いやー、今回は過去最長の文字数を記録しました。その数なんと、1万4000です。
ええ、読者の方が思われた通り、二話か三話に分けた方が良かったかもしれませんね!けれど、書いている時に妙な熱が入ったので、書ききりました。反省も後悔もしてません!
と、くだらないお喋りはここまでにして、今回の話しのタイトルが回収されるのは後半部分なので、前半は面白くねえーな〜っと思っても、出来ればUターンしないで頂けると有難いです!
今回のお話しは、オリ主にした時から考えていた案なので、今の私が出来る全力で書ききりましたから!
それと、アンケートの投票ありがとうございました!
結果は、既にご存知の方もおられると思いますが、『死神』に決定いたしました!
「……ふーん、なるほどな。それでお前、頭にそんなもん生やして戻って来たのか……」
デオノクスは店内の隅にモップとバケツ、雑巾を置くと、僅か数分で戻って来たメリオダスへと目を向けながら言った。彼の目線の先には、メリオダスの金色の頭髪の上に、子どもの拳サイズのこぶがあった。
数分前に見送った筈のメリオダスが、何故か戻って来ただけでなく、傍に見知らぬ子供を連れていたことが気になったデオノクスは、彼から簡単にではあるがことの経緯を聞いていた。
「ああ。ひでえ目にあったぜ」
「んで、そのガキが村の住人どもに石を投げつけられ、憐れにも追い出された可哀想な奴ってわけだ」
「お、おれは別に追い出されたわけじゃ……」
村の人々に石や罵倒を浴びせられ、メリオダスによって酒場まで連れて来てもらった少年ミードは、威勢よく啖呵を切るも、そのセリフは徐々に尻窄みしていった。
ミードの脳裏には先程の光景が鮮明に映し出されていた。
自分の面倒を見てくれた大人や、仲の良かった村の子ども達に嘘つき呼ばわりされ、罵倒を浴びせられながら石を投げつけられる光景を……。
「……お前さ、もうちっと言葉を選んでやれよ」
メリオダスは子どもにすら容赦ない言葉を浴びせるデオノクスに、呆れを含んだ眼差しを送る。
「んじゃあ、逆に聞くが、お前はなんて言うんだよ?追い出されてはなくとも、そいつが石を投げつけられたのは事実だろ。言葉を濁して伝えたところで、結果は変わんねえんだ。寧ろ、知らない奴に気をつかわれた方が、よっぽど心に響くと思うぜ?」
「んー……でもな…」
「メリオダス。お前のそれは、そいつに対する同情か?それとも、子供だから甘やかしてやらなきゃいけねえとでも思ってんのか?」
「そうじゃねえけどよ……」
「俺も【バーニャの村】の住人と話したことあるから言うが、あそこの村人が何の理由もなしに、ガキ一人に石を投げつけたりする筈ねえだろ。詳しい事情は分からねえが、そのガキはそれだけのことをしたってだけだろ。甘やかすだけが優しさじゃねえんだよ」
デオノクスはどこまでも客観的な意見からものを言う。
確かに彼の言う通り、傍から見ればミードが悪さをしたから、村の人々から追い出されたように見える。
もっとも、実際は違うのだが……。
それにしても、とても数分前までメリオダスにむっつりスケベだの、自分に負けず劣らずの変態だのと揶揄われてた人物とは思えない冷淡さだ。
第三者がいるかいないかで、ここまで性格が変わるものだろうか。身内が関わらなければ、彼はこんなにも冷めた性格をしているのか。
「……ねえ?気になってたんけど、ここって酒場?」
ミードがカウンターの奥の棚に置かれた酒や、周りの座席を見渡しながら言う。
「ああ、【豚の帽子亭】って名前の酒場だ」
「え!?【豚の帽子亭】って、あのあちこちに移動する酒場のこと!!?」
「ああ、その酒場であってる。ちなみに言っとくが、
デオノクスは腕を組んだ状態から親指だけを出し、クイクイとメリオダスに向けて言った。
「え!?兄ちゃんじゃなくて!?」
ミードは机から身を乗り出して驚愕の表情をつくった。
完全に見た目からデオノクスが店主だと思い込んでいたために、それがまさか自分とさほど年が変わらない姿をした、メリオダスだとは思ってみなかったのだ。
まぁ、初見なら誰でも間違えてしまうので、ミードの反応は至極当たり前なのだが。
メリオダスはやはり、そのことが不満なようで、心外だと言わんばかりの表情をする。
