【常闇の魔神】   作:黒闇 紫苑

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毎度同じみですが、いつもこの作品を読んで頂き、誠にありがとうございます。
これからも、差し支えなければ楽しんで頂けると嬉しいです。

さて、今回は少々、前半はギャグ路線で書いてみました。色々と試していこうと思った事が一つと、後半がメリオダスを活躍させるために、シリアスに書いてしまったので。息が詰まるかなと思い、前半だけはギャグ寄りで書きました。
これからも、このような事があるかと思いますので、その時は気にせずにお読み下さい。

不快にさせてしまいましたら、その時は申し訳ありません。


憤怒の罪(ドラゴン・シン)〉メリオダス 【修正済み】

「ハッ……ハッ……ハッ……」

 

酒場の裏口から何故か走って逃げて来た少女は、丘の上に生えた小さな森の中を全力で走っていた。

 

一歩一歩前に進む度に風に靡く銀色の長髪には、全力で走っていた所為だろうか、じっとりとした汗が流れていた。息遣いは乱れ、更には今までの疲労が蓄積されていても、彼女は決して足を止めたりはしない。

 

何故なら、彼女には果たさなければならない使命があるのだから……。

 

 

少女の後を追走する形で、【山猫の髭騎士団】の面々は足を進めて行く。

 

「あの女を捕えろ!!だが油断は決してするなよ!奴が本当に【七つの大罪】であるのならば、相当の手練。我々はあの女の体力を消耗させるだけでいい!!」

 

アリオー二はメンバー全員が聞こえるように、声を張り上げて忠告した。

 

 

(くっくっく……【七つの大罪】を追い込んだとあらば相当の手柄!そうなれば、俺もいよいよ【聖騎士見習い】に……!!)

 

アリオー二がそんな邪な感情を抱いて、この後に待つ自分の待遇を妄想していると、お前にそんな未来は無い!と言わんばかりに、後ろから猛烈な勢いでピンクの悪魔(彼にとっては自分の未来を壊す存在であるため)が、特徴的な足音を鳴らして突進して来た。

 

 

「オラオラオラァァァーッ!!」

 

「あ、アリオー二さん!!後ろから先程のぶっゴハッ!」

 

「ブッ……!!」

 

「ぎゃっ!!」

 

「ひ、ひぃぃーー!!おたすっ…」

 

残念。ビビり野郎は、何かを言う前にホークの突進の餌食となってしまった……。

 

後ろの仲間が次々とやられていく声を聞いたアリオー二は、その足音が次は自分へと向かって来ている事を感じた。

 

 

「おわおわぁ〜〜っ!!く、来るな来るな来るな〜〜っ!!」

 

 

アリオー二はピンクの悪魔が、もう目と鼻の先まで迫って来ている事実に表情を恐怖で歪め、前に向かって必死で走る。

 

だがしかし、悲しいかな……。世界はアリオー二に優しくはない。否、それ以前に味方ですらいなかった。

 

 

「み、道が……ッ!!」

 

彼が必死で走った先には、彼の未来と同じように、その先がない崖。つまりは、万事休すの状態だった。

 

 

「くっ……クソッ!!」

 

前方には先の見えない暗闇(未来)。後方からは自分の未来を脅かすピンクの悪魔。

 

 

(くっ……このままでは……ッ!!)

 

すると、ピコン!という音が彼の脳内に響いた。

 

(な、なんだ!?)

 

そして次の瞬間、コマンドのようなものが頭の中に浮かび上がってくると、次のような選択肢が表示された。

 

 

『次の中から、貴方にとって一番可能性のある選択肢を選びなさい。さすれば、その選択が今の状況を解決してくれるでしょう(ただし、好転するとは言ってない)』

 

一、突然強力な力に目覚めて(世界が味方して)悪魔(ホーク)を撃退。

二、素直に降参する。

三、残念、現実は非常である。悪魔に逆に撃退され、崖の下へと落ちる。

四、全くもって理解不能な現象で助かる。

 

(な、なんだこれは!?)

 

アリオー二はそれが何かは分からなかったが、本能でこれが自分に与えられた最後の賭け(ラストチャンス)であると理解した。彼は、脳内で自分にとって最も都合が良く且つ、一番確実性のない(ある)選択肢を選んだ。

 

「オラオラオラァー!!」

 

もはや、悪魔との距離は五(メートル)にも満たない。

 

 

(頼むッ……!!)

