鏡の奥の向こう側   作:おおきなかぎは すぐわかりそう

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パレイドリア現象

 

 

 

 指先を見つめて玄関で座り込む。

 

 頭で繰り返されるのは、エイタの後ろ姿。

 

 どこで間違えちゃったのかな。

 

 たとえ嫌われちゃっても、自由にさせないほうがよかったのかな。

 

 

 

 おばさんには、何も喋れなかった。

 

 ショックだったわけじゃないんだよ? でも、エイタにこれ以上辛い思いをしてほしくないから、頑張っていつもと同じようにお喋りして。

 

 エイタには、返しきれないくらいたくさんのプレゼントをもらったから。

 

 今度は、ボクがエイタに送る番。

 

 

 

 幸せになって欲しい。

 

 大好きで囲まれて欲しい。

 

 無邪気に笑っていて欲しい。

 

 かけがいのない宝物をたくさんたくさん集めて欲しい。

 

 

 

 けど"ボクの隣で"ってのは、たぶんワガママで。

 

 エイタを大切にしてくれる素敵な人と出会ったなら。

 

 悔しいけど、エイタがそれで幸せなら。

 

 想うことはあっても、応援しなくちゃいけない。

 

 

 

 いきなり割り込んできた謎の人と会うようになってから、エイタは変わった。

 

 そこからコツツミさんと関わりを持つようになって、いよいよ不安が現実になった。

 

 ウワサをまるっきり信じてたわけじゃないけど、悪く言われるってことはそれなりの理由があるはずだから。

 

 ボクより頭の良いエイタが気付かないはずがない。

 

 そうなんども自分を落ち着けても、あんな姿を見せられたら揺らいじゃうよ。

 

 

 

 どうするのが正解だったんだろう。

 

 迷惑かけてでも、周りに相談したほうが良かったのかな。

 

 家族は……仕事で忙しいし。

 

 おばさんは……エイタのこと責めちゃうし。

 

 友達には……こんな重い話したら、引かれちゃうだろうし。

 

 ボクが頼りないから、エイタは不幸になっちゃうの? 

 

 ボクのせいで、エイタは離れていっちゃうの? 

 

 誰にも話せない胸の内。

 

 悩んでも、悩んでも。剣道しか取り柄のないボクには、何が何だかさっぱりで。

 

 一人ぼっちでこの家に取り残されると、暗い気持ちに飲み込まれそうになってしまう。

 

 

 

 カチャ

 

 

 

 ゆっくりと、玄関に光が差し込んでいく。

 

 いつも我慢してるんだから、二人っきりの時くらいは……いいよね? 

 

 待ちきれなくて飛びつけば、さっきまでの寂しさは吹っ飛んで。

 

 

 

「お帰りエイタ」

 

 

 

 怒ってないよと伝えるために、前髪をこすりつけながら。

 

 大好きな匂いを胸一杯に吸い込んで、背中にまで延びていた影を振りほどいた。

 

 

 

「……あぁ。ただいま」

 

 

「お腹すいたでしょ? 焼き味噌おにぎり作ったんだ。おかずはおばさんにちょっと分けてもらってね?」

 

 

「……ごめん」

 

 

「へ? なんで謝るの?」

 

 

「情けなくって……ごめんな」

 

 

「あっ」

 

 

 

 頭がくすぐったい。ボクが落ち込んでいたことなんて、エイタにはお見通しなんだ。もう絶対放さないって、ギュッと腰に回す腕。ずっとこのまま、時間が止まっちゃえばいいのに。

 

 

 

「……そろそろ、いいか?」

 

 

「ご、ごめん。すぐご飯にするから」

 

 

 

 離れたくないなとエイタの服に触れながら。

 

 けど重い女って思われたくないから、回れ右して光のない廊下を走った。

 

 

 

 リビングの電気をつけ、ラップしておいたお皿をレンジにかける。

 

 気分はルンルン。だって土曜日も日曜日もエイタとずっと一緒に居られるんだよ? もう幸せすぎて爆発しちゃいそう! 

 

 静かすぎるのはキライだから、ワイワイガヤガヤ笑いの絶えないテレビ番組の音量を上げて。

 

 おにぎりの湯気を開放して、新しいお皿レンジに入れて。

 

 準備できたよとエイタに声をかけ、返事がないので洗面台まで行ってもう一声かけて。

 

 用意したコップに麦茶を注いで、テレビに釣られ笑いしながら、エイタが来るのを待った。

 

 

 

「制服のままで大丈夫?」

 

 

「……食べてからでもいいかなって」

 

 

「そんなにおにぎり食べたいの?」

 

 

 

 好物でいつものクールさが崩れてることに含み笑いを浮かべ。"いただきます"を被せてから、チラリと見て気になっていたことが口から出た。

 

 

 

「どうしたの? あのサンダル」

 

 

「……いや、借り物」

 

 

「へー優しい人もいるもんだね〜」

 

 

 

 迷惑かけるのを嫌うエイタが素直に受け取るなんて、不思議。前に話してた、ボクが知らない謎の人なのかな? 

 

 そんなに頻繁に会ってるってはずじゃないのに、ちょっと距離感おかしくない? 

