各界隈の有識者が同じ結論に至るの好き
最近エイタの匂いに、エイタのじゃないヘンな匂いが混じってる。その時のエイタは、決まって遅く帰ってきていた。久しぶりに緩んだエイタの顔は、ボクじゃない誰かが引き出したもの。エイタに〝どこにいってたの? 誰と会ってたの? 何してたの? 〟って聞きたい気持ちをグッと我慢して。ボクは、いつもの笑顔を顔にくっつける。大丈夫。今日はいつものエイタだ。ボクのお願い、エイタはちゃんと守ってくれてる。だから、エイタを心配する必要なんてない。このまま何事もなく、ボクの幸せな毎日は過ぎていくんだ。剣道の自主練をサボっちゃった日のこと。すぐ上がっちゃいそうな小雨。傘を忘れちゃったボクは〝カゼ引いちゃう〜〟なんて。エイタの折りたたみ傘にお邪魔して。エイタと自然に距離を縮める。ボクとエイタの、二人だけの時間。なんてことない、中身のない会話。エイタが時折見せる暗い顔。エイタがボクに頼ってくれたなら。ボク、エイタのためだったらなんだって出来ちゃうんだよ?
学校に着いたら、エイタと一緒にいるドキドキはおしまい。折りたたみ傘をしまうエイタの肩には、雨粒が乗っていた。ボクはエイタの肩の雨粒を払ってあげて。〝エイタ、また背が伸びたんだなー〟とエイタの成長を知って。ボクは勝手に一人でドキドキしていた。学校の薄暗い玄関。他の生徒の人影は少ない。こんなジメっとした日でも、不思議とボクの気分は……いまの瞬間まで心地よかった。こんな日に限って、コツツミさんとばったり出くわす。はぁ、またエイタがコツツミさんのこと気にしちゃう。ようやくボク達がコツツミさんの前から立ち去る寸前。ボクはコツツミさんへ挨拶するべきかどうか悩んでいると。エイタがコツツミさんを見つめて立ち尽くしていた。ボクはそんなエイタの姿に肩を下ろして、エイタに呼びかけようとして口を開いたら。エイタの口から〝コツツミさん〟と小さな声が聞こえてきた。
へ? なになになになに? いきなりどうしちゃったのエイタ? ボク、なんだか怖いんだけど。エイタはコツツミさんに何がしたいの? コツツミさんにあいさつでもしたくなっちゃったの? ……それでエイタの気が済むのなら、エイタの好きにしたらいいんじゃない? どうしてエイタは、自分から傷つきにいくんだろう。そんなことしても、エイタは何も出来ないのに。優しいエイタは、ボクにだけ優しければいいのに。エイタの〝コツツミさん〟の声に、コツツミさんは振り返った。するとエイタは、コツツミさんに向かって手を振って。エイタはコツツミさんに手だけ振ると、それきり一言も言葉を発さず。コツツミさんは、何事もなかったかのようにスタスタと立ち去っていった。
??????????
