めちゃくちゃ堂々とあの方とか言ってるが第三勢力なんて存在しない   作:幽 

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ようやく、血塗と壊相が出せました。
年単位で話が飛んでおります。
たぶん、次から原作時空に入ると思います。

感想、いただけると嬉しいです。


血族が騙る

 

 

(・・・・・正直に言えば、俺は自分についての範囲ならある程度のことはできるんだよ。)

 

板取祐礼はぼんやりとした表情でそんなことを考える。

祐礼のそれに関しては、いくつか試してみたものの反転するにも色々と条件がある。

例えば、歳を変えるとする。

それには、幼いにたいして老いている。そうして、子供に対して大人という反転はできる。けれど、確かな年格好云々は決めることはできないのだ。

また、他人への干渉に関しては何よりも縁が必要だ。伏黒甚爾に関しては、彼が弱っていたことと縁を作ることができていたというのもある。

 

(呪力を使えなくするって言っても、すぐにガス欠になるし。五条とか、それこそ数秒レベル。いや、数秒も持つのか。だいたい、そこまでいくと体に触れてねえとむりだしなあ。)

 

呪詛師たちに関しては彼らが格下であることもある。それでも、短時間の話だ。

 

(まあ、ああいうのは短時間でもできるって見せつけるだけで十分に脅しにゃあなるしなあ。)

 

それでも、できないことは多い。

人をよみがえらせるのはおそらく無理だし、重力の反転は元より燃料が足りない。

応用は利くが、際だったことはそうそうできない。

何よりも、重力の反転は確かに使えるが、範囲が狭いため使いどころを考えなければすぐに攻略される。

 

(六眼からの認識は、自分の性質を変えればいいって言うのはすげえありがてえけど)

「・・・・黒、どうかしたか?」

 

それに祐礼は視線を声の方に向けた。

 

「何かあるなら、お兄ちゃんに言ってくれていいからな?」

 

心配そうな脹相の顔に祐礼はなんとも言えない顔をする。そうして、それと同時に血塗と壊相も自分の顔を見た。

 

 

「どうした、黒。この兄者に話してみろ。」

 

祐礼は血塗の、どこか得意そうな言葉にため息を吐いた。彼は自分の背中によじよじと乗っかってくる血塗を振り落とすように体を揺すった。

 

「何でもない。」

 

祐礼は血塗と壊相を受肉させたことに若干後悔していた。受肉させた当初、壊相と血塗はそれはそれは喜んだ。何と言っても兄弟の再会だ。

ただ、脹相は二人に対して早速祐礼のことを弟だと紹介した。祐礼はそれに対して流せばいいかと思っていたが、二人は脹相のそれをあっさりと信じたのだ。

兄者が言うからそうだろうと、それはそれはあっさりと。

それだけならばまだいい。ただ、何を思ったか血塗は初めて自分を兄者と言ってくれる可能性のある存在をいたく気に入ったらしく、ことあるごとに兄者と先輩風ならぬ兄風を吹かせたがっているのだ。

壊相と脹相はそれが微笑ましいらしくにこにことやたらと笑っている。

 

「血塗、弟ができて本当に嬉しそうで。」

「ああ、新しい弟で血塗も少しだけ成長したな。」

「あの子より下は、すでに。ですが、新しい弟の存在は私も嬉しいよ。」

「ああ、壊相、新しい弟のために兄としてしっかりな。ただ、お前もまた俺の弟だしっかりと頼るといい。」

「おーうい、くーろ!兄者の話を聞いてるのか?」

 

だんだんと兄と弟がゲシュタルト崩壊してきている。

 

(あれ、俺ってまじで弟だった?)

 

やたらと連呼される兄と弟という単語に汚染されそうになりながら、祐礼は正気に戻るために頭を振った。

弟たちを受肉させてから脹相はそれはそれははしゃいだ。寝ても覚めても、血塗と壊相の単語を繰り返している。弟たちに旨いものを食わせたいと、灰原雄に料理を習っているらしい。

祐礼も好きにさせている。

何故って簡単な話で、血塗と壊相を受肉させるまで、数年ほど時間を要したためだ。

小学校に入学だと準備していた真依も、すっかりお姉さんという年になっている。

灰原は、変わることなく灰原だ。

 

(そりゃあ、俺だってすぐに受肉させたかったさ。でも、あいつら普通の人間の眼にも見えるんだよなあ。下手な準備もなしに受肉させて拘束すんのもさすがに。)

