因みにこの世界の時間や暦は、1日は24時間、1週間は7日、1月は30日、1年は12ヶ月です
砂漠都市オービア
とある大きな酒場
酒場……酒を飲む場所、働いた後の大人たちの疲れを癒すオアシス。
酒場ではそれぞれの楽しみ方がある。
一人で静かに飲むもよし、みんなでワイワイ騒ぐのもよし、知らない奴と一緒に飲むのもよし、知人や知らない奴と喧嘩するのもよし、可愛い給仕係にちょっかいをかけて半殺しになり金を巻き上げられるのもよしと、そんなみんなの楽しみ方を受容してくれる場所。
そんな酒場で今日もならず者達が羽目を外しバカ騒ぎをしている。
「ギャハハハハ!!今日は俺の奢りだ野郎ども!!」
「「「ウォォオオ!!」」」
「おー」
ここはある酒場の一角。
丸い大きなテーブルに所狭しと並んだ料理と酒、それを囲む黒い肌の男4人と1人の少女。
全身傷だらけで隻眼の親分。
片腕や、鼻、指などの部位がない部下3人。
そして灰色のマントを纏う少女。
「まさか拾ったガキがあんな高値で売れるとは思わなかったぜ!!」
「いや、あの金額は当然じゃね?むしろもっと貰えたかもしれない……」
「確かにあの見たことない特徴の可愛いガキで……しかも男なんだから今回のオークションで金持ちの変態共に買われるはず」
「馬鹿野郎共が。あまり欲を出すな。確かに多少買いたたかれたかもしれないがしばらく遊んで暮らせる金には違いないじゃねーか」
「すみませーん、スイカジュースお代わりくださーい。あと豆の煮込みと唐揚げも追加で」
〜20分後〜
酒もいい感じに進み、みんなほんのりと顔が赤くならながらも飲み食いをやめず、バカ騒ぎをしている。
「生きている内に食べろ、飲め、遊べ!!死んじまった後に楽しみなんてないんだからな!!」
「いよッ!お頭!アンタ時々すげー深いこと言うよな!!」
「考えさせられる」
「何でこんな砂漠のキャラバンで奴隷を運ぶ仕事の親分やっていて見知らぬ少年を拉致して売り飛ばした人物の発言とは思え無いほど学がありますよね?」
「ズズズ、ムシャムシャ、ゴックン」
〜更に20分後〜
人間、40分もバカ食い続ける事は不可能……
ここいるならず者共もそれは同じ……
食べるのはやめ、酒を飲みしゃべることにシフトしている。
「それにしてもよ……」
「なんでしょう親分?」
「また下らない昔話ですか?」
「この人酔っ払うといつもそれだよな」
「給仕さーん、この焼き串追加でー」
「さっきから一緒に飲み食いしているこの女の子はだれだ?」
「「「「…………」」」」
話していたならず共たちと食事をしていた少女の動きが止まり、少女と親分に視線が集まる。
少女は奇麗な金髪、緑色の瞳で柔らかいたれ目、白く透き通るよおうな肌、体全身を隠すようなマントを羽織っているが、その胸はマント越しでも分かるくらい大きい。
そんな少女と全身傷だらけで顔が怖く、隻眼のおっさんが見つめあっている。
ぶっちゃけ事案である、憲兵がこんな場面みたら満面の笑みで親分が豚箱にぶち込まれるだろう。
「…………」
「…………」
「まぁまぁ、お気になさらず。あ、親分さんお酒が切れてますよ。私がお注ぎします」
「あ、これはどうも。いやー、こんな別嬪さんに酌をされるなんて夢みたいだ」
トクトクと、グラスに琥珀色の液体を注がれ、親分はその酒をグビっと仰ぐ。
「いやそうじゃなくて、お前本当に誰!?何当然のように俺たちと同じ席で飲み食いしてるの!?」
「奢りと聞いて」
「見ず知らずの奴に奢るほど俺の心は広くねーよ!!」
「俺はてっきり臨時収入でこの少女の事『買った』のかと思ってました親分。このロリコンクズ野郎、落ちるとこまで落ちたのかと思ってました親分」
「実は俺、お頭の事は睡眠薬盛って少年を捕まえて売り飛ばした辺りから見損なってました」
「え?マジで?俺も俺も」
「少年拉致って売り飛ばした件はオメーらも同罪だろうが!!」
ならず者の飲みに平然と参加している少女が只者ではない事と親分の株が下がっている事が確認できたと所で、ならず者達は仲間内で言い争いを始める。
「前から気になってたけどな、お前ら俺のことそんなに尊敬してねーだろ。さっき下らない昔話とか言ってたし」
「今更かよ……そこはテキトーに流せよ、だからその歳になっても結婚出来ねーんだろうが!!」
「喧嘩売ってんのか!?」
「ああ!!売ってるね、聞こえなかったのかオッサン!!」
左腕の無い部下と親分が一食触発の状態となる。
部下が喧嘩腰なのは酒が入っているせいなのか日頃の不満なのかはわからないが喧嘩になりそうな雰囲気になる。
