今回の話しでは、それ程物語は進展しないどころか、今作の主人公がチラッと出てくる程度で終わってしまいました。
さっさと、エリザベスと合わせたいのですが、思ったように上手くいかず、展開が遅くてすみません。
二人の大罪人 part1 【修正済み】
そこはとある丘の上に建つ小さな酒場
ブリタニア随一の大国と呼ばれる【リオネス王国】から数百マイル程離れた場所に位置し、周りは緑豊かな木々によって囲まれている。その丘には特徴的な屋根をした、たった二人で経営している酒場。
─名を【豚の帽子亭】と呼ばれる酒場があった。
店内には男性客だけでなく、酒場には似つかわしくない外見をした女性客の姿もちらほらと見えた。
彼女らの目的は酒場を経営する内の一人の男が目当てなのだが、当人は食材を切らして買い出しに出かけてしまったために、現在は留守中だった。
ここ【豚の帽子亭】はたった二人で店を回し、あちこちに移動する酒場という事で有名なのだが、仕入れている酒や運ばれて来る料理が美味いという事で評判だった。
それこそ、大陸にはあちこちにファンがいる程で、中には遠く離れた辺境の地からでも、数日かけてまで、店に足を運ぼうとする者がいるという。それほどまでに、この酒場は色んな客たちに酷く親しまれていた。
……もっとも、この酒場はちょくちょく移動し、最長でも同じ箇所には十日程しか滞在しないので、足を運んで来られても既に移動してしまったというケースが多々起きる。そのため、経営者の内の一人の男が、客たちに店にいつでもやって来れる【
それはまた、別のお話しである……。
──【豚の帽子亭】内部
「ほ〜ら、焼き上がったよ!ほい、【豚の帽子亭】名物【特製ミートパイ】三人前。お待ちどうっ!」
「「「おお〜!!」」」
店内に居る三人の男性客達が、運ばれて来た料理に目を輝かせ、鼻をヒクヒクと動かした。
出来たてホヤホヤであろう湯気の上がったミートパイに、男達はゴクリと喉を鳴らし、口の端から垂れて来た涎を手で拭った。
今料理を運んで来たのが、この酒場を経営する内の一人の男、メリオダス。国王から渡された名誉ある騎士の証を売った金で、【豚の帽子亭】を立ち上げた張本人で、この酒場の
酒場の
もっとも、本人は自身が子供扱いされる事に不満を思っており、容姿で揶揄われると、然るべき制裁を与えたりしている。
男達はメリオダスから渡されたフォークとナイフを各自で受け取ると、皿の上に乗った料理を、ナイフで食べやすいサイズに切り分けていった。
ちなみに、彼らが【豚の帽子亭】に来たのは、今日が初めてだ。彼らは、丘の上に小さな酒場が出来たという噂を耳にして訪れたのだが、訪ねた店が【豚の帽子亭】であった事が判明し、彼らは慌てて中へと入っていったというのが経緯だ。
噂通り、【豚の帽子亭】が仕入れている酒はどれも濃厚且つ深い味わいのする酒で、彼らは満足していた。だからこそ、彼らは【豚の帽子亭】を有名にさせた料理が食べたくなり、もう一人の男が居ない内に注文してしまった。そう、してしまったのだ……。
彼らは知らなかった。自分達に運ばれて来た料理を、いったい誰が作ったのかを。彼らは知らなかった。メリオダスの料理が酷すぎたが故に、もう一人の男が作らざるを得ない状態になったという事を……。
「「「いっただきま〜す!!」」」
切り分けたミートパイにフォークを差すと、それを同時に口へと含んだ。
再三言うが、彼らは知らなかったのだ。メリオダスが作った料理を口にしたもう一人の男が……『お前の料理は【十戒】にも通用する』と酷評していたという経緯を。
メリオダスは彼らが口に含んだ途端に、ニヤリとした笑みを浮かべた。その表情は外見と相俟って、まるで悪戯が成功したのを確信したかのような悪い笑顔だった。
「「「……ん!!?」」」
男達は口に入れてすぐに異変に気づいた。そして、自分達の身に起きた異変が何だったかを表すが如く、口に含んだパイを体内に溜まった空気と共に吐き出した。
「「「不っっ味ゥゥーー!!」」」