「そういえば、これはどうするつもりですか?」

 

そういった壊相は地面に転がる、呪詛師を見る。それに、祐礼はゆっくりと立ち上がる。

 

「実験。」

 

祐礼はぐっと背伸びをして応えた。

 

 

「でもさ、黒の目的って、こいつの持ってた面じゃないのかあ?」

 

そう言って血塗はぶんと持っていたお面を振った。それは、祐礼が以前から欲しがっていた呪具だった。というよりも、その呪具の情報が手に入ったために血塗たちを受肉に踏み切ったと言っていい。

 

「まあ、それも目的なんだが。」

「そういえば、これはいったいどんなもの何ですか?」

 

「肉付きの面って名前がついてたな。それをつけたやつは面を剥ぎ取るんだが。そうして、次につけるやつは前のやつと同じ顔になるんだと。まあ姿を変えるしかできないし、死人の顔だ。で、それは血塗と壊相が使えよ。」

 

祐礼は、血塗の持つ女の顔をした面と、壊相の持つ男の顔をした面を見る。

 

「ええ!顔が剥がれるのに!?」

「面を取るとき呪力を流しゃあ何にもねえから!」

「俺の顔が気にいらないのか!?」

「だーかーら!!血塗の見た目じゃ人間の間だと目立つんだよ!上手く見た目を変えられるようになったらお前の言ってたテーマパークにつれてってやるから!」

 

それに血塗はお世辞にもわかりやすいものではない顔を輝かせた。

 

「本当か!?」

 

祐礼は自分にぐいぐいと縋り付いてくる血塗にこくこくと頷いた。

何の因果かはわからないが、血塗というそれを受肉させた後、某ネズミが有名なアニメーションにドはまりしたらしい。

 

(いつの間にか、真依とも仲良くなってるし。)

 

祐礼が真依と呪胎九相図に会わせたのは、本格的にどんな状況下になるのかわからなくなったためだ。少なくとも、当分は行動を共にさせて信頼関係は築いた方がいいだろうと考えた。

灰原雄については不安は特になかった。ただ、真依と三兄弟が仲良くなれるかは不安であった。

脹相はまだしも、血塗と壊相の見た目はお世辞にも親しめるものとは言えない。

元々、臆病な彼女を心配していたが、脹相のごり押しによって祐礼の兄弟だからと受け入れてしまったらしい。

 

(脹相のやつ、兄弟を魔法の言葉だとでも思ってんのか?)

 

そうして、その縁で真依に見せていたアニメーション映画にはまったそうだ。

ちなみに、壊相は魔女が宅配便する作品に。脹相は森の中で不思議な何かに会う作品にはまったらしい。

 

「・・・・黒、その、私も。」

「あー。そういえば、あっちもあったなあ。わかった。血塗が先になるけど、そっちも行こうか。」

 

それに壊相はぱあああと顔を輝かせた。それに、脹相は顔の前で手を合わせる。

感慨深いと書いてある脹相の顔を見ながら何を考えているのか察してしまう。

 

(大方、弟たちが愛おしいと考えてるんだろうなあ。)

 

祐礼は感極まった脹相のことを冷たく横目で見る。最初にあったクールな印象など、空の彼方に放られていた。

 

「まあともかくだ。一つは男に、もう一つは女に化けるためのだから。どうするかは互いで決めてくれ。」

「男女で一組か。」

「元々夫婦想定して作られたらしいからな。まあ、それはさておき。」

 

祐礼は怯えた眼で自分を見る呪詛師を見た。

 

「いくつか、気になることがあるんだよ。」

 

 

 

 

 

 

「真依、おいで。」

 

それに、真依は恐る恐る部屋の中に入った。彼女がいるのは、祐礼が用意したという都内のアパートの一室だ。

久方ぶりに祐礼に会えるとわかり、真依はどきどきと胸を高鳴らせた。彼は変わることなく穏やかに笑いながら真依を招き入れた。

部屋の中はがらんとしており、窓もない。ただ、部屋の真ん中に大きな袋が置かれていた。

何かが入っているらしいそれに、真依は思わずひるむように祐礼の手を掴んだ。

それに、祐礼は努めて穏やかな声音で語りかける。

 

