飛行機と電車を乗り継ぎ。迷宮のように入り組んだ駅を抜け。彼は大都会を見上げていた。高くそびえ立った冷たいコンクリートは、四方八方を取り囲み。まるで監獄の中に放りこまれたような気分にさせる。密集し交差して動く人混みは、あまりの人の多さに目を回してしまいそうで。大画面の特大広告は、広場の隅々にまでその大音量を響かせている。どこを見渡しても目についてしまう看板は、チカチカと視界に入ってきて鬱陶しい。その何もかもが、彼の居た地元とはかけ離れていて。彼がどれだけ場違いな存在かを知らしめているようだった。彼はうわごとのように帰りたいと呟き、顔には疲労の色が見える。だがその願いは、彼の手を握る彼女によって阻まれている。死にかけている彼の表情とは反対に、彼女の表情は実に生き生きとしていた。二人は入り乱れる人波をかき分けながら進んでいく。彼の方はもう諦めの境地に入ったのか、空を見上げたまま彼女に身を任せていた。二人はあるビルの根元で止まる。彼女がスマホを取り出して、一言つぶやく。
「ついたわ」
「……」
「はい。いくよー」
「ちょっと待て」
「あ? なに?」
「もう手を繋ぐ必要はないだろ」
「エーちゃんは必要があったら手繋いでくれるの?」
「どうせ、手を繋いでたほうが面白いとか言うんだろ?」
「なんだ。わかってんじゃん」
「俺は全然面白くない」
「もう、嬉しいくせにー」
「人と会うんだから自重しろよ」
「何名様ですか?」
「先客が居るのでお構い無くー」
「テルミちゃーん」
店内に響き渡る声。その声の主は、いましがた入ってきた二人に手を振っている。グラビアモデルのような恵体。完璧に着こなされた都会ファション。髪は鮮やかな金髪ショート。アイラインの入った気の強そうな目。耳と唇には、銀色のピアスがキラリと光る。街を歩けばほとんどの人が振り返ってしまうような。そんな芸能人顔負けの女性が二人を手招きしていた。美人に萎縮する彼を、彼女が強引に引っ張っていく。彼女が彼をテーブル席に押し込んで、彼女で蓋をした。対面にはあの美人が、スッと細めた目で一連のやり取りを観察していた。
「久しぶり。姉貴」
「正月以来? テルミちゃん、しばらく見ない間にまた新しい男つくったんだ。懲りないね~」
「こいつはちげぇよ」
「でも手、繋いでたよね?」
「あたしが目を離したスキに迷子になっちゃうから」
「店の中でも心配なの?」
「エーちゃんが手離してくれないの」
「でも同棲してるんでしょ? テルミちゃんにその気はなくても、彼氏くんはそうは思ってないんじゃない?」
「こいつがあたしのことを好きになることはあっても、あたしがこいつのことを好きになることは絶ッ対にない」
「あっは! 彼氏くんカワイソー」
「紹介するわ。あたしの姉貴」
「はーいテルミちゃんの姉貴でーす。気軽にお姉ちゃんって呼んでね☆」
「んで、こいつがエーちゃん」
「……どうも」
「へぇ〜」
姉は顔をニヤニヤさせながら、エーちゃんと呼ばれた男をもう一度観察する。上から下への品定めを何度か繰り返すと、笑みをより一層深めた。
「この子が学校で暴れたの?」
「そそ。同級生の女に炎を浴びせたの」
「あっはは! マジで? 容赦なさすぎでしょ」
「ホント。 エーちゃん見かけによらずヤバいから」
「……」
「でもさ。そのヤバさも、一人の女の子のためって話じゃん?」
「らしいねー」
「その子、隣近所の幼馴染なんだっけ? ヤバいことしちゃうくらい、エーくんはその子のことが大好きなんだ」
「その子が大好きなら、エーちゃんは今あたしの隣にいないだろ」
「それもそっか。エ、ちょっと待って? じゃあどうしてエーくんはヤバいことしたの?」
「幼馴染への優しさが爆発しちゃったって感じ?」
「なにそれ? 下心とかじゃなくて?」
「うん。ね? コイツ、ものすごくバカでしょ?」
「好きでもない女の子のために体張ったの? 下心もなしに? ごめんエーくん、流石にそれは理解できない」
「だってエーちゃん。言われてるよ?」
