各界隈の有識者が同じ結論に至るの好き
最近混じる変な臭い。
その時は決まって遅くなる。
久しぶりにゆるんだ顔は、ボクじゃない誰かが引き出したもの。
問い詰めたい気持ちをグッと抑えて、いつもの顔を張り付ける。
大丈夫、いつものエイタ。
お願いはちゃんと守ってくれてる。
だから、心配いらない。
このまま何事もなく今日を終えて、変わらない毎日が過ぎていくんだ。
自主練をサボった日のこと。
すぐ止みそうな、ちょっと肌を湿らす雨。
"風邪ひいちゃう〜"なんてか弱い乙女を演じてみせ、ごく自然と肩を寄せる。
二人だけの時間。
中身のない会話。
時折見せる暗い顔。
エイタが頼ってくれるなら、ボクなんだって出来ちゃうんだよ?
学校に着いたら、ドキドキはおしまい。
傘を畳むエイタの肩。
雨粒を手で払ってあげて、背が伸びたと成長を知って。大きくなったねとおばさんみたいな感想に一人ショックを受ける。
気を使いすぎて心が老けてきてる? やややまさか。疲れは顔に出るって聞くし……大丈夫だよね? ボクまだ若いし。
薄暗い玄関。人影はない。ジメっとしたこんな日でも、不思議とボクの気分は……さっきまで心地よかった。
こんな日に限って、コツツミさんとばったり出くわす。
はぁ、またエイタが思い詰めちゃう。
もう立ち去る寸前に、挨拶すべきか悩んでいると、エイタがコツツミさんを見つめ立ち尽くす。
そんな姿に肩を落とし、呼び掛けようした肩越しから、蚊の鳴くような声。
え? なになになになに? 怖いんだけど。
何がしたいの?
挨拶でもしたいの?
……それでエイタの気が済むならすれば良いんじゃない?
なんでわざわざ自分から傷つきにいくんだろう。
そんなことしても何も出来ないのに。
かわいそうな自分に酔ってる?
おばさんとかに相談した方がいいのかなぁ。
ボクにだって我慢の限界くらいあるのに。
振り返ったコツツミさん。
あくびが出るくらい退屈な時間が流れて、コツツミさんは去っていった。
??????????
……ほんっとわけわかんない。
成績が落ちても焦ってる様子はなかった。
このごろノートに何かを書き込んでブツブツと気味が悪い。
本気で誰かに診てもらった方がいいのかもしれない。追い詰められておかしくなってるのかなぁ。
冗談ナシに、もしそんなことになってたら?
……その時は、またボクがエイタを支えてあげなきゃ。
迷っているような、助けを求めるような、救いを求めるような表情をするエイタの肩を押し。
ボクはエイタの味方なんだよ? と疲れた顔で張り付く。
それに、エイタのそばには家族もいるじゃん。
父の日のプレゼントの話題を振って、もっと周りに頼ってね? と、遠回しに何度も何度も伝えてあげるのだった。
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日本中で鳴り響いているチャイムの音。
気分を下げる音も、上げる音もかねるイカした合図に、授業を終えた生徒たちはそそくさ席を移動して楽しいランチタ〜イム。
まず手始めに、女子力を共有する楽しいおかず交換……は新学期しばらくして消えてしまった。
毎日必ず誰かが弁当作るの忘れてきて、ついにみんなそろって忘れてしまって以来その存在自体がなかったことにぃ……。
なんやかんや献立考えて、準備して、早起きして、キッチンに居座るから家族の分も毎日作ってたら、嫌というほど母親の偉大さを自覚するわけでぇ……。
ボク達の女子力計画は早々に崩れ落ちてしまったんだけど、少食アピールとかの別方面での女子力? でトントンにしようとしてみたり?
「ウチハ今日も特盛だね」
「う〜おばさんが部活あるんだからちゃんと食べなさいって」
「んーそれじゃあ女子力は上げられないかなぁ……」
「代わりにキレイに完食するところで女子力もらいます」
「やっぱ体力使う?」
「う〜ん季節によるかな? 暑い時は基礎練ばっかだし、寒い時はめちゃ動くし。今は夏仕様のお弁当だよ〜」
「冬はもっと特盛?」「マジヤバじゃん」「文化部はデブるね」「間違いないわ」
「総体の予選いつからだっけ?」
「六月の頭から」
「今度こそ目指せナンバーワン!」
「あはは。あんまり勝ち負けにこだわるのは良くないんだけどね」
「いや準優勝でも充分凄すぎるけどさ? それでも手の届く範囲にあるんだからとって欲しいわけよ……あ、ごめん。生意気だった?」
「うんん。みんなが応援してくれるからスポーツって成り立つと思ってるからね」
「さすがウチハ人間ができてる」
「ウチハが新聞とかテレビで取り上げられてるのを見ると、私も鼻が高いわけですよ」
「アンタなにもやってないやろがい」
「う゛でも声かれるまで応援するから」
「うん、みんなありがと」
「……くわぁ────夏休み早くコイコイー」
「わかるーでも課題はマジ勘弁」
「夏休み前に期末テストありますよ奥様」
「ちょっと────ヤなこと思い出させないでよ!」
「部活とバイトで忙しいのにさぁ勉強もしろって頭湧いてるよね?」
「気晴らさないとやってられっしょ?」
「どっか海いく?」
「まだちべたいって」
「パスパスパース」
「フェスある無理」
「彼氏と行きたいなぁ」
「コメドット周回するから」
「枯れてんなぁ────」
「ウチハはまた介護?」
「う〜ん……」
「切っちゃえ? 変に荷物しょうの良くない」
「てかこんなに支えて上げてるのに感謝の一つもないとか終わってるって」
「良くしてもらってるのはわからなくもないけどさぁ……それで不幸になったら意味ないべ」
「でも、ボクしかいないから……」
「そこが優しすぎるんだってぇ」「もぉ──お人好しすぎぃ」「ウチハが縛られる意味がわかんない」「ガツンと言ってやりなよ」「舐められないようにしなきゃ!」
「あはは……」
「ん」
「?」
「また一緒にどっか行きたいね」
差し出されたスマホ。
画面に映っていたのは、新学期の日にみんなとキメポーズして撮った写真。
それ以来みんなで外に出かける時間は取れていない。
唯一のチャンスであった試験勉強中も、様子が心配だったエイタから離れられなかった。
見渡せば眉を下げて、みんな心配してくれているのが伝わってくる。
うん、ボク自身わかってる。
これまでエイタにしてあげたことに対して、報われないんじゃないかなって。
でも、誰だって見たくないじゃん?
