【常闇の魔神】   作:黒闇 紫苑

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本編始まる前に一言謝罪して置きます。
二回で分けると言ったのに、結局メリオダスの名シーンに辿り着けず、誠に申し出ございません!!

言い訳をするなら、思った以上に指が走って、浮かんだアイデアをそのまま入れたから、こんな事になってしまいました。
本当にすみませんでした。

ちなみに、次はほとんどメリオダスがメインで、皆さんお待ちかねの、第一話のあのシーンを描いていきます!
私の文章力で表現出来るかは不安ですが、頑張って彼の強さ、魅力が伝えられるよう精一杯努めますので、私のモチベーションを上げる感想や好評価、お気に入り等を宜しく御願いします。


原初の罪(フェンリル・シン)〉デオノクス 【修正済み】

メリオダスの料理が出来たのを見計らい、下へと降りてきたデオノクス達は、彼女をカウンター席に座らせた。

 

 

「……介抱していただいた上に食事まで……。私……なんてお礼を言えばいいか……」

 

彼女がメリオダス達の優しさに胸を打たれ、感極まっているとき、それを制してホークが先に食べるように催促する。

 

「ねーちゃん。お礼はまず、そいつの飯を食ってから言いな」

 

「は、はい……。では、いただきます」

 

彼女が品のある動作で、目の前に出されたハンバーグを一口サイズに切り分け、口へと運んだ。

 

 

「う"ぅ……ッ!」

 

 

舌で転がした料理の味に顔を顰め、少女はうめき声を上げてしまった。

 

 

「どうだ、まずいだろ?」

 

「……はい」

 

お世辞にも美味しいとは言えない味に、彼女は正直に頷く。

 

「「「やっぱり……」」」

 

「でも……」

 

「「……っ!!」」

 

 

メリオダス達は、彼女の頬から伝ったものが、机に染みを作ったことに反応した。

 

 

「すごく……おいしい……」

 

少女は瞳からとめどなく流れてくる涙を止める術を知らなかった。

 

それは、ここに辿り着くまでに胸の内に抱えていた不安や恐怖から解放されたという安心感。見ず知らずの自分に優しく接してくれた二人の暖かい思いに、心を満たされたが故の涙だった。

 

「なぁ……お前、あんな鎧姿で何してたんだ?」

 

「……捜しているんです。【七つの大罪】を」

 

少女は僅かに間を置くと食事を手を止め、己の口から、自分が旅に出た目的を語った。

 

 

「「…………」」

 

「何でまた?生きてるか、死んでるかも分かんねえ連中だぜ?大悪党だぜ?」

 

「…………」

 

エリザベスがホークやメリオダス達に、今の王国の状況を語ってもいいのか。それを話したとして信じて貰えるのだろうか。そんな迷いを抱き、僅かに口を閉ざしてしまった時……こちらの状況を考えないような、無粋な来訪を告げる合図が聞こえて来た。

 

 

「開けろ!!村人からの通告があった!!我々はふもとに駐留する聖騎士様配下の騎士団である【山猫の髭騎士団】だ!通告にあった【七つの大罪】とおぼしき錆の騎士を捕えに来た!!」

 

その音は店の扉をノックする音であるのだが、余程強く殴っているのか、かなり大きな音が店内に伝わる。口調も荒く、これでは、【聖騎士】の配下というよりも、山賊の配下と言われた方がまだ納得出来るかもしれない。

 

 

「なんか、うるせえ奴が来たな」

 

「ああ。これじゃあ、連中を従えている【聖騎士】の程度もたかが知れるな」

 

メリオダスとデオノクスは若干、面倒くさそうに、扉の向こう側にいるであろう連中に目線を向ける。

 

「【聖騎士】……ッ」

 

 

「フッ……心配すんなよ」

 

 

少女の強ばった表情に即座に反応し、デオノクスは安心させるかのように優しげな笑顔を向け、彼女の頭を慈しみのある手つきで撫でる。

 

 

「あ、あの……?」

 

「俺やコイツも、そこらの奴にはやられねえ程度の力はある。外の連中は俺らが相手してやるから、お前は中で大人しく待ってろよ」

 