「そうだ。こいつがこの酒場を、とある物を売って得た金で建てたんだ。それに俺は、酒飲めねえし」
「?酒が飲めないのに、なんで酒場なんかやってるの?」
「ああ……そりゃあ、こいつの料理の腕が絶望的に悪いからな。酒場っつっても、酒だけを出せばいいってものでもねえだろ?酒のつまみに合うものだとか、簡単な料理ぐらいは作れねえと、客を呼び込むことも出来ねえしな」
「そうなの?」
「まぁ店にもよるが、たいがいの酒場には何かしらの料理は置いてあると思うぜ?」
「ふーん……ねえ、兄ちゃんは料理作れるんだよね?」
「ああ、こいつと違ってな」
「うるせえ」
「じゃあさ、何か作ってよ。おれ、腹減った」
「別に構わねえが……」
そう言ってデオノクスは言葉を区切ると、ミードの姿を上から下へと目線をやる。
どう見たって、彼がお金を持っているようには思えない。まさか、
「おいガキ。まさかてめえ……」
ミードの姿を上から順に見下ろしたデオノクスが、彼に言葉を送ろうとした時、メリオダスが手で制した。
「いいぜ、飯なら食わしてやるよ。ただしその代わり、さっきの話しを聞かせてくれたらな」
「さっきの話し?」
「おいお前、何を……」
「いいからいいから、ここはオレに任せてくれ。それよりもデオノクスは、こいつにメニューを渡してやってくれ」
「……ハァ……分かった」
メリオダスの表情から、そのさっきの話しとやらが余程有益な情報であると察したデオノクスは、諦めたようなため息をつくと、カウンターに置いてあるメニューを取りに行った。
「あいつが飯を作ってくれるから、お前はオレ達にさっきの話しを聞かせてくれ。どうせ金なんか持ってねえだろ?」
「だから、さっきの話しってなんのことだよ?」
「お前が村の大人達に言ってたことだ」
「!!」
ミードがメリオダスが何の話しを聞きたいのかを理解した時、メニューを持ったデオノクスが戻って来た。
「ほらよ。そこの中から好きな物を言え」
「あ、ありがとう……」
ミードが渡されたメニューから食べる料理を選んでる間、デオノクス達はミードの話しの事について、彼に聞こえない声量で話し合っていた。
「おい、メリオダス。お前まさか、あのガキから【七つの大罪】の情報を聞き出されるとか、考えてねえだろうな?」
「良く分かったな。その通りだ」
「お前、正気か?俺には、あいつが俺達に有益な情報を与えてくれるとは、とても思えねえんだが?」
「デオノクス。あんまし、人を見た目で判断するのはよくねえぜ?もしかしたらって、可能性もあるだろ」
「いや、ねえだろ。逆になんでてめえは、あいつから【七つの大罪】の情報が聞き出されると思ったんだよ?」
「だってあいつが、おれのダチの【七つの大罪】って言ってたから」
「…………」
デオノクスの表情は【無】だった。
いつもいつも思うが、メリオダスの楽観的というか、前向きというか。些細なことを気にしたりしない彼の性格は素直に尊敬出来るし、だからこそ一癖も二癖もある団員のリーダーを務められたのだろうが……。
(だからって、限度があるだろ。あのガキはどう見たって普通のガキだ。【七つの大罪】がダチって言う話しも、十中八九嘘に違いねえ。こんなこと、先の展開を知らなくても分かることだぞ)
デオノクスは弟の、誰であろうとも邪険に扱ったりしない、その甘さを少し心配していた。
いつかその甘さが、良からぬ方向に進むのではないかと。
(まあそれでも、あの頃に比べたら何千倍もマシか。あの姿の本質は、【魔神王】の都合のいい操り人形みてえなもんだし、奴が乗り移るのに邪魔な感情を削ぎ落とされてるだけだからな。はっきり言って、俺はあの姿のメリオダスを
するとその時、今までメニューと一対一の睨めっこをしていたミードが、食べたい料理が決まったのか。顔をあげて、指でその部分を指し示した。
「兄ちゃん。おれ、これが食べたい!」
「あん?」
「おおー、それを選んだのか」
デオノクス達が指し示された部分を見ると、そこには【牛の香草(ハーブ)焼き】と書かれていた。
「分かった。今から作るから、ちょっと待ってろ」
デオノクスはそう言うと、袖を捲りあげてから、厨房の方へと向かって行った。
