僕に甘いЯe-birth 始まり
僕はある部屋にいた。
そこにはエアコンもあって、冷蔵庫もあって、ハイスペックなパソコン、良い音響設備、そして見るからに高そうなソファーや椅子、机がある。更に広いレッスン室。
これがどこかの音楽特化の施設の中にあるのではなく、虹ヶ咲学園にあるというのだから驚きだ。
一体こんな贔屓をするなんて、生徒会長はどういうつもりもしているのか。
まあ、僕はその学校の副生徒会長だし、生徒会長が胃痛と戦い泣きながら承認のハンコを押していたのを見ていたんだけれど。
そんな贅の限りを尽くした部屋で僕は膝にアメリカで飛び級で高校生になったという小さい少女を乗せて彼女が作っている音楽を聞いていた。
イヤホンの片方を渡されて、1小節出来る度にどう?と姿勢的に上目遣いで聞いてくるのは小動物の様でかわいい。
「なんで僕はこんなことに……」
僕は、「はぁ。」とこの虹ヶ咲学園のスクールアイドル部の部室でため息をついた。
視線の先には僕がここにいる原因である。鐘嵐珠がいた。
入る出来事を思い出しながら、軽く彼女を睨んで。
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僕が、生徒会室に入った時に見えたのは、自分の携帯の画面を見ながら何だか困った表情をしている栞子ちゃんだった。
「相変わらず……というか、変わってないというか…昔から突然なんですから」
友達だろうか、だとすれば僕が入り込むべきでは無い、と判断してゆっくりと音を立てないようにしてお茶を入れてゆっくりと啜っていた。
暫くすると、はぁ。と栞子ちゃんはため息を一つ大きくついた。
丁度お茶を一杯飲み終わったタイミングだった。
「どうしたの?栞子ちゃん」
僕はそう呼びかけると、一瞬ビクッと驚いたように身体を震わせた。
「い、いたのですか……ついびっくりしてしまいました。来たなら言ってくだされば……」
「いや、なんか取り込み中みたいだったからさ、何かあったの?」
「いえ、大したことでは無いのですが、私の幼馴染のことでして」
「栞子ちゃんの幼馴染……」
今まで聞いたことがなかった。いた事すら知らなかった。
「今は香港にいるのですが、最近突然、日本に帰ってくるなんて言うものですから」
「へぇ、どんな人なの?」
「そんなに気になるのですか?」
ジロっとこちらを睨むように見つめる栞子ちゃん。
そんな知られたくない事なのかな……
「ただ気になっただけだよ。」
「まあ良いですけどね。えーっとですね、一言で言うならば、破天荒って感じでしょうか」
「破天荒?」
「はい、自分のやりたい事はどんな手を使ってでもやる、なんとも強引で私も何度被害を受けたことか……」
「へぇ、栞子ちゃんにそんな友達いたんだ。」
皆大人しい感じの人ばっかりだと思った。いや、スクールアイドル同好会の人達を考えるとそうでも無いかもしれないけれど。
「それでいつ帰ってくるの?」
「明日だそうです」
「明日!?本当に急な人だね」
僕は栞子ちゃんは案外苦労してるんだと思った。
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次の日の昼休み、僕は優雅に一人で昼食を食堂で取っていた。のんびりと、外を眺めながら。
空いている窓から入る冷たい空気が頬を撫で下ろす様に吹いていて気持ちが良い。
やはり今の時間の食堂となると沢山の人によって混んでいて、色んな所から賑やかな話し声が聞こえる。
「ここ、いいかしら?」
ぼぉっとしていると誰かから話しかけられた。
やはり混んでいるので席がないのだろう。僕は「いいですよ」と言うと、コトンとお盆を置く音がした。
僕は何となく相手の方を見てみた。
僕は栞子ちゃんみたいに全校生徒を覚えているわけではないけど、その人は僕の学校では今まで見たことの無い人だった。制服がシワひとつない綺麗な状態でリボンからして2年生、きっと転校生だろうか。
「もしかして転校生とかですか?」
僕は試しに聞いてみた。相手はご飯を食べ進める手を止めて僕の方をじっと見つめた。
「えぇ、その通り。私はスクールアイドルをしに来たのよ!」
「スクールアイドル」
スクールアイドル、最近よく聞く言葉だ。栞子ちゃんがいるというのもあるのだろうけど。
