僕に甘い三船栞子   作:ぽぽろ

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猫の甘噛みは愛情表現らしい。
今回は栞子ちゃんの咬福論を最近私が聞いて浮かんだイメージをそのまま文字にしたって感じのやつです。


咬福論

「で、では行きますね……?」

 

昼の生徒会室に人影が二つあった。扉は締め切られていて、窓も施錠済み、カーテンだって閉めてある。

僕たち以外に誰も入って来ることが出来ない空間。

僕はワイシャツのボタンを二個ほど取り、彼女に首筋を差し出した。彼女は緊張した面持ちで、僕がボタンを外すのを見ていた。

 

「いいよ」

 

と僕は言った。すると彼女は僕の首筋に嚙みついた。

僕にはチクリと痛みが来た。そして、同時にザラザラとした感触のものが僕の首筋を這うように舐めているのが分かった。

僕は首筋に噛みつく彼女の頭を撫でながら、終わるのをただ待っていた。

 

「はい、終わりました。」

「今日はちょっと長かったね」

 

彼女が僕の首から顔を離すと、彼女の唇がまるで口紅でも塗ったみたいに赤く染まっている。

それを彼女はペロリと舌を出し舐めた。

吸血鬼のようだ。と僕は思った。

 

「今日はその……貴方と仲良く女の方と話しているのを見かけてしまって……」

「あの子は友達だよ、別に心配することじゃない」

「ええ、分かっています。貴方は優しいので、そんな事はないと。でも」

 

彼女は言葉を選んでいる様だった。あるいは言葉を押しとどめているのか。

 

「いえ、何でもありません。それではまた放課後に」

 

###

 

僕と栞子ちゃんは付き合っている。

しかし、それを知っているのは僕と栞子ちゃんだけ。誰にも言っていない。秘密にしようと付き合う前に栞子ちゃんがそういったのだ。

理由は分からないけれど、僕はそれに従う事にした。きっと彼女には彼女なりの理由があるのだろう。

 

僕が生徒会室から戻るとまだ教室は賑やかな雰囲気が続いていた。僕は自分の席座ると、友達が話しかけて来た。

 

「毎回お前って昼休みになるとどっか消えるよな。昼飯1回も一緒に食った事ないじゃん」

「昼ごはんくらい静かに食べさせてくれよ」

「まさか……お前彼女か………」

 

友達はニヤニヤしながらそう尋ねてくる。

 

「さあ、どうだろう。」

「何か首に赤い痕あるぜ、学校で昼休みにお熱い事で」

 

携帯のカメラで確認すると、僅かにワイシャツから赤い痕が見えた。僕はそれを手で隠すように首筋を抑えた。

 

「さっき、猫が学校に入り込んでたんだ。それで飛びかかってきて引っ掻かれた。とってもお利口そうな猫なんだけれどね」

「何か前の生徒会長も猫追っかけてたしな、うちの学校よく見るよな」

 

僕はこちらにチラチラと視線を送っていた栞子ちゃんを見た。丁度僕の隣の席である。

"ちゃんと約束守っているよ"と栞子ちゃんの目を見て微笑むと彼女はぷいっと目を逸らした。

猫はご機嫌ななめのようだ。

 

そこで予鈴がなった。友達は面倒くさそうに自分の席へ戻った。

 

「今日はちょっと見えてたみたいだ。」

 

隣の栞子ちゃんに小さくそういうと、顔を少し赤らめた。

 

「え、えぇ、今日はちょっとズレてしまったようです。すいません」

「いいよこのくらい。何とか隠そうと思えば隠せるし。栞子ちゃんの数少ない我儘だからね」

「我儘……そうですよね、迷惑でしたか……?」

 

申し訳なさそうに彼女は言った。

 

「そんなことは無いよ、栞子ちゃんの我儘はなんだって聞きたいし、その通りにしたいと思う。もっと言って欲しいくらいさ」

「もっと……言っていい……、そう、ですね。では、好きと言って貰えませんか」

「それくらいなら。栞子ちゃん好きだよ」

「私も……好きです」

 

先生が扉を開けて入ってくる。栞子ちゃんとの恋人としての生活はあまり変わらなかった。

普通に友達と帰る時もあるし、連絡は少し増えたけどあまり変わらない。

ただ生徒会室で過ごす時間だけが増えただけだ。

女の子と話していても特に何も言われることは無いし、女友達と出掛けても何も言われない。

 

実は僕のことをあまり好きでは無いのではないだろうか。そう思ったこともある。

それを栞子ちゃんに言ったことがある。そしたら栞子ちゃんはこう言った。

 

「いえ!そんな事はないです。私は、貴方が好きです。とても。だからこそです。」

 

と言われた。まあ栞子ちゃんがそれでいいならいいのだろう。でも少しばかり気になる。

 

###

 

