めちゃくちゃ堂々とあの方とか言ってるが第三勢力なんて存在しない   作:幽 

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感想、評価ありがとうございます。感想いただけましたらうれしいです。

とある姉妹のあれこれについて。
これだけは早めに書いておきたかった。
わかりにくかったらすみません。

https://odaibako.net/u/kaede_770
何かありましたら。


妹が騙る

 

「諦めろ。」

それが、あの日、妹がいなくなって父に言われた言葉だった。

「仕方が無い。」

それが、あの日、妹を失った母が言った言葉だった。

 

「その価値がない。」

それが、禪院真希の妹に、彼女の一族が下した結論だった。

 

 

妹を見つける。

それが、禪院真希が生涯をかけると誓ったことだった。

そのためには力がいる。

だから、真希は、全てをかけて鍛錬を続けていた。

どれだけ、罵倒されようと、どれだけ尊厳というものをドブに捨てられようと、愚かな女だと言われても。

 

探していた、探していた。

生きているのだ。死んでいるのなら、自分にはわかるはずだから。どこかできっと、生きていて。

あの、泣き虫な妹は、お姉ちゃんと言っているのだと。

そう、信じていた。

 

 

「お前さん、どこにいくんだ?」

「・・・誰だ、てめえ。」

 

当時、中学生だった真希は、雪の降る日に家出をした。持っているのなんて、数日分の衣服、こつこつ密かに溜めた金銭、そうして、こっそりと盗んだ呪具。

何も言わず、何も告げず、ただ、ただ、禪院家から真希は出た。

何かを告げる意味も感じなかった。だって、何かを言ったとしても、それは悉く無意味であるとわかっていたからだ。

 

探さないと、あの子を、弱い子だから、泣き虫だから。

あの子を、ねえ、酷いことをされているかもしれないのに、お腹を空かせているかもしれないのに。

ねえ、ねえ、ねえ、母さん、父さん。

どうして?

 

ソノカチガナイ。

 

それで、終わり。それが、真希の妹が、禪院真依が見捨てられた理由。

だから、真希はもう、己の家に期待する気がなかった。

吹雪のような日に家を出た。足跡は、すぐに雪がかき消した。行く当てがないわけではない。

少なくとも、真希のような身体能力があれば、場所を選ばなければ行く当てはあった。

 

吹雪が、珍しく、びゅーびゅーと吹く風と己に叩きつけられる雪なんてもの、気にもならなかった。

こんなもので死ぬことさえも出来ない身だ。歩いて、歩いて、未成年の身のためにどこにも泊まれないために高速バスに飛び乗って、当てもなく東京に向かった。

人が多ければ、紛れることも出来るだろうと思った。

そうして、バスから降りて、あてどもなく歩いていた時、目の前に、人影が現れた。

 

「じじいに、教えてくれるか。」

「・・・誰だ、てめえは?」

 

真希は目の前のそれが呪術師であることをすぐに覚った。一般人と名乗るには、それはあまりにも異装であることもあった。

ゆっくりと真希は逃げる用意のために体勢を整える。けれど、その老人はとても悲しそうな声音で言った。

 

「・・・・妹を、探しているのか?」

 

それに真希は、目の前のそれが己が誰であるかを知っていることを理解した。それに、彼女は何のためらいもなく、その場から逃げ出そうとした。

リスクを冒せないと判断したのだ。けれど、それよりも先に、真希は己ががくんと落下していることを理解した。

 

(浮んで?いや、違う!空に落ちてやがる!?)

 

空が、ぐんぐんと近づいてく。それと同時に、ぐるりと視界が回った。それに、真希は自分が今度こそ地面に落ちていることを理解した。

真希はそのまま地面に着地する。

 

「そう、警戒するな。少し、話をしようじゃないか。ちなみに、逃げても、向かってきてもさっきみたいに強制バンジー付きだがな。」

「それで警戒するな、なんてよく言えるな!うちからの追っ手か?」

「・・・それをするほど、あの家はお前に価値を見いだしているのか?」

 

それに真希の中で怒気が膨れ上がる。

 

価値がない?今、この男は、価値がないと言ったのか?