親分は近くにあった空の酒瓶を手にし、部下は
他の部下2人はバカを見る目で2人を見ており、喧嘩を止めるつもりは無いらしい。
そんな中、少女かこの場にいる全員に聞こえるように言う。
「……所でですね」
「何だ!?」
「今取り込み中だ!!」
「私の事を『買った』と思ったとは、私の何を『買う』のですか?」
「「「「…………」」」」
コテンと首を傾げながら聞いてくる少女。
私の何を『買った』つもりなのだろうと無垢な目で聞いてくる。
その少女の行動で喧嘩をする空気では無くなり、男達は考える。
この純粋な少女に何て言おうか、と。
(え?説明する?俺は嫌だけど)
(卑猥な話をして幼気な少女の恥ずかしがる姿を見たいセクハラおじさんムーブしたい人は説明してどーぞ)
(なにこの純粋な生き物?)
(先ほど少年を拉致って売り飛ばしてきた俺たちにこの純粋さは毒だ)
そして男たちは見つめ合い……
「「「「まぁいっか」」」」
問題の先延ばしを決断した。
「そもそも一人増えた程度どうでもいいか!」
「そうそう!こんな可愛い子と一緒にいられるだけで幸せですよね!」
「よーし、飲み直しじゃー!」
「金はいっぱいあるんだ!酒も料理もじゃんじゃん持ってこーい!!」
「わーい」
〜更に更に20分後〜
ならず者共は酒を飲み、少女は食べる。
親分は顔を酒で赤くし完全に酔っ払っている様子だ。
「そういや、ヒック……嬢ちゃん……名前は何て言うんだい?」
「もう言ってることが酔っ払いオヤジのナンパだな」
「本当にな」
「すんませーん、この人酔っちゃったみたいでー、水をピッチャーで下さーい!」
「テメェらなぁ……」
後日、部下3人を〆ることを固く決意した親分。
そんな中、少女は……
「良いですよ」
「お?」
「マジマジ?」
少女からの同意を得て、興奮する男たち。
少女は食べるのをやめて席を立つ。
ならず者1人1人の目を見た後に彼女は大きな胸の前に右手を持っていき軽く会釈をしながら言う。
「私の名前はシュガーナ・マーナ・マーニ」
「みんなシュガーって呼んでますので、ぜひそう呼んでください」
シュガーは微笑みを浮かべながら自己紹介を行った。
その柔らかい笑みは老若男女関係なく魅了する力があった。
「おおお!」
「可愛い名前だね、君にぴったりだと思うよ!」
「すみませーん、水追加でー、ピッチャーじゃ足りないから寸胴鍋で持ってきてくださーい!そしてこのおっさんの頭に叩きつけてくださーい!」
(……ん?どっかで聞いたことがある名前)
シュガーの微笑みを見た男達は興奮し騒ぐ中、1人の部下はシュガーの名前を聞いた様な覚えがあるので思い出そうとする。
(どこかで聞いた覚えが……いや、見ただったかな?……ダメだ思い出せん)
「さて、皆さんへのご挨拶も済んだし、料理が冷めるから……」
「誰かァア!!おっぱいがデカい【聖女】がどこに行ったか知りませんカ!?」
酒場の外からバカデカい声で叫ぶバカの声が聞こえた瞬間シュガーの表情は死んだ。
「たっく、うるせーな。酔っ払いか?」
「騒がしい酒場よりうるさい声が外からするとは相当ですね」
「ああ、相当酔っ払ってるから、相当のバカだな」
「せっかくいい感じなのに、白けるぜ」
「……ソーデスネ」
男達は外で大きな声で叫ぶ人物に小言を漏らし、シュガーは頬を引き攣りながら片言で同意する。
「オイ!!そこのいかがわしいお店で遊んでそうなオッサン共!!爆乳の【聖女】と遊べる店知らねーカ!?」
「そんな大それた店この世にねーよ!!死んで別世界行って来い!!そしてどの辺がそう見えたのか詳しく教えろ、直すから!!」
「バカデカい声出しバカみたいな内容をバカみたいに叫ぶなバカ共!!そしていかがわしいお店によく通ってんのはこの愚弟だけだボケェ!!俺は1週間に1度ぐらいだ!!」
少女と思われる声と男性2人の声が聞こえてくる。
内容は大変バカらし過ぎて酒場にいる人間全員が白けた顔でお互いの目を見あっている。
「……あのバカ騒ぎしている兄の方もしっかり通ってんじゃねーか」
「取り敢えず週1で通うのは少ないか多いかについて」
「いや、週1も多い方だろ……」
「つまり弟は週1以上いかがわしいお店に行ってるってことで、あながちあのバカな少女の目はバカにできないな……いや、バカなんだけどさ」
「…………ホントにバカ」
シュガーは恥ずかしくなったのか俯き始め、他の人に顔を見られない様にする。
「誰がバカダ!!」
「グヴァア!?」
「あ、兄者ァァアア!?」
バゴン!!