 

目を瞑り、心の中で必死に祈りを捧げるアリオー二。

しかし……

 

『ブッブー!残念、君にはそんな未来は有り得ないよー!バーカバーカ!!キャッハハハハ〜ッ!!』

 

脳内に響く第二の悪魔の嘲い声

 

(なっ……)

 

彼の中で、ポキッと心がへし折れる音がした。

唯一の希望にすら見捨てられ、あげくの果てには盛大に馬鹿にされた彼の姿は、燃え尽きた灰のように真っ白だった。

 

『不正解の君には、選択肢の三をプレゼントするよ!!やったね!!これぞ正しく、希望から絶望に叩き落とされるその表情……最っ高にいい気分だ……ッ!!ってやつだね!じゃあ、バッイバ〜イ!!』

 

脳内から悪魔の声が消えると、彼の意識は必然的に現実を直視する事となった。

 

「あらよーっと!」

 

真っ逆さまに落ちるさなか、彼の瞳は空を映していた。

今の自分の表情と同じ、ちゃんと血液通ってるか?と心配されるであろう真っ青な色の空を。先程まで脳内に響いていた悪魔と同じぐらいに自由気ままな雲を。自分の心を明るく照らしてたくれた希望()と瓜二つな太陽を、彼はその目に焼き付けていた。

 

 

そして、腹筋に力を入れ、息を大きく吸い込むと喉が壊れるのではと心配になるほどの大声を発した。

 

「スウーー……フザケルナァァァァーーッ!!!」

 

 

それは何に対しての言葉か。

それを知るのは、彼の心だけだろう……。

 

 

「てめーらに恨みはねーが……これで今晩の飯の量二倍……!」

 

そんなアリオー二の心境など露にも知らないホークは、髭騎士団を吹っ飛ばした事への報酬に思いを馳せていた。

 

そして踵を返し、ちゃっかり彼女を一連の騒動のさなかで回収し、木の上に隠れたメリオダスの方へと足を進めた。

 

 

目的の木の麓までやって来ると、そこではまた彼女が、黒のアンダーウェアからでもはっきりとした形と大きさが分かる膨らみを、メリオダスの手によって揉みしだかれていた。

そして、これまた頬の部分だけ血液の血行を良くさせ、小さな声でモゾモゾと話す。

 

「……あの、二度も助けて抱いて……その……なんとお礼を言えばいいか……」

 

彼女の目元には恥ずかしさ故か、僅かにうっすらと光るものが宿っていた。

 

それを見たホークは表情一つ変えず、平坦な声で話す。

 

「だからねーちゃん、ソイツ殴っていいって」

 

 

ひとまず落ち着いたメリオダス達は、木の上から降りると、酒場での話しの続きを聞く事にした……。

 

 

「んで、お前はなんで【七つの大罪】を捜してるんだ?」

 

メリオダスの問い掛けに彼女は即答する事が出来なかった。けれど、それは当たり前の事だった。

 

何故なら、事件の当事者である彼女ですら、未だにその事実を受け入れられないでいたのだ。関係のない人間、ましてやそれほど被害の及んでいないこの地で住む相手に信じて貰えるとは、到底思えなかった。

 

 

「……私が【七つの大罪】を捜し旅している理由……それは、【聖騎士】たちを止めるためです」

 

 

少女がそれを口にした理由は、メリオダス達に匿ってもらおうだとか、自分の苦悩を分かってもらいたかったらだとか、()()()()()()()()()

 

彼女はその事実を改めて口にする事で、己に言い聞かせたのだ。あの時に起こった事は決して夢ではないと。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

「…………」

 

「お二人に何度も助けて抱いた恩は決して……決して忘れません……。でも、どうか私のことは……忘れてください」

 

彼女は儚くも、美しい表情で微笑む。

その笑顔は、今にもガラスの如く砕け散ってしまいそうな程に脆く、そして()()()()()

 

 

「それじゃ……」

 

「ちょい待ったねーちゃん!【聖騎士】たちを止める!?いったい何から?」

 

そのまま何も言わずに立ち去ろうとした彼女を、ホークのもっともな疑問が、立ち去る彼女の足を止めた。

 

 

「【聖騎士】っていやー、このリオネスを守る騎士の中の騎士。英雄だろーが?」

 