 

「黙れ!」

「・・・ああ、そうか。価値の話か。そうだな、お前の妹の捜索は、価値がないと打ち切られたのだからな。」

 

それに真希はがなり立てるように声を吐き捨てた

 

「勝手なこと言いやがって!!」

 

だんと、コンクリートの地面に足を踏みしめた。

 

「価値、価値、価値!価値って何だよ!娘なんだぞ!?一族の、子どもなんだぞ!女だからなんだよ!術式がしょぼいからってなんだよ!それだけで、あいつは捨てられるのか!?それだけで、全部、全部、切り捨てられるのかよ!」

そんなの、嫌だ!

そんなの、あまりにも、むごいじゃないか。

ああ、わかった。なら、思い知らせてやる!無価値だと、意味が無いと、切り捨てた自分たちがどれほどのものなのか。

お前達に、刻みつけてやる。

 

まるで、もの悲しい獣の咆吼のよう声だった。痛みにもがく子どもの泣きじゃくる声に似ていた。

 

「・・・・そうだな。」

 

静かな声に、男に視線を向けた。男は、ゆっくりと真希に近づいた。

 

「そうだ、多数にとって価値のあることと、お前さんにとって価値のあることは違う。お前には、お前自身の祈りが有り、それ以上がないほどの宝がある。だが、禪院真希よ。お前は、あまりにも弱いねえ。」

 

その声に、侮蔑はなかった。その声に、哀れみはなかった。その声には、ただ、冷淡に事実を突きつける厳しさだけがあった。

 

「俺も、探しているんだ。俺も、ただ、他にとって無価値に贄にされるべきと断ぜられながら、それを赦せなかったものがある。」

 

老人はそう言って、そっと、真希に手を差し出した。

 

「俺は、お前に救いを与えられない。俺は、お前の望みを叶えることは出来ない。ただ。」

お前が目的を遂げるための力をやろう。

 

そういった、老いた男を真希は見上げた。そうすれば、そっと、老人は彼女の頬に触れた。振り払おうとした、けれど、その瞬間、己の頬に触れた荒れた、老いた手に、何かががらりと変わってしまう。

その男が、己と同じであるのだと。

何かを亡くして、何かを探して、ここにいるのだと。その目を見て、真希は、目の前のそれが己と同じものであると理解する。

だから、だろうか。

真希は、その時、何者であるかもわからない男の手を、取ってしまったのだ。

 

 

 

そうして、話はトントン拍子に進んだ。

妹の情報を集めるには必要だろうと、呪術高専の生徒という身分が与えられた。そうして、禪院家がうるさいだろうと、五条悟という後ろ盾も。

何よりも、真希にとって幸いだったのが。

「俺のと、同じねえ。」

己と同じ、天与呪縛を持つ男。真希としては認めたくないが、彼女にとって師である伏黒甚爾の存在だった。

 

「いいか、お優しく俺がお前に指導してやるなんて都合の良いことを考えるなよ。」

 

それが伏黒甚爾の発した最初の言葉だった。

言葉の通り、甚爾は真希に何かを教えてくれることはなかった。ただ、仕事に付き合わされ、吹っ飛ばされ、たたきのめされるだけだった。

けれど、それは真希にとっても幸いだった。彼女にとって言葉よりも、物質的にたたきのめされる方が理解できることが多かった。

何よりも、真希は甚爾のことを気に入っていた。

彼は、真希を哀れむことも、同情することもなかった。会話なんて事務的なものが殆どで、組み手をしろと言っても無視されて、競馬場に連れて行かれたり、男の義理の娘や息子たちの元に置いていかれることも多かった。

けれど、男は、真希の禪院家の扱いを理解していて、それでも哀れむわけでも、同情するわけでもなくて。

男にとって世界とはシンプルで、自分か、それ以外かのようだった。いくつか、思い入れのあるものがある程度で。

それ以外、心底どうでもいいという顔をしていた。

だからこそ、真希は、男を好きではなかったけれど、嫌いでもなかった。

 

「・・・・いいか、お前は俺と比べて半端なんだよ。」

「・・・私に半端に呪力があるって話か?」

「ああ、技術はあがっちゃいる。場数は踏ませたからな。」

 