そうして、デオノクスが厨房に入ってしばらくの時が経過すると、ミードの前に頼みの料理が置かれた。
「おお〜!!うまそー!兄ちゃん、これ本当に食べていいの!?」
ミードは目の前に提供された料理に目をキラキラと、眩い星のように輝かせた。
皿の上には、こんがりとジューシーに焼かれた牛肉に、スライスされたトリュフが上からトッピングされていた。
「ああ。その代わり、飯代はちゃんと払ってもらうからな」
デオノクスはそう言って、ナイフとフォークを渡す
「う"ぅ"……わ、分かったよ」
ミードは、蛙がものを喉につまらせたかのような声を出すと、受け取ったナイフとフォークを使って食べ始めた。
「さて、そんじゃ聞かせてくれるか。お前の友だちが【七つの大罪】って話し……。あれ、本当か?」
メリオダスは店の酒をカップに注ぐと、ミードの正面の椅子へと腰掛けた。
「え、え〜と……」
ミードは食べていた手を止めると、聞かれたくないことだったのか、視線を泳がせる。
「(やっぱり嘘じゃねえか……)ああ……その反応で分かったから、それ以上は言わなくていいぜ」
「ご、ごめん……」
「気にすんな。元々、俺はてめえの話しを疑ってたんだ。けど、あいにく俺は、一応はここで働かせてもらってる身なんでな。
デオノクスは指をパキパキと鳴らしながら、額に青筋を浮かべてメリオダスへと問う。
「んー……やっぱり嘘か。ちょっとは期待したんだが」
「てめえ、反省する気ねえだろ……っ!!」
「まあ、いいじゃねえか!そんな飯の一つや二つぐらい、気にすることねえって!」
「いや、それはてめえの言うセリフじゃねえよ!どうすんだよ、結局
両者がくだらないことで言い合いをしている時、来客の合図である扉の鈴が鳴った。
「ん?」
「おっ、二人とも」
店内に入って来たのは、メリオダスと共に村へ行ったエリザベスとホークだった。
彼女は戻って来るや否や、ミードの方へと向かって行く。
「ミードちゃん、村長さんに聞きましたよ。あなた、相当ないたずらっ子だそうですね?」
エリザベスは幼い子を叱る母親の如く、めっ!と少し怒った顔をする。
「な、なんだよ……馴れ馴れしい女だな!」
エリザベスはそのままに床に膝を着くと、優しげな笑顔でミードへと微笑む。
「私も小さいころに、よくいたずらして、父に叱られました……」
「フン!!そりゃあ、よかったな!!おれには関係ねえけど!」
「……気を引きたかったんです。本当の父じゃなかったから……」
エリザベスは笑顔の中に、ほんの少しの寂しさを混ぜると、その時を懐かしむように語り聞かせた。
「一度…庭にあった大きな木に登って、父をびっくりさせようとしたことがあって……そしたら、父が真っ青になって木を登ってきたんです。一度も木に登ったこともないような人が……。案の定、父は木から落ちて、軽い怪我をしてしまいました…」
「「…………」」
「…私、あの時のことが今でも忘れられないんです……もしあの時、父が死んでしまったら─」
「お、おれだって……そんなつもりで嘘とか言ってんじゃ……」
エリザベスの幼い頃の話しを聞いて、自分の境遇を思い出したのか。ミードは、椅子からガタッと立ち上がると、声を震わせながら語り出した。
「お、おれの父ちゃんと母ちゃんは、旅人だったんだ。でも二人とも、数年前に【バーニャの村】に立ち寄った時、
ミードは涙を堪えながらも、自分のことのように、村の人達のことを誇らしげに語る。
(……ほんっと、毎度毎度
ミードの話しを聞きながら、デオノクスは己の無神経さ、不甲斐なさに殺意を募らせていた。
彼にとっては、その事実は一種のトラウマに等しかった。
見た目や視覚で捉えた映像越しでしか物事を判断できないのは、彼のたった一人の愛する者を奪ったことにも等しかったから……。
「……でも、やっぱりおれは、誰の家族でもなくて……本当の家族がいるみんながうらやましくて……嘘ついたり、いたずらしたり……っ!ヒクッ……」
「【聖騎士】のお酒に虫を入れたのも、それが理由?」
「ちがうっ!!!」
エリザベスの問いかけに対して、ミードはその小さな手で机をバンッ!と叩き、声量を大きくして否定した。
「それはあいつが……ッ【聖騎士】がみんなをバカにしやがったからだ!!」
(ほう?)
