心がノゾける呪い   作:おおきなかぎは すぐわかりそう

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タイトルの無理矢理感・・・・


予定説および公正世界仮説

  

 

 

 けたたましいベルの音。

 

 まだ寝てたいの前に動く。

 

 定位置の竹刀を手に。

 

 宙を舞う掛け布団。

 

 目覚ましの命運は尽きた。

 

 

 

 サンサンと輝く日光は瞳へ。

 

 貴重な朝の二人きりの時間。

 

 一分一秒でも長く一緒に居たくて、一直線に彼の寝室に。窓枠の向こう、敷かれたタオルに着地。

 

 音で起床を促すスマホに加勢し、ボクは竹刀でアラームのリズムを伝える。

 

 

 

「お〜き〜ろ〜♪ お〜き〜ろ♪ エ〜イ〜タ〜♪ お〜き〜ろ〜♪」

 

 

 

 いつもならしばらくベットを温めようと狸寝入りするエイタが、今日はお腹を執拗に突つく刺激に参ったのかすっくりと素直に起き上がる。

 

 今日はちゃんと眠れたのかな? それとも、ボクの思いが伝わった? 

 

 

 

「あれ? おはようエイタ」

 

 

「……ちょっとだけ眠れた」

 

 

「よかったじゃん! でもしっかり寝れてないから顔おじいちゃんだよ」

 

 

「ほっとけ」

 

 

「……わ、わ、わぁ〜起きないで起きないで! ボクが部屋出ていくまで起きないでぇ〜!」

 

 

 

 自分の発言を振り返り、ボクは大丈夫だよね? となにをいまさら顔を触る。

 

 

 

 本当の乙女だったなら、気になる異性の部屋に行くときは気を使うものなのだろうけど、朝起きると身嗜みのことをぽっかり忘れてエイタを起こしに行ってしまう。

 

 ボクってこんなに鳥頭だったっけ? エイタに会うのがそんなに嬉しい? なんてふと考えてしまったが最後、身体中の血液が顔に集まってくる感覚を味わった。

 

 寝起きで酷いであろう顔と、赤くなった顔の両方を見られまいと、起きろと言っておきながら今度はベットに押さえつける。

 

 

 

 掛け布団を被せ見えなくし、ドタドタと逃げ去るように洗面台へチョッコー。

 

 ……なにも変なところ、ないよね? 

 

 

 

「おはようウチハちゃん。朝から元気ね」

 

 

「あ、おばさんおはようです」

 

 

「どうしたのそんなに慌てて。エイタがなんか変なことした?」

 

 

「や、そうじゃないんですけど……」

 

 

「じゃあなんでそんな慌ててたの?」

 

 

「その、こんなすっぴん寝起き顔でエイタに嫌われたりしないかなって……」

 

 

「そんなことで悩めるなんて青春ねぇ~。好きな人の前で良いカッコしたいのはわかるけど、長い間付き添っていくなら自然体が一番よ?」

 

 

「そういえば、二人が喧嘩してるのいままで見たことないかも……」

 

 

「あの人無口で自分をよく見せようとか一切考えない人だから。ついこの間もあの人がパンツ片手に私のとこ来たと思ったら、ウンチついちゃったから洗濯の仕方教えてって……。あらやだ、この話聞かなかったことにしてね? あの人の威厳なくなっちゃうから」

 

 

「あ、あははぁー……」

 

 

「相手の弱点を受け入れて、自分も弱点を晒して愛してもらうの。これ、夫婦円満のコツー」

 

 

「でも、エイタがうんち付いたパンツ持ってくるのは嫌ですかねぇ……」

 

 

「そりゃあ今そんなことされたら絶叫ものだけど、歳を取るってことはお互い情けなくなってくるものよ? くしゃみを抑えきれなくなったり、歯磨きしたらえずくようになっちゃったり、オナラしたいのにウンチ出しちゃったりね。私だって腰は痛くなるし、最近物忘れが激しくなってきたし、おしっこも近くなるしでも~大変」

 

 

「……弱いところを見せたら、エイタがボクに幻滅して、他の女の子に目移りするキッカケになったりしたらと思うと怖いんです」

 

 

「なぁ~にいってのよウチハちゃん。あの子斜に構えてるようだけどね、なんだかんだ言いつつウチハちゃんのことで頭一杯よ?」

 

 

「う、うぇ!? そうなんですか?」

 

 

「おばさんとしてはむしろウチハちゃんが見限らないかの方が心配なのよぉ。……ねぇねぇ進展の方はどうなの? 若さ余ってCまで済ましちゃった?」

 

 

「ちょ、や、止めてくださいよおばさん! エイタに聞かれでもしたら……」

 