「……そして、たった一人でも一国の兵力に匹敵する力を持つ恐ろしい存在です。……その彼らが、【リオネス(この国)】に戦をもたらそうとしていたら?」

 

「「!!」」

 

「……先日、聖騎士たちの手により、国王以下王族の者達が次々と拘束され、実質王国は、聖騎士たちの手中に落ちました」

 

「!!国王は病気で伏せてるんじゃねえのか!?」

 

「……それは、聖騎士たちが流した(デマ)です。彼らがなんのために戦を始めるのかは分かりません。ただ、王国と周辺の町や村から人々を強制連行しては、着々とその準備を進めています。男性には兵士としての訓練を施し、女性や子どもには食料備蓄、老人には城壁の建造を強要して、逆らう者には容赦なく制裁を下しています」

 

彼女の目にひ先程とはまた別の涙が宿っていた。

それは、聖騎士たちへの怒り。何も出来ない自分への怒り、それと悔しさ。散っていた者達を思う彼女の優しさから出た涙だった。

 

「……じきに、この辺りにも影響が及んでくるでしょう」

 

「ま、マジかよ!!」

 

「大変だな」

 

「って呑気だな!おめーは相変わらず!」

 

メリオダスの気の抜けるような返事に、ホークは即座にツッコミを入れる。

 

「でもよ、それと【七つの大罪】を捜す事と、どうつながるんだ?」

 

「唯一……聖騎士たちを止める希望があるとすれば、【七つの大罪】だけなんです!!」

 

「……お前さー、【七つの大罪】がどんな連中か知ってて捜してんのか?」

 

彼女はメリオダスの問い掛けに、自分の中にある知識を掘り起こしながら、言葉を紡ぐ。

 

「【七つの大罪】……七匹の獣の(シンボル)を体に刻んだ、七人の凶悪な大罪人から結成された、王国最強最悪の騎士団。彼らは今から十年前、王国転覆を謀った疑いで、国中の全聖騎士からの総攻撃を受け、ちりぢりになった……」

 

「……んで、全員死んだって噂もあったけな」

 

「そんな凄い人たちが簡単に死ぬわけがありません!!」

 

「んー……でも、大罪人なんだろ?」

 

「現実に人々を苦しめているのは、聖騎士たちなんです!!」

 

「………………」

 

「……昔、まだ私が五つか六つのころ、父がよく話してくれました。彼らは……【七つの大罪】こそが最高の……ッ!!」

 

その時、彼女の周りを小規模な揺れが襲った。

否、ただ揺れたのではない。彼女達の立っていた崖が、何者かの手によって()()()()()()()()()

 

「きゃああああッ!」

 

「勘弁しろー!!」

 

彼女達はそのまま、アリオー二のいる崖下まで落ちていった……。

 

 

「おっと……通告にあった人間かどうか、確かめるのを忘れておった」

 

ゴツイ鎧に立派なちょび髭を生やした男は、崖を切ったであろう長剣を腰に差した鞘に仕舞うと、酷く身勝手な言葉か吐いた。

 

「決定!!身元不明者二名死亡!!ってことでいいかの?」

 

男は後ろに控えているアリオー二以外の【山猫の髭騎士団】に、確認とは名ばかりのセリフを吐く。

 

「し、しかし崖下にはアリオー二さんが……」

 

「ならば、三名死亡にしておけばよい」

 

「そ、そんなぁ!!!」

 

「ツイーゴ様、それはあんまりです!」

 

「ならば……七名死亡か?」

 

ツイーゴはジロリと殺気の篭った瞳で、メンバーを見やる。本来ならば、先程まで散々デオノクスに殺気の篭った瞳を向けられていたために、ツイーゴの防御力すら下げれない睨みなど効かないのだが……。

生憎と、彼らは【混沌の母】の介入によって、その事を()()()()()()()()()()()()()()()()

そのため、彼らにとってはツイーゴの睨みは今も尚、恐ろしいものとなっているのだ。

 

「ひっ……それだけはお許しを……!!」

 

するとその時、彼らの中の一人が、崖下から跳んで戻って来る小さな影を捉えた。

 

「ああっ!!」

 

 

メリオダスは数百米はありそうな崖をひとっ跳びで戻って来た。それも背中にホークを、前に少女を、脇にアリオー二を抱えた状態でだ。その小さな姿からは考えられない程の、信じられない力だった。まさに常識外れ。