 

 エイタが変わるきっかけを作ったっぽい人だから、ヘンなことされてないかってちょっと心配。

 

 一度会って話してみたいな。

 

 エイタは底なしに優しいからさ? 

 

 悪い人に気に入られちゃって困ってるなんて、考えられなくもないでしょ? 

 

 それに、エイタと仲良くできてるなら、そのヒケツ? 知りたいし。

 

 

 

「なぁ」

 

 

「? なに?」

 

 

「明日……外していいか?」

 

 

「なんで?」

 

 

「いや、約束、したんだ」

 

 

「コツツミさんと?」

 

 

「……違う」

 

 

「なんで明日なの? 勉強どうするの? どうしてもその日じゃないといけないの? もうその日以外考えられない?」

 

 

「違う、けど」

 

 

「じゃボクも連れてって」

 

 

「……は?」

 

 

「せっかくのテスト期間なんだから一緒に居たいし、会う人がどんな人かこの目で確かめたいし、エイタがどんなことするのかボク知りたい」

 

 

「……余計なお世話だ」

 

 

「おばさんに有る事無い事言いふらしたっていいんだよ?」

 

 

「ッ!?」

 

 

「選ばせてあげる。一緒に出かけるか、一緒に家で過ごすか。……どっちがいい?」

 

 

「……」

 

 

 

 テレビからは芸能の爆笑。

 

 手を叩いて、口を大きく開いて。番組を盛り上げるって仕事を必死にしてる。

 

 エイタは食事の手を止め、うつむいて、しばらくしてから小さく言った。

 

 

 

「分かった……家にいるよ」

 

 

「ボク的には一緒に出かけるってのもアリだったけど?」

 

 

「遊びじゃないんだ。それに……いや、なんでもない」

 

 

「もしかして、その人のこと好きだったりして?」

 

 

「ッ、ゴホッガハ! ケフ……ンン」

 

 

 

 苦しそうに胸を叩いて、麦茶を勢いよく流し込む。

 

 え……なにその反応。もしかしてだけど、コツツミさん以外に女の子とつるんでるの? 

 

 

 

 やややや、エイタは確かにカッコイイけどさ? 

 

 けどパッとしないっていうか。何もしないでチヤホヤされるくらい、女子ウケするってほどでもないでしょ? 

 

 絶対なにか裏があるはず。

 

 じゃなきゃ、こんな短い間に心を開くなんておかしいよ。

 

 

 

「断りの連絡入れてくる」

 

 

「待って」

 

 

「……今度はなんだ」

 

 

「気が変わっちゃった。一緒に行こ?」

 

 

「巫山戯るのも大概にしろ」

 

 

「別にふざけてないもん。このさいだからハッキリさせよ?」

 

 

「なにを」

 

 

「エイタがボクに隠してること」

 

 

「……」

 

 

「ね? いいでしょ?」

 

 

「マナーがなってないだろ。飛び入り参加だなんて」

 

 

「うん。だから伝えてくれる?」

 

 

「……断る」

 

 

「ボクが目をつぶってるから、エイタはその人に会えてるんだよ?」

 

 

「……」

 

 

「それが嫌だって言うなら、ん」

 

 

 

 テーブルに手をつき身を乗り出して、目を閉じる。

 

 会う人のことをなんとも思ってないのなら、これくらいのことしてもらわないとね? 

 

 大丈夫。リップは念入りにしてるし、汗もちゃんと流したし、保湿だって忘れてない。

 

 変な顔にはなってない、はず。

 

 

 

 アワアワしてるエイタをこの目で見たかったけど、恥ずかしくって、目なんて開けられるわけなかった。

 

 小さな物音がするたび、期待しちゃって甘い声が出てきちゃう。

 

 いまか、いまかと口元を無防備にしていたら、下から"わかったよ"と諦めた声が。

 

 けっこう踏み込んだはずなのに、ちっとも反応くれないことにガックシ。

 

 トスンと腰をおろして、イスを引いてコソコソ目を合わせないエイタを見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 

 ボク達は朝早くに起きて、待ち合わせ場所へ向かう。

 

 その場所を聞いた時、一瞬"ヤッター!! "ってはしゃぐまでは良かったけど、へ? もしかしてボクがついてきてなかったら、二人でデートしてたの? て考えちゃったのが最後、いつの間にかエイタに詰め寄ってた。

 

 エイタは"そんなんじゃない"ってゆずらなかったけど、ボクが引っ張らなきゃ家から絶対にでないエイタが自分から外に出てるんだよ? ホントのとこどうなんだか。

 

 ……いまエイタをゆさぶっても、何がホントでなにがウソかわかんない。

 

 ちょっと強引でも、やっぱりちゃんと会って確かめようと行動できた自分を褒めてやりたい。

 

 

 

 チケット売り場の前まで来ると、エイタは辺りをキョロキョロ見回す。

 

 約束の時間の十五分前なのにこれだよ? なんかい約束なんてほっぽりだして、二人で遊園地楽しもうとしたことか。

 

 

 

「待たせてしまったかな?」

 

 

 

 耳の奥をくすぐるようなキレイな声。

 

 そこにはスーツをピシッと着こなして、バッグから三枚のチケットを取り出す、大人の女性が立っていた。

 

 

 

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