「大丈夫だよ。ほら、これは呪霊だよ。ただ、見た目が怖いからな。真依が怯えないように見えないようにしたんだ。」

「・・・・怖くないわ。私、もう赤ちゃんじゃないの。」

「そうだな。でも、まあ一応ね。血塗は真依に何もしないだろう。これはそうはいかないからな。ただ、真依、これをまた分解して欲しいんだ。」

 

それに真依は、ああと頷いた。

真依が反転術式を会得するのは早かった。なんといっても、伝えることの難しい感覚を実体験で学習できるのだ。真依はあっさり、とまではいかないがすぐに反転術式を会得した。

まず、祐礼が試したのは呪霊を分解することだ。

そうして、できあがったのは呪力の塊。祐礼はそれをすぐに結晶化させたが、あまり等級の大きくない呪霊だったせいか、おせじにも質がいいものではなかった。

 

(呪霊をちまちま潰して結晶にさせるのは効率が悪い。ともかく、星の子の家に呪石を置いといて呪力を貯めてるが。)

 

ただ、今回は違う。本来ならば術式持ちの呪霊が良かったのだが、いざ探すとなるとなかなかに難しい。しかたがなく、術式持ちである呪詛師を捕縛したのだ。

さて、ここで疑問だ。

ただの呪霊を分解した場合、呪力の塊になった。ならば、術式を持った人間を解体し、そうして構築し直した場合どうなるのだ?

真依は意気揚々と呪詛師を分解する。すでに喉を潰し、身動きもとれない。

祐礼はその解体されていく様を見て、そっと少女に囁いた。

 

「真依、それはな火の力が使えるんだってさ。」

「火?」

「そうだ。だから、それを分解して、そうしてまた作り直すんだ。想像してごらん、分けて、そうして作り直すんだ。」

 

その声に、少女は一つずつ拾うように言葉を反芻する。その時だ、一気に布が膨らんだ。

祐礼はとっさに真依を庇うように抱き込んだ。けれど、彼女はその呪詛師への干渉を止めない。

祐礼は布からあふれ出る呪力に歯がみした。

 

(しくじった!)

 

わかる話だ。術式を使いこなせる程度の人間ならば呪力もまたそれ相応の量があると。

部屋がきしみをあげた。そうして、真依もまた集中のせいか気にならないのだろうが、鼻血が出ている。明らかに少女の体への負担が度を超している。

 

(失敗だ。)

 

祐礼は覚る。早すぎたのだ、実験を行うには、あまりにも早すぎたのだ。真依に術式を止めさせ、そうして部屋の中で膨らむその呪力が爆発するベクトルをそらそうとする。

が、それよりも先に、後ろから手が真依に伸びる。

 

「真依、飲みなさい。」

 

後ろにいたのは、脹相だった。真依の気が散るだろうと待機をさせていた彼は、真依に呪石を差し出した。真依は本能のようにその石を飲み込む。

 

「いいか、真依。術式は、お前の一部だ。お前の手であり、足だ。己の四肢以上に理解のできるものはないだろう。だからこそ、真依。わかるだろう。自分の触れる呪力、その呪い。それを、閉じ込めるんだ。呪力は泥、術式はお前の手。」

 

泥団子を作るのは得意だったろう?

脹相は、真依の肩を掴み、そうしてじっと膨らんでいくそれを見る。真依は、脹相の言葉にこくりと頷いた。

 

「固めて、作る。」

 

その言葉と共に、呪力はまるで吸い込まれるように縮まった。そうして、かたんと何かが落ちる音がした。祐礼は慌ててそれを確かめようとしたが、脹相は弟を静止し先に近づく。そうして、袋の中をのぞき込んだ。

 

「・・・これが、何かわかるか?」

 

脹相はそう言って、一つの銀色のライターを祐礼に見せた。

 

 

 

 

 

 

 

(成功、なんだろうな。)

 

祐礼はじっと己の手の中にあるライターを見た。かちゅん、とライターの蓋を閉じる音がした。

祐礼がいるのは、真依たちと暮らしている拠点だ。すでに、灰原と真依は就寝しており、部屋にいるのは祐礼と九相図の三人だけだ。

「・・・・本当に、これって術式が宿ってるのか?」

そういって祐礼の手元をのぞき込んだ血塗に、祐礼は頷いた。

 

「そうだ。」

 

