランドは、ネバーネバーランドとも呼ばれてたな」
「じゃあそれでいこうぜ。第2のネバーランドは、ネバーネバーランドだ」
奥さんと子供がいた事実もビックリだったが、まさかネバーランドが増えてるとは思わなかった…
驚かせたいのはわかるが水くさいな。それに俺は偽札でなんとでもなったが、自分たちだけでネバーランドを、いやネバーネバーランドを作り上げるのは大変だっただろうに…
しかも詳しく聞いてみれば、かなり前からそういった活動もしていたようだ。
どうやら別で協力者もいるらしく、かなり昔にたまたま向かった先の島で奴隷にされている子供を見つけて連れ去ったはいいが、それが天竜人とかいう人間の奴隷だったらしく追いかけてきたんだそうだ。
その時に偶然助けてくれた人がいて、連れてきた子供と一緒に匿ってもらいながら話しているうちに仲良くなって今も交流があるんだって。
俺たちよりも年上の人らしいんだけど、すごく軽快な動きで追手を翻弄していったそうだ。
助けてもらったんなら、いつかは俺もその人にお礼を言っておかないとな。
更には本当にネバーランドと同じように、いざというときの身を守るための訓練などを行っていっていたらしい。
確かに世界中にどれだけの国や人がいるのかわからないが、世界政府加盟国だけでも170国以上あるらしいからな。
加盟していない国も合わせれば相当な国の数になるだろう。それだけの数の国で難民や虐待などの子供たちを助けるとなると確かにネバーランドだけじゃ溢れてしまっていたかもしれない、
次の日、俺はネバーネバーランドを見せてもらいに行くことになった。