それに真希は顔をしかめた。

勘は冴えていると理解できた。それは思考してから、体を動かすという行程に無駄が少なくなってきているがためだ。

それは、とある仕事帰り、高専からの迎えを待っていたときのことだ。疲れてしゃがみ込んでいた真希に、甚爾は唐突にそう言った。

俗に言う、うんこ座りで向かい合った二人はそんな会話をした。そうして、甚爾は何か、奥歯に物が挟まったような顔をする。

 

「お前、なんでそんなによええんだ?」

「あ゛!?」

 

甚爾のそれに真希はがなり立てるように叫んだ。

 

「んだてめえ、嫌みか!?」

「嫌みじゃねえんだけどなあ。」

 

甚爾はがりがりと頭をかいた。

 

「お前は、俺よりも半端だ。けどな、にしても、弱すぎるんだ。」

 

何故だ?

そんなこと、真希自身が知りたかった。けれど、何か、それを真希は何故か口に出来なかった。

何故?

何故?

何故、己は弱いのか。

甚爾の言葉、それの意味を、真希は。

 

「ねえ、お姉ちゃん、久しぶりね。」

「ま、い?」

 

掠れた声でそう言えば、彼女の双子の片割れは、くすくすと楽しそうに笑った。

 

その日、真希は後輩である釘崎野薔薇を助け、一人で森を進んでいた。何か、高専内で何かがあったことを察して、状況を伺うために高所に向かっていたときのことだ。

声が、かけられた。

とある木の上から、まるで、遠い昔に絵本の中で少女に話しかける猫のように。

その先にいた存在に、真希は目を見開いた。

わかる。

理解できた。

 

「あはははは、すごい、鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をしてる。」

 

軽やかな声で、それは笑っている。

 

お姉ちゃん、なんて呼ばれたからではなくて。

そこまで変わらない面差しをしているからではなくて。

理解できたのだ。

己の中に、ずっと、ちぎれることなく存在していた、繋がり。

 

「まい?」

 

掠れたような声で、名を呼んだ。求めるように、手を伸ばした。それに、彼女は、禪院真依はたんと軽やかに飛んで見せた。

真希は泣きたくなるような感覚で、手を伸ばした。ただ、手を伸ばした。

それに、真依は、わかっているかのような顔で、その腕の中に飛び込んできた。

 

「お姉ちゃん!」

 

揺るぐことなく、真希は女を胸に抱いた。暖かな、体温は、まるで昔からそうであるかのように、まるで、このまま抱きしめ合っていれば、溶け合って一つにでもなるような、感覚。

 

ああ、ああ、かえってきた!ようやく、かえってきたのだ!

 

「やだ、お姉ちゃん、泣いてるの?」

 

自分の肩口に冷たさを感じたのか、真依はきゃらきゃらとそう言って。それに、真希はその背中に手を回したまま、真依に言った。

 

「お前、お前、今まで、どこにいたんだよ!?」

 

真希はばっと片割れのことを確認した。

艶々とした肌、上等そうな衣服、整えられた髪、そうして。

 

「どうしたの、お姉ちゃん?」

 

ああ、なんて。

 

「お前、真依、なあ。」

 

「ふふふふ、久しぶりだものね。きっと、驚いちゃったわよね。でもね、お姉ちゃん、喜んで!私ね。」

 

真希は喉の奥に張り付いたような感覚。それを、口にしようとした。けれど、それよりも先に真依が口を開いた。

「お姉ちゃんのこと、迎えに来たの!」

 

なあ、教えてくれよ。

 

朗らかな、その笑み。まるで、愛されて、ふくふくとして、それこそ、この世の春の中で育ったかのように、少女は幸福そうに笑っていて。

なあ、真依。

なあ、お前はさ。

 

(私がいないどこかで、泣いていたんじゃないのか?)

 

なんて、誰が言えたものだろう?