流石は伝説の騎士団の団長だっただけの事はある。

 

「お前たち、何を勝手に生きておる!!?儂の死亡決定を変更するでないわ!!」

 

そして、それを見たツイーゴは、これまた身勝手なセリフを吐く。彼にとっては、自分の中の規則(ルール)は絶対であり、それはたとえ何人であろうとも、覆す事を良しとしないのだ。

 

「勝手に決定すんなー!!」

 

しかしそこはホーク。素晴らしい程の早さで、傲慢ではあるが、彼の【傲慢】とは違ってなんの魅力もない男に、堂々したツッコミを入れた。

流石は常日頃から、メリオダスのボケや態度にツッコミを入れているだけの事はある。

 

「まぁ良い……。して、どちらが【七つの大罪】とおぼしき人物なんじゃ……?どちらも手配書とは似とらんようじゃが?」

 

ツイーゴは、メリオダスと銀髪の少女に視線を送るも、二人とも王国から送られてくる手配書とは似ても似つかないため、訝しむような視線で見る。

しかし、ツイーゴは少女の耳元に光る物体を見つけた。

 

「ん!?……ほう、これは儂も運がいい。その耳飾りは王家の紋章……。つまり御身は、決定!!エリザベス王女!!」

 

「エリザベス……王女?」

 

「え、エリザベス王女つったら、【リオネス(この国)】の第三王女様じゃねえかよ!!?」

 

少女、エリザベスの正体に驚くホーク。

そう。今までの食事を取るときの品の良さ、人一倍民草を思う優しさは、彼女の生来の性格もあるが、全ては彼女が王家に連なる人物であったからだった。

 

「御身には王国からの捜索指令が出ておりましてな。生きたまま捕えよとのご命令ではありますが、事故死ならば致し方ないでしょうな……っ!!」

 

ツイーゴはズシズシと重い足音を鳴らしながら、徐々にエリザベスの元へと歩いて行く。

 

「走れ!」

 

メリオダスはエリザベスに、先程のホークとツイーゴとのやり取りの間に立てた作戦の合図を発した。

 

エリザベスはその合図の聞くと、すぐさま全力で森へと駆け抜ける。

 

「私はまだ、捕まるわけには……諦めるわけにはいきません……っ!!」

 

「おお……決定ッ……!!事故死───っ!!!」

 

ツイーゴは腰に溜めた魔力の篭った斬撃を、エリザベスの向かった森へと一閃した。

 

 

彼女の後ろから襲って来る光の斬撃。

 

 

斬撃は進行上に存在する横幅数十米の森を全て、横に真っ二つにしていき、そのまま真っ直ぐに突き進んでいった。その後に鳴り響く轟音、そして辺りを包み込む土煙。

 

 

エリザベスは、間一髪のところでメリオダスに救出されたものの、彼女達の周りはまるで天災が襲ったのでは?と疑ってしまいそうな光景が広がっていた。

 

恐るべき力。凡そ、普通の【人間】では到達し得ないであろう、人知を超えた強さ。これが『魔力』を身体に宿した【人間】の力であった。

 

 

だがしかし、真に恐るべき事実なのは……。

このツイーゴは、エリザベスの言う一国の兵力に匹敵する存在と謳われる【聖騎士】ではないという事だった。

 

 

この男の階級は【聖騎士見習い】。つまりは、純粋な【聖騎士】と呼ばれる者は、これ以上の力を秘めているという事。しかも、【聖騎士見習い】と【聖騎士】とでは、生まれたての赤ん坊と成人男性ぐらいの力の差が存在しているのだ。

 

 

付け加えて言うなら、この男はリオネスから遠く離れた辺境の地、【ケインズ】の【聖騎士見習い】であるという事。

つまりは、【聖騎士】よりも遥かに格下の【聖騎士見習い】の中でも、この男の潜在能力()は下から数えた方が早いという事なのだった。

 

 

「う……んん……」

 

エリザベスは、自身を覆う影に気がつき目を開ける。すると彼女の視界には酒場であった、金色の頭髪に翠眼の瞳をした子どもの顔が映っていた。

 

「よ!ホークも無事……みたいだな!」

 

メリオダスは彼女の無事を確かめると、すぐ近くにいたホークにも確認を取る。

 

