SAOに来たんですが、キリトさんがいないようです   作:青い灰

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連日投稿です。
これでシリカ編はあと1話だけですね。
リズ編もあるから頑張らねば…………




仮想≠現実

 

 

 

 

ある日のことだった。

 

久々に1人で新層のマッピングをしようと転移門へと向かっていた時、その門の前が妙に騒がしいことに気がついた。人だかりを掻き分けて進んでいくと、そこでは1人の男が血盟騎士団と思われる2人の男に泣きついている所だった。

 

泣きつく男は必死に助けを求めていた。

その血盟騎士にも鬱陶しそうに振り払われ、しかし誰も手を差し伸べようとはしなかった。

 

 

 

 

─────不可解だった。

 

俺の目から見れば恐ろしく奇妙なことだった。

 

 

 

 

何故、泣いている人をこうも無視できるのか。

何故、誰もが目を逸らそうとするのか。

 

 

何故?

 

 

気がつけば、手を差し伸べていた。

助けるのが俺の役目だと、理解している。

 

 

 

偽善? 正義感?

 

…………何れも、違うような気がする。

 

 

 

云うなれば、『使命感』だと思った。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「10日前、38層でお前らに襲われたギルドだ。

 脱出したリーダーを残して、全員が死んだ」

 

 

それに、赤髪女が笑みを浮かべて口を開いた。

 

 

「えぇ、貧乏だったもの、覚えてるわ」

 

 

強気に女は言う。虚勢だろうが今はどうでもいい。女へ向けて一度舌打ちをして話を続ける。

 

 

「リーダーは最前線の転移門広場で泣きながら

 仇討ちの依頼を受けてくれる奴を探してた。

 …………けどな、殺せとは言われてねぇんだよ」

 

 

コートの内ポケットから、濃紺の転移結晶を出す。回廊結晶、予め設定しておいた場所に転移できる、NPCの店では売られていない非売品だ。

 

 

「そのリーダーさんが全財産で買った回廊結晶だ。

 これでお前らを黒鉄宮に送ってくれ、ってな」

 

「…………馬ッ鹿みたい、そんな理由で

 あんたはこんな所まで下りてきたワケ?

 殺せばいいのに、意味がわかんないわ」

 

「別に理解を求めてるつもりじゃねぇよ。

 お前たちが理解出来るとも思えないけど」

 

 

嘲る女にそう返す。

絶対に理解することなんて出来ないのだろう。だがそれでも懲りずに女は嘲笑を浮かべて続けるもので思わず立ち上がってしまっていた。

 

 

「マジになっちゃって、前線の奴等は

 あんたみたいな馬鹿ばかりなのかしら?

 ゲームで殺しても罪になるワケじゃないのよ?

 そんなつまんない正義感、アタシ大ッ嫌いなの」

 

「………………なら聞くが、

 同じような理屈でお前は殺されてもいいのか?

 ガラスみたいに砕けて死んで、納得できるか?」

 

「大体、この世界で死んだからって

 現実で死ぬなんて証拠は何処にもないのよ!?」

 

 

無理だった。

 

 

 

 

「なら!!」

 

 

 

堪忍袋の尾が切れる、とは、こういうことを言うのだろうと、後になって理解した。

 

 

 

 

 

 

「此処で死んでみるか」

 

 

 

 

 

 

 

即座に槍を掴み女の背中を足で地面に押さえつけ、女の首に刃を当てがう。周囲の者たちが驚愕に息を呑むのが分かった。無論その女も、目を見開いて。

 

 

「は、ぇ」

 

「動かない方がいいぞ」

 

 

ヂッ、と小さなダメージのSEが響く。

穂先の刃が首に食い込み、少しずつ、赤が広がる。

 

 

「残り13秒」

 

「ひ、ぁっ」

 

 

その表情が恐怖に彩られる。

残HPから計算したカウントダウンを始める。

 

 

「12」

 

「い、ぁ、待っ、待って、ねぇ!!」

 

 

聞かずに刃を動かしていく。

 

 

「11」

 

「冗談、冗談だから! お願い!!」

 

 

減少していくHPバーが更に恐怖を煽る。

 

 

「10」

 

「いや、いやいやいやいや!!

 この………ッ!!」

 

 

起き上がり反撃しようとする女へと、空いた右手で麻痺毒のナイフを投擲する。距離の近さもあって、HPバーが急速に減少しイエローへ変化する。

 

 

「ぎぃっ!? ひ、ぁっ」

 

「動くなって言ったんだけどな」

 

 

槍を引き、その腹を蹴り上げて仰向けに転がす。

 

 

「死ぬのは怖いだろ、なぁ?」

 

 

更に顔を青ざめて、恐怖しているオレンジギルドの連中へと顔を向けて聞く。

 

 

「VRMMOはリアルだからな。

 知ってる奴が死ぬのはどんな気分だ?

 次はお前らが殺されるかもしれないぞ?