 

 

「お、お前、何言ってるんだよ?」

「何って、そうよね。怒ってるわよね。散々、お姉ちゃんのことを、私、放っておいたし。」

 

真依はそう言って、真希の腕の中から抜け出して、そうして、たんと踊るように真依に背を向けた。

 

「でもね、仕方が無かったの。お姉ちゃんのこと、連れ出せる理由がなくて。黒にも、ねだったけど、許可が下りないって。」

「だから、何言ってるんだよ。黒って、誰のこと言ってるんだ?」

 

それに真依はそうだったと顔に浮かべて真希に振り返った。そうして、ぱんと両手を叩いた。

 

「そっか!そうね、言ってなかったんだ。なんか、いっつも、そこら辺は周知されてるから。」

 

真依はそう言った後、着ていた黒いスカートを気取ってつまんでお辞儀をして見せた。

 

「改めまして、私、幽霊が一人、冠する色は紫、紫苑と申します。くもに仕える者が、一人と、お見知りおきを。」

 

そう言って、真依はやっぱり笑うのだ。本当に、何の憂いもなく、満たされた子どものように笑うものだから。

真希はその台詞に目を見開いた。

 

くも。

 

それは、真依を攫った存在として何よりも先に名前が挙がったものだった。

くも、相当古い呪詛師組織らしく、それを追っているのは、家系で因縁を持つ黒鷲たちぐらいである。

そんな黒鷲たちにさえも尻尾を掴ませない、裏組織。

 

「やっぱり、奴らに攫われたのか!?」

「うん、私も組織の一員で、おまけにけっこう良い立場にいるのよ?」

「おま、何言ってるんだよ!?いや、それよりも、なんでここにいるんだ?」

「ああ、実はね。くもからの命令で呪詛師を集って呪術高専に殴り込みをかけてるの。で、私はそれに混じってお姉ちゃんに会いに来たんだ。」

 

そう言って、真依は当たり前のように真希に手を差し出した。

 

「それでね、お姉ちゃん。待たせちゃってごめんね。」

さあ、一緒に行きましょう?

 

それに、真希は自分が何を言われたのか、理解できなかった。

 

 

「お前、何言ってるのか、わかってるのか!?」

「何って、一緒に行こうって言ってるじゃない。ああ、安心してね。他の人、みんな優しいし。黒とか灰原のご飯もおいしい。お小遣いだって貰えるから。」

「んなことを聞いてねえんだよ!?呪詛師だぞ!?お前、呪詛師に加担しろって、私に言ってるのか?」

 

真希は頭をかきむしりながら言った。

何もかも、意味がわからなかった。

ずっと、探していた妹は、何故か今になって目の前に現れて、そうして、自分を呪詛師に誘っているのだ。

喉の奥からせり上がってくる不快感、それに、真希はくらくらする。

そうだ、この、妹は、呪詛師に育てられたのだ。

それの意味すること。

真希はふらふらと真依を見た。それは不思議そうに、自分を見ていた。

 

(真依は、いったい、ここまで大きくなるのに、何を、させられてきたんだ?)

 

考えるだけで吐き気がした。可能性を理解するだけで、くらくらと頭が痛くなった。

 

「まい・・・・」

「なーに、お姉ちゃん?」

 

それに真希は、目の前のそれが、幼い頃の、泣き虫で甘ったれの妹であることを理解した。だからこそ、真希は息を吐いた。

真希は、真依の手を握った。

 

「真依、帰ってこい・・・・・!」

 

それに真依はなんとも言えない顔をした。

 

「このまま五条のところに行くぞ!あいつなら、お前の保護を約束してくれるはずだ!それがダメなら、黒鷲のじいさんがいる!」

 

真依、と真希は妹の名前を必死に呼んだ。

 

「禪院家のことなら、姉ちゃんに任せろ!私がもっと強くなって、あいつらのことだって黙らせてやる!今度こそ、お前のこと、守ってやるから!だから!」

「呪詛師のどこがいけないの?」

 

真希のそれに、真依は平然とそう言ってのけた。それに、真希は目を見開いた。真依はふうと息を吐いて、その手を振り払った。

真希は何故、己の手が振り払われたのか、いいや、その言葉の意味を理解できずに真依を見つめた。

真依はゆっくりと目を細めて、真希を見る。

 

「呪詛師であることの何がいけないの?」

「何故って、お前、そんなこともわかんねえのかよ!」

「だって、呪術師は私たちを救ってくれなかったじゃない。」

 

それに、真希は何と応えて良いのかわからなかった。

何故?

