SAOに来たんですが、キリトさんがいないようです 作:青い灰
調子に乗った主人公を分からせる回。
お待たせしてしまい申し訳ない。
それもこれもシャミ子が悪いんだよ(責任転嫁)。
「っ!」
ハッとする。考えている場合ではない。早く攻撃範囲から離れなければ─────そうして、走り出したが。間に合う筈もなく。
「が───ふ」
一撃。
地面に叩きつけられ、全身を打ち付ける。振動で視界が揺らぐが、HPバーの確認はできた。
「─────」
次々と拳が全身を打っていく。フロアボスが使ってくるソードスキルのような設定なのだろう、HPバーの減り自体は少ないが、終わりが見えず、確実に固定ダメージとして換算されているのか、同じ値で何度も減っていく。
黄金の雨が、声を上げることすら許さない。
HPバーは凄まじい速度で減少していく。
残り8割。
カウントダウンが始まる。
残り7割。
全身に鈍い痛みが走る。
残り6割。
再び鈍い痛み。
残り5割。
慣れが来る。
残り4割。
終わりが近付いてくる。
まるで、ゆっくりと心臓へナイフを突き立てられているような感覚だった。
服を裂いて
皮膚を破り
筋肉を貫き
血を噴かせ
そして、いつか
(あ、死ぬ)
残り─────1割。
自動回復が、追い付く筈もなく。
そして、情けをかけたように、黄金の腕が、大きく振り上げられる。
それを、待っていた。
隙が出来る、その時を。
視界に入る、赤き鎧を。
ソードスキルの間にも、必ず隙がある。
それを知る男は其処にいる。
黄金の雨を突き進んでくる深紅の男が言う。
「貸し1つだ、ジンくん」
「あんたに借りとか最悪だ……けど、助かった」
大きく振り下ろされる拳を、大楯が弾いた。
ヒースクリフは涼しげな表情で、回復結晶を此方へ投げ渡してくる。それを受け取り、ヒールを唱えて体力を回復される。
「死ぬかと思った……」
「フ、これには私も驚きの行動だったが………
ボスが君だけを狙っている間、皆を回復に
集中させ、体勢の立て直しを図らせてもらった」
とぼけてみせるが、彼は皮肉を返してくる。
周囲へ目を向けてみれば、殆どが体力を回復させて
いる。更に扉から後続が続いてくる。全員が血盟
騎士団の連中だ。
「ボスを追い詰めてからの
後続まで用意してやがったのかお前………」
「一度、下がるといい。私が行くとしよう」
「いや……俺も」
「駄目に決まってんだろ」
「うぐぇ……クライン?」
後ろ襟を引っ張られて、バランスを崩す。そして、倒れそうになるのを硬い膝当てが支えた。聞こえた声に振り向き、見えたバンダナに誰かを理解する。
「悪いな団長さんよぉ。
こいつは無茶ばっかするタチなんだ」
「無茶じゃねぇよ……体力回復したし」
「その考えがもう無茶だっつってんだよ。
肝が冷えたぜぇ、ったく」
「いやでも………っ!」
ボスの大技を弾いた、その硬直が解ける。
黄金の巨影が再び行動を開始し、全員が、それを
見上げた。そして、ヒースクリフが地を削りながら
突き立てた剣を引き上げ、火花を散らしてみせる。
「そこで、見ていたまえ。
────そして識れ。
君1人だけで、終結すべき世界ではないことを」
ヒースクリフが走り出す。
俺もそれを追おうとするのだがクラインに掴まれたままなのを思い出し、足を止める。
「おいっそろそろ離せ!」
「はぁ……おめぇイノシシか何かか?
あいつが見てろって言っただろーがよ」
「なんで─────」
流れるまま、再びヒースクリフへと目を向ける。
そうして、言葉の意味を、やっと理解した。
ヒースクリフへと標的が移り、黄金の拳が振り下ろされる、が。
「ふ────ッ!」
「な─────」
その拳を素早く回避しながらヒースクリフは即座に
攻撃体勢へ入り、剣を引き絞る。そしてダァン、と
鉄板を鈍器で叩いたような、重い音が響き渡る。
それにボスのHPバーへと目を向けると、なんと1割
近くが削られた。ソードスキルですらない、ただの
一撃によって、だ。更に連続する他の連中の猛攻も
ボスのHPを少しずつ、だが確実に奪い去っていく。
「なぁ、ジンよ」
それに目を見開いていると、クラインが言う。
「お前は確かにオレなんかよりも強ぇよ。
でもよ、お前1人で全部上手くいくと
思ってんなら、そりゃ大間違いだ」
「いや、別に俺はそんなこと………」
「だったら、なんでボス戦の一番最初に
お前1人で突っ込んで行きやがったんだ?」
「あ……………」
そこで、やっと気がついた。
そうだった。確かにあの時は。
「消耗する前にボスのHPを削ろうとして………」
「んで、助けたのは誰だよ」
「………………ストレアに、アスナ、団長……」
今更、気がついたことに。今まで気がつけなかった
そのことに、恥ずかしくなり、俯いてしまう。
思えば、助けられてばかりだ。
俺は自分の都合しか考えていなくて、自分だけで、
勝手な行動ばかり起こしていた。その度に、誰かに
助けられていた。
無意識のうちに『あとは誰かやってくれるだろう』
─────そう思いあがっていた。
あの拳の雨に打たれた時も、ヒースクリフが助けて
くれる筈だと最後は信じてしまっていた。
「やっぱ、気付いてなかったか」
「あぁそうだ………気づかなかった……!!
クソ、馬鹿かよ、いや馬鹿だ俺は………!
はた迷惑なクソ野郎じゃねぇかよ…………
周り巻き込んでばかりの本当に猪じゃねぇか!」
「ま、今の状況もお前があいつの攻撃の標的に
なった時間あってこそ、なんだけどな………
お前、少しは周りを見た方がいいぜ?」
クラインが指差す方向へ視線を向けると、アスナやストレアたちが猛攻を仕掛けている。目に見えて削られるHPバーは、最初に俺が1人で特効した時より減りが早い。それは当然のことだ。
「恥っず………俺、思った以上にしょうもねぇな」
「…………………さて、終わるぞ」
ストレアが、高く高く、飛び上がる。
「はぁ──────ッ!!!」
振り上げられた大剣が深紅の光を纏い、虹のような軌跡を引きながら、黄金の身体を両断した。
一瞬の硬直。
ボスの両断された身体に、更に亀裂が走る。
そして硝子の割れる音が、その広い空間に響いた。
上がる喝采と歓声。
蚊帳の外で、溜め息をついてクラインを見上げる。
腹から、本音を絞り出した。
「俺、足手纏いだったな」
それにクラインはやれやれ、と肩をすくめて笑う。
「そういうことも経験だ、若者よ」
そのおちゃらけた返しに、もう笑うしかなかった。