そう言って、テルミはケラケラ彼の背中をバシバシ叩く。叩かれた彼の方はというと、言葉にこそ出さないが。不服そうに眉間に皺を寄せていた。そこに、軽食が運ばれてくる。二人がくる前に姉が注文していたものらしい。テルミはちょうどいいとばかりに、定員を呼び止めてメニュー表を開く。横の彼にも注文を急かすと、彼はメニュー表を大慌てでめくりだした。そんなことをしている間に、テルミの注文が終了。姉が追加注文している間に、テルミはチラリと彼の方を見た。隣の彼は、いまだに注文を決めかねていた。テルミは大きなため息をつく。そして、〝以上でよろしいですか? 〟と尋ねてきた定員に向かってさらに追加注文。テルミは注文を終えると、さっさと定員を下がらせた。定員が下がったことに気がついた彼は、メニュー表を持ったままポカンと固まる。
「エーちゃん注文するの遅すぎ」
「いやいや、テルミちゃん初めから注文させる気ないでしょ」
「エーちゃんの分も注文してあげたんだから別にいいでしょ?」
「それテルミちゃんが食べたいやつ注文しただけでしょ?」
「姉貴だってちゃっかりデザート頼んでたじゃん!」
「いやー。男の子がいるなら少しくらいいいかなって」
「そんなんだから太るんだよ」
「もうほんと。胸ばっか太っちゃって困っちゃうわ〜」
姉はテルミよりも大きな胸を、テルミに向かって突き出した。女性としての格の違いを見せつけられたテルミは、〝バンッ〟とテーブルを叩いて立ち上がる。応じて立ち上がる姉。二人の睨み合いは、いまだメニュー表に未練があった彼によって止まる。彼は〝飲み物取ってくる〟とテルミをテーブルから追い出した。彼に飲みたいものを伝える二人。彼が居なくなって、調子を狂わされた二人。それにテルミは舌打ちを一つすると、ドカッと腕を組んで席についた。張り合いのなくなった姉は、なんだかつまらなそうにして座る。しかしそれも一瞬のこと。彼のいなくなったテーブルで、すぐさま姉の目が光った。
「ねねね。テルミちゃん」
「……んだよ」
「あの子絶対、テルミちゃんのこと好きだよね?」
「いやいや。それほどでも、あるかな?」
「間違いないって」
「けどあいつ、結構態度酷いよ?」
「たとえば?」
「気合いの入った料理作ったかと思えば、ありえないくらい雑な料理出してきたり」
「ずっと雑ではないんでしょ? ならいいじゃん、可愛くて。ワガママでテルミちゃんに甘えてるんだよ」
「突然オシャレしたかと思えば勝手に出掛けて。出掛けた先で何があったか絶対に喋らないし」
「気を引きたいんじゃない? テルミちゃんに嫉妬してほしいんだよ」
「ちょっとスキ見せてからかってるのに、あいつは全然乗ってこないし」
「恥ずかしいんじゃない? 本当は内心、喜んでると思うよ?」
「なんだよそれ。あたしのことが好きなら好きで、ちゃんとあたしにそう言えよ」
「テルミちゃんと同じでめんどくさい子なんじゃない?」
「……」
「なーんだ、最初見たときは二人のこと似合わないなーって思ってたけど。こうしてじっくり見てみると、二人って結構お似合いじゃん?」
「姉貴には、あたし達二人がそう見えたんだ」
「うん」
「ふーん」
「あ。テルミちゃんもしかして、照れちゃった?」
「あ? 別に照れてねーから。張り倒すぞ」
「えーテルミちゃんコワーイ」
「ウッザ」
「お待たせ」
「別に待ってないから」
「なんでこいつキレてるんですか?」
「サァ? なんでだろーねー」
「便所」
テルミはそう一言告げると、彼と入れ替わるように席を立った。残されたのは彼と姉。彼はそのまま突っ立っているわけにもいかず、姉の対面に大人しく座った。再び、姉の目が光った。姉はいきなり立ち上がり、〝お邪魔しまーす〟と彼の隣に腰を下ろした。彼は丁度、飲んでいた飲み物が気道に入りそうになって思わず咳き込んでしまう。姉はそれを心配しながらも、さらに彼との距離を縮めていった。
「冗談きついですって」
「え〜? エーくん冷たーい」
「そんなことありません」
「どうしてこっち向いてくれないのかな?」
「怖いからです」
「あたしのこと怖いなんて言う人、エーくんが初めて」
「口に出されていないだけでは?」
「あたしのどこら辺が怖いのカナ?」
「そういう、ところです」
姉は顔を近づけ囁きながら、肌と肌が触れ合える距離にまで迫る。それに対抗して、彼は腕で距離を取ろうとする。しかし姉はなおも迫ってくる。そのまま押し負けて、姉が彼に覆い被さりそうになったその瞬間。パッと、唐突に姉が身を引いた。