それは、倫理の話か?それは、ルールの話か?それは、人が群れて暮らすための社会性の話か?

何故、呪詛師ではダメなのか?

答えられるものはあった。ただ、それが正しいから。

けれど、真依のそれ。

 

ならば、何故、自分たちは、あの家で、あんな扱いを受けたのだろうか?

彼らは、正しい者であるはずなのに。

真依は不思議そうに首を傾げて、散歩でもするように手を後ろに組んで数歩、歩く。

 

「呪詛師になってはいけない。それは、人が社会に溶け込む上で必要なルールの上での話でしょう?人を何故殺してはいけないのか。それは、人に殺されないという相互作用で必要だから。でも、お姉ちゃん。呪術師になって、そのルールを守って。私たちのこと、守ってくれる人なんていないじゃない。」

 

くるりと、真依は踊るようにターンをして真希に振り返った。その顔には、柔らかな笑みがあった。

 

「私、優しくして貰ったの。当たり前のように、テストで良い点を取ったら褒められて、怖い夢を見たらあやしてくれて、誕生日には大きなケーキに好きな料理とか、誕生日のプレゼントだって、もらえて。ねえ、お姉ちゃん、私ね、好きな人がいるの。」

 

それに真希は大きく、目を開き、まぶたが引きつるような感覚がした。

 

「誰だよ、それ。お前、自分を誘拐した奴らに、そんなこと考えてるのか?」

「どうしてそんなことを言うの?あの家のほうがずっと、ずっと、地獄だったのに。私ね、その人の側にいたいの。その人のために、どんなことだってしたいの。でも、ずっと、お姉ちゃんのことが心配だった。」

 

その言葉と共に真依は真希へと足を進め、そうして、抱きしめた。

混乱する真希は固まりながら、されるがままに抱きしめられる。

 

「ごめんね、一人にしちゃって。ずっと、私のこと、守ってくれてたのに。だからね、お姉ちゃん。」

 

真依は、まるで、ああ、輝かんばかりの笑みを浮かべて真希の顔をのぞき込む。

 

「今度は、私がお姉ちゃんを守ってあげる。」

 

守る?

真希はそういう己の妹を見た。

ずっと、真希が守り続けていた。妹。弱くて、臆病で、柔い、地獄のような世界の中で、唯一愛せた生き物だ。

それが、笑っている。

己のことを守るなんてことを言って、笑っている。

 

ふざけるな。

 

真希は真依の手を振り払った。

 

「守ってあげる!?お前、何言ってんだよ!お前と私のこと、引き離して、お前のことを攫った奴らに加担した奴らのところに、行けって言うのか!?」

 

真希はそのまま、持っていた呪具を握りしめた。

 

「私は、お前を攫った奴を赦さない!絶対に、赦さない!そうだ、あの家は私たちを疎んだだろうさ!でもな、それでも、一歩踏み出せば差し出される手はあった。ガキを攫って、てめえの好き勝手なことを教え込むような奴らに、お前を渡さない!」

 

真依、そう、それは少女の名を呼んだ。

 

「帰ってこい!今度こそ、私がお前のことを守ってやるから!」

 

それに真依は息を吐き、そうして、手を真希に突き出した。そうすれば、その手に一つの拳銃が現れる。

 

「・・・・やっぱり、こうなるのよね。」

 

その言葉と共に、真依はためらいなく引き金を引いた。

 

 

「真依!」

 

自分に飛んできた弾を、真希は現状借りている刀で弾き飛ばした。それを予見していたのか、真依は一歩下がり、それと同時に地面に拳を叩きつけた。

そうすれば、分厚い土の壁ができあがる。真希はさすがにそれをぶち破ることは出来ずに、壁を避けて奥に進んだ。

けれど、壁から顔を出すと、そこには無数の壁と、そうして、うっそうと茂る木のおかげで視界は悪い。

 

「ねえ、お姉ちゃん、すごいでしょう?」

「何言ってやがる!?」

「私の構築術式って大人たちから外れ扱いされてたの、知ってる?」

「知らねえよ!」

 

真希は周りを見回した。声のために、方向はわかる。けれど、正確にどこにいるのかわからない。

真希の脳裏には甚爾とのやりとりが思い浮かんだ。

 

いいか、俺たちみてえなのは、いや、お前は半端じゃあるが。それでも、肉体といえる部分でのアドバンテージはそこまで重要じゃねえよ。

なら、何が重要なんだよ?