「この豚串状態が無事だと〜〜!?」

 

しかし、残念ながらホークは、大した傷ではないものの、そのピンク色の肌に折れた小枝が突き刺さっていた。

 

「うわあぁぁ〜〜ん!!お"っがああぁぁ〜!!」

 

「豚……?まあ、いい」

 

そしてホークは、あまりの痛さに瞳に涙をともし、走ってどこかへと行ってしまった。

 

エリザベスはツイーゴの強さを見て逃げ切れないと悟ると、すくっと立ち上がり、自らの意思でツイーゴの元へと歩いていった。

 

 

「エリザベス?おい、どこ行くんだよ?」

 

「……逃げ切れません」

 

「お前……諦めるわけにはいかないって言ってただろ」

 

「私が投降すれば、あなたの命をむやみには奪わない筈です……」

 

しかし、彼女の考えとは裏腹に、ツイーゴは森を一太刀の元に切り捨てた斬撃を、真っ直ぐとこちらへと歩いて来る彼女に向けて放った。

 

 

大地を容易く切り裂き、彼女の命を無慈悲に奪う一撃が、地面を抉りながら真っ直ぐとエリザベスに向かって行く。

 

 

「キャッ……」

 

しかしその一撃は、またしてもメリオダスのおかげで当たらずにすんだ。

 

 

メリオダスに覆い被されながらも、彼女は必死に恩人へと言葉を紡ぐ。

 

「お願いっ……!あなただけでも逃げてください!!」

 

「んー……どのみちありゃ、オレたち両方殺す気だぞ?」

 

「っ……どうして……っ!!私、嬉しかったんです……たった一人で【七つの大罪】を捜す旅に出て……旅なんてしたことなくてっ……凄く不安で……正体がバレないよう、着慣れない鎧でくたくたになるまで歩いて……でもッ……誰を頼ることもできなくて……なのにあなたたちは……どこの誰とも知れない私に優しくしてくれて……っ!だから私は……名も知らないあなたたちをっ……これ以上……巻き込みたくないの……っ!!」

 

彼女の涙ながらに出た言葉は、彼の心に強く響き渡り、メリオダは僅かに口角を上げながら、己の正体を明かした。

 

「メリオダス、それがオレの名前だ!」

 

「えっ……メリ……オダス……?……うそ」

 

彼女の戸惑いを他所に、メリオダスはニッ!と悪戯が成功したみたいな、或いは彼女がビックリした顔が嬉しいような、そんな笑みを浮かべた。

 

その様は、彼の容姿もあってか非常に子供らしかった。

 

 

「まさか……そんな……だって……その姿はまるで子供の……」

 

その時、エリザベスの視界は右側で、彼の二の腕のところに刻まれた赤い色の(シンボル)を見つけた。

 

「その(シンボル)は……獣の……いえ……【(ドラゴン)】の──!!」

 

「ふんっ……!!」

 

エリザベスの瞳には、ツイーゴがメリオダスの後ろから剣を振り下ろす瞬間が映し出されていた。

 

 

しかし、その次の瞬間……っ!!

 

「ん!?」

 

 

ツイーゴの左頬が剣に切り裂かれたかのように裂け、鮮血が舞った。そして、両者の間を一途の閃光が煌めき、彼が放った大地を割る威力の斬撃は、衝撃を伴って跳ね返ってきた。

 

「ぬぐぉっ!!?」

 

ツイーゴは返ってきた衝撃に踏ん張る事が出来ず、僅かに後退し、よろめいた。

 

「くっ……!!ど……どういうことだ〜!?(儂の剣は確実にこやつらを仕留めた……!!だが、一撃をもらったのは……この儂じゃと!!?)」

 

ツイーゴの頬に嫌な汗が垂れる。

理解不能な現象に彼の思考は追いつかず、手足が震えそうになるのを必死で抑えていた。

 

「ん!?なんだ……それは!? 」

 

ツイーゴは追いつかない思考のまま、これまた理解に苦しむような、彼の左手に備わった得物を見つけた。

 

「刃折れの剣……!?」

 

 

ツイーゴの脳内はパンク寸前だった。攻撃が跳ね返って来た事もそうだが、まさかそんな()()()()()()()()で、自分に傷を付けたとでもいうのだろうかと……。

 

 