「エーくんってドM?」
「そんなの、初めて言われましたよ」
「ドMって言ってもタダのドMじゃないね。メチャクチャ意地っ張りなドM」
「……」
「あんまりドM拗らせると、テルミちゃんみたくなっちゃうぞ~?」
「それだけはないです。絶対に」
「やっとこっち向いてくれたと思ったら。エーくんなんか怖い顔してるよ?」
「何か話したいことがあったんじゃないんですか? あいつが戻ってきちゃいますよ?」
「いいねエーくん。話が早くて、お姉さんとっても助かっちゃう。それじゃあ、こっからが本題ね? いくらエーくんがテルミちゃんのお気に入りって言ってもね? 男の子と同棲っていうのは、姉ながらに心配なんだ。前の学校で悪い男に引っかかってるから余計にね。だから、いまからあたしのする質問に正直に答えてほしいの」
「もっともな感情だと思います。お姉さんが正直な質問をするのなら、俺も正直に答えます」
「ありがとねエーくん。じゃあ一つ目」
後ろからツカツカと、青筋を浮かべたテルミが迫る。一瞬振り返った姉は、テルミへウインク。怪しんだテルミが停止。姉はすかさず彼に質問を放った。
「一つ目の質問。エーくんは好きな人が中古だったらどう思う?」
「中古?」
「処女膜のない女」
「これがお姉さんの正直な質問なんですか?」
「うん」
「……経験の有無で、好きな人への想いは変わりません」
「本当? 〝俺が一番の男になりたかった〟とか。悔しいって感情は湧いてこないの?」
「好きな人が経験者なのは、好きな人が魅力的なら当たり前のことです。逆に経験者じゃないのなら、周りの見る目がないだけですよ」
「エェ〜!? エーくんってそういうタイプ?」
「なんですか? そういうタイプって」
「いや、こっちの話。質問つづけるね?」
「はぁ。どうぞ」
「二つ目の質問。好きな人のおっぱいは大きい方がいい? 小さい方がいい?」
「大きいも小さいもありません。好きな人の胸を好きになるだけです」
「♪ じゃあ三つ目。好きな人のワガママをどう思う?」
「バランスの取り方が難しいです。全部受け入れてしまいたくなるので」
「ふんふんふん。じゃあ最後の質問! テルミちゃんのこと好──────」
「おい」
ドスの効いた低い声。姉と彼の二人は、テーブルの通路側を揃って見た。そこには、険しい顔をして腕を組んだテルミが二人のことを見下ろしていた。わざとっぽく慌てた姉は、〝ごめーん〟と軽い調子で謝って、元の座っていた場所に戻る。それをテルミはジトッとした目で追いながら、彼の隣にドスンと座る。腕組みを解いた手は、そのまま彼の手を握る。テルミは繋いだ手に見向きもしない。反対に彼は、突然繋がれた手をギョッと見つめ、警戒している。対面には、一仕事終えて達成感をにじませる姉。その姉とテルミの目があった。二人はしばらく見つめ合っていたが、先にテルミがプイッとそっぽを向くことで二人の見つめ合いは終結する。それに姉は、優しい笑みをこぼすのだった。料理が運ばれ、配膳。しばし間、料理を楽しみながら。テルミと姉の間で交わされる世間話。話題も食事も一段落した頃、居住まいを正したテルミが姉に切り出した。
「お願いがあるんだけど」
「? どうしたのテルミちゃん? そんな改まって」
「姉貴には、今度始まる作品の宣伝をしてほしいの」
「意外、テルミちゃんが宣伝頼むなんて。いつもなら〝人は実力で集めるものでしょ!? 〟って宣伝するの拒むのに」
「それだけ気合が入ってるの。今日会いにきたのもそれが目的」
「宣伝が成り立つには、宣伝するだけの価値が作品にないと成立しないんだけど?」
「無理にとは言わない。宣伝するしないの判断は姉貴に任せる。ヘタな作品宣伝しちゃうと、姉貴の評判も下がっちゃうし」
「ふ〜ん。そんなに自信作なんだ」
「まーね」
「んじゃ、楽しみにしてる」
「ありがと」
「そういえば、従業員集めは順調なの?」
「ぜーんぜん。全く」
「ありゃりゃ」
「会って話しても、ヤリチンか詐欺師しかいなかった」
「人を集めるのって難しいもんね。知り合いの店長もよくぼやいてた」