例えるなら、呪力もねえのに呪霊が見えるってことだ。俺の見える世界はある意味で、誰とも共有できねえ。俺だけが認識している世界。

だから、それがわかんねえって行ってるだろうが!師匠!

ちげえんだよ、いいか、お前が俺になることはできねえが。でもな、お前は俺に近づくことなら出来るんだよ。

 

びしりと、額を甚爾は指ではじいた。痛みの走る額に真希が甚爾を睨む。

それを甚爾は不思議そうな目で眺めていた。

 

なあ、真希よ。

その時、甚爾は、珍しく真希のことを名前で呼んだ。普段なら、おいだとか、そんなことでしか呼ばない男が。

 

お前、本当に強くなりてえって思ってるのか?

 

(そんなもの!)

 

真希はそのまま並んだ壁に飛び込んだ。何かを仕掛けているとしても、飛び込むという判断しか出来ない。

何かがあるとして、場数を踏んだ精神は確実に何かの予兆は感じられると思った。

けれど。

かちりと、足下で音がした。

その瞬間、本能のように目をふさぎ、耳もまた手でふさいだが、眩むような閃光と、耳の潰れるような音が響き渡る。

埋まっていた、地雷染みたそれに真希はふらふらと潰された五感の内の二つを捨てて、気配を探る。

けれど、それよりも先に、まるで雨のように細かな衝撃が体にぶつかる。けれど、所詮は本当の実弾ではないらしく、自分に当たる感覚を頼りに呪具を振り回し、できるだけ防ぐ。

 

(なんとか耐えろ!目はまだだが、耳は回復して・・・)

 

その時、何か、背中に痛みを感じた。

鋭い、何か、鋭いものが突き刺さる。それを咄嗟に引き抜くが、体がくらりと傾いでしまう。

倒れ込めば、体に力が入らない。

そのまま、真希の意識は闇に飲まれた。

それに、真依はゆっくりと近寄った。

 

「・・・・本当は、こんなことしないのよ?私、スナイパーだし。でも、こういうの、便利だよ。物量で押しつぶすのが基本だし。近距離はどきどきするわ。」

 

そんなことを行って、真依は持っていた麻酔銃を呪力に分解した。

 

「お姉ちゃん、やっぱり普通の人よりもいろいろと効きにくいだろうと思ってたけど。効いて良かった。ねえ、お姉ちゃん。」

 

真依はそっと倒れ込んだ真希の元に屈み込んだ。

 

「・・・わかってたの。お姉ちゃんは、たぶん、一緒に来てくれないって。それは、培ってきた倫理観だとか、それだけじゃなくて。単純に、奪った奴らを認められないだろうから。だから、わかってたの。」

 

真依はそう言って、そのまま真希に覆い被さる。そうして、真希の眼鏡を取った。

 

「だから、ずっと、決めてたの。お姉ちゃんが私に守られてくれないのなら、お姉ちゃんに強くなってもらわないといけないって。」

 

ねえ、お姉ちゃん。

 

真依はそっと、真希の口に、己の唇を近づけた。

 

「さようなら。」

 

 

「おはよう。」

 

眼を覚ますと、何故か、真希は砂浜に横たわっていた。どんより、曇り空を仰ぎ見て、起き上がれば冬の海があった。

 

「真依、ここは?」

「・・・・ねえ、一卵性双生児は呪術において凶兆なの。それは、何故か。何かを得るには何かを手放す。恩恵には代価がいる。それはよくある話でしょう?でも、私たちじゃ無理だから。」

 

真依はそう言って、波が押しては引いてを繰り返す、そんな瀬戸際に近づいて、海を見ていた。

 

「互いが同じ事を思わないと、意味が無いの。お姉ちゃんに術式がなくても私が持っていることが、私に術式があってもお姉ちゃんに呪力の器を持って行かれてることが。互いで互いをむしばんでいる。」

 

わたしはあなたで、あなたはわたしだから。

 

真依は悲しそうに微笑んだ。悲しそうに微笑んで真希を振り返った。

 

「わたしにあなたがいる限り、あなたにわたしがいる限り。永遠に、私とあなたは半端物なの。」

「だったら、どうするんだよ!それでも、お前と私が姉妹だって事に変わりは無い。血の繋がりは覆らねえだろう!?真依、かえってこい!」

「ねえ、お姉ちゃん。教えて。どうして、お姉ちゃんはそんなにも禪院家に執着するの?」

 

それに真希はなんと言えばいいのか、わからなかった。

執着?

