窓から差す西日も段々と輝きが落ちていた生徒会室で、書類をあらかた片付け終わった僕は、手を上げてグイッと伸びをする。
「とりあえず、今日の分は終わりましたね」
栞子ちゃんも終わった様で、「ふぅ。」と長く息を吐いた。
僕はテーブルの上にあるすっかり冷めきってしまったお茶を一口飲んで集中していたからかいつの間にか乾いていた喉を潤した。
そして、僕も同じ様に長く息を吐いた。
帰る準備でもしようと椅子から立ち上がった。
「あ、あの!ちょっと待って下さい」
もう一度伸びをして凝り固まった身体を伸ばしていると栞子ちゃんから声を掛けられた。
声音からはどこか緊張している様子が感じ取れた。
「実は友達から、すいぱら?という所の割引チケットを貰ったのですが……一緒に行きませんか?」
スイパラ、何となく発音が怪しい気もするけれど、きっと栞子ちゃんの事だ、行ったことは無いのだろう。
しかし、スイパラねぇ……
「……このチケットカップル限定になってるけど」
「そうなんですか?そうですか……困りましたね」
悩ましい表情を見せる彼女だけど、チラチラと僕を見るのはなんだろう。
「あ、部活の人、一人誘ってカップルですって言ったらどう?桜坂さんとか天王寺さん、中須さんとかさ」
「通用すると思いますか?」
「ダメか……」
いくら多少LGBTQが許容され始めてきているこの世の中と言えど、これは無理かぁ。
「虹ヶ咲学園で男性は数少ないですし……?」
確かに、女子高だったり男子が僕以外滅んだ様に少ない、もしくは居ないけれど。
さらに栞子ちゃんと仲のいい男子となると僕しかいない。
「うん、じゃあいいよ。いつにしようか」
「本当ですか!?」
無邪気な笑顔で喜ぶ栞子ちゃん。
そんなに行きたかったんなら言ってくれれば良かったのに。
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約束の日、きっと栞子ちゃんの事だろう。予定の時間より早く居るだろうなと思って僕なりに早く出たつもりが、約束した場所に向かえば、手鏡で何とも忙しそうに前髪を直しているのが見えた。
「そんなことしなくても栞子ちゃんは可愛いよ、十分決まってるからさ」
「んな!も、もう、居たのですか!なら声を掛けてくれれば良かったと思うのですが!」
ぷっくりと頬を膨らませて怒る栞子ちゃんはいつもと違う子供っぽさを感じてとっても可愛らしかった。
「ごめん、ごめん」と謝るとぷいっと僕と反対側を向いて拗ねるような素振りを見せる。
「声掛けなくて悪かったよ、今日の奢るからさ許してよ」
「い、いえ、別にそんなつもりは全くなかったのですが……」
元々栞子ちゃんに払わせるようなつもりはなかったけどね。
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お店に一度入れば甘い匂いが鼻を通じて感じられた。もしお菓子の家があればこんな匂いなのだろうか。
僕達は席に座って一息ついた。そして、僕はコーヒーを、栞子ちゃんは緑茶を飲んだ。
「見渡す限りにスイーツがいっぱい……どれから食べようか迷ってしまいますね」
「栞子ちゃんってスイーツ好きなの?」
「えぇ、好きですよ、やはり甘いものというのは脳を動かすエネルギーですから、カロリーは気になるところではありますが……」
「でも折角ここに来たなら思う存分食べていけばいいんじゃない?日頃頑張っているから食べすぎてもバチは当たらないよ」
「えぇ、ならそうします」
栞子ちゃんは軽く微笑んで、笑顔でスイーツが並ぶショーケースに歩いていった。
僕はその後ろ姿を見ながら、店内に漂う甘い匂いと一緒にコーヒーを一息に飲み干した。
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「美味しいね、栞子ちゃん」
「えぇ、とっても」
僕はコーヒーを一口飲んで、何となくコーヒーカップを軽く揺らしながら栞子ちゃんに話しかけた。
お店に入ってから何分経ったのか知らないけれど、僕の二倍、三倍の量を栞子ちゃんは食べている。
男性は何となく甘い物は苦手だったり量を食べれない人は多いと思うが、僕も例には漏れず余り甘いものを食べる方ではないと思う。
それを加味しても女の子の所謂スイーツは別腹の別腹は何とも異次元だと思う。
でも余りにも幸せそうに食べる栞子ちゃんを見ると、こっちも何だか幸せな気持ちになる。
僕がじっと見ていたのが不思議だったのか、栞子ちゃんは首を傾げて僕をじっと見た。
「えっと……どうしたのですか?」
「いや、何でもないよ。それ、美味しそうだなって思ってさ。次持ってこようと思って」
「ふふ、なら試しに食べてみますか?」
すると小さく切ったチョコのショートケーキを差し出す栞子ちゃん。
フォークも変えてるわけじゃないからこれは……
「一応カップルと言うことで来ているわけなので、カップルっぽい事もやっておかないと思いまして」
「いや、そこまでマジにならなくてもいいと思うけど……」
栞子ちゃんの元来の生真面目さが悪い方に出てしまったようである。頭の中で『これは掛かってしまっていますね、落ち着けるといいのですが』という最近よく聞く実況が聞こえてきそうである。
「どうしたのですか?食べないのですか?」
このまま固まって栞子ちゃんに弄られるのも癪なので思い切ってフォークに啄むようにケーキを食んだ。
こんなんじゃケーキの味も分かった物じゃないけれど、よく見てみると栞子ちゃんも耳が赤くなっている。
そして栞子ちゃんは次の一口を食べようとして、一瞬固まった。そして迷うような素振りを見せた。
「あ、ごめん、それ僕が食べた奴だもんね、新しいの持ってくるよ」
さすがに友達と言えど異性の口に入ったもので食べるのは嫌だろう。と思って僕は席を立とうとした。
すると「待って下さい」と制止の声が掛かった。
「大丈夫です、これで、はい、全然問題ありません。むしろこちらの方が……」
段々と声の勢いが萎んでいくので上手くは聞き取れなかったが、大丈夫って事なのだろう。
でもじっとそのフォークを見つめているけど……
やっぱり新しいの持ってくるべきだったかな。
「ふー、お腹いっぱい」
「えぇ、つい沢山食べてしまいました」
ポンポンと手をお腹で軽く叩く。
もう一生分の甘いものを食べたんじゃないかと思う程。
暫く甘い物はいいかな……
そして、会計でも済まそうかと席を立つと栞子ちゃんが「あの……」と話しかけてきた。
「今回は恋人のフリでしたけど次はカップルとして来たいですね」
「そう……だね?」
栞子ちゃんにも好きな人っているんだと思って、少し胸に謎のモヤモヤを感じたそんな日だった。
栞子ちゃん誕生日の日に書き始めたので投稿日は栞子ちゃんの誕生日と言っても過言ではないと思います。
何かアニガサキの栞子ちゃんのデザインちょっとモブキャラっぽいような……?
栞子ちゃん小説を求めど探せど見つからなくて泣きそう