ヒューン、ドーン!!
ガラガラガラ!!
何か重い音が響いた後にもう一度大きな音がして、何かが崩れる音が聞こえる。
「ウワァァアアア!!週1でいかがわしいお店に通っているオッサンがぁぁああ!!」
「オイ!!誰か憲兵呼んで来いよ!!」
先程の3人とは別の叫び声が聞こえる……丁度現場に居合わせた通行人だろう。
「……え?今の音何?」
「状況的にあのバカ女が週1でいかがわしいお店に通ってるオッサンを吹っ飛ばした音じゃね?」
「人間殴った時にこんな音出ないよ……ていうか殴った時の音が1番大きくね?」
「これ本当に人間が殴ったのか?バカなメスゴリラが殴ったんじゃ無いのか?」
「………早く終わって」
外から聞こえてくる音や声に戦慄する一同。
シュガーだけは歯を食いしばり、この時間が早く過ぎれば良いと願う。
「オイ!!週1以上でいかがわしい店に通っている弟の方!!金髪碧眼でおっぱいのデカい修道服を着たおっぱい聖女をワタシは探してんだよ!?」
「ぐるじぃ……首絞めないで……」
外ではバカなメスゴリラが弟の方の首を絞めながら探し人の特徴を言うが、首を絞められている張本人は答えるどころでは無い問題が発生しているので答えられない。
「……ちょうどここに」
「……金髪で」
「……碧眼で」
「……おっぱいの大きい少女がいますね」
「…………」
修道服こそ見えないが、大体の特徴に一致する少女シュガー。
多分マントの下に着ているだろうと思われる
シュガーは完全に俯いた。
耳まで真っ赤にしているので顔の方も可愛くリンゴのような赤に染まっていることだろう。
「質問に答えロ!!そんなおっぱい【聖女】がソ○プで働いてたら大変だろうガ!!もし本当にソ○プで働いてたら……ワタシが通うワ!!オールタイムで予約入れて男どもに触らせないようにするゾ!!」
「いや、そこは連れ出して助けろよ……」
「うるさイ!!」
「ぎィやァァアア!?」
ヴゥンヴゥンヴゥン
何かをふり回す音が聞こえ始めた。
「弟者が……弟者がァア!!」
「総員退避ィイイ!!どこに飛んでくるかわからないぞ!!」
店の外から、バカな少女でも週2回以上いかがわしいお店に通っている男の声でもない声が聞こえる。
「……これって人間を振り回している音?」
「……おい、お前、外見てこいよ」
「嫌だよ、絶対恐ろしい光景を目撃するだけじゃん」
「君の連れとても強いんだね……」
「………」
外ではどの様なバケモノが暴れているのか想像がつかない……
そんな中で、バケモノに襲われているいかがわしいお店によく通っているオッサンがまだまだ余裕を感じる声で言う。
「ふ、不覚を取ったがこの程度で俺の『体力』を消耗し切る事は……」
スポッ
「……あ」
ビューン
風を切り裂くすごい音が酒場の中にも響き……
ドーン
何かに激突する音が聞こえた。
「すっぽ抜けタ」
「「「お、弟者ぁああ!!」」」
どうやらいかがわしい店に週1以上に通ってるオッサンがぶん投げられたらしい。
そして、現場に居合わせたと思われる人たちの叫び声が聞こえる。
「これ通行人が叫んでんのか!?」
「あの週1でいかがわしい店に通ってる奴の弟だけどお前らの弟ではないだろーが!!」
酒場で声を聞くしか無い一同は見えないこともあって混沌としている現場とは違い、冷静なツッコミを入れる。
「クソッ!!こうなったら全てのいかがわしいお店を虱潰しに突撃するしかないのカ!?」
「おいバカやめろ!!」
「多分そんな場所にいないから!!そんな大それた事を誰もやらないから!!だから金髪おっぱい【聖女】のことはもっとまともな場所探せよ!!」
おっぱいおっぱい言われ続けたシュガーはついに耐えきれなくなり……
「おっぱいおっぱい言うな!!デカくなりたくってデカくなった訳じゃないよ!!」
「おいぃい!!今は君黙ってて!!色々と!!お願いだから!!」
「ほらおっぱいの小さい給仕係に睨まれるかr……」
「お客様ーお水を寸胴でお持ちしましたー」
ゴン!!