「!……はい、分かりました。あ……あの、ありがとう……ございます」

 

「気にすんなよ……おい、行くぞ」

 

「ああ」

 

メリオダスはそう言って、カウンターを左手で付くと、ヒョイッと軽快に飛び越え、デオノクスの隣りに着地すると、扉の方へコツコツと靴音を鳴らしながらと歩いて行った。

 

 

「…………」

 

少女はデオノクスに撫でられた頭にそっと触れると、デオノクスの方へと視線を向けた。

 

撫でられた時、どことなく懐かしい感覚を味わっていた。それは、父親に撫でられたものとは別の。例えるなら、()()()に撫でられたような……。欠けたピースが心に嵌め込まれたいな、そんな心地よい感覚だった。

 

『……リちゃん』

 

「!!」

 

彼女は今一瞬誰かに呼ばれたかのような気がし後ろを振り向いた。けれども、そこには棚に置かれた酒しかなく、人の姿をした人物はどこにも見当たらなかった。

 

「?おい、ねーちゃん。どうかしたのか?」

 

「いえ……」

 

(今の声は……いったい……?それに……何だか、とても懐かしい……)

 

 

余談だが、彼女がこのような状況になっている時、デオノクスとメリオダスは……

 

「お前、別にアイツの頭を撫でる必要なんてなかっただろ?」

 

「なんだ嫉妬か?そんなんじゃ、度量の狭い男だって嫌われるぞ……?」

 

「うるせえ」

 

などという会話が繰り広げられていたとか、いなかったとか……。

 

 

一方、中でデオノクス達が会話している頃……

 

「……出て来ませんねぇ」

 

【山猫の髭騎士団】の内の一人、常にへっぴり腰の男が呟く。

 

「それにしても、こんな丘の上に酒場なんていつ建ったんだ?」

 

「そういや〜、五日前に通った時は何もなかったような……」

 

他の連中よりも一回り程体格の良い大柄の男と、その男と対照的な小柄な男が、五日前の記憶を掘り起こすように、顎に手を当てて瞳を上に向けながら話す。

 

「油断するなよ!相手は十年前とはいえ、元王直属の【聖騎士】だぞ!」

 

そんなメンバーの気のたるみに釘を刺すリーダー格の男。この男こそ、先程まで、中でデオノクスに散々ボロカスに言われていた者である。

 

「心配いりませんよぉ、アリオー二さん」

 

「そうそう。所詮は【古騎士(ロートル)】、ツイーゴ様の元で鍛えられてる我らの敵じゃありませんよ!」

 

しかし、メンバーの男達は【七つの大罪】と出会った事がないからか、或いは自分達の力を過信しているのか。若しくはその両方か、相手の事を完全に舐めきっていた。

その証拠に、リーダー格の男(アリオー二)以外は全員、これから死ぬかもしれないというのに、ヘラヘラと笑い、しまいには脳内で今日の晩飯の事を考える者までいる。(ちなみにそいつは、常にへっぴり腰の男)

 

「……奴らを侮るなよ!前にも話したが、十年前のあの騒動の時、何十人もの【聖騎士】達が一瞬にして……ッ!!」

 

「それもねぇ?」

 

アリオー二が熱の入った弁をメンバーに振舞っていた時、やはりこの男と言うべきか、へっぴり腰の男(以下ビビり野郎と呼称)が嫌味を含ませた言い方で遮る。

 

「……なんだ?」

 

アリオー二は目元を細めてビビり野郎へと、怪訝そうな視線を向ける。

 

「い、いや〜その……ちょと大袈裟過ぎるんじゃないかなーと思いましてね?」

 

「は?どういう事だ!?」

 

「一人いりゃ、一国の兵力に匹敵するとまで言われている【聖騎士】がそんな何十人もなんて……なぁ?」

 

アリオー二の疑問に答えたのは、メンバー内で一番体格の良い男(以下ゴリラと呼称)だった。彼は【聖騎士】の配下だからか、その【聖騎士】の強さを良く理解しているようだった。

 

 