「メリオダス……あなたは本当に……あの……?」

 

エリザベスは、捜し求めていた相手が目の前にいる事がまだ信じられず、呆然とした表情で彼に問うた。

 

けれども、そんな彼女とは真逆に、その呟きを耳にしてしまったツイーゴの脳内は全力で警報を鳴らしていた。

 

「メリオダス……?」

 

悲運な事に、ツイーゴはメリオダスの事を知っていた。これが、【七つの大罪】を知らぬ者であったら、例えメリオダスの名前を聞いたとしても、決して信じたりはしないだろう。

何故なら、彼の容姿は手配書とは似つかぬ子供の姿。おまけに彼の正体を知らなければ、【人間】と勘違いしても不思議ではないのだ。だから、十年も経って一切容姿が変化していないとは誰も夢にも思わないだろう……。

 

事実、ツイーゴはそうなのだから……。

 

「ま、まてよ?貴様の顔には見覚えが……っ!!いや、だとしたら何故、昔と姿が変わっていない……!?」

 

「オレが誰だか……わかったか?」

 

メリオダスは腰を僅かに落とし、刃折れの剣を構えた。

 

それは一見、隙だらけの構えに思えるが、彼のそれは()()()()()()()()()()()()()()()に過ぎなかった。

 

「ま、まさか……!!本当に……ッ!!貴様はああああぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!!」

 

ツイーゴはメリオダスの狙い通り、魔力を宿した剣を()()()()()()()()()()()()()

 

 

ズンッ!!!

 

 

先程とは比にならない程の衝撃、振動が走る。

それはまるで、大陸をも両断してしまうのではないかと、錯覚を覚えそうなぐらいに気迫の篭った一撃だった。

 

 

(勝った……!!間違いなく、儂の生涯の中でも最高の一撃……っ!!これを防げるものなど、王都にいる【聖騎士】でもおらんわい!!)

 

ツイーゴにとっては、確かな手応えを感じた一撃だった。

 

 

しかし、今回に限っては()()()()()()()

 

 

知っての通り、彼が現在(いま)対峙しているのは、彼の最強にして最高の騎士団と称される【七つの大罪】。

戒めを打つために結成された選ばれし七人の一人(英雄)にして、その団長の座に座りし者。

 

 

そして………たった一人で国を滅ぼした逸話を残す、彼の〈憤怒の罪(ドラゴン・シン)〉なのだから……。

 

 

メリオダスは構えた剣をスーッとなぞるようにして、横へと一閃する。

 

 

キンッ!!!全反撃(フルカウンター)

 

 

 

剣を納刀したような金属音が鳴り響く。

 

そして周辺に、ツイーゴが込めた全力の一撃を優にに超える魔力が辺りに充満した。

 

 

「決定……この……尋常ならざる力は……あの……伝説の!!」

 

遅れてやって来た轟音、そして衝撃と共に、ツイーゴはロケットに打ち出されたみたいな勢いで空へと舞い上がった。

 

「ぎゃああああぁぁぁあぁぁああ〜〜〜っ!!」

 

 

「【七つの大罪】〈憤怒の罪(ドラゴン・シン)〉のメリオダス!!!」

 

メリオダスはツイーゴを吹っ飛ばした後、背中の鞘へと剣を仕舞うと、後ろで見やるエリザベスへと振り返った。

 

「さて!これで、二人見つかったわけだな……エリザベス!」

 

「えっ……二人?」

 

「ん?ああ、お前を介抱したもう一人の男。アイツも一応、【七つの大罪】のメンバーの一人だ!」

 

「えっ……!?」

 

エリザベスは、まさか自分が既に二人目にも出会っていたとは思わず、目から鱗が飛び出る程に驚いていた。

 

「残りの、六人の件なんだけどさ。オレも用があって最近、あいつらを捜しはじめたんだ。情報集めのために酒場をやりながらな。これで看板娘がいてくれたら、客も情報ももっと集まるんだよな〜?」

 

「えっ……」

 

「一緒に……行くだろ?」

 

「ッ……!!はいっ……!!!」

 

エリザベスはメリオダスの提案に、目に涙を浮かばせながら、満面の笑みで返答した。

 

 

一方、メリオダスの技で吹っ飛ばされたツイーゴは、髭騎士団の面々に介抱されていた。

 

