めちゃくちゃ堂々とあの方とか言ってるが第三勢力なんて存在しない   作:幽 

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大変、お待たせしました。
色々とごたごたしておりまして、すっかり遅くなってしまいました。
リハビリのため短めです。
また、感想等いただけました嬉しいです。


少女は騙る

 

 

 

虎杖悠仁はちらりと自分の前を歩く男を見た。淡い金の髪に、どこかやつれた印象を受ける男は淡々と彼の前を歩いている。

現在、残穢についてを教わった虎杖は前を歩く七海建人の後を追っていた。

 

(・・・・大丈夫かな?)

 

虎杖の脳内には、出発前に七海を紹介してきた五条悟のことを思い出した。

 

 

 

 

「ちょっとさ、気をつけてね。」

「何を?」

 

虎杖の言葉に五条は少しだけ気まずそうに頬を掻いた。

高専のとある一室、そこで顔を合わせをした彼について虎杖は不思議に思う。

七海は虎杖にとってなんとなく見たことがないタイプの大人だった。

スーツをびしりと決めていて、静かで、背筋を伸ばした、厳しそうな人だ。

虎杖が見る限り、そこまで自分が何かを気にするような必要もなさそうだった。けれど、五条はそれに含むように肩をすくめた。

 

「そうだねえ。まあ、どうせわかることだろうけど。実はね、十数年前、七海が高校生だったとき、同級生が任務中に死んだんだよ。」

 

それは、まるでありきたりな思い出話を語るように簡素な声だった。虎杖は虚を突かれたかのように目を見開いたが、すぐに持ち直す。

良くも悪くも、彼の知る五条というそれはそういった存在だった。

 

「で、今回の任務で死人がひょっこり顔を見せたらしくてね。」

「死んだ人が?」

「・・・・・どうせ、よく似た顔か、術式だろうさ。」

 

目は見えなかった。どんな顔をしているかなんて、よくわからない。けれど、あまり虎杖の知らない顔だった。

 

「本当なら別の奴に行かせたいけど。それも無理だし。まあ、大丈夫だと思うけれどね。」

 

 

 

不安感があるのは、ひとえに彼が纏う空気のせいだ。

ひりつく。

焼け付いて、雨に打たれたように冷たくて、どこか、雫がまなじりからこぼれるように。

 

(・・・じいちゃんみてえ。)

 

昔、以前、滅多に見たことはなかったけれど。

祖父が、時折そんな顔をしていた。兄の、いなくなった日はそんな顔をしていた。祖父が気づかれていると知っていたのかは知らないが。それでも、虎杖はそんな顔を知っていた。

なんとなく、ちゃんとした大人なんだろうなあと分かりはした。

態度だとか、空気だとか、物言いだとか。

それでも任務中、ずっと彼は何かを探すように、いつかにどこかで見た迷子のように寂しい。

虎杖は、もちろん大丈夫なのだろうかなあと思った。五条のお墨付きだってあったのだ。

けれど、陰った顔を見ていると奇妙な不安感はついて回っていた。

 

 

 

 

 

「つまんなーい!!!」

 

自分の、丁度頭上から聞こえてきた声に真人は思いっきり顔をしかめた。真人がいるのはアジトにしている下水道だ。人があまり立ち寄らないそこは隠れ棲むには丁度良い。

真人は一通りの自分の能力における実験を休み、のんびりと本を読んでいた。壁に掛けたハンモックにのんびりと横たわっていたとき、けたたましい声が聞こえてくる。

真人はそれに思いっきり顔をしかめた。

声のする方、頭上に張り巡らされたパイプの一つ、その上に何かが中腰で立っていた。

それは、少女だった。

呪霊である真人の価値観は別にして、ゴスロリを身に纏ったそれは独特の雰囲気だった。

黒い髪をツインテールにして華奢な日傘を持っている。

それは不満げに真人を見下ろした。

 

「ねえ、スライム、まだ帰らないの?」

「・・・・スライム?」

「だってえ、ぐちゃぐちゃだし、姿変えられるし。モンスターじゃない。」

 