その割に、王国中の【聖騎士】が警戒態勢を敷く程の、凶悪な連中である【七つの大罪】を舐めきっていたりするのも変な話しだが……。

いや、だからこそ、彼等は信じたくないのかもしれない。

仮に【七つの大罪】が、噂にたがわぬ力を持っていたとするなら、それは……()()()()()()()()()()()()と言っても過言ではないのだから……。

 

 

「オレはこの目で見たんだよ!!」

 

「まぁまぁ、ひとまずアリオー二さんは下がってて下さい。ここは、おれたちで何とかしますんで」

 

アリオー二がますますヒートアップしそうだと悟ったビビり野郎は、彼を馬を扱うような方法で落ち着かせる。

 

「オーイ!!出てこい!」

 

「呼んだか?」

 

「ったく、さっきから店の前でぎゃあぎゃあ喧しいんだよ。まだ店に人がいたら、それこそ営業妨害だぞ」

 

ビビり野郎の大声と共に、店の中からデオノクスとメリオダスが扉を開けてやって来た。

 

「なんだ貴様らは!?」

 

「オレはここの店主(マスター)だ」

 

「なんだって、てめえは馬鹿か?ここは酒場なんだから、店ん中から出て来んのは、店主か店員だけだろうが」

 

メリオダスは普通に自分の身分を名乗るが、デオノクスは彼等が礼儀を弁えぬ相手だからか、酷く雑に扱う。

その証拠に、口調も普段よりも僅かに荒くなっている。

 

「くっ……錆の騎士は何処だ!?そいつを出せ!!」

 

「……出て来いよ」

 

メリオダスは後ろへと合図を送った。

 

「ハッ!いがいに物分りがいいじゃないか……」

 

アリオー二は得意げに笑うも、次の瞬間にはその笑顔が憤怒の怒りに変わることを知らなかった。

 

「フッ……俺を呼んだか?この錆の騎士ホークを……!!」

 

メリオダスの合図によってやって来たのは、彼女が身に着けていた一部の鎧を拝借し、それを頭と四本の足に付けたホークだった。

 

「こ、この豚が【七つの大罪】ですか!?」

 

「んなわけないだろ!!」

 

「ななななーんと!俺は【残飯処理騎士団】団長なんだぜ!?」

 

「んな騎士団があるか!?」

 

デオノクスと髭騎士団の一部を除いた彼等は、今日初めてあったにもかかわらず、即興で軽い漫才を繰り広げていた。

 

中でも特に頑張っているのは、着々とツッコミの板が定着しつつあるアリオー二だった。どうやら彼には、ツッコミの才能があるらしい。騎士団などという何時死ぬかも分からない職業など辞めて、とっと転職すれば良いのにと思ったのは、この世界を見ている無数の【神】だった事は言うまでもないだろう。

 

 

「この豚で良ければ、煮るなり焼くなり好きに……」

 

「ってどっちも勘弁しろー!!」

 

「このガキィ……!!」

 

遂にイライラが頂点に達したのか、メリオダスの胸倉を左手で掴んで、彼を宙ぶらりんにして持ち上げる。

 

「騎士を愚弄するとはいい度胸だな……!!」

 

アリオー二の顔は血管が浮き彫りになり、歯はギリッ!とした音がなっている。

 

しかしそれは、最初の問答以降はずっと静観していた男の琴線に触れるものでもあった。

 

 

「ハンッ!騎士を名乗るなら、もう少し礼節を弁えてから名乗ってもらいたいもんだな?」

 

 

デオノクスは彼の怒りを鼻で笑うと、嘲笑まじりに話し掛ける。口調は挑発的で、彼の瞳は剣のように鋭く細められている。

 

 

「なにぃ……!?」

 

「あ"あ"ん?」

 

「ヒィ……!!」

 

アリオー二は怒りのままにデオノクスへと視線を向けるも、虎に睨まれた小動物のように、一瞬にしてその怒りは怯えへと変わった。

 

「錆の騎士だの【七つの大罪】だのを、捕えに来たのかは知らねえがよ?俺らは、ここにそいつが近づいている事をいち早く察知し、客を逃がした功労者だぜ?そのお陰で、てめえらは通告されてここに来れたんだろ?」

 

「そ、そうだ……!!だから早く、その錆の騎士をd……」

 