何を、執着だなんて。ただ、禪院家の当主になれば真依を探すのに便利で。ただ、禪院家に捨てられた真依の価値の証明のためで。ただ、自分はあいつらに、捨て去ったものの価値をわからせるために。

 

「ねえ、違うわ。お姉ちゃん、ずっとわかってたんでしょう?お姉ちゃんは、心のどこかで全部、諦めてるんだもの。」

 

諦めている?

 

おうむ返しのように口の中でそれを転がした。

真依はそっと目を伏せて口を開く。

 

「わたしはあなたで、あなたはわたしだった。だから、互いになんとなくわかっていたでしょう。本能のような何かで、生きているって。私、ずっと、知ってたわ。お姉ちゃんが苦しんで、痛がって、耳の奥で怨嗟のような声が響いていたの。だから、お姉ちゃんもわかっていたでしょう。私が、ずっと幸せだったことを。」

 

だから、と真依は続けた。

 

お姉ちゃん、振う刃をどこに向かわせるのか、足掻いた先に何があるのか。

私がいるのに会いに来なくて。自分のいないどこかで、断絶されたその先で私は幸せだったから。

 

「ねえ、お姉ちゃん。お姉ちゃんは本当に強くなりたいの?だって、もう、守ってあげたかった、弱虫の妹はいないのに。」

 

それに真希はまるでどこからか血が流れていくような、冷たい感覚が全身に広がった。

 

足掻いて、足掻いて、術式を持った奴らに痛めつけられて。

それでも真希は強くなろうと、足掻いていた。

けれど、武器をふるって、体術を磨いて、血を吐くような努力をして。けれど、いつからだろうか。

何故か、二度と、真依に会えないような気がしていた。

きっと泣いているのだ。きっと、誰もいなくて、独りで、自分を求めているのだと。

けれど、思い立つ。

あの子は、生きているのだろうか。いや、生きている。自分にはわかる。あの子は生きている。

なのに、するりと耳元で囁いた。

 

なら、あの子はどうして、自分にさえ会いに来ないの?

 

違う!

違うのだ!

きっと、閉じ込められて、拘束されて、帰って来れないだけで。

ああ、でも、わかる。何か、胸の内でわかっていた。

あの子は生きているのだ。生きていて、そうして、帰ってこなくともいいぐらいに、幸せであるのだと。

 

からんと、武器が転がった。

 

(なら、私は。)

 

どうして、武器を振うのだろうか?

 

「どれだけ努力をしても、私は半端だった。当たり前だよ。だって、お姉ちゃんが諦めているから。お姉ちゃんには私だけで。私を理由に武器を振っているのに、私はもう、弱虫の妹じゃないのなら。お姉ちゃんはどうして、武器を振うの?」

何が言えるのだろうか。

 

甚爾の言葉。

お前は本当に強くなりたいのか?

ああ、そうだ。強くなって、ただ、強くなって。そうして、私は何をするのだ?

 

「なら、戻ってこいよ!真依、私を置いていくのか?」

「・・・お姉ちゃん、禪院家に絶望したのなら、捨てて良かったの。私が幸せだってわかるのなら、そのまま、あんな家、捨てても良かったの。でも、お姉ちゃんが、私がかえってきたときの居場所を作ろうとしててくれたのもわかってる。」

 

だから、と。

真依は振り返った。

気づくと、周りは、上も下もないような暗闇の中にいた。

そこで、自分たちだけがぼんやりと浮かび上がって、向かい合わせに立っている。

そうして何故か、互いの左手の薬指に糸が繋がっていた。

 