「ふーん……(ご愁傷様、せいぜいデオノクスに見つからねえように生きてくれ。名も知らぬ【聖騎士】よ……)」
ミードの【聖騎士】が馬鹿にしたという発言に、目ざとく反応したデオノクス。
そして、それを長年の付き合いから、感覚で感じとったメリオダスが、まだ見ぬ【聖騎士】に心の中で合掌した。
「大人も子供も、いい酒を造るために、毎日毎日手間暇をかけてっ……!なのに、それをあいつは─ッ!!」
『不味い。馬の小便よりはマシな程度だ』
「─って言いやがったんだ!!ただで沢山取り上げるだけのくせして……っ!村のみんなの苦労も知らないくせに……っ!!【聖騎士】なんてロクデナシだ!」
「んー……じゃあ、【七つの大罪】を友だちって言ったのは何でだ?」
「ぐすっ……だって、【七つの大罪】は【聖騎士】に追われてるんだろ?悪い【聖騎士】に追われてるなら、【七つの大罪】はいい奴ってことだろ……?」
そんな良識のある大人では考えない、子供特有の純真な考えに、エリザベスは二人の大罪人に微笑んだ。
「……何?」
「どうした?」
「いいえ。ウフフ……」
その時、村の方から数十米離れた酒場にまで届く程の、喧騒が聞こえてきた。
「!この声は……っ!?村の方からだ!」
「あっ、待ってミードちゃん!」
ミードは村から声が聞こえた途端、エリザベスの呼び止める声にも耳をかさずに、一目散に走り去って行った。
「……どうする?」
ミードが走り去って行った扉が閉じるところを見た後、メリオダスは三人の方へと首を動かして聞いた。
「あ?決まってんだろ、村の方へ行くぞ。うちの酒場一番の売れ株でもある【バーニャエール】も、まだ分けてもらってねえだろ」
「にしし……そうだな!」
「「はい!/おうよ!」」
──そして、四人が村の方へと駆けつけた時、ちょうど【バーニャの村】の村長が、いまだにミードへと罵声を浴びせる村人達を叱っていた。
「いい加減にせい!!」
「そ、村長……」
「儂ら酒造りの誇りを傷つけたのは誰じゃ?ミードか?ちがうぞ!あの子の行為はいつだって、儂らの気持ちの代弁だったのではないか?」
「…………」
村長の叱責に、ミード以外の村人達はみな目線を下げる。
その様子からは、彼らがしっかりと反省していることが窺えた。たった一人の子どもに、村の者全員が彼に酷い言葉を投げかけていたということを……。
──村長さんが村人達を叱っていた頃、デオノクス達よりも一足早く駆けつけていたミードは、村の中心部に刺さった剣を引き抜こうとしていた。
「ふん!んぐぐっ……ふぇ?」
力いっぱい引き抜こうとしていた自分の手に、横から手を添えられたミードは驚き、その方向へと目を向けた。
「おばさん?」
「村長さんの言う通りだ。悪いのはあんたじゃない」
その言葉を皮切りに、村の子供たちがミードへと駆け寄り、彼と共に剣を引き抜こうとする。
「女、子供はどいてな……ほら、ミードも」
駆け寄った男達の声も聞かず、ミードはまた剣を引き抜こうとしていた。
そんなミードの頑張りに心打たれた男達は、互いに頷き合うと、剣を縄で括り、村の男達全員で剣を引き抜きにかかった……。
一方、村長の言葉や、村の者達が一丸となって剣を引き抜きにかかっている光景を目の当たりにしたデオノクス達は……
「……なぁ、メリオダス」
「ん?」
「悪いけどさ、ここは俺に譲ってくんねえかな?」
「にしし、何謝ってんだよ?」
「いや……俺が言わなきゃ、お前があの剣を引っこ抜いてただろ?」
「んー……まあな。けど、お前がやるって言うんなら、オレはここで待ってるさ」
「そうか……。悪いな、お前の晴れ姿を奪っちまって」
「だから何謝ってんだよ?気にすんなって!お前がやりたいと思ったんなら、オレはそれを尊重するさ!」
「ああ……サンキューな」
デオノクスのメリオダスに対しての謝罪は、本来の彼の活躍を、自分のわがままで奪ってしまうという罪悪感から出たものだった。
デオノクスは基本的に、メリオダスや他の大罪人達の活躍の機会を奪うことを良しとしない。
彼が【原作】の舞台に介入するのは、メリオダス達を育てる時か、介入したとしても結果にさほど影響しない時だけだ。