「けどよ、それで俺らが無事って言う保証はどこにもねえよなぁ?それならまずは、ここに来たら真っ先にやんのは俺らの身の安全の確認だろうがよぉ!?それを、ここに来るなり錆の騎士を出せだの、騎士を愚弄するなだのとがなり立てやがって、てめえら全員舐めてんのか?それで【聖騎士】の配下って言われても納得しねえよ!!騎士を名乗るんなら、まずはそれに相応しい礼儀を身に着けてから名乗りやがれ!!」

 

 

デオノクスは彼等に反撃の機を与えぬ程にまくし立てると、視線をメリオダスを掴んでいる手へと向ける。

 

 

「それと、いつまで【豚の帽子亭(うち)】の店主(マスター)の胸倉掴んでんだ?とっと離せよ、殺すぞ?」

 

デオノクスは髭騎士団のメンバー全員へと殺意の刃を向けた。それは、彼等に一瞬で死んだと思わせるには十分過ぎる圧力で、髭騎士団のメンバーは全員、デオノクスの周りから得体の知れない何かがこちらを覗いているかのように錯覚した。

 

 

「あ、ああ……ああああ……!!」

 

 

デオノクスの睨みが続く度、得体の知れない何かも徐々に形を成していき、最終的には全長三十米は有りそうな、巨大なイヌ科の化け物へと変態した。

その姿は、彼の瞳と同じく血のように赤く染まり、大きな牙を二本も備えた銀色の狼。

それは、北欧神話の中に登場する【神】ロキの息子にして、神殺しの牙を持つとされた伝説の化生。

それは、彼の右手の甲(今は魔術で隠してる)に刻まれた獣の(シンボル)と同じ名を持つ【神殺しの狼(フェンリル)】だった。

 

そして、アリオー二が恐怖のあまり、メリオダスを掴んでいた手を離すと、デオノクスが見せていた【殺意の幻影(フェンリル)】もフッと煙のように霧散した。

 

「……お前、やりすぎだろ?」

 

メリオダスは完全に腰を抜かした【山猫の髭騎士団】のメンバーを見て、デオノクスにジトッとした視線を向ける。

 

 

「ハンッ!礼儀を弁えねえ奴に遠慮なんかするかよ」

 

「いやいや、やりすぎだっつーの。さっきの、感覚でしか分からねえけど、〈殺意の幻影〉まで出したろ?」

 

「まぁな」

 

「はぁ……お前さぁ、()()を出来るのは【七つの大罪(オレら)】の中でも【憤怒の罪(オレ)】と【傲慢の罪(エスカノール)】だけだって事、忘れてるだろ?」

 

「フンッ!さっきも言ったろ?礼儀も知らねえ奴には、遠慮なんかしねえってよ。例えそれが()()であったとしてもだ!」

 

こんな事を言っているが、彼が今日客におっさんと言った事を忘れてはいけない。店員として一番礼儀を欠いているのは彼である。

 

彼の言い文を正確に訳すと、『自分の気に入らないものには容赦しない』である。礼儀を欠くだのは単なる建前だ。なんと傲岸不遜な男だろうか。下手をすれば、彼の【傲慢の男】よりも酷いかもしれない。

 

 

「でもよ、お前の殺気でホークまで逃げちまったぜ?」

 

「あぁぁ〜〜……それについては、ホークは俺の近くに居たからな。野生の本能で感じとったんだろうぜ?でも心配すんな。アイツの方にはいかねえように制御(コントロール)したから」

 

「まぁ……それならいいけど」

 

 

メリオダスは彼女の方へは殺気を向けてないと聞くと、とりあえずは安心した。

けれど、薄々感じていた疑念が今、彼の中で確信になりつつあった。

 

 

(はぁ……こいつ、絶対に【最大闘級】は十万じゃねえだろ。〈殺意の幻影〉なんて、()()()のオレや昼のエスカノールにしかできねえっていうのに……。しかもそれを制御(コントロール)するなんて真似、オレですらできねえよ)

 