きゃらきゃらと耳につくあざ笑いに真人は一瞬むかりと苛立ちが湧き上がる。殺してしまおうかと、懐に忍ばせたものを取り出そうとした。

けれど、脳裏に彼の大好きな黒のことを思い出す。

 

「真人、この子を使ってくださいますか?」

 

そういって黒が連れてきたのは一人の少女だった。小柄で、ふわふわとした衣服を纏ったそれはつんと澄ました風に真人から顔を背けていた。

それに真人はハズレを引いてしまったことを理解した。

宿儺の指を全て奪うために呪術高専に侵入する必要がある。けれど、それもすでにスパイを送り込んでおり、尚且つ蔵までの道順は脹相がいれば事が足りる。

そのため、呪術高専の交流会までは自由になっていた。

真人はといえば自分の能力について実験、そうして、出来るならば話題の中心である虎杖悠仁への興味が尽きなかった。

真人はともかくはととある町を拠点として、自分の能力を試すことにしたのだが。

そこで黒も是非とも真人の能力を知りたいと言ってきたのだ

それに真人はるんるんになった。

だって、大好きな黒と一緒に過ごせるのだ。けれど、蓋を開ければクソガキが一人ついてきただけだ。

 

(放っておいてもいいって言ってたけどさ。)

 

言葉の通り、未だ小学生程度のそれは特別な世話はいらなかった。

基本的に彼女は真人の実験を興味なさそうな顔で眺めているだけだ。

 

(殺しちゃおっかなあ。)

 

そんなことも考えることもあるが、実際に何かしようとする彼女はせせら笑うように言ってくる。

 

「私に何かあったら黒が怒るわよ!なんたって、私はあの人のお気に入りだもん!」

 

むかつく、その一言に尽きる。

それを嘘だとせせら笑いたいが、本当の可能性もある。そのため、それの言動に関しては無視することに決めていた。

だって、もしも殺してしまって黒に嫌われたらどうするのだ。

真人は心に浮かべる。

ただの青年だ。けれど、思うと焦がれて、欲しくて、求めてやまない。

欲しい、大好きだ。

それだけが心を覆ってしまうのだ。

だから真人は必死にその少女を殺すという意思をねじ曲げて、飲み込むのだ。

生まれて初めて味わう、強烈な執着は麻薬のように真人を魅了していた。

それでも早く離れてしまいたいというのが本音であった。

 

「ねえ。」

 

そんなことを考えていると、唐突に少女、赤が声を漏らした。それに、真人もようやく気づく。

自分たちのアジトにしている下水の出入り口、そこに配置した改造人間の気配がしないことに。

 

「お客さんよ、あんたがもてなしなさいね。」

 

命令口調のそれにまた軽く苛立つが、それよりもさっさとその場から離れることを真人は選んだ。

 

 

 

 

「あっはははははははははは!!」

 

きゃらきゃらと、まるで感情を抑えきれない子供のような声に七海は上を向いた。

そこには、幼い子どもがいた。黒い髪をツインテールにしており、やたらとごてごてとした服装をした。

 

(ご、すろり?)

 

予想外の存在に七海は目を見開いた。彼が作った瓦礫の山の上でそれは笑っていた。

愛らしい少女だった。くるりと、華奢な印象を受ける傘を持っていた。

 

「スライム死んでんの!ばっかみたい!」

 

にやにやとそれは笑って瓦礫の上で七海を見下ろした。

 

「さいっこう!ねえ、あんた、褒めたげてもいいよ?」

「・・・・あなたは?」

 

七海は溢れるような苛立ちを隠すこともなく言った。

 