祐礼はぞくぞくとした背筋に走る何かに笑みを漏らさずにはいられない。

祐礼の持つそれは、呪具ではない。呪具は元々呪力が宿ったものだ。だが、祐礼の持つそれは呪詛師の持っていた術式が、言葉のままに埋め込まれている。呪力を流せばお手軽に術式を扱うことができる。

 

(術式はそのままに、体なんかを再構築して、ライターにか。そいつ自身を材料にしなけりゃならないが。いや、便利だな。何よりも甚爾の時。あの死体をついでに回収しといたのは幸運だ。)

 

祐礼は思わず緩まりそうな表情筋をなんとかこらえる。

五条悟は、呪力を認識できる。だが、あくまでそれは呪力の流れ、違いだ。それ故に、見た目を取り繕っただけでは彼の目をごまかすことはできない。

だが、あくまで流れであり、彼は術式の有無については認識できていない。呪力と術式はまた別物だ。ならば。

 

(いいな。俺にとって一番の難は五条だ。それこそ、正体がばれることが、一番にやっかいだ。)

 

誰が、術式持ちの人間を加工して、それをそっくり模倣できるなど考えるだろうか?

術式は、誰もが一つしか持たない。

 

(切るカードとしては丁度良い。)

「嬉しそうですね。」

 

その緩んだ顔に壊相は微笑ましいと言外に言った。それに祐礼はなんとも言えない顔をする。

 

「まあな。おかげで人手不足が解消しそうなんだよ。にしても血塗、お前、もう少し何とならないのか?」

「何がだ?」

「いや、俺が言うのも何なんだけどな。その、見た目がなあ。」

 

それに、金髪ツインテールの少女が首をかしげた。

 

 

「どっか変か?」

 

血塗の言葉に壊相が応えた。

 

「いいや、どこも変ではないだろう。」

「いや、そうなんだよ。確かに上手く化けられた。にしても血塗が泥眼で、壊相が十六の面をつけるのか。」

 

他人に化けることのできる面は、それぞれ能面の名前で呼ばれている。女の面は泥眼、男の面は十六と呼ばれている。

そうして、泥眼、女の面を被った血塗は何故か金髪のロリになっていた。

まん丸としたほっぺたに、キラキラとした緑の瞳。まるで絹糸のような金の髪。それこそ、そういった系統の人間からは相当の人気が出そうな容姿をしている。

 

「・・・・なんで、あえて。」

 

祐礼はぐったりとした声を上げた。

何故、よりによってこれなのだ。大体、これを使っていた呪詛師は何の目的があってこの姿になった?

頭痛がするような頭を抱えて、祐礼はうなだれる。

 

「どうした、黒?痛いのかあ?」

 

血塗はこてんとなんともあざとい仕草で首をかしげた.

 

「かわいいですねえ、血塗。」

 

そう言ってニコニコと十六の面を被った壊相は、まるで文学青年のように優しげな見目になっている。似合うのは似合うのだが、祐礼は思わず血塗の方を凝視してしまう。

 

「そうかあ?俺、かっこいい方がいいんだけどなあ。あ、そうだ、脹相兄者も同じ髪型にしよう!」

 

祐礼はどんどん死んだ眼になりながら目の前の光景を眺めた。

血塗と壊相に、どや顔で髪を結われている脹相。

祐礼はそれに死んだ目をした。仲良きことは美しきかな、なんて言葉がある。

けれど、なんというか目の前の光景にそれが似合うかと言われれば悩むだろう。

彼らの下には少なくとも、一人の人間の贄がある。一人の誰かの死がある。

 

(それは、俺の罪か。)

 

ぼんやりとそう思い、祐礼は立ち上がる。

 

「まあ、今日はそろそろ寝るか。色々と疲れたしな。三人も寝ろよ。」

「ああ、黒。おやすみ。」

 

脹相が何気なくそういった。それに、祐礼は少しだけ黙った後、口を開いた。

 

「・・・・今日はありがとう。あの子を助けられたよ。」

 

それに脹相はふっと淡く笑う。

 

「俺はお兄ちゃんだからな!!」

 

大音量のそれに祐礼はため息を吐きながら、自室に引っ込んだ。

 

(兄弟、なあ。)

 

ぼんやりと考えた、その後に彼は変わることなく笑った。

そんな資格は自分にないと、祐礼は誰よりもわかっていた。

己の兄弟は、一人だけ。そのために、走り出した。そのために走っている。自分の行き着く先が地獄だとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、こんにちは。」

 