エイタ、本気で何がしたいの? エイタが何をしたいのか、ボクには全然わからないよ。おばさんから聞いた話だと、エイタの成績が落ちてるらしい。だけど、エイタが成績が落ちていることを気にしている様子はない。それにこの頃、エイタはノートに〝ナニカ〟を書き込んでずっとブツブツ言ってる。エイタ、本当に大丈夫なのかな? 成績のことで追い詰められて、おかしくなっちゃったりしてないかな? エイタのこと、お医者さんに見せてあげたほうがいいのかな? もし本当にエイタがおかしくなっちゃってたらどうしよう。……その時は、今度はボクがエイタのこと支えてあげなきゃ。手を振ってコツツミさんに無視されちゃったけど、コツツミさんのことをじっと見つめるエイタの肩を押して。〝ボクはエイタの味方だよ? 〟って気持ちで、エイタの背中に抱きつく。それに、エイタのそばにはボク以外にも家族がいるじゃん。コツツミさんに相手にされなくてかわいそうなエイタに父の日のプレゼントの話題を振って。〝もっと周りに頼ってね? 〟と、ボクは遠回しにエイタに伝えてあげるのだった。
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授業終わりのチャイムの音。先生のいなくなった教室は、ワイワイガヤガヤと楽しいお昼の時間になった。ボクはカバンから、おばさん特製弁当を取り出した。
「ウチハ、今日のお弁当も大きいね」
「う〜。おばさんが剣道でたくさん動くんだから、ちゃんとたくさん食べなさいって」
「そんなにたくさんお弁当食べて太らないって。ウチハの体どうなってるの?」
「ん〜。あんまりそういうこと考えたことないかも」
「ウチハ。それ他の女子の前で絶対言わないでよ? ヘタするとウチハちゃん、後ろから刺されるから」
「へ? へえ〜? う、うん。わかった。気を付ける」
「ウチハ次の大会出るんでしょ? 大会、いつからだっけ?」
「六月の頭から」
「今度こそ目指せ県大会優勝!」
「あはは。剣道って、あんまり勝ち負けにこだわるのは良くないんだけどね」
「いや県大会準優勝でも充分凄すぎるけどさ? それでも手の届く範囲に優勝があるんだから、私らとしてはウチハに優勝トロフィー取ってほしいわけよ。……あ、ごめん。剣道の練習って大変なんだよね。ちょっと私、生意気すぎた?」
「うんん、そんなことないよ? みんなが応援してくれるから、スポーツって成り立ってると思うから」
「さすがウチハ。剣道も強くて性格もイイとか。イイ子すぎ」
「ウチハが地元の新聞とかテレビで取り上げられてるのを見ると、ウチハと友達の私達も鼻が高いわけですよ」
「アンタは別になにもやってないやろがい」
「う゛。でもウチハのこと、声枯れるまで応援してるから」
「うん。みんな、いつもありがとね」
「……くわぁ────夏休み早くコイコイー」
「わかるー。でも夏休みの宿題はマジ勘弁」
「夏休み前に期末テストがありますよー」
「ちょっと────ヤなこと思い出させないでよ!」
「部活とバイトで忙しいのにさぁ。勉強もしろってムチャ振りじゃない?」
「気晴らししないとやっていけないのはある」
「どっか海いく?」
「まだ海冷たくない?」
「私はパスかなー。お金ないし」
「フェスの遠征あるから無理」
「どうせなら彼氏と行きたいなぁ」
「私、コメドット周回するから」
「みんなバラバラじゃ────ん」
「ウチハはまたアイツの面倒見るの?」
「あ~、う~ん」
「アイツなんか切っちゃえ? ウチハがアイツの面倒まで背負い込むことないって」
「てか、ウチハがこんなに支えて上げてるのに。感謝の一つもないとかアイツ終わってるから」
「ウチハが昔良くしてもらってたのはわからなくもないけどさぁ。それでウチハが不幸になったら意味なくない?」
「でも、みんなにはバラバラになってほしくないから……」
「そこが優しすぎるんだってぇ」「もぉ──ウチハお人好しすぎぃ」「ウチハがアイツのために縛られる意味がわかんない」「ガツンと言ってやりなよ」「舐められないようにしなきゃ!」
「あはは……」
「ん」
「?」
「また今度、みんなと一緒にどっか行きたいね」
ボクの友達が差し出したスマホ。そのスマホの画面に映っていたのは、新学期の日にみんなと出掛けた先で撮った写真。みんなで顔を寄せ合って、みんなで同じキメポーズを決めて。楽しい思い出の一枚だった。それ以来、みんなでどこかに出掛ける時間は取れていない。ボクはずっと、剣道で忙しいし。それにみんなもそれぞれ忙しくて、みんなで予定はなかなか合わない。部活のなくなるテスト期間中も、エイタのことが心配で。みんなとお出掛けできなかった。ボクは友達の顔を一人一人見渡す。みんなバラバラの予定が入っていたけど。本当は〝みんなと一緒に海に行きたい〟って顔をしている。ボクももちろん、みんなと海に行きたいよ。だけど、ボクはエイタのことが心配なんだ。みんながエイタに言いたいことがあるのはわかるよ? だけど、ボクは見たくないんだ。家族がバラバラになって、全然会えないところなんてさ。ボクにとって、エイタのお家はとっても大切な居場所なんだ。両親と全然会えないボクの、大切な居場所。エイタには、ボクみたいに悲しい思いはしてほしくないんだ。