身近な家族が壊れていくところなんてさ?
大切な居場所なんだよ。
両親と会えないボクにとって。
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「今日はここまで」
「「「「ありがとうございました!!」」」」
部活終わり。
今日は珍しくエイタが迎えに来てくれていた。
ボクの苦労がわかってくれたかな? と一瞬淡い期待を抱くが、朝のようにコツツミさんに手を振ってるのを見て歯ぎしり。
んで、案の定無視されるっていうね。
おもわず笑っちゃったんだけど。
仲良くなりたいならちゃんとあいさつしてあげたら?
こういう場合、ボクがきっかけを作って上げるべきなんだろうけど、なんで他の女の橋渡しをしなくちゃいけないのって。
もしかして手助けしてくれるのを待ってるの?
……土下座して頼み込んで、ボクを言ったことは必ず破らないって約束して、ボクのことをなにがなんでも優先してくれたら……まあ考えてやらないこともないけどね? 口には出さないけど。
「帰ろうエイタ」
「……あぁ」
「今日もキツかった〜」
「うん……おつかれ」
「晩ごはんなんだろうね?」
「そうだな……」
「「………………」」
「なあ」
「……あのさ、また出掛けるとか言わないよね?」
「……なんでわかった」
「いやや、なんとなくわかるでしょ」
「約束が……」
「誰と会うの?」
「……」
「ボクは良いと思うよ? 趣味でも娯楽でも、エイタの世界を広げることは悪いことじゃない。でもさ? コソコソと誰かと会って、詳しく言えないことしてるって怪しんじゃうボクの身にもなって? おばさんたち誤魔化すの大変なんだよ?」
「……」
「エイタが変なこと始めたのもその人が原因なんでしょ」
「変なことって……これは俺のい「どんなこと吹き込まれたか知らないけど、あんまり深入りはしないでね? 絶対エイタのためにならないから」
「……」
「ボクのこと大切に思ってるなら……なんて、卑怯なことしたくないから、どうしても行きたいって言うならこれだけは答えて。その人ボクが知ってる人?」
「………………違う」
「そっか──────」
ふーん、ボクの見てない間にねぇ…………。
信じて良いんだよね? ちゃんと周りが見えてるんだよね? ボク達のことちゃんと考えてくれてるんだよね?
エイタが忘れてるのかわからないけど……いまのエイタがあるのって、みんなに支えてもらってるからなんだよ?
自力でここまで生きてきたわけじゃないんだよ?
それなのに自分勝手、自分勝手、自分勝手……。
ねえ、ほんと。エイタって自分のことばっかりじゃん。
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「はーいもしもし?」
「うん、うん」
「え~元気だよぉ元気」
「うん、だいぶ慣れてきた」
「新しい友達もできたし」
「うん」
「……わかってる」
「仲? いいよ全然。おばさんに愛想つかさないでねって首根っこ捕まれるくらい」
「エイタ? エイタは──う~んちょっとだめかなぁ……」
「うそうそ冗談。今日も一緒に帰ったし」
「うん」
「うん」
「あ、今度父の日にプレゼント渡すんだよ?」
「え? ネクタイにしようかなぁ~て」
「うん」
「だいじょぶ」
「あ~もう足りてるから。いいっていいって」
「そいえば同級生の女の子が入ってね? うん。いまその子の面倒見てる」
「え? そんなわけないでしょ? ちゃんと優しく教えてますぅ~」
「……あはは。それ何年前の話?」
「うん、うん」
「もーそれ何度目? わかってるから心配しないで?」
「はぁ、まだ忙しいんでしょ? はやくきりたいんですけどぉ~」
「うん」
「うん」
「いつもお仕事お疲れ様」
「体調には気を付けてね」
「今度はいつ帰ってくるの?」
「………………」
「そっか、うん、わかった」
「うん、元気で。うん、それじゃ、おやすみなさい」