目の前のそれを見て、祐礼は努めて冷静でいられた。いや、もしかしたらそれ相応に動揺はしていたのだと思う。けれど、祐礼の中はまるで凍り付いたようにしんと静まりかえっていた。

祐礼は、女に姿を変えたまま熱のない声でそれに声をかける。

 

「・・・・お初にお目にかかります。」

 

そういえば、目の前の額に縫い跡を残した女は軽く手を振った。

 

「わざわざこのような場を整えてくださり、感謝しております。」

 

それに、女、加茂憲倫であったそれはくすくすと楽しそうに笑った。

 

「いいや構わないよ。それでは話をしようか。君たちは、いったい何を望んでいるのかを。」

 

それに祐礼は変わることなく目の前のそれを向き合う。

場所は、人気の無い廃ビル。静まりかえったコンクリートの箱に人の気配はない。

心の内で、決意をする。どこまでも、どこまでも、冷徹に覚悟を決める。

 

(・・・・騙すのなら得意だ。嘘つきだというなら、それでいい。俺は、それに納得する。)

 

祐礼は能面のように変わらぬ表情のままに、加茂へと礼をしてみせた。

 

「はい、それでは話をしましょう。」

 

これからの、世界の話を。

それに、加茂は楽しそうに笑っていた。

 

 

 

真依が呪石を作った折、祐礼がしたのはそれを呪詛師、そうして呪術師に渡すことだった。

まずは、それこそ今にも崖っぷちの人間を選りすぐった。そうして、好感度の反転によって信頼を勝ち取る。

後はただ囁けばいい。そっと、あなたを助ける手助けですと呪石を渡した。呪術師の強さと術式は確かに比例する。けれど、呪力の多さもまた火力に関係するのだ。何よりも、反転させたプラスエネルギーを固めた呪石は密かな噂として広まっていた。

上層部の人間とコンタクトをとるのは簡単だった。撒いた餌に引っかかるのを待てばいい。

そうして、コンタクトをとってきた人間にはそっと囁く。

 

「希少なこれを、あなただけに差し上げます。ええ、ただ、対価はそれ相応にいただきますが。」

 

縛りをつけるよりも簡単に呪力を上げ、そうして家入硝子を引っ張ってくるよりもなお手軽に反転術式を使うことができる呪石を求める存在は多かった。

祐礼はわざと希少であるからと少しずつ流用されていった。おかげで、上層部などとの繋がりもしっかりとできている。

 

(なんかの助けにはなるだろう。)

 

そこら辺が五条の耳に入る可能性は低かった。彼が相手にするのは主に呪霊であったし、上層部などと繋がりの薄い彼に呪石について教える者はいない。ばれたとしても、第三勢力について覚ってくれれば構わなかった。

祐礼の目的は、たった一つだけ

くそったれのメロンパンと接触を図ることだけだった。

 

加茂はおそらく研究者気質の人間だ。それこそ、悪い意味のことだ。

良くも悪くもより優秀になるために、文字通り何でもするだろう。それ故に、呪石は彼の興味を駆り立てることは予想できた。

その予想は当たった。その賭けに祐礼は見事に勝って見せた。

湧き上がる吐き気を必死にこらえる。あふれるような殺意を必死に押さえる。

全てを噛みつぶして祐礼は加茂と対峙した。

呪石を渡していた呪詛師を経由して連絡が来た。呪石を配り続けてそこそこの時間も経っていたため、ほかのアプローチに入るべきかと悩んでいたときのことだった。

 

「こんにちは。どうも、私のことを探しているようだけれど。何のようかな?」

 

それに祐礼は全てを覚る。

ああ、そうか。そうだ、ようやくだ。ようやく、お前を自分が見つけたのだ。いや、見つけられたのか。それとも、会っていい程度に興味を引くことが叶ったのか。それはわからないが。それでも祐礼ははやる心臓を必死に落ち着けて口を開いた。

 

「ええ。探しておりました。我らの主が、あなたにご興味があるとのことです。そうですね。こちらにいるご子息たちのこともありましょうから、加茂様、とでもお呼びしましょうか。」

 

電話の奥で、優悦を隠しきれない笑い声がした気がした。

祐礼はそれを気にすることもなく、淡々と声を紡いだ。

 

「あなたの計画、そうですね。人間の呪力への順応。そのほかの面について、非常に興味があるのです。」

 

一度、お会いする機会がないでしょうか?