 

「なぁ〜に? 恥ずかしいの? こんなの恋人同士ならみんな通るべき道なんだから、今のうちに慣れておくなりしておかないと、いざってときに恥かいちゃうわよ? 友達同士でこういう話しないの?」

 

 

「あの、相手がいない子とかは話に取り残されちゃうので。そう言ったのはあんまりしない、です」

 

 

「おばさん達は避妊さえしてくれればどんなことにも目をつぶるから。なんなら二人っきりになりたい時は言ってね? いつでもこの家二人にしたげる」

 

 

「へ? いや……ソユノハチョットハヤイカナッテ」

 

 

「ウチハちゃんはそういうのに興味ない?」

 

 

「うぅ、そりゃ全くないってわけじゃないですけど、一方的に燃え上がるの「顔洗えないんだけど」んひょ!!」

 

 

 

 心臓が飛び出ちゃうくらい大きな間抜け声を上げる。

 

 "あら、おはよ"とおばさんが声を掛ければ、なんてことないように"んー"と気だるげに返事は飛んだ。

 

 会話の内容は聞かれてないよね? 確かめたいならエイタの様子を探ればいいと知りつつも、再燃した恥ずかしさを堪えきれず、鏡にも写らないように顔を隠した。

 

 

 

「んじゃ、あとは若い者同士よろしくどうぞー」

 

 

「「……」」

 

 

「どいてくれ、水出せない」

 

 

「……」

 

 

「おい聞いてんのかよ」

 

 

「……エイタはさっきの話、聞いてた?」

 

 

「いいや、全然」

 

 

「ホントに?」

 

 

「だぁーもう良いからとりあえずそこどけ」

 

 

 

 肩をいきなり掴まれびっくり。

 

 そのまま廊下に引っ張り出され、洗面所を追い出された。

 

 

 

 水の流れる音。

 

 ボクを意識の外に追いやったであろうエイタをチラリと見る。

 

 んで、すぐ諦めた。

 

 肝心なところで一歩踏み出せない。

 

 一緒の時間が長い分、また次があると気楽に思えてしまうのは幼馴染の良いところ? 悪いところ? 

 

 

 

 普通の恋愛ならもっとこう、朝に顔を合わせただけで舞い上がっちゃって"おはよう"なんて下らないことで嬉しくなっちゃったりしてさ? 

 

 貴重な二人の時間を大切に過ごしちゃったしてさ? 

 

 近づいてくるそれぞれの進路に焦りながら、それでも一緒になりたい気持ちが強くなっていって、嫌われたくないな、でも離れたくないなって互いに歩み寄ったりしてさ? 

 

 いま置かれている立場が"恵まれてない"なんて言ったら誰かに怒られちゃいそうだけど、ゆっくり着実に進んでいくありふれた恋愛が、ボクにはすごく羨ましい。

 

 

 

 けどだからといって、押し付けるような態度はエイタの負担になっちゃうから絶対にしない。

 

 それに、万一嫌われでもしたら立ち直れそうにないし。

 

 なにより女の子から迫るのってどうなの? ここは女の子の気持ちを汲んであげてさ? 男の子がカッコよく手を引っ張るものなんじゃないの? 自分勝手すぎるかな? 

 

 

 

 ……いまのエイタには少し荷が重い気がするけど、気持ちが落ち着くまでボクはいつまでも待ってるから。

 

 ……いつまでも待ってるは少し言い過ぎかな。なるべくはやく、エイタとそういう関係になれたらいいな。なーんて。

 

 

 

「あーおばさん手伝いますよ」

 

 

「悪いわねぇいつもお手伝いさせちゃって」

 

 

「ボクがこの家でお返し出来ることは少ないですから……むしろ、もっとお手伝いさせてください」

 

 

 

 

 

 エイタと朝練して、登校して、授業を受けてお昼食べて。

 

 ボーと午後の授業を聞き流していたらもう放課後。

 

 みんなそれぞれ用事や約束、予定があるのか、少しずつ会話の輪から外れ教室を去っていく。

 

 

 

 人もまばらになった教室で、スマホの画面を見つめ、一向に腰を上げようとしないエイタに近付いていった。

 

 

 

「なに見てたのー?」

 

 

「別に。なんでも」

 

 

「えー怪し〜、エッチな画像でも見てた?」

 

 

「誰が学校で盛るかよ」

 

 

「そうだよねぇ〜、エイタにそんな度胸ないもんねぇ〜」

 

 

「……」

 

 

「剣道って服は薄いけど露出少ないからさぁー、やっぱりエロくはない?」

 

 

「いうかボケ」

 

