SAOに来たんですが、キリトさんがいないようです 作:青い灰
原作とはキャラが違いますが、どうぞお許しを。
ついでに今回はネタが濃いです。
「…………これは、不味いな。うん。
かなり不味い状況だな、これは………」
35層北部にあるサブダンジョン『迷いの森』。
馬鹿みたいに広いこの森は数百のエリアに分かれ、更に1つのエリアに入って1分が経過すると他エリアとの繋がりがランダムに入れ替わる。
地図でエリアを確認しながら行動するか、1分以内にエリアを突っ切ることでも森の移動は容易になる。
だが面倒な仕様もあり、攻略組は殆ど興味を持たずさっさとボスに挑み、次層への道を切り開いた。
………という理由では、あるのだが。
この森には丁度、ある少女が迷いこんでいる。
それを助けるという裏の目的もある。
あるのだが。
「やっちまったぜ」
エリアの変わり目で、突如として襲いかかってきたゴリラの棍棒が地図を粉砕。一気に耐久値がゼロになってしまい…………つまり、迷った。
◆◆◆◆◆
「こりゃあ……間に合うか!?
いいや、間に合わせる………!」
3時間ほど森をさ迷い、遂には日が暮れてしまった。確か彼女がモンスターに襲われるのは夜の筈だ。
ダッシュで見飽きた森を走り回り、憎きゴリラ共を見敵必殺しながら少女を探す。
急がねば死ぬかもしれない。
別の誰かが助ける可能性もあるが、それはあくまで可能性の話だ。この夜の森を好んで行動する馬鹿なプレイヤーはそれこそレッドの連中やMobくらい。
生き残ったとしても、夜の森は危険すぎる。
「────!」
硝子の割れるような聞き慣れたSE。
誰かが戦っている────原作では、ギリギリまで彼女はMobに反撃していた筈だ。もしかしたら。
背中の
「■■■………」
「っ!」
茂みの奥。件の棍棒ゴリラ2匹と、無謀にも、短剣を構えてゴリラへと飛びかかろうとする少女がいた。ギリギリセーフだ。体勢を低く取り、剣を構える。
〝ソニック・リープ〟
緑の光が剣を包み、飛び込むように走り出す。
突進技は使い慣れているが、流石に剣では違和感が凄い。ゴリラの腹を袈裟に引き裂く一閃、HPバーが消し飛び、僅かな硬直時間。
右足を軸に身体をひねり、剣を振り上げて二匹目のゴリラを斬り上げる。凄まじい勢いで敵のHPバーが減少していくが、ギリギリ倒しきれていないようでゴリラは振り向き様に棍棒を薙ぎ払おうとする。
地を蹴って軽く跳び、薙ぎ払われる棍棒を回避。
正直言って避ける必要もないが、動きを身体に染み込ませるために、回避と攻撃は本気でやっている。
「ふ───っ!」
息を吐きながら剣を振り下ろし、腕を根元から斬り落とす。そして完全にとどめを刺すために、首へと剣を振り抜く。ズバァン、と気持ちの良い音が響き衝撃がゴリラの首を貫いて、刎ね上がった。
「ふ、ぅ」
着地して息をつき、剣を払う。
索敵スキルで周囲を何度か確認するが反応はない。そして視線を少女へと向ける。少女は怯えた様子で後退り、その近くには青い羽根のアイテムがある。
「間に合わなかった………か」
そのHPバーはレッドゾーンに達してしまっている。と、そこで彼女の回復アイテムが尽きていたことを思い出し、腰のホルダーから回復結晶を取り出し、彼女に差し出す。
彼女は驚いたように目を丸くして視線を俺と結晶へ交互に動かして、恐る恐る、といった様子で結晶を手に取り、俯いて震える声で、ヒール、と呟いた。
「……う、っく………ピナぁ………っ」
羽根を優しく両手で包み、彼女はポロポロと大粒の涙を流す。原作でもそうだったとはいえ、痛ましく見ていられない。俺も、間に合わなかった罪悪感に襲われる。
「私を……1人に、しないで…………」
ただ、そこで待つ。小さな嗚咽が止まるまで。
◆◆◆◆◆
「ありがとうございました…………
助けてもらったうえに、回復結晶まで貰って……」
頭を下げる暗い顔の彼女に、首を横に振る。
「構わない。お前だけでも間に合って良かった」
「………………ピナ……」
心が痛い。ゴリラに気をつけてさえいれば………
ゴリラで1レベル上がるまで狩り尽くしてやろうか。そんなゴリラへの怨念は一先ず置いておき、彼女が手にしている青い羽根のアイテムを指差す。
「それ……アイテム名はあるか?」
「……………、…………っ!」
「ちょっ、待て待て泣くな!
心アイテムがあるなら蘇生の可能性がある!」
彼女は戸惑いながらも片手で羽根をクリックする。そして現れたウィンドウに目を通して、息を呑む。更に、再びその赤い瞳から溢れそうになる涙を見て俺はギョッとして言う。それに、彼女はバッと顔を上げて立ち上がり、すがるようにこちらのコートを掴んでくる。
「そっ、それって本当ですか!!?」
「マジだ。47層にある〝思い出の丘〟って
フィールドダンジョンがあって、そこの
頂上に咲く花が使い魔を蘇生できるって話だ」
「よっ、47層!?
無理じゃないですかそんなの!!」
「逆ギレされても困るわ。
だから可能性だって言っただろーがよ」
「………っ、な、ならレベルを上げて……!!」
「心は3日で形見に変化して蘇生不可だ」
「っ…………!!」
彼女は顔を赤くして、怒りに肩を震わせる。
その怒りは自分に向けているのだろうが………元より助けるつもりだったし手伝ってやらんこともない。
………なんかちょっと生意気だけど。
メニューを開き、アイテム欄の肥やしだった装備を幾つか見繕う。そしてトレードメニューを開いて、現れた空欄をクリックする。すると、彼女の眼前にウィンドウが現れる。続けてアイテム欄を開いて、アイテムをクリックしていく。
「………なんですか、これ」
「装備だ」
「見たら分かります」
「俺のアイテム欄の肥やしだ」
「知りませんし」
「勿体なくて売れなかったアイテムだ」
「いやだから知りませんし」
「お節介な通りすがりからの餞別だ」
「……………………」
「装備すりゃ47層の連中の攻撃にも多少耐える。
ダガーは3~4発は撃ち込めば倒せるだろうよ」
「………………………幾らですか」
「こちらセットで無料となっております。
更に今なら…………………なんと追加で、
通りすがりの俺がサポートいたします!」
「別の人に頼むので追加は要りません」
「要れよ」
「要れってなんですか、要れって」
「おんやぁ? いらないのか?
タダだぞ。追加は絶対についてくるがな」
「……………………………………」
彼女は深く悩み込むような顔をして、こちらの顔と表示されているウィンドウを睨みつける。
いやなんで俺の顔まで睨むんだよ。
そして、ウィンドウへと震える指を伸ばし───
「よし、腹減ったし主街区に帰るぞ」
「………………やっちゃったよ………」
彼女は承諾の証である○を、クリックした。
あと帰り道には迷った。ゴリラは見敵必殺した。
「ゴリラ殺すべし。慈悲はない」