それに、加茂は嬉々として了承を告げた。

 

 

 

 

「私は、幽霊。逆らいし者の影法師でございます。どうぞ、ご不快でなければ幸いに。私のことは、青とお呼びを。」

 

恭しく頭を下げた祐礼に、女はにっこりと微笑んだ。

 

「そうかい。では、青。私としては君たちが何者であるのか知りたいんだがね。」

「はい、彼の君より賜っております。我が主は、くも、と言われるお方です。」

「くも?」

 

祐礼は後ろ手を組み、加茂を見た。

 

「昔、この地には国にけして従わなかった民がおりました。その民を、国は異形として扱い、そうして滅ぼしました。」

「君は、土蜘蛛の系統に入る存在であると?」

「・・・・いえ、我らは幽霊。くもに従う、あくまで手足でしかありません。」

 

加茂は少しだけ沈黙した。けれど、その口元には変わることなく楽しそうな笑みが刻まれていた。

顎に手をやったそれはじっと祐礼を眺める。そ知らぬ顔をしていたものの、胸の内でばくばくと心臓がなっている。

 

(表に出すな、心を殺せ。大丈夫、心なら、何度だって殺してきたんだ。)

 

祐礼は改めて加茂のほうを見た。

 

「そうして、我らはできればあなたと協力関係に着きたい、そう思っております。」

「協力か。そうだね、私の考えていることには確かに人手がいるだろうが。」

「両面宿儺。」

 

放り込んだそれに、加茂は少しだけ表情を変えた。

祐礼は、必死に釣り針を揺らす。かかれ、かかれと、そう願いながら。

 

「彼の者が生きた時代ほどの呪い遭う世界、それを望んでおられるのです。」

「何故?」

「この世界を悉くひっくり返すこと。それだけが願いなのです。もちろん、あなたの邪魔はいたしません。その代り、我らの邪魔もしないでいただければと思います。あなたがこれから先起こすことについても興味があります。」

「なるほど。呪石に関しては私も非常に興味がある。あれは。」

「ええ、飲み込めば呪力の増加も叶いました。」

「ほう?」

「術式に関しては未だ研究中ですが。あなたにとっては有益な話になると思っています。」

「・・・・いや。いいね。君の持つカードは確かに興味深い。是非とも、手を組みたいと考えるよ。ところで、くも、という存在には会えるのかな?」

「・・・・申し訳ございません。彼の方は誰とも会われず。私からははっきりとは言えぬため。」

「わかったよ。まあ、それ以上に、君はひどく興味深いからね。あと、そうだ。君とは是非とも仲良くしたいね。知らない仲ではないのだから。」

 

ねっとりとした視線を感じて、祐礼は息を吐いた。

かかったと、漠然と思った。それこそ、垂らした針にかかったのだと思った。

それが、そういった意味合いかはわからない。けれど、勘違いしたと前置きはできるだろう。

 

「加茂様、私とあなたの間に血のつながりはございませんよ。」

「どういう意味かな?」

「ああ、申し訳ございません。てっきり勘違いをされたのかと。私の身には、あなたの末の子の血が混ざっておりますので。」

 

それに加茂の額がピクリと震えた。祐礼は変わることなく淡々と言葉を進めた。

 

「呪胎九相図については本当に助けとなりました。血を混ぜることで性質を引き継がせる。確かに家系や遺伝についてを考えるのなら、興味深い。私は失敗例に終わりましたが。」

 

祐礼はじっと加茂を見た。彼は、何の感情も浮かんでいない顔で祐礼のことを見ていた。

 

「あなたが仕掛けた片割れについては、こちらで預からせていただいております。」

 

それに加茂は、感情を感じさせない能面のような顔をした。祐礼は、それがどちらの反応であるかはわからない。ただ、それに祐礼は確信を持つ。

それは、祐礼の動向全てを知っているわけではないのだろうと。

 

「・・・・・あれは、そちらにいるのかい?」

「ええ。同胞としてよく働いてくれています。ただ、己の出自に関しては知らされていないようですが。」

 

その後、加茂は破顔した。

げたげたと、けらけらと、ひたすらなまでに笑っていた。絶叫じみたそれを、祐礼はただ淡々と見つめた。

 

「君は、本当に興味深い。ただ・・・・」

「加茂様。」

 

祐礼は加えて、重ねるようにこういった。

 