「ではごゆっくり~」
カツカツカツ
ビクゥンビクゥン!!
給仕係は去っていき、失言をした部下の一人……左腕がない男が水の入った寸胴で殴られて床に痙攣しながら倒れる。
「「「………」」」
「自業自得」
その水が入っている寸胴を
人間を振り回すバケモノと知り合いなだけはあるらしい。
「ハッ!しまっタ!!そういったお店があるということは知っているがどこにあるのかなんて知らなという事実に気付いてしまっタ!!」
「よし、いいぞ!!そのまま落ち着いて一生黙ってろ!!」
「クッソ!!これじゃ大切な幼馴染を探せないじゃないカ……」
「大切な幼馴染ならおっぱい【聖女】とか呼んでやるなよ!!」
心の底から絞り出したかの様な声で言うバカな少女。
まるで自分は大切な者も守れない弱い存在だと自虐する様である。
「……いヤ!確かにワタシはこの街のいかがわしいお店を知らない……しかし、弟者!!この街でお前以上に詳しい人間はいないはずダ!!」
「………」チーン
「確かに週1以上通ってるならその通りだが今はダメー!!」
「俺たちの弟者が死んじゃう!!」
「早く病院へ……いや死体留置所か?」
「カフッ……任せくれ……ハァハァ、この街全ての店舗は把握している」
「息吹き返したー!!」
「流石、弟者だぜぇ!!」
「まずはこのまま、まっすぐ行って繁華街より離れた所にある店だ。この前やっとポイントが溜まって割引サービスされるんだ」
「よし、分かっタ。このまま真っ直ぐだナ!!」
「それ、ただお前が行きたいだけだろうがぁあ!!」
「体のいい運搬係にしてるぞ弟者!!逞しいな!!」
「今行くぞ、シュガアアァァァ………」
「ちょっ、お前は気付けぇええ!!」
そのバカなメスゴリラはドップラー効果を残し弟者を連れて去っていった。
あまりの展開の早さに酒場にいる者たちではツッコミができなかった。
「「「「………」」」」
「……」
顔を伏せたシュガーという少女。
男たちはそんな少女の事をジト目で見つめているとシュガーはゆっくりと顔を上げ始めた。
その顔には微笑みがあった。
天使のような笑みで彼女は言った。
「あーやっとうるさい『知らない』人がどこかにいきましたね。折角の料理が冷めちゃいますんで早く食べましょうよー」
「「「笑って誤魔化そうとするな!!」」」
シュガーナ・マーラ・マーニ
現在【協会】が保有する戦力で最大の戦果を挙げるコンビの片割れ。
後にこの世界を終わらせる存在になるとはまだ誰も知らなかった。
実際の所、週1でいかがわしいお店に通うのは多いのだろうか……
あまりそういったお店に行かないから作者良く分からない
次の話も金髪聖女のシュガー
まだ話の流れでは書いてませんがこの少女が『愛を消費して奇跡を起こす』能力の持ち主。
何故、今回の話はシュガーと言う少女視点で書かなかったについては、作者がコメディみたいな感じで描きたかったのと愛を消費した人間の心理描写……つまり、特定の愛がない人物の考えていることは表現が難しいと判断したため。
プロローグにも書きましたが、この世界は願いの代償に大事な物を消費する世界です。
シュガーと幼馴染の少女もその例に漏れず、登場するまでの間に奇跡を願い代償を払っています。
次の話ではシュガーの消費した物についてとこの世界の『法則』や普通の人たちは何を考えているのかなついての説明回になります。
因みに主人公や登場人物達の名前は各神話や宗教の登場する神様や天使、悪魔の名前を参考に付けています