そう。今のデオノクスはメリオダスにあわせて【闘級】を抑えているが、嘗ては彼に自分の【闘級】は十万弱だと告げていた。【闘級】が十万と言えば、【七つの大罪】ではナンバースリー。つまりは、嘗てのメリオダスに次ぐ強さだったと言える。

 

しかし、メリオダスはそれが嘘だと感づき始めていた。

 

 

(こいつは出会った時から、オレやマーリンと同じように外見が一切変わってねえ。それだけならまだしも、オレはこいつが【魔神化】するところを一度足りとも見たことがねえ……)

 

これが、メリオダスがデオノクスに抱く違和感の正体だった。メリオダスはデオノクスの戦闘シーンは何度も見た事があったが、その彼が【魔神化】するところはまだ一度も見た事がなかった。

 

その理由は、デオノクスの体術がメリオダスを遥かに凌ぐレベルであり、彼の『魔力』の相性的に、『魔力』を主な攻撃手段とする相手には一切の苦戦を強いていなかったからだ。

 

 

だからこそ、メリオダスはデオノクスがまだ底を見せていないという違和感を感じたのだった。

自分やマーリンのような、特別な事情や力もなく、ただ純粋に三千年以上も外見が変わらない奴なぞ、はっきり言って異常としか言えない。

それに加えて、自分すら届かぬ技の境地に到達している奴が、絶対に自分より弱い筈がないのだった。

 

(けどま、そのうち話してくれんだろ。こいつの罪の事も、あん時の事件の事も……)

 

それでもメリオダスは彼を信じる事にした。

それは、先程の彼女に対して向けていた表情が、彼が自分を裏切る筈がないと確信させてくれたから。

自分と約束してくれた、エリザベスの呪いを解くという約束を果たしてくれると確信出来たから。

 

 

 

 

これはもしもの話しだが……。

もしこの時、メリオダスが彼の違和感をあと少しでも掘り下げていれば、この一年後に迎える結末を変える事が出来たかもしれない。

もし、この時の違和感をそのまま抱き続けていれば、少し早い段階で、()()()()に到達したかもしれない。そうすれば、一年後に彼と最悪の形で()()する事はなかったかもしれない。

 

 

けれど所詮、それはifの話し。

彼の人生の旅のゴールは()()()()()()()()

()()()から、彼が迎える結末は既に彼の脳内で思い描かれていたのだ。その途中ににどんな異常(イレギュラー)が発生しようと、それは彼にとって容易に対処出来る程度の些細な問題でしかない。

 

そう。既にこの世界は着々と()()()()()()()()()()()のだ。

 

─【聖戦】の切っ掛けになった()()()から、この世界は確実に終わりへと近づいていたのだ……。

 

 

 

その後、完全に腰を抜かしていた筈の【山猫の髭騎士団】は、何故か突然と元気を取り戻し、またデオノクスに中で待っていろと言われた彼女も、何故か裏口から出て行き、メリオダスに待ってろと言い渡されたデオノクス以外は彼女を追って酒場から離れて行った。

 

 

 

一人になった酒場で、デオノクスは扉の前で佇んでいた。メリオダスに待ってろと言われたが、彼にとってはそれは有り難い申し出だった。

 

「ふぅ…………」

 

そのため息は心を落ち着かせるような、或いはこれから試練に臨むかのような、そんな決戦を前に覚悟を決める時にするため息だった。

デオノクスは、数分程目を閉じる。

彼にはその時に、この世界では自分しか知らない記憶(思い出)が次々と頭の中を駆け巡っていた。

恋人と過ごした愛しい思い出。四人の弟妹(きょうだい)を振り回し続けた楽しい思い出。愛する者を失った時の悲しい思い出、そして怒り。その後に訪れた覚悟の選択。

全て、この世界ではデオノクスしか知らない大切な、かけがえのない記憶(宝物)だった。

 

 

思い出に浸る時間は永遠にも感じたし、出来ればもう少しだけこの時間に浸っていたとすら思った。

しかし、時は一瞬で過ぎ去るもの。永遠なんてこの世には存在せず、同じ日々を巻き戻して送る事なんて出来やしない。そんな事が出来るのなら、彼はとっくに行っている。けれど出来なかった。だから、覚悟を決めた。

 