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「今日はここまで」
『ありがとうございました』
剣道の部活終わり。今日は久しぶりに、エイタがボクのことを待っててくれていた。〝ボクのために待っててくれたの!? 〟とエイタに抱きつきたくなるけど。エイタがコツツミさんに手を振ったことで、ボクはシュンとした。手を振ったエイタは、またまたコツツミさんに無視されていた。……エイタにあんなに手を振られてるのに、コツツミさんが反応してくれないだなんて。もうコツツミさんには脈なんてないから、エイタもそろそろ諦めなよ。そんなにコオツツミさんと仲良くなりたいなら、ボクがエイタに紹介してあげようか? でも本当にエイタがコツツミさんを〝紹介してほしい〟って頼んできたら。ボク的には、やっぱりちょっと。ヤだかな。
「帰ろうエイタ」
「あぁ……」
「今日も部活キツかった〜」
「うん。お疲れ」
「今日の晩御飯なんだろうね?」
「そうだな」
『……』
「なあ」
「……あのさ、また夜出掛けたいとか言わないよね?」
「なんでわかった?」
「そりゃまぁ。エイタのことはなんだってわかるから」
「約束が……」
「誰と会うの?」
「……」
「ボクに言えないような人に、エイタは会いにいくんだ」
「……」
「エイタが変なこと始めたのも、その人がキッカケなんでしょ?」
「変なことって……これは俺のい──────」
「その人にどんなことを教えられたのは知らないけど。あんまりその人の言うこと聞かない方がいいよ? 絶対エイタのためにならないから」
「……」
「おばさんに言いつけちゃうのは、エイタに嫌われちゃうからしないけど。どうしても行きたいって言うのなら。エイタ、これだけはボクに教えて? その人、ボクが知ってるひとだったりする?」
「………………いいや。ウチハは知らない人だ」
「そっか──────」
ふーん。ボクが部活を頑張ってる間に、エイタはボクの知らない人と仲良くなったんだ。エイタのこと、信じていいんだよね? エイタは自分の周りのこと、ちゃんと見えてるんだよね? ボク達のこと、ちゃんと考えてくれてるんだよね? エイタは気づいてないかもしれないけど。いまのエイタでいられるのは、みんなが許してくれてるからなんだよ? それなのに、エイタがみんなを裏切っちゃうようなことしちゃうとさ……。ボクだって、エイタの好きなようにさせてあげたいよ? だけど、エイタがそんなにワガママだと。エイタの好きになんてさせてあげられないよ。昔のエイタなら、ちゃんとみんなのこと考えてくれていたのに。ボクはいまのエイタが、とっても心配だよ……。
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「はーいもしもし?」
「うん、うん」
「え~元気だよぉ元気」
「うん。新しいクラスも、だいぶ慣れてきた」
「新しい友達もできたし」
「うん」
「……わかってる」
「仲? いいよ全然。おばさんに〝エイタに愛想つかさないでね? 〟て泣きつかれちゃうくらいには」
「エイタ? エイタは──う~んちょっとだめかなぁ……」
「うそうそ冗談。今日もエイタと一緒に帰ったし」
「うん」
「うん」
「あ。今度父の日に、おじさんにプレゼント渡すんだよ? お父さんの方にも送ったのと同じやつ」
「え? ネクタイにしようかなぁ~て」
「うん」
「だいじょぶ」
「あ~もうお金はたくさんもらってるから。いいっていいって」
「そいえば、剣道部にね? 同級生の女の子が入ってきてね? うん。いまその子の面倒見てる」
「え? そんなわけないでしょ? その子にはちゃんと優しく教えてますぅ~」
「……あはは。それ何年前の話?」
「うん、うん」
「もーそれ何度目? わかってるから心配しないで?」
「はぁ、まだ忙しいんでしょ? そろそろ切りたいんですけどぉ~」
「うん」
「うん」
「いつもお仕事お疲れ様」
「体調には気を付けてね」
「今度はいつ帰ってくるの?」
「………………」
「そっか。うん、わかった」
「うん。お母さんも元気で、体壊さないようにね? うん、それじゃ、おやすみなさい」