「このままつづけてもカスみたいな人材しか集まらないかな。もっと実績を積んでいけば、まともな人材も集まってくると思う」
「じゃあしばらく従業員集めは中止かー」
「そうなっちゃうね」
「なら、クリスマスはエーくんと二人っきりだね」
「う、うっさい」
「あっはは。その点で言えば、エーくんは相当な掘り出し物なんじゃない?」
「無能は論外だけど、有能すぎるのもキケンだからね。技術盗まれるのはしょうがないけど、その技術使われて競合にでもなられた日にはブチ切れる」
「ホントね。程よく仕事できて、程よく才能のない奴を集めた方がよく回る」
「同感」
テルミと姉の二人の視線が、彼に集まる。彼は会話の内容に全く興味がないようで、窓の外の景色をボーと眺めていた。その呑気具合に、テルミはとても満足げで。姉の方は感嘆の息を漏らした。
「よし! それじゃあ可愛いテルミちゃんのために、ここはお姉ちゃんが払いますかー」
「サンキュー姉貴。ゴチゴチー」
「お姉さん。ごちそうさまです」
「はいよー。……あ、ちょっとまってエーくん」
「? なんですか?」
「テルミちゃんを悲しめせるようなことしたら、あたしエーくんのこと殺すから」
姉は彼の肩を強めに握り、真顔でそう告げる。彼は突然ぶつけられた強い感情に困惑しながらも。とりあえず頷いておくことで、その場を切り抜けることにした。だがしかし、数秒考えても姉の発言の意味が彼にはわからなかった。
「えっと、それってどういう「二人ともなにコソコソしてんの?」
「ごめんごめん。ちょっと転びそうになっただけ」
先行していたテルミは、背後で起こった二人のやり取りには気づいていない様子。テルミはさっさと正面に向き直り、ご機嫌に鼻歌を混じらせ。気分よく軽快な足取りで前へ進んで行った。
コツツミさんの姉と別れた俺達は、東京観光。という名の仕事に勤しんでいた。使えそうな背景、景色を撮って巡ったり。生の現場でしか味わえない細かな雰囲気を詳細にメモしたり。珍しい資料本を買い漁ったり、電気街の格安ジャンク? なんてのを漁ったり。あっちこっちに引っ張り回され、荷物を増やされ。コツツミさんのワガママの大暴走に、帰りたい思いはなおのこと加速していった。手の感覚を確かめながら、荷物番。今日何度目かもわからない時間を確認。いい時間だ。帰りの飛行機はすでに予約済み。いまから空港に向かえば、だいぶ余裕を持って飛行機に乗れる。というかもう、いい加減帰らせてくれ。通勤ラッシュに加えて、帰宅ラッシュにまで巻き込まれるのはごめんだ。
「はいこれ持って。んじゃエーちゃんいくよー」
「飛行機の時間、忘れてないよな?」
「あたしをなんだと思ってるの? 飛行機の時間なんて忘れるわけないじゃん」
「なら、荷物を持った俺を基準にして帰りの時間を考えてくれよ?」
「なんでエーちゃんを基準にして予定を捻じ曲げないといけないの? エーちゃんが捻じ曲がれよ」
「なんだその暴論は」
「次で最後だから」
「理由になってねぇぞ」
「これ以上ゴチャゴチャいってるとケツ蹴り上げるから」
「いや。そこは荷物持つの手伝えよ」
とんでもない暴君だ。荷物は増やすのに、自分が持とうだなんてことは微塵も考えちゃいない。それでいて、〝いつもより荷物の量を減らしてるから! 〟となぜか恩着せがましく主張してくることには呆れ果てる。まぁ、コツツミさんに配慮を期待する俺の方が間違っているのだろうが。街中をズンズン進むコツツミさんに必死についていくと、ある雑居ビルにコツツミさんは入っていった。エレベーターで、目当てと思われる階へ向かう。エレベーターが着いた先の店内には、アニメやらゲームやら。普段は見慣れない雰囲気のものがたくさん……。ふと、ある棚の商品が目に留まった。ツキノキさんがメガネを掛けたような雰囲気のキャラが、教鞭を取っている。詳しくみるとその横には、メガネの耳にかけるところを甘噛みする同一人物。さらにその下に視線を移すと、なんだか肌色の面積が多い気が!? 視線を感じる。これは、マズイ。コツツミさんにからかわれる。
「いまなに見てた?」
「なんでもない。さっさと用事済ませろ」
「この棚?」
「油売ってる場合なのか?」
「じゃあ早く言えよ」
「断る」