それ以外での介入は、下手な混乱を呼び込んだりすることもあるため、また【原作】の舞台を壊したくないという彼自身の思いもあったために、直接介入したりすることはなかった。
(今なら分かるよ、ゼウス。あんたが俺をこの世界に転生させたことの意味が……。駄目だったんだよな?あん時の俺は。あんたの目的のためには、【人間】に対して、憎悪や怒りだけを向けてちゃさ。駄目だったんだよな?転生した世界で、その世界に住む者達をキャラクターとして捉えるのはさ……。そりゃそうだよな……。例え別の世界から転生したとしても、今の俺はその世界で一人の人物として存在してんだ。メインのキャラでないからだとか、物語に影響しないからという理由で、
一歩ずつ足を進めるデオノクスの頭に、次々と命を奪ってきた者達の顔が浮かび上がってくる。それは、嘗てのデオノクスが行ってきた業。世界に対して何一つ期待を抱くことなく、自分を襲ってくる者達を、虫を潰すかのように殺していた時の罪。殺しているという自覚すらなく、ただ機械のように命を奪っていた時の記憶だった。
(……殺すということが罪なんじゃない。生き物を殺すのは、生きていく上では、必要不可欠なことだ。自分が生き残るためには、限りある資源を己の手に収めるためには、どうしたって殺すという行為は生まれてしまう。だけど、殺したならば、命を奪ったという自覚をし、その責任を取らなきゃいけなかったんだ。仕方なかったからと言って、その罪から目を背けたり、罪を罪と自覚せずに殺すことが、本当の罪だったんだ)
デオノクスの脳裏に、いつもいつも自分の恋人が、誰かを殺す度に涙を流していた光景が浮かび上がる。
(今なら理解できるよ、ガブリエル。何でお前が、命が失われる度に、自分のことのように涙を流していたのか。そりゃそうだよな……。だってお前の『
嘗ての彼では考えられなかった他者への思い。
それは、彼が成長した証だった。唯一無二の恋人に出会ってから、彼の中に誰かを愛するという思いが芽生えた。誰かを大切にするということの尊さを覚えた。
しかし、それでも彼の中の【人間】に対しての価値観は変わっていなかった。今日までは……。
(今でも俺の中にある【人間】への憎悪は変わらねえ。奴らにされた仕打ちを忘れることはねえし、【人間】が愚かだという思いも消えねえ……。傲慢で醜く、欲望に忠実で、目的を達成するためなら手段を選ばねえのが【人間】だ。その思いが覆ることは、この先もねえだろ。けど、それだけが【人間】じゃねえんだってことを知った。誰かのために涙を流すことができ、誰かのために真剣に怒ることが出来るのも【人間】だと知れた。姿や形、力の大小に差異はあっても、それ以外は
そして、デオノクスはミードの前にまでやって来た。
(だからさ、俺が死ぬのは酷く当たり前のことだし。これから俺がやることも、仕方ねえよな?)
デオノクスは心の中で、誰に対しての言い訳かも分からないセリフを放つと、倒れているミードへと話し掛けた。
「おいクソガキ。お前確かミードつったよな?こんなところで、一体何やってんだ?」
「えっ?」
「村に刺さった剣を必死で引き抜こうとしてさ。それは何だ?罪滅ぼしのつもりか?」
「お、おれは……ッ!!ただ、村のみんなに迷惑掛けたから……それで……」
「ふーん……で?それで、お前の罪が許されるとでも思ってんのかよ?」
「ゆ、許されるとか……おれは別に……そんなつもりでやってるんじゃ……」
「じゃあ、何のつもりでやってんだよ?はっきり言って、今回お前がやったことは、本来ならこの程度では済まされねえもんなんだぜ?」
「えっ?」
「【聖騎士】の飲む酒に虫を入れたんだろ?なら、怒り狂った【聖騎士】がこの村に牙を剥き、老若男女関係なく村人全員を虐殺していたとしても不思議じゃねえな」
「そ、そんな……っ」
デオノクスの言葉に、ミードの顔色は青ざめていく。
当たり前だろう。自分が良かれと思ってした行為が、一歩間違えれば、村そのものを壊滅させていたのだから。まだ幼い子供の彼には、デオノクスの言葉は荷が重すぎた。