七海はずっと苛立っていた。

それは、最初はきっと怒りだった。灰原雄の生存が確認された、そんなものは嘘だと思った。それはきっと、都合の良い、嫌がらせじみた何かであるのだと。

五条から散々に聞かされている第三勢力というもののこともあった。けれど、あのとき、見せられた画像の悪い監視カメラの映像。

ありえないと、幾度も考えた。そんなことはないだろうとあざ笑った。

なのに、なのに、それでも、七海は理解してしまったのだ。殆ど映ってなどいない黒髪の男。

それが、己の友であるのだと、確信してしまった。

あの日、死体を残さずに消えた。いつかに、空っぽの棺桶を見送った。

体の芯から冷えていくようなそれを、覚えている。割り切ったとか諦めたとかそんなものではなくて、あの日に感じた死の手触りを知ってしまった。

永遠の喪失も、別れも、そういうものだと理解してしまった。だから、一度はここから去ったのだ。

なのに、今更、あの日々が夢であったのだと告げるそれに怒っていた。

 

「何よ、仏頂面でつまんないわね。」

 

ふんと息を吐いた少女に、七海は眉間に皺を寄せた。真人にやられた横っ腹が痛んだ。

 

「ま、いっか。でもね、せっかくあたしのこと良い気分にさせたんだから、ごほうびをあげなくちゃっね!なにがいい?」

 

その仕草はひどく傲慢で、どこか、彼の先立ちである銀髪の彼のことを思い出させた。

 

(さすがに、先ほどの呪霊レベルをもう一度はキツい。)

 

何よりも、目の前のそれは呪霊なのか。先ほどのように、限りなく人に見えるだけの存在なのか。

少女は黙り込んだ七海に釘を刺すように言った。

 

「言っておくけど、あたしのこと、スライムと同じだとか思わないでよね。それってさあ、すっごい気色悪いから。」

「・・・・人間が、呪霊の手助けをしていると。」

「そ。まあ、あたしは黒のお願いを聞いてるだけだから、理由とかどうだっていいけど。」

(・・・・もしや。)

 

以前、五条を狙った特級呪霊の件がある。その特級とも繋がりがある場合。

人と呪霊の共同戦線。

嫌な言葉が脳裏に浮かんだ、その時。少女の弾むような声が飛び込んでくる。

 

「ねえ、聞きたいことがあるんでしょう?」

 

少女の、真っ黒な瞳と視線が交わった。その瞬間、何故だろうか、緊張していた意識がふっと緩んでしまった。

聞きたいこと、答えてくれる保証はなくとも、時間稼ぎだとしても、言うべき言葉はいくらでもあった。

けれど、何故か、その時、七海の口から漏れ出たのは。

 

「灰原を、知らないだろうか?」

 

ずっと、仕事であると理解して、張った緊張の奥で、ずっと揺らいでいた怒りの奥で、立ち止まった幼い自分が、こぼれ落ちた。

いるはずがないのに、死んだはずなのに。わかっているのに、それでも、こぼれ落ちる心があった。

もしも、本当は、奇跡が起きて、なにか、ひどく幸運に。

己の友人が、生きてはいないかと。

 

「はいばら?ああ、知ってるわ!」

 

心の底から、楽しげな声がした。それに、七海は顔を上げた。

 

「黒が飼ってる下僕でしょう?」

 

ひくりと、喉の奥で何かが呻いた。きゃらきゃらと、少女が笑う声がする。

 

「知ってる、黒髪の童顔の人でしょう。でも、そっかあ。確か、呪術高専の子を拾ったって言ってたもんね。大丈夫、安心して!」

 

とっても使い勝手がよくて大事に使ってるから。

 

何も考えられなかった。ただ、体の中で何かが爆発したのだと思った。振りかぶり、もう、ギリギリの呪力を巡らせる。

けれど、それよりも先に、少女は持っていた華奢な傘を思いっきり振り回し、そうして七海の刃を吹っ飛ばした。

術式か否か、少女と思えないほどの剛力に七海は抵抗が出来なかった。かーんと、甲高い音が響き渡る。反動でじくじくと痛む腕を七海は押さえた。

 

「ダメよ。だって、そんなぼろぼろのあんたと遊んでも楽しくないでしょう?」

 

いつの間にか、自分の目の前まで、飛んだと表現して良いほどの動きで少女は近づいてきていた。

 

「ねえ、遊ぶなら、今度思いっきりしようね!」

 

少女はそう言い放ち、たんと飛んだ。瓦礫の山の向こう側、そこへとまるで映画か何かのような動きだった。

きゃらきゃらと、変わらず笑い声が響いていた。

 