「じゃあこの棚の商品。端から順番に読み上げていくね?」
「どんな迷惑客だ」
「ナースの天使と朝までしっぽり「これです」よろしい」
すぐさま目当ての商品を白状してしまった。こいつなら、本気で棚の商品を全部読み上げるだろうという確信があったからだ。それなら、さっさと目当てのものを差し出した方が浅い傷で済む。とはいえ、よりにもよってコツツミさんに性癖がバレたのは最悪だ。きっと今コツツミさんは、悪魔のような笑みを浮かべて喜んでいることだろう。この職場にいる限り、絶対にこの件でイジられつづける。くすんだ鏡の退屈を満たす、ただそれ目的のためだけに。くすんだ鏡からの信頼は、澄んだ鏡には過剰な信頼だ。この職場に居続ければ、俺は絶対に潰れてしまう。準備が出来次第、すぐにこの仕事をやめるべきだ。
「へー。エーちゃんって堅物そうな年上が好きなんだー」
「……」
「今度コスプレしてやろうか?」
「どんな拷問だよ」
「嬉しいくせにぃー」
ゲシゲシと肘で突かれるのをひたすら耐えた。帰りの時間は決まってる。ここで反発しても、コツツミさんが喜ぶだけ。だったら、少しでも無反応を貫いてコツツミさんを喜ばせないようにしよう。ツキノキさん似のキャラのことを永遠にコスられる、地獄みたいな時間をやり過ごし。ついに、ようやく飛行機に乗れた。コツツミさんは〝着いたら起こしてねー〟なんて、一方的に俺に告げてきて。疲れた俺を尻目に、大爆睡を決め込んだ。涎を垂らした口元、半開きの目、バカみたいにデカいイビキ。起きないコイツの息の根を、何度止めようとしたことか。家に着く頃には、もう疲労困憊。玄関で靴を脱ぐと、そのまま廊下に倒れ込んだ。
「こんなところで寝るなよー」
「うるさい……」
「メシどうすんだよ」
「勝手に食えよ……」
「ハァ──────!?」
コツツミさんがなにやらゴチャゴチャとうるさい。しかしそれよりも体は休みたかったのか、だんだんとコツツミさんの声が遠くなっていった……──────。
暗いどこかで眼を覚ます。確か、廊下に直で寝ていたはずだが。横になっているこの場所には、廊下のような固さはない。背中は柔らかいし、温かい。というか暑い。コツツミさんがマットに運んでくれたのかとも考えた。が、すぐにその考えは否定された。なぜなら……。
「……なにこれ」
体が全く動かせない。いや、体を拘束されていると言えばいいのか。コツツミさんの四肢が俺の体に絡みついている。抜け出そうにも、バカみたいな力が掛かっていて抜け出せない。一瞬、ワザと起きていて俺を困らせようとしているのかとも考えたが。いつものように、バカみたいなイビキをかいているので。コツツミさんは寝ていてこれなのかとドン引きした。
──────
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──────────────────────
ある仕事終わり。いつものように夕飯は何を食べようか考えていると、コツツミさんから〝おい〟と声が掛かる。振り返ると、細長い板状のモノを投げてきた。掴み損ね、慌ててお手玉して両手で捕まえる。見ると、スマホだ。だが見覚えがない。俺のでも、コツツミさんのでもない。なんだこれは。
「それやる。プレゼント」
「いきなりだな」
「エーちゃんのスマホ壊れてたでしょ?」
「あー。ちょっと前にいきなり壊れて困ってたんだ」
「契約と初期設定は済ませてある」
「社用ってことか?」
「や、私用でいいよ。エーちゃんとは表に出て困るような連絡しないから」
「そうか。ありがとな」
「はいはーい」
スマホを新しくする手間が省けた。スマホが壊れたままだと、ウチハやツキノキさんと連絡が取れないので。早い日で休みを取って、スマホを用意しようとしていたところなんだ。なんて渡りに船。あのコツツミさんが気が利かせるなんて。これは何かの前触れなのか? まぁいい。とりあえず二人の連絡先を再登録して、この旨を伝えよう。連絡取れなかった間に迷惑かけてたかもしれないし。二人にスマホを新しくしたと文章を送ると、すぐに通知がなった。送り主は、ツキノキさんだ。さっそく飛んで、内容を確認する。
『大事な話がある。二人っきりで話がしたい』