「己の想像の足る範囲でしかお考えをまとめられないような方だと失望をさせないでいただきたい。あなたの観測しえないことさえ存在しているのですよ。」

 

祐礼の揺るぎない言葉に、加茂は一瞬だけ口をつぐんだ。

 

()()()とは、是非とも仲良くしたいね。」

 

それに祐礼はこくりと頷いた。

 

「加茂様。これより、どうぞ、よろしくお願いします。」

「・・・ああ。そうだね。」

 

 

 

 

 

 

(元々、あの男にそこまでの探索能力はないんだろうな。)

 

じゅーじゅーと香ばしい匂いを感じながら、祐礼はフライパンを見つめる。

加茂は話の中で確かにそれ相応に事態の顛末を理解しているようだった。けれど、メカ丸のことを見るに、そこまで高い能力ではないのだろう。

ぽんと、きつね色のパンケーキをひっくり返す。

 

(例えばの話、あれであいつはどこまで俺のことを把握しているのか。おそらく、虎杖の家を出た後、東京をふらふらしていたときまでは追っていたはずだ。だが、そこからは俺も痕跡は徹底的に消して回った。)

 

その後は?

本格的にくも、というそれを生み出した後自分は追われていたのか?

わかりやすく、早々と男と関わりを持つために派手に行動していた節はある。

勘違いを生み出せばいい。

確かにある繋がりは、ばらけて、違う存在を信じていればいい。

もしも、全てがばれているとしたら?

 

(そん時は、せいぜい手の上で踊ってやるよ。)

 

打てる手ならば、いくらでもうっている。

 

「お兄ちゃん、できた!?」

「くろお、まだか?」

「あー。はいはい、できたできた!」

 

祐礼はそう言って自分の足下にわらわらと集う真依と血塗に言った。

ふかふかの、彼ら気に入りのネズミのキャラクターの形をしたそれを、真っ白な皿に盛る。

 

「チョコで絵、書きたいやつは?」

「やる!」

「やりたい!」

「はいはい。」

 

祐礼はそのまま二人をリビングまで連れて行き、テーブルの上に皿を置く。そうして、チョコペンを渡した。

 

「兄者のは俺が描く!」

「じゃあ、私は灰原の!」

 

そう言って二人で顔をつきあわせる光景を、脹相はばしゃばしゃと支給したスマホでひたすら撮っている。壊相と灰原は買い物に行っている。

現在、血塗は呪霊姿のままであるため、そんな彼が真依と戯れている様はなかなかに奇妙である。

祐礼は二人が喧嘩しない程度に仲裁をしながら、頭で考える。

 

(次、次は。そうだ、乙骨を探すか。あと、夏油がどれぐらい仲間を集めたのかも。あと、あの術式について実験を。)

「・・・・黒。」

 

唐突にかけられたそれに、祐礼は肩をふるわせた。視線の先には、気遣わしげな顔をした脹相がいた。

 

「・・・俺は、お前の目的がわからない。幽霊というあり方も、お前の所属している組織のことも。ただ、あまり根を詰めるな。俺は、お前のお兄ちゃんだ。そうして、それは血塗も、壊相もだ。いくらでも、頼ってくれていい。兄弟が望むなら、俺はどんなことだってしてみせる。」

 

脹相は、そういった。

それは、兄の顔だ。誰かを庇護し、全うに幸せを願うものだ。たった唯一の誰かのために、散々に狂えるものの顔だ。

祐礼は、それにどんな顔をしていいかわからなくなる。彼の気持ちは、誰よりも理解できる。誰よりも、何よりも。

自分だって、兄なのだから。

祐礼は、それに苦笑した。

 

「・・・・そうだな、ありがとう。んじゃあ、コーヒーでも入れてくれるか?」

「ああ!わかったよ。安心しろ、弟の好みぐらいは理解しているからな。」

 

そういって、台所の方に向かった彼を祐礼は見送った。

 

(・・・・未だに、俺の名前も知らないのに。確かでさえもないのに。あんたは、俺を弟と言うんだな。)

 

 





真依についてはあんまり詳しく書くとだらだら長くなりそうで。
真依と九相図はそこそこ仲良し。
また、何かありましたら。
https://odaibako.net/u/kaede_770

祐礼が考えているくもなんかの設定について知りたいでしょうか?小説の中ではたぶん部分的にしか出てこないので、関係ないと言えば関係ないんですが。

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