「ツ……ツイーゴ様、しっかり!!」

 

「ぐ……ぐぬぬ。お、王国に増援要請を!これは……い、一大事だぞ!!」

 

「ん?」

 

すると、彼らの真上から巨大な緑色の豚が降ってきた。

豚の上には、先程まで彼らが錆の騎士を捕えるためにいた、【豚の帽子亭】が引っ付いていた。

 

「なっ……!?あれってもしかして……!?」

 

「さっきの酒場か!!?」

 

彼らの驚きを他所に、酒場内から彼らも良く知る人物が出てきた。

 

「おうおう、派手に暴れたな?メリオダス!」

 

「よ〜デオノクス!迎え、サンキューな!」

 

「気にすんなよ」

 

「こらー!!おっ母を迎えにいったのは俺だ〜〜っ!!」

 

ホークが横から文句を言うが、次の一言で彼の心は盛大に砕かれてしまうのだった。

 

「お前は、逃げて来ただけだろ」

 

「グハッ……!!」

 

デオノクスの冷めた瞳に射抜かれたホークのハートは、ガラスの割れる音と共にブレイクされてしまった。

哀れ、変なところでカッコつけようとするからそうなってしまうのだ。これに懲りたら、少しは反省して欲しい。

 

「よっと!」

 

「きゃっ……」

 

メリオダスはエリザベスを横に抱えると、僅かに足に力を込めて、地を蹴りあげた。

 

「おかえり。もう、飯の準備は出来てるぞ」

 

「そりゃあ良いや!」

 

「あ、あの……私は……」

 

メリオダスに下ろしてもらった彼女は、自分の身分を明かそうと声をかけるも、事情を察していたデオノクスに止められた。

 

「あぁ。事情はだいたい把握してるから、俺の自己紹介は後でな?中でお前を歓迎するための食事を準備してっから、とりあえず中に入れよ」

 

「えっ、食事……ですか?」

 

エリザベスは、デオノクスがまるでこうなる事を予知していたかのような手際の良さに疑問を持つ。

 

「ああ。色々と気になる事もあるかもしれねえが、その事は中で俺の事もひっくるめて話すから、ひとまず入れ。飯が冷めちまうからよ」

 

「……分かりました。けれど、これだけは言わせてください」

 

そう言うと、エリザベスは背筋を伸ばし、両手を臍の辺りで組むと、綺麗な動作でお辞儀した。

 

「先程は介抱していただき、その上、私なんかのために食事を作っていただいて、ありがとうございます!」

 

「フッ……気にすんなよ。これからは共に旅をする仲間であり、うちの自慢の看板娘になってもらうんだからよ。このぐらい、お安い御用さ」

 

デオノクスは彼女の頭を優しい手付きで撫で回す

 

「これからよろしくな、エリザベス」

 

「はい……っ!!」

 

 

こうして、エリザベスは無事【七つの大罪】の団長と元メンバーのデオノクスと出会う事に成功した。

全ては王国を救うため、【聖騎士】たちを止めるために。

己に宿した決意を胸に、彼女はこれから様々な困難に立ち向かっていく。

 

けれども、彼らは知らなかった。

【原作】には存在しなかった、デオノクスという人物が関わったことによって、彼らの運命の歯車は少しづつ狂い始めているということを……。

彼らの前に立ちはだかるのが、強大な『魔力』をその身に宿した、大罪を処刑するために結成された最凶の騎士団であるということを、この時の彼らはまだ知る由もなかった……。

 




思った以上に、メリオダスを活躍させる事が出来ませんでした……。
期待して頂いた方には、その期待に応える事が出来ず、申し訳ございません!!

最後に意味深な形で終わりましたが、正直ほとんど考えておりません。元々、アニメや漫画と同じ形で終わらせるつもりだったのですが、結局出来ませんでした。
ですから、その事は後で考えます。一応、登場させる場面は決めていますが、あまり期待せずにいて下さい。

それと、【九人目の大罪人】の魔力ですが、色々と候補があって、せっかくならば読者の皆様に決めて頂こうと思いましたので、アンケートを実施させていただきます。
候補の方は、第二話の設定のところに載せていますので、どうかそちらの方からご確認下さいませ。

後、前回登場した〈殺意の幻影〉についても載せていますので、その他気になる事や矛盾点などございましたら、感想などで自由に発言して下さいね。
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