「呪力は全部持っていくわ。私のことも、もう、忘れて良い。」

「そんなこと、できるわけないだろ?私とお前は、姉妹で!」

「・・・うん、だから、もう、姉妹じゃなくなるの。私はあなたじゃなくなって、あなたは私じゃなくなる。ねえ、お姉ちゃん、約束して。」

大好きよ、ずっと、ずっと、最初に誰よりも好きだったのはお姉ちゃんだから。

だから、ねえ。

 

真依は甘えるように微笑んだ。

 

「幸せになって。」

 

そう言った瞬間、ぷつりと、二人を繋いだ糸がちぎれた。その瞬間、真希の意識はぶつりと切れた。

それでも、そんな最後に、今際の果てに声がする。

 

それでも、ねえ、私に会いたいって思ってくれるなら。追いかけてよ、ねえ、お姉ちゃん。

 

 

 

『灰原?』

「あれ、真依、どうしたの?」

 

その日、灰原はいつものように隠れ家にて夕食を作っていた。そんなときにかかってきた電話に出れば、末の娘が明るく声を出した。

 

『私のやることは終ったから、そろそろ帰るからね。』

「わかった。今日はしゃぶしゃぶだよ。」

『本当?ごまだれは?』

「あるよ。」

 

灰原は真依の明るい声に、ああ、成功したのかと理解した。

 

「真依、君のお姉ちゃんも仲間になるの?」

『え?ああ、禪院の末娘?勧誘したけど、だめだったわ。まあ、能力も半端だし、そこまでじゃないかなあ。』

「え、でも、いいの?お姉ちゃんなんでしょ?」

『お姉ちゃんって、何言ってるの、灰原。もう、何年会ってないと思ってるの?そんなの、他人と変わらないわ。大体、私のきょうだいは、ずっとお兄ちゃんだけよ?』

 




・・・・ねえ、お兄ちゃん。私ね、お姉ちゃんを連れてきたいの。
いいでしょう?もう、私もお姉ちゃんを守れるぐらいに強くなったから。
もしも、だめだったら?
その時は、お姉ちゃんに強くなって貰わないと。そうしないと、たぶん、すぐに死んじゃうから。
方法はあるの。
ねえ、私は呪石のおかげで構築術式の欠点を補ってるでしょう?でも、本当はもっと出力の効率化が出来るはずなの。でも、無理よ。
お姉ちゃんがいるから。お姉ちゃんも、私がいるから、完璧になれない。
だから、ずっと、考えていたの。わたしはお姉ちゃんを捨てて、お姉ちゃんも私を捨てないといけないって。

・・・姉妹であるって、証は何かしら?
血のつながり?でも、それは肉体的なものよ。私たちを縛るのは、もっと、根本的なもの。わたしはあの人で、あの人は私であるという繋がり。

愛を捨てるの。
愛しいという心。幸せになって欲しいって願い。互いがいれば良いっていう想い。
それを、全部捨てる縛り。誰かへの思いをくべる。
縛りは大丈夫よ。だって、わたしはお姉ちゃんで、お姉ちゃんはわたしだから。強制でもできるわ。わかるもの。
私ね、きっと、お姉ちゃんさえいればよかったの。
そうすれば、尊厳とか、苦しいとか、全部どうだってよかったから。
でも、私ね、お兄ちゃんと一緒にいたいの。お兄ちゃんのために何かしてあげたいの。
だから、力が欲しいの。
恩恵には、代価が必要でしょう?
だから、私は、私にとって最も尊いものを捨てるの。お姉ちゃんが私のものになってくれないなら、私の願いを理解してくれないなら。
私たちは、もう、別の道をいかないと。でも、そういうものでしょう。
人は、死ぬとき、独りだもの。だから、私は私の生きたい場所に行く。お姉ちゃんも、お姉ちゃんの行きたい場所に行く。
・・・・泣かないで。
いいの、ねえ、お兄ちゃん。
好きよ、好きよ、本当に、私、お兄ちゃんのことが好きよ。
だから、どうか、地獄にも私を連れて行ってね?

祐礼が考えているくもなんかの設定について知りたいでしょうか?小説の中ではたぶん部分的にしか出てこないので、関係ないと言えば関係ないんですが。

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