 

「それとも更衣室みたいな場所じゃないと興奮しないかな? あぁ〜でもやっぱ生着替えとかないと捗らないかぁー」

 

 

「……」

 

 

「今日はちゃんと一緒に帰ってくれる?」

 

 

「……あぁ」

 

 

「ホントに? 絶対だよ!」

 

 

「わかってるって」

 

 

「また勝手に帰ったりしたらおばさんに言いつけるからね?」

 

 

「少しは信用しろよ……五月に中間テストあるだろ? どっちみち図書室でいままでの遅れを取り戻さないといけないからな」

 

 

「うげぇーまだ先のことじゃん」

 

 

「授業中に寝てたから、今回は俺もヤバい。せめて英語と数学だけでも頭に叩き込んでおかないと置いてかれる」

 

 

「エイタその二つ苦手だもんねー」

 

 

「人の心配してる場合じゃないと思うが、大丈夫なのか? 赤点だと部活停止で補習だろ?」

 

 

「中間でしょ? 余裕余裕。それにいざとなればエイタに勉強教えて貰えば良いからさ」

 

 

「ちょっとまて、俺だって追い込まれてんだ。自分の面倒くらい自分で見ろよ」

 

 

「選択教科を頼るのは流石にないけど、でも共通ならエイタの負担も少ないでしょ? それに言わない? 誰かに教えれば、教えた方も内容が身に付くって」

 

 

「相手に合わせてランダムに復習するよりも、自分のわからない場所を集中して振り返る方が効率いいだろ」

 

 

「ブーブー、エイタの屁理屈ー」

 

 

「うっせ」

 

 

「……一緒に帰れるんだよね?」

 

 

「そういってるだろ」

 

 

「それじゃあさ、いつもより早く迎えにきてよ」

 

 

「……顧問に怒られないか?」

 

 

「途中でいなくなるみたいだから大丈夫」

 

 

「それでもなぁ……」

 

 

「コツツミさんの部活での様子、確認したくない?」

 

 

「……」

 

 

「それともここで聞く?」

 

 

「……いや、自分の目で確かめる」

 

 

「勉強がひと段落してからでいいからさ」

 

 

 

 "じゃあ、また後でね?"と手を振って、道具一式を背負って体育館の方角へ。

 

 途中すれ違った生徒とちょっとした会話や別れの挨拶、軽い応援なんかをされたりして。体育館を通りすぎ、階段を駆け上がって、更衣室のある別館へ急いだ。

 

 

 

「ごめーんコツツミさん、喋ってたら遅くなっちゃってさぁ〜」

 

 

「いえ……」

 

 

 

 卒業生が置いていった剣道具と、ボクのお古の胴着が入った鞄を床から持ち上げて、コツツミさんは眼鏡を外した。

 

 片目を覆っていた髪が持ち上がり、ロングでウェーブがかった毛先が舞う。

 

 うわいつ見てもまつ毛なが。

 

 二重で目がおっき。

 

 鼻は高いのに細くって、唇なんてゼリーみたいにプルプルで……。

 

 エイタの目にはどう写るんだろう、なんて疑問は飲み込んじゃって、鍵を開け中に入る。

 

 

 

 ドサッとロッカー上に荷物を置き、隣のコツツミさんも同じように。

 

 バックから胴着を取り出し、そそくさと着替えるボクは隣をチラリ。

 

 スカートを下ろして、ムッチリと柔らかそうな下半身が現れた。

 

 比べるように視線を戻す。

 

 

 

 角ばって直線的な足。

 

 肉は肉でも筋肉質で、筋と骨が目立って細くって。

 

 お尻は小さいし平べったい。

 

 また一段と着替えが速くなる。

 

 

 

 剣道具を装着。

 

 面と竹刀をぶら下げて、さっさと更衣室を出た。

 

 出てすぐの壁に背を預け一呼吸。

 

 

 

 コツツミさんとの間には、いまだ会話らしい会話はない。

 

 もちろん、質問されれば答えるし、剣道で教えていないことは積極的に指導する。

 

 ただ、部活友達のような普通の会話をしてないってだけ。

 

 

 

 同情して仲良くなろうとするのはちょっと違うと思うし、かといって変に遠ざけたりするのもなんだかな。

 

 ボクに出来ることといえば、敵にも味方にもならない今の態度を突き通すくらい。

 

 

 

「お待たせしました」

 

 

「んー忘れ物はない? じゃ鍵閉めちゃうねー」

 

 

 




 
話を書いて不法投棄、過去七話分の収集ゴミはいずこ
https://www.ookinakagi.com/a-cursed-trash-can-that-makes-your-heart-chill8/

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