「それで?下手したら、村人全員を殺していたかもしれないお前は何やってんだ?剣を引き抜こうとすることが、まだ村に迷惑を掛けてるってことに気づかねえのか?」
「お、おれは……」
恐怖で喉を震わし、顔や唇も真っ青になっている子供に、デオノクスは瞳に冷徹な光を宿し、容赦なく責めたてる。
「はっきり喋れや。良いか?てめえが今やらなきゃならねえのは、【聖騎士】が刺した剣を引き抜くことじゃねえ。【聖騎士】の前まで行って正式に謝罪し、死んで詫びることだ」
「し、死ぬ……?」
「そうだ。もっとも、てめえの命一つで【聖騎士】が村を許すかどうかは、定かじゃねえがな」
「あ、ああぁああぁ……」
そしてとうとう、いたいけな幼子に対してキツい言葉を投げかけるデオノクスに、村の者達がミードを庇い始めた。
「おいあんた!さっきから聞いてりゃ、子供に向かってその言い草はないだろ!!」
「そうよ!ミードだって悪いと思ってるから、みんなと一緒に剣を引き抜こうとしてるんじゃないの!他所の問題に、いちいち首を突っ込まないでちょうだい!」
「そうだ!ミードを悪く言うな!!」
「ミードに謝れ!!」
大人は勿論、小さな子供にまで浴びせられる言葉の数々に、デオノクスは一切怯むことはなかった。
「(そろそろか……)事実だろ?【聖騎士】っていや、たった一人で一国の兵力に匹敵する存在だ。そんな奴に楯突いて、今こうして無事でいることそのものが奇跡なんだよ!生きてるだけで有難いと思えや!それをさっきから聞いてれば、十倍の取り立ては払えないだのと抜かしやがって、てめえら全員それを他の村の前で言えんのかよ!?【聖騎士】に楯突いて、家族や友人を殺された奴らの前で言えんのかよ!!?」
デオノクスの剣幕に一瞬だけ怯むが……
「だ、だとしても、それはあくまで他所の村での話しだろ!?」
「そうだ!俺たちには関係ない!」
一人が発した言葉を皮切りに、村人達がまた勢いづく。
「関係ねえ訳ねえだろ!さっきも言ったが、今回のこいつがしでかしたことは、村そのものを滅ぼされたとしてもおかしくねえんだよ!子供だからって言う理由で、許されていいことじゃねえんだ!!」
そして、デオノクスはもう一度ミードへと向き直る。
「おいクソガキ。今回のことでよーく分かっただろ?てめえのたった一つの過ちが、村に災いを齎してたかもしんねえんだぞ!!お前の身勝手な行為が、今も尚村の人達に迷惑を掛けてんだ!それを自覚しろ!」
「ご、ごめんなさい……っ」
「俺にじゃねえだろ。村の奴ら全員にだ」
デオノクスに言われたミードは、村人達の方へと向きを変えると、アスファルトに涙を零しながら謝罪する。
「みんな……ぐすっ……おれのせいで……ヒクッ……たくさん迷惑掛けて……ごめんなさい……っ!!」
「いいんだミード。俺たちも悪かった」
「私たちの方こそごめんなさいね。あなたの気持ちに気づいてあげられず、酷いことばかり言ってしまって」
「ごめんねぇ〜!ミードォォーッ!!」
村人達はミードの真摯な謝罪の言葉を温かく受け入れた。
─そして、その光景を見ていたメリオダス達は……
「もしかして、ミードちゃんが村の人達に許してもらえるように、デオノクス様はわざとあんなセリフを……?」
「にしし…だから言ったろ、エリザベス?あいつなら問題ねえって!」
「はい!」
何を隠そう。実はエリザベスも、デオノクスのミードに対する容赦の欠片もない言葉に、村人達と同じように彼を止めようとした内の一人だった。
しかし、何かを言う前にメリオダスに止められ、渋々と事の成行きを見守っていたのだ。
「けどよ、本当にあいつ、容赦の欠片もねえな」
「ああ。オレもデオノクスに予め言われてなきゃ、止めに入ってたかもな」
「何て言われたんですか?」
「ん?何のことはねえ。この場は譲ってくれって言われただけさ」
「えっ?たった……それだけで?」
「ああ。けどあいつが、【七つの大罪】のメンバーやオレたち以外に、何かをしたいって自分で言い出したの初めてだからな。そんなあいつが譲ってくれって言い出したんだ。信じて見守ってやるのが仲間だろ?」