私は、彼の友達と話している時に彼の首筋を盗み見た。

そこには付けたばかりの赤い痕が僅かに見えている。それは私が彼に付けて、受け入れてくれたものと思うと幸せな気持ちになれる。

 

私の視線に気づいたのか彼がこちらを見て首筋を手で抑えながら笑う。

 

私はニヤけてしまいそうな顔を抑える為に顔を逸らす。今日は少しばかり嫉妬から見えるようにつけてしまった。後悔は勿論ある。私から秘密にしようと言ったのにバラすような事をしてしまっている。

しかしそれ以上に幸せを感じている。

 

「今日はちょっと見えてたみたい」

 

首筋に手を当てて照れながら笑う彼。

 

「え、えぇ、今日は少しズレてしまったみたいです。すみません」

 

嘘だ、これはわざとやった。

自分の中の約束を破って。

 

私は彼と付き合う前に自分の中で決めたことがある。

ひとつは、彼の行動などを縛らないようにすること。

ふたつめは、今まで通りの彼で居てもらうこと。

みっつめは、我儘を言わないようにする事。

 

「いいよこのくらい。何とか隠そうと思えば隠せるし。栞子ちゃんの数少ない我儘だからね」

 

彼はさも嬉しそうに笑う。でも私は少しばかり引っかかる所があった。

 

「我儘……そうですよね、迷惑でしたか……?」

「そんなことは無いよ、栞子ちゃんの我儘はなんだって聞きたいし、その通りにしたいと思う。もっと言って欲しいくらいさ」

 

彼は私の喜ぶ言葉ばかり言ってくれる。

本当は言ってしまいたい。

私以外の女の人と喋るのは控えて欲しい、ずっと一緒にいたい、私だけを見て欲しい。

 

それらが口から出るのを抑えて、私は考える。

 

「では、好きと言って貰えませんか」

 

これが精一杯の妥協した我儘だった。

 

「それくらいなら。栞子ちゃん好きだよ」

「私も……好きです」

 

周りの人に聞こえないように小さい声で話す。のにも関わらず顔がとても熱い。暖房でもとても強くかかっているのではないだろうか。

私の胸にはえも言われぬ幸福感で満ちていた。

 

###

 

「栞子ちゃん、何か我慢してない?」

「我慢……ですか?」

 

放課後誰もいなくなった教室で彼は言った。

私を見透かすように真っ直ぐこちらを見ている。

それが何だかとっても嬉しかった。

 

言ってしまってもいいのだろうか。

 

「やっぱりさ、どっちかが我慢したまま付き合っても、いい付き合い方はできないんじゃないかな。」

「そう……ですかね」

 

「我儘を私がたくさん言ってしまっても嫌いになりませんか?」

「嫌いになんてならないよ。逆に栞子ちゃんはもっと言うべきだ。」

「でも!恋人だからって何でもって訳には……」

「まあ、そこは相談しながらかな。言わない事には始まらないよ」

 

そこから私は今まで自分の中で決めていたこと、思っていたことを全て話した。彼はただ私の話を聞いていた。

 

「相手と繋がりを持つ事で変わることは悪いことじゃないと僕は思うな。それがいい方向へ行く可能性だってある。僕だって栞子ちゃんと付き合ってから生活ちゃんとしよう!って思えたしね。」

「本当ですか?」

「本当だよ」

 

確かに彼と付き合ってから彼に相応しくなろうと、相手に対して前より幾分柔らかく接するようになったと思う。

案外悪くないのかもしれない。

 

「それでは、我儘、いってもいいですか?」

「もちろん」

 

彼は力強く頷いた。

 

「痕が薄くなっていますね」

 

私は彼の首筋の痕を優しく撫でる。

 

「い、いや今日付けたばっかだし大丈夫だと思うんだけど………」

「薄くなってしまいましたね。」

「はい………そうですね………お手柔らかに」

 

彼は項垂れるように頷いた。

後悔されても困る。彼が我慢しなくていいと言ったのだから。

 

「それでは生徒会室へ行きましょうか。」

「そうだね」

「あともう1つ、これからの私からの要望なのですけど………」

 

生徒会室へ着いても私の口が止まる事はなかった。

嫌われるかもしれない。そう思ったけれど、彼は安心したような目でこちらを優しく見ていた。

 

「大好きです、大大大好きです。」

 

その後は彼の首筋にあった赤い謎の傷は数が増えていたし、二人で一緒にいる時間が増えた。

世の中には不思議な事もあるものだ。

 

 




本家は恋愛した事の無いけど、思い描いてる自分の恋愛の姿みたいな感じしない??今回はアレンジで、その自分が思ってた恋愛してる時の自分と現実の自分との葛藤的なものになりました。理想と現実は違うんだよ。
そういや、痕付けるって意外と栞子ちゃん重い子なのでは………??でも歩夢ソロよりは軽いな、ヨシッ(?)
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