男達の様子を見た他の客達は、誰が調理したのかを察し……『あぁ、料理を作ったのは
初めてでない、客たちは知っているのだ。
それが、自身らをこの店に引き留める要因の一つになってしまったという事を。
メリオダスの料理を食べた後に、もう一人の男が作った料理を食べてしまったら、二度とその味が忘れられなくなる事を。
それが、初めて店を訪れた客ヘの洗礼の儀である事を……。
断っておくが、別にメリオダスやもう一人の人物はそんな事をしているつもりは一切ない。他の客達の間で囁かれている、単なる事実無根の噂に過ぎない。
けれども、何故か不思議な事に、【豚の帽子亭】に初めて訪れるは大抵の場合、もう一人の人物は居ないのだ。まるで狙い済ましたかのように、その時に買い溜めしていた食材が切れたりする。
そのため、一部の客達の間では【豚の帽子亭・七つの不思議!】と称され、噂されているとか。……不思議な事はこれを含めても、三つ程度しかないのにだ。
ともあれ、この事はメリオダス達にとっては、別にデメリットでもなければ、過程がどうであろうとも実際に客足は良くなっているし、それが店のひいては自分達の生計を立てる事にも繋がっているのだ。
困るのは、酒場の名前にも使われている、この酒場のマスコット的な動物で、メリオダスの不味い飯を食わされて腹を下すだけだ。
「ペッペッ、何だよこのひでえ味は!?」
「こんな不味い料理、今まで食った事もねえぞ!?」
「おいこら、どうなってんだよ!?この酒場は出される料理も美味いって評判なんじゃねえのかよ!!」
期待していた料理が想像を絶する程に不味かったために、彼らの脳内は怒り一色に満ちていた。
しまいには、この酒場に来る奴らはみんな味覚が狂っているのではと疑い出す始末。
男達は今にもメリオダスに掴みかかりそうな勢いだが、当の本人はと言えば……
「あちゃ〜、ま〜た駄目だったか」
まるで気にした素振りもなく、淡々と事実を受け止めていた。それどころか、怒り心頭なのは今日初めてここに訪れた男達だけで、他の客達は彼らの方へと目を向けてすらいなかった。
他の客達のあまり無関心さに、男達はおかしいのは自分達かと疑った。それ程までに、他の客達は酒場に来た頃と同じように普通に会話していたのだ。
男達が周りを見て呆気に取られていると……
「さーてさてさーて、今回も失敗しちまったか……。そんじゃホーク、片付けろ」
メリオダスは呑気にそんな事を呟くと、指をパチンっ!と鳴らして、この事態を収める事が出来る専門家を呼ぶ。
「ったく、たぁり〜な…」
すると、店の奥から艶のあるピンク色に、丸っこいフォルムの四足歩行で歩く豚が現れた。それも、喋って。
「え、豚……?」
「おい、今こいつ喋らなかったか……?」
勿論、そんな光景に驚かない男達ではない。人の言葉を話す豚など、世界中探してもコイツだけだろう。
男達は世にも奇妙な光景を目の当たりにして、今度は違う意味で呆気に取られた。
「俺に何のようだよ〜〜?」
「ホーク、残飯処理頼む」
「ちっ、面倒くせー……」
メリオダスに頼まれたホークと呼ばれた喋る豚は、心底面倒くさそうにしながらも、この後に待つご褒美のために、渋々と彼らの残した残飯を次々と
「ハァ……つーかよ〜〜食わせるなら、もっとマシな残飯食わせろよな。出来れば、デオノクスが作るようなもんをよ……」
ホークはぶつくさと文句を言いながらも、床に飛び散った残飯を自身の頑丈で優秀な胃袋に収めていく。
「豚の丸焼きなら、もう少しマシな料理が作れそうだけどな。火で焼くだけだし……」
そのホークの呟きを、鋭い聴覚で聴きとったメリオダスはボソッと、されどホークにはしっかりと聞こえる大きさで口にする。
それを聞いたホークはブルりと身体を震わせると、一変した態度でメリオダスの料理を褒め称える。
「んまァーーい!この残飯サイコー!!もしかしたら、デオノクスよりもうめぇかもー!!」
「……何か態とらしいな。よし!今日の晩飯はデオノクスに頼んで、カツ丼にしてもらうか!」