 

 

 

「・・・・・もしもし?」

『もしもし!』

 

祐礼はスマホから聞こえてくる大きな声に眉間に皺を寄せた。

 

 

「血塗、声がでかい。」

 

電話は、ほかの拠点で頼み事をしていた血塗だった。

 

『あー、悪い。にしても、黒、声が高くないか?』

「仕事先で少し変装してるんだ。」

『それでか!』

 

祐礼は現在、人目を隠れる形で拠点として使っているある部屋にいた。

 

(・・・反転での力はどうしても体に影響は出来ても服まではなあ。)

 

おかげで姿を変える場合は、服の影響でどうしてもそのままでなくてはいけない。

七海との接触の後、祐礼はあることが確かめたくて血塗に電話していた。

 

「・・・・・虎杖悠仁と例の少年は接触したか?」

『ああ!ちゃんと、弟の頼み事を俺は遂行したからな!』

「・・・・ああ。ありがとうな。」

 

『それでな、夜1号で監視してたんだけど。虎杖とあの子、すぐに仲良くなって、そのまま家に夕食を食べに行ったみたいだぞ。』

(・・・・それについては筋書きと同じか。)

 

祐礼は予想通りのことに頷いた。このままならば、おそらく吉野順平は監視下に入るだろうが誤差の範囲だ。

 

『あと、虎杖たちの周りに不審な人影もなかった。』

「わかった、ありがとうな。」

『まあ、今回は夜1号も頑張ってくれたからな!』

 

夜1号とは、真依が新しく作った呪骸である。カラスの姿を模したそれは色々と特殊なものだ。

まず、カラスの姿をかたどったそれは偵察用に作ったもので視覚を術者とリンクさせることが出来る。生物の動きは元々、脳におこる電流だ。そこに目を向けた真依は、コントローラで動く、ドローンもどきの呪骸を作り出した。作り出した呪石を電池のように扱えば非常に利便性の高い偵察機になった。

何よりも、呪骸の核としているのは血塗の体から作り出したものだ。

 

(一回きりとは言え、血塗の術式を使えるのはいいな。)

 

意外、と言うほどではないのだろうが、血塗は何故かゲームなどの電気系統にやたらと強かった。元より、兄弟の中で一番人としてかけ離れた彼は家の中で暇を潰す方法というものに模索する必要があったというのもある。

おかげで、術式だけでなく、真依と合わさったときの彼らは隠密兵として非常に優秀だった。

祐礼はそれに素早く、これからのことを考える。

 

(七海の怒りは煽ったし、絶対に真人を追うだろうな。それが決まったら、そうだ、悠仁のことも誘い出さないと。)

 

人が死ぬ、いや、真人の所業を無視した時点で似たようなものなのだろうが。

それでも、祐礼はこれからの計画についてを考える。

 

『・・・・・黒?』

「うん?ああ、そうだ、ご苦労さん。監視についてはもう。」

『疲れてないか?』

 

思っていた数倍、優しげな声に祐礼は一瞬だけ動きを止めた。

 

「・・・・まあ、それ相応にな。」

『なんか、帰ったら食いたいものないか?兄者に頼んどくぞ。』

「ありがとうな。帰るときは、真依と灰原と一緒だ。だから、その時に頼むよ。」

『わかった!黒、安心しろよ!俺、お前の兄ちゃんだからな。もっと、頼っていいからな!』

 

黒はそれに、か細く、ありがとうと言い、そのままスマホを切った。

黒い画面に反射した少女は、沈んだ瞳でそれを眺めていた。

 

(・・・・・人質だ。悠仁をおびき寄せる、人質。)

 

けれど、すぐに思考は切り替わる。

 

(七海に呪霊と組む人間のことをアピールして、そうして餌である灰原のこともアピールした。次は、悠仁だ。)

 

祐礼はそんなことを考えて、スマホをさっさと仕舞った。

 

祐礼が考えているくもなんかの設定について知りたいでしょうか?小説の中ではたぶん部分的にしか出てこないので、関係ないと言えば関係ないんですが。

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