「それじゃ、ウチの学校にあるスクールアイドル同好会に入るんですか?」
確かそれ以外にスクールアイドルを行っている部活は無いはず。新しい人がもう1人増えるんだ。栞子ちゃんに後で教えてあげよう。
「ノンノン、私でスクールアイドル部を作るのよ!」
「なるほどぉ?」
既にあるスクールアイドル同好会を新しく部に作り直すという事だろうか。確かにもう同好会の人達は僕を入れて11人いるし、部として活動出来るはずだ。
「私は鐘嵐珠。貴方、名前は?」
僕の名前を告げると鐘嵐珠さんは手を顎に当てて、「貴方が……」と呟いて少しばかり考えていた。それを耳にした時に、彼女の瞳の中で何かが横切ったような気配があった。それが何かは勿論、分からなかったけれど。
「貴方、私の部に入らない?」
「え?僕、もうスクールアイドル同好会に一応入ってるので、鐘さんが同好会に入って部にするなら僕はもう仲間ですよ」
「同好会を部にする?違うわ、部を作るのよ。同好会とは別にね」
「そうなんですか……」
新しくまたスクールアイドル部が出来るのだろうか、でももう既にある部活をもう1つ作るなんて出来るのだろうか。栞子ちゃんが止めそうなものだけど。
「ちなみにさっき生徒会長の許可も取ってきたわ、栞子、アイ、カリンも了承して入ってくれたの」
「成程。」
「ちなみに貴方のも出してきてあげたので無問題ラ!」
「最初から僕には選択権がなかったんですね、分かります」
最近僕を意志を聞かずに勝手に僕を巻き込んで行動する人が多いような気がする。
「栞子がどうしてもって言うから。でも貴方を一目見て私も貴方を私の部に入れたいと思ったの」
栞子ちゃん……死なば諸共ということなのか。
僕には何か明らかに僕の行動について僕に許可を取らなくても勝手に行える様なオーラが漂っているのではないかとつい、疑ってしまう。要するに奴隷根性が身体から滲み出てるんだろうなと。
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放課後、帰ろうかと鞄を持ち上げた時にすごい勢いで教室の扉が開かれた。
「見つけたわ!」
「鐘さん?」
「ランジュ!?」
隣にいた栞子ちゃんは酷く驚いた様な顔をして、こちらを見た。
「ランジュといつの間に知り合いだったのですか?」
じっと目を細めて僕を見つめる。いや、僕は勝手に貴方に部を移籍しているんですけど。
「昼休みにたまたまあっただけだよ、栞子ちゃんこそ知り合いだったの?」
「昨日、お話した幼馴染というのがこのランジュです……」
「えぇー!」
「やっぱり貴方が栞子が好きって言っていた人なのね!」
「ちょ、ちょっとランジュ!?」
「そうなの?」
「えぇ、あなたの事を栞子から沢山聞くわ!耳にタコが出来るくらいね」
へぇー、栞子ちゃん、僕の事をそんなに大切に思ってくれてるんだ。
「ほら、栞子!貴方も早く部室に行くわよ!」
僕は鐘さんに手を引かれて部室に向かった。
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と、ここまでが今までの経緯なんだけれど部室に着いた瞬間、鐘さんが部室の申請届けを栞子ちゃんに突き出したのは驚いた。栞子ちゃんに了承済みって言ってなかったっけ?
少しばかりお金の力が垣間見える既に押されている先生のハンコ。
栞子ちゃんはため息を付いて、判子を押していた。
「これでスクールアイドル部が出来たって事ね!」
「あ、あの鐘さん、聞きたいことがあるんだけど」
「あたしの言葉ランジュと呼びなさい!これは命令よ」
ネクタイの色を見る限り僕の1個上の先輩ですよね……?それを呼び捨てにするのは……と助けを求める視線を栞子ちゃんに向けたけれど、栞子ちゃんからは諦めてくださいと言わんばかりに首を横に振った。
「ら、ランジュ……さん?」
僕がそういうと何故か感極まった様子のランジュさんが僕に向かって突進してきて抱きしめてきた。
「あ、あのちょっと苦しい……」
「成程……これが栞子が言っていた……」
栞子ちゃんは今まで見た事ないくらい鋭い目つきで僕を見つめてきていて怖いし、ランジュさんは話を聞いてくれないし、僕は今までの生徒会室での栞子ちゃんとの2人きりの静かな時間が恋しくなった。
栞子ちゃん、睨んでないで少しばかり幼馴染を抑えてくれないかな………
ミアちゃんはまたこんど……