「ヒィ〜〜!!」
ホークは今食べている残飯が自身の最後の晩餐かと恐怖し、顔色を青く染めて、情けない悲鳴を上げる。
そんなホークとメリオダスのやり取りに、男達は怒っている事がだんだんとアホらしくなり、しだいに落ち着きを取り戻し始めた。
「な、なんかどうでも良くなってきたな……」
「あ、あぁ……」
「けどよ、何でここの飯はこんなに不味いんだ?さっきも言ったけど、【
男達は怒りを収めはしたが、出された品があまりの不味さだった所為もあり、酒場の噂は『嘘なのでは?』と疑い始めた。
すると、彼らの背後からその疑問に答える者が現れた。
「そりゃ、料理を作ってるのが俺だからな」
「「「へっ……?」」」
男達に声を掛けたのは、この店の制服に着替え、その上から黒一色のエプロンを被った若い男だった。
「よう〜デオノクス。今までどこ行ってたんだよ?」
「は?食材が切れたから、買い出しに行くって言ったろ」
メリオダスの問いかけに答えたこの者こそ、先程からメリオダスやホークが口にしているデオノクスだった。
彼の種族を象徴するかのような漆黒の髪に、情熱の赤い宝石を彷彿させる緋色の瞳。百八十代後半の身長に、剥き身の刃のように鋭い雰囲気を纏った男だった。
「ん??そうだっけ?」
「はぁ?言ったろうが!肉が切れたから買い出しに行って来るって!だから、暫くは一人で店を回してくれってさぁ!」
メリオダスは顎に手を当てながら、自分の脳内データベースに保存された記憶を探る。すると、確かに店をオープンする少し前に、デオノクスが買い出しに行くのを見届けた覚えがあった。
「……言われてみれば、確かにそんな事を言ってたような気がするな」
「忘れてんじゃねぇよ!」
「にしし、わりィわりィ」
メリオダスは両の手を頭の後ろで組むと、悪戯っ子のような笑みを浮かべて口だけの謝罪をする。
「少しは悪びれろよ!つーか、俺が言った事はそれだけじゃねぇんだが……?」
「ん〜?」
メリオダスは彼が何を言いたいのかを察しているのに、敢えて惚けた表情をする。その
「この野郎……っ!俺はここを出ていくときに、厨房には入るなって言ったろうが!!何でお前が調理してんだよ!?」
「?そんなもん、頼まれたからにきまってんだろ?」
メリオダスは心底不思議そうな顔で、デオノクスの問いかけに答える。
「断れよ!?自分は料理出来ませんからって!酒場を始めた時から、俺は調理担当でお前は酒を担当するって決めてただろうが!?」
デオノクスの言う通り、彼らは【豚の帽子亭】を開いた時から二人で役割分担をしてきた。その理由は、メリオダスが不味い飯しか作れないように、デオノクスにも酒の味が分からないという、酒場をやる上では致命的な欠点が存在したからだ。
だからこそ、二人はそれぞれの欠点を補う形で、これまでずっと店を切り盛りしてきたのだ。結果的にそれが功をなして、【豚の帽子亭】は大陸中に名が知られるに至った。
「はぁ……まあ、もう出ちまった結果は覆しようもねえから、これ以上は何も言わねけどよ。次からは気をつけろよな」
デオノクスは、もう何度言ってきたのかも分からない決まり文句を口にすると、周りを一瞥した後、周囲の客達に頭を下げた。
「悪かったな、店の雰囲気を悪くしちまって。詫びとして、今日の代金は俺が持つから、全員好きなもんを、好きなだけ注文していってくれ」
デオノクスのその一言と共に、周囲から歓声が上がる。そこには、今までの張り詰めたような空気はなく、みんながみんな笑顔を浮かべていた。
彼が女性客に人気な理由は、そのルックスもあるが、こうした気遣いが出来るところがあるからだった。
「お前も、とっとと自分の持ち場に戻れよ」
そう言うと、デオノクスは厨房へと戻っていった。
「……なんか、オレが悪いみてえになってんな」
「みてえじゃなくて、実際におめーがわるいだろうが」
メリオダスの呟きに、すかさずホークがツッコミを入れる
「……それもそうか」
それから数分もしないうちに、酒場はいつもの賑わいをとりもどしていった……。