「……ッ!?(すごい……これが、メリオダス様とデオノクス様の絆なの……っ?)」
もはや、問題も解決して一件落着の雰囲気に場が支配されていた時、それを面白くないと思う輩が横から無粋な言葉を投げかけた。
「お、おい貴様ら!分かっているのか!?その剣を日没までに引っこ抜けなければ、取り立て量は十倍だぞ!?十倍!!」
「そうだ!そのガキを許したところで、剣を引っこ抜けなければ、結局貴様達はおしまいだ!」
村の住人が必死で剣を引き抜こうとする様を、酒を飲みながら高みの見物をしていた下っ端その一とその二が、虎の威を借る狐の如く吠える。
「ほう?良く分かってんじゃねえか」
「「へっ?」」
「確かにてめえらの言う通り、この件はまだ解決したわけじゃねえ。今回、この村をこんな目に合わせた直接の原因は【聖騎士】だが、そもそもの発端はクソガキ、てめえが原因だ。だから、【聖騎士】が刺した剣はてめえ一人で引き抜けや。村の大人達に手伝ってもらってんじゃねえよ」
デオノクスの発言に、場は一瞬にして静まり返った。
全員、彼が何を言ったのかを理解出来なかったのだ。いや、理解したくなかったと言い換えた方が良いだろうか。なんせ、デオノクスが言ったことは、村の者達にとって事実上の死刑宣告に等しかったのだから……。
そして、遅れて彼の言っている意味を理解した村人達は、全員ひと様に文句を言い始めた。
「む、無茶苦茶だ!そんなこと、ミード一人に出来るわけないだろ!!」
「そうよ!村中の男達が協力しても、びくともしなかったのよ!?それを幼い子供一人にやらせるだなんて……っ」
「俺たちに何の恨みがあるって言うんだ!!」
口々に文句を言う村人だが、次のデオノクスが放った圧力のある言葉に、全員口を閉ざされた。
「黙れ。さっきも言ったが、事の発端を作ったのは、他でもねえこのガキだ。ならそのケジメは果たさなきゃならねえ」
そして、ミードの方へと向き直り……
「おいミード。今回、てめえが村のみんなを馬鹿にされて、怒りを堪えることが出来なかった気持ちは分かる。俺だった目の前で、自分の大切なもんを傷つけられたり、侮辱されたりしたら、怒り狂った挙句、そいつを八つ裂きにする自信がある。けどな?だからって、それは時と場を考える必要があるんだ。力を持たねえ奴は、強者に蹂躙されるしかねえのさ」
デオノクスはミードの元へと足を進め、彼の頭を優しく撫でる。
「だからな、今回の件で学んだだろ?お前は力を持たねえ側の【人間】だ。そういう奴は、ビクビクと強者に怯えて暮らすしかねえんだ。刃向かったからには、それなりの罰を受けなきゃいけねえのさ。何度も言うが、今回の原因を作ったのお前だ。村の大人達が必死で怒りを堪えたのに、お前は【聖騎士】に牙を剥いた。なら、その責任を果たす義務がお前にはあるんだ。分かるだろ?」
デオノクスのは言葉はどこまでも穏やかだった。
先程の剣幕で怒鳴り散らしていた者と同一人物であるとは、とても思えないほどに……。
だからこそ、より一層不気味だった。
優しげな言葉で相手を誑かし、自分達を絶望の淵へと誘おうとしているのだから。
村人達には、彼が自分達が苦しむ様を楽しむ悪魔かなにかに思えてしかたなかった。
「ぐすっ……分かった」
ミードは服の袖で涙を拭うと、剣の元へと走り寄った。
そして、ミードが了承した瞬間に、村人達の僅かに灯されていた希望という名の炎が消えた。
彼らの頭に絶望という二文字の言葉が浮かび、日没までの絶望のカウントダウンか始まった。
「んぐぐ……っ」
ミードが力いっぱいに引っこ抜こうとするも、村人達は全員顔を落とし、彼の勇姿を見ようとしなかった。
故に気づかなかった。ミードが力いっぱい引っ張る度に、突き刺さった刀身の幅が、僅かに広がっていくことに。
(ミード、お前には感謝してんだ。ガブリエルですら出来なかった俺の中の【人間】という認識を、お前は見事に書き換えた。本当にすげえよ。誰でも出来ることじゃねえ。お前だったから出来たんだ。ただの村のガキであるお前だからこそ、その勇姿が、その行動が俺の心を突き動かしたんだ。子供であろうとも、【聖騎士】という強大な存在を前に一歩も引かなかったからこそ、俺の心に強く響いたんだ。お前の見せたその勇気が、俺の中にあった、【人間】は弱くて度し難い生き物だという認識を変えたんだ)