 死ぬ奴がどれだけ『怖い』か、分かったか?」

 

 

もう誰も、何も言わない。

 

 

「これは、ゲームであっても遊びではない。

 茅場晶彦の言葉の意味は、こういうことだ」

 

 

言葉を続ける。

理解されなくとも、伝わればいい。

恐怖でも、嫌悪でも、何でもいいから。

 

 

 

「確かに此処は仮想世界だ。

 でも、俺たちが此処に居るのが現実なんだ」

 

 

 

言葉は滅茶苦茶かもしれないが。

甘いものかもしれないが。

 

 

 

「俺は、此処で『生きて』る。

 HPが無くなれば此処でも『死ぬ』んだ。

 たとえ、リアルで死ぬって証拠はなくても」

 

 

 

伝われば、それでいい。

 

 

 

 

「俺たちが此処に居るのは現実か?

 それとも此処に居るのは仮想か?

 生きてる人を殺すってことを、よく考えろよ」

 

 

 

 

そう言い終われば、静寂が訪れる。

誰もが俯き、暗い顔で黙り込んでいた。

 

赤髪女も、酷い顔をしていた。

───始まりの日は、誰もがこんな顔だったのを、今も鮮明に憶えている。

 

 

「………………憐れだな」

 

「───────────」

 

 

焦点の定まらない目。

肩を震わせ、怯えている女が憐れでならなかった。

その女が見えるように、膝をついて見下ろす。

 

 

「──────────」

 

 

だから────これは────その────

何と言うのか────そう、情け、というやつだ。

 

 

「ヒール」

 

 

懐から回復結晶を取り出し、女の震える肩に触れて唱える。女はビクッと震えると、驚いたように俺の顔を見上げた。

 

 

「死にたくは、ないだろ。

 誰だって同じだってことを、覚えとけ」

 

 

女は、悔しそうに顔を伏せ、また震え出した。

 

 

 

 

 

 

 

………………何をしてんだ俺は。それだから甘いのだ。心の中で呟き、その自分への嫌気に溜め息が出た。懐からもう一度、回廊結晶を取って立ち上がると、それを高く掲げて唱えた。

 

 

「……………コリドー・オープン」

 

 

結晶が砕け散る、と同時に、青い光の渦が現れた。呆然としているギルドの連中に、顎で催促する。

 

 

「入れ。拒否するなら無理やりにでも入れるが」

 

 

ギルドの者たちは互いに顔を見合わせると、次々と渦の中へと入って行った。

 

 

最後に残ったのは、あの逃げようとしたが麻痺毒で今も動けない男と、それと同じ麻痺毒で動けない、あの赤髪女だった。

 

 

「しゃあねぇな………」

 

 

俺がやったことだし仕方ない。頭を掻き、男の服を掴み上げ渦の出口に誰もいないのを確認してから、その渦へと放り込む。

さて、残るはあの女だが………1つ、忠告だけする。

 

 

 

 

 

 

「人は、考えることが出来る『自由』がある。

 目の前の存在を、殺すのも、生かすのも、

 その自由の中から選択肢として存在している」

 

 

 

 

 

「自由なんだよ、人は。

 ………………どうしようもないくらいに」

 

 

 

 

 

「だから、どう他人に、固定観念に囚われずに

 考えるか────それが大切になってくる」

 

 

 

「人を殺すってことが、どれだけのことなのか。

 それをよく考えてみることをお勧めするよ。

 別に嫌ならそれでいい。それがお前の考えなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

よく考えたのなら、尊重するし、否定しない。

それが意思というものならば。

 

 

 

 

だが、それでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただ1つ言っておくと、だけど。

 仮想世界でも、殺しは殺しに変わりない」

 

 

 

 

 

 

女の服を掴み上げ、渦へと放る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「個人の観念は緩いもんだが、

 概念ってもんは、嫌気が差すくらいに硬いぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

これで、役目は終えた。

渦が閉じるのを見届け槍を納め、彼女を見る。

 

 

「俺が怖いかもだけど、少しだけ我慢してくれ。

 このままお前を置いていく訳にもいかないし」

 

「……………ごめん、なさい」

 

「謝らなくていいよ」

 

 

彼女も震えていた。

少し、やり過ぎたかも知れない。

 

 

「怖がらせたのは俺だし、

 本当に謝らないといけないのは俺だ。

 お前を…………餌にしたようなもんだからな。

 絶対に守るつもり、ではいたんだけど………」

 

「………いえ、守って、くれました。

 大丈夫です、大丈夫………です、から」

 

 

大丈夫な訳がない。

肩を抱いて、必死に震えを止めようとする彼女を、見ていることが出来なかった。せめて、何か───

 

 

「え────」

 

 

彼女の前に腰を下ろして、手を()()()()()()()

 

 

 

 

「ありがとう、ございます─────」

 

 

 

彼女は、目尻に涙を浮かべてその手を握った。

俺はすぐに戸惑いを隠して、握り返す。

 

 

 

選択としては、間違ってはいない。

現にしたし、俺もするのだろうが…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(─────なんだ、これ)」

 

 

 

 

勝手に動く身体に気味の悪さを覚えたのは────これが、初めてだった。

 

 

 

 

 

 

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