デオノクスはゆっくり目を開ける。

視界に映り込んだのは、いつもと変わらぬ酒場の風景。数分しか経っていないのだから当たり前であるが、彼にはとても懐かしく感じた。

 

「長かったな〜ここまで来るのに……。ほんと……長かった……」

 

デオノクスの頬を涙が伝う。それは留まる事をしらず、堰きが切れたみたいに、溢れ出る涙を止める事が出来なかった。

 

「なに、泣いてんだよ……、俺にはそんな資格はねえのによぉ……」

 

デオノクスは、()()()から涙は二度と流さないと誓った。何故なら自分には、そんな資格がないと理解していたから。自分の事情で大切な弟達を巻き込んだ自分に、その資格はないと。

 

「けれど、後一年だ。後一年で全て片付く」

 

デオノクスは涙を手で拭う。

そして、次に彼の瞳が現実に晒された時、そこには先程までの弱い(本当の)彼は存在せず、そこには最強(偽り)の彼が放つ鋭い瞳があった。

 

そして、己に掛けた七つの封印を解くと、周辺を魔境に変えてしまう程の濃密な魔力が満ちていく。

そして、時を止めたと錯覚させる程の素早さで結界を貼ると、内部では彼の本当の姿が顕になっていた。

 

「ふぅ……この姿になるのも、ざっと三千年ぶりか?」

 

そこには、全てを焼き尽くす炎を彷彿とさせる紅蓮の頭髪に、変化前と同じルビーの如き緋色の瞳。神の造形美とも称される顔立ちと、黄金比の体型をした絶世の美男子が立っていた。

 

これこそがデオノクスの本当の姿。

彼が【常闇の魔神】と呼ばれていた頃の姿である。

 

「後一分ぐらいは、この姿のままでいるか……次、いつ元の姿に戻れるかも分からんしな」

 

デオノクスは勢いあまって封印を解いてしまったために、この後の事は考えておらず、ひとまずはこの姿で過ごす事にした。

 

「ついに始まったか……〈七つの大罪〉の【原作】が。そして……このオレの()()()()()()()()()も……。【混沌】の奴がオレやあの男が存在したという事実を蘇らせた時は少し焦ったが、それはそれで逆に好都合だ。奴の情報が復活したとなれば、必然的にオレが生んた異常(イレギュラー)も、健在している事になる……」

 

 

デオノクスは先程起こった異常(イレギュラー)の事も、逆にプラス思考で捉える事にした。

その方が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 

「強くなれ、メリオダス。最強と謳われたこのオレを越えてみせろ。貴様には、それが出来るだけの可能性が秘められている」

 

 

そのセリフからは、正に王の如き威厳が満ちていた。

そこに居たのは、最強と謳われた【魔神】そのもの

 

 

ついにスタートしたデオノクスの壮絶な計画

彼らがこの先、どのような結末を迎えるのかは、正に【神】のみぞ知るのだった……。

 

 




まずは、設定で終盤でしかデオノクスの本当の力を明かさないと言ったのに、こんな所で明かしてしまって申し訳ありません。

けれど理由を説明すると、一つ目が先ず私の物語の展開の遅さに寄る事。あまりにも遅すぎて、今回で六話目なのに、まだアニメの第一話の半分という絶望的過ぎる遅さ。
二つ目が最近リアルが忙しすぎて、これからは滅多に更新出来ないかもしれないという不安。

以上の理由から、主人公の容赦及び目的、メリオダスとの関係性が推測出来るようにしました。

ちなみに主人公を絶世の美男子と称したのは、彼が【英雄王】をモデルにして書いたからです。(モデルに出来ていなかったら、fateファンやギルガメッシュファンの方々はすみません!!)

ですから、容赦としては【英雄王】の赤髪で髪を下ろしたバージョンだと思っておいて下さい。


ちなみに、作中で出て来た〈殺意の幻影〉は、戒めの復活の第五話にある、スレイダーがガランを山と称したシーンから拝借致しました。
当初の予定では書くつもりはなかったのですが、咄嗟に思いついて、なんとなくいけそうだと感じたので盛り込みました!

これで少しでも、キャラの強さが表現出来たら良いなと思っております。
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