「んぎぎぎっ……抜けろ……」
更に広がる刀身の幅。
そして、剣の刀身が広がっていることに気づいた村人達。
「お、おい見ろよアレ!」
「嘘だろっ、見間違いか!?」
「いや見間違いじゃねえ!最初の頃よりも、見えている剣の刀身部分が大きくなってる!」
「はあ!?何でミードにそんなことが出来んだよ!?俺たちが束になって協力しても、びくともしなかったんだぞ!!」
「そんな事、おれらに分かるわけねえだろ!!唯一分かることは、ミードがおれらの希望ってことだけだよ!!」
「そうだな!頑張れミード!」
「頑張れ、ミード!」
「「「せ〜の……頑張れ〜ミード!!」」」
「ミードちゃん頑張って!!」
「ガキンチョ、あと少しだぞ!」
「おーら!てめーらもとっとと応援しねえか!!」
「「ひ、ひぃぃ……ぶ、豚が喋ってるーっ!!?」」
「今はそんなこと、どうでもいいんだよ!てめーらも、あの子のことを少しは応援しやがれ!!」
ホークが先程いちゃもんをつけてきた、下っ端共に喝を入れる。
今この瞬間だけは、ミードは確実に主役だった。
誰もが彼の勇気を見届け、一丸となって応援していた。
その光景は正しく……
(なあ?知ってるか、ミード。そうやって、強大な敵であろうとも、恐れず立ち向かい、人々の心を突き動かす者のことを……)
「【英雄】って言うんだぜ」
まるでそれは、世界が新たな歴史のページを刻むかのように、突き刺さっていた剣は、ミードの小さくも確かな力強さを宿した手によって引き抜かれた。
「抜けろ……抜けろ─っ!!」
勢い余って引き抜いた剣は、上空でクルクルと回転すると、柄の部分からゆっくりと地面に落ち、そのまま前向きに倒れた。
村人達は数秒程時が止まったみたいに静止し、先程の声援が嘘のように、シーンと静まり返った。
すると、デオノクスが彼の勇姿を祝福するかのように手を叩きながらミードの元へと近付いて行った。
「おめでとう。どうやら無事、剣は引っこ抜こけたようだな」
そして、勢い余って尻もちをついてしまったミードをゆっくりと起こして上げると、彼の小さな手を持ち、上へと掲げた。
「誇れ、ミード。お前の勝ちだ」
その言葉を皮切りに、村の者達が一斉に声を上げた。
「「「「「やったーーっ!!」」」」」
村人達は誰もが涙を流し喜び、男女関係なく抱きしめあっていた。その光景こそが、ようやく全て終わったのだということを顕にしていた。
「「「ミード〜!!」」」
子供達は、一目散にミードへと駆け寄って行た。
ミードが子供だけでなく、村の大人達にも祝福されているところを見届けたデオノクスは、自分はおじゃま虫だからと言わんばかりに、静かにその場を去って行った。
「お前、何したんだよ?」
「別に、俺は何もしてねえよ。強いて言えば、あのガキの頑張りに、気まぐれな神様が手を貸したんだろ」
「ふーん……ま、そういうことにしといてやるよ」
「おいだから、俺は何もしてねえって!」
「照れんなよ」
「照れてねえし。そもそも、俺は何もしてねえって、さっきから言ってんだろ」
「はいはい。お前が照れ屋なのはもう十分わかったから。ほら、今はあいつらだけにしてやろうぜ」
「てめえ……はぁ、分かったよ」
メリオダスは帰ったら殴ると心に誓いながら、エリザベス達と合流した二人は、酒場の法へと歩いて行った。
「フッ……良かったな、ミード」
最後にデオノクスは後ろを振り向くと、今もまだ村の人々に祝福されているミードを見届けた後、また前を向いて酒場の方へと歩いて行った。
一度は村の人間ほぼ全てに嫌われた少年、ミード。
しかし、彼の取った行動が人々の心を動かし、ついには気まぐれな【魔神】さえも動かしたとは、彼はついぞ知ることはなかった……。
こうして、【バーニャの村】でのひと騒動はひとまず終わりを迎えた。
しかし、今回の件が、この騒動を引き起こした【聖騎士】に、メリオダス以外にも【七つの大罪】がいるということを知られることになるのだった。