【常闇の魔神】   作:黒闇 紫苑

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いつもこの作品を読んで頂き、ありがとうございます。

今回の話しは、この先の展開のことも色々と考えて、デオノクスの目的を明かすことにしました。
そのため、話し自体はアニメの二話の4分の1程度しか進んでいませんが、その辺はご了承ください。

多分、次からは話しの流れにつまづくことなく、原作沿いの方向で進んで行けると思うので……。


デオノクスの思惑

デオノクスに促されたエリザベスは店内へと入って来ていた。そして、彼女が目にした光景は、木製の机いっぱいに並べられたたくさんの料理だった。

 

「わぁ〜〜っ!!」

 

その光景に感慨深い声を上げ、目を輝かせるエリザベス。彼女は王族ではあるが、その彼女をもってしても、これほどまでに食欲をそそられる料理は初めてだった。

 

「どうだ?美味そうだろ、エリザベス?」

 

彼女の喜ぶ姿を目にしたメリオダスが得意げそうに言う。実際に作ったのはデオノクスだが、彼も相棒の料理が気に入って貰えた事が嬉しい様子だった。そんな彼の姿はまるで、親を自慢する子供のようだった。

 

「フッ……さ!それじゃあ、今からエリザベスはこの【豚の帽子亭】の看板娘だ。一応念のために聞くが、ここで異議のある奴はいるか?」

 

デオノクスは一人と一匹の方を見ながら言う。

けれども、彼らには彼女を反対する意思はないようだった。

 

「反対者はいないか……」

 

デオノクスはそう呟くと、メリオダスへと目配せする。

その視線の意味を理解したメリオダスは、コクリと軽く頷くと、全員に酒を(デオノクスは別のドリンクを)ついでいった。

 

「それじゃ!エリザベスの仲間入りを祝してー」

 

「「「「乾杯〜!!」」」」

 

四人(三人と一匹)はそれぞれ、自分に注がれた入れ物を手にとると、乾杯の音頭を上げた。

そして、机に並べられた料理を手にとって食べていくのだった……。

 

 

余談だが、デオノクスの料理をものすごい勢いで食べていたのはホークであり、その姿を見たエリザベスは、僅かに表情を引き攣らせていたそうな。

 

 

歓迎会が終わると、次はエリザベスとデオノクスの自己紹介が行われていた。

 

 

 

「あ、改めて……よろしくお願いします……。エリザベス・リオネス、王国の第三王女……です」

 

エリザベスは恥ずかしそうにモジモジしながらも、己の身分を分かりやすく伝える。

 

「よろしくな、エリザベス!」

 

「これからよろしく頼むぜ!エリザベスちゃん!」

 

「っ……メリオダス様……ホークちゃん……ッ!!」

 

メリオダスとホークの言葉に、また泣き出しそうになるエリザベス。彼女にとっては、未だにこの状況が自分の見ている都合のいい夢ではないのかと思っていた。

それは【七つの大罪】というたった一つの希望に賭け、宛てもなく国中を彷徨い続け、不安や恐怖で押しつぶされそうだった頃に比べ、今の状況はまるで朝日が昇ったかのように、うっすらと希望が見え始めていたからだった。

 

(けど、夢じゃないんだ。私……本当に見つけたんだ……。あの伝説の【七つの大罪】の一人、メリオダス様を!!)

 

「さてと!それじゃあ、エリザベス!」

 

「あ、はい!何でしょう、メリオダス様?」

 

「紹介するぜ。こいつが元【七つの大罪】のメンバーの一人。〈原初の罪(フェンリル・シン)〉のデオノクスだ!」

 

「デオ……ノクス……?」

 

「どうした……?エリザベス……」

 

「いえ……その……」

 

デオノクスの名前を聞いた途端、エリザベスは奇妙な感覚に囚われていた。

 

(どうして……デオノクス様とお会いするのは、これが初めてなのに……なのに……どうして……)

 

エリザベスには、デオノクスの名前を聞くのが。否、彼と会うのが初めてではないかのように思えてならなかった。

 

 

そして、彼女のそんな感情を察し、内心で冷や汗をかいている者が一人だけいた。そう、デオノクスだ。

 

(不味いな……。うっかりしてたぜ……エリザベスには、アイツの掛けた術は効いてねえ……っ!!)

 

今のデオノクスは、理由(わけ)あって自分の正体を隠している。

それは、彼の目的を達成する上では、メリオダスや【七つの大罪】の成長が必須条件であるからだ。

正確に言えば、成長するのはメリオダスだけで構わないのだが、それは不可能であると彼は知っている。

そのため、メリオダスや他の【七つの大罪】のメンバーが、一人で【原作の魔神王】と戦えるレベルになるまでは、彼の正体がバレるわけにはいかなかった……。

 

 

デオノクスが内心で肝を冷やしている時、己の感覚がなんであるのかを確かめるために、エリザベスは意を決して彼に尋ねることにした。

 

「あ……あの、デオノクス様……」

 

「どうした?(不味いぞ、どうする……っ)」

 

デオノクスは内心では取り乱しつつも、それを悟らせないように、いつも通りに対応する。

 

「……その……以前、私とどこかでお会いしましたか……?」

 

「いや……。たぶん会ったことねえと思うが、何故だ?」

 

デオノクスは彼女と初対面であることがバレないように、顎に手を当てて記憶を探る動作をする。

 

「その……デオノクス様のお名前を聞いた時から、どこかで聞いたことのある名前だと思ったので……」

 

「(お?これ、いけるか?)あぁ〜……。それなら恐らくだが、俺の噂じゃねえかな?」

 

「噂……ですか?」

 

「ああ。俺は手配書には載ってねえけど、一応は【七つの大罪】の元メンバーだからな。エリザベスは王国の第三王女って言ってたから、どっかで俺の悪い噂でも耳にしたんじゃねえかな?」

 

「悪い……噂?」

 

「ああ。曰く、【八人目の大罪人】は騎士団内で仲間割れをした挙句、メンバーの一人を殺害して団長メリオダスに追放されたって噂や、王国転覆の事件を裏で糸引いていたのは、実は【八人目の大罪人】だとも言われてる噂だよ」

 

「……ッ」

 

「なんか増えてんな」

 

「あん?そりゃあ、今初めて言ったからな」

 

「ふーん……」

 

メリオダスはその噂に対して、特に気にした様子もなかった。彼にとってはその噂が確実にデマであると理解してたからだ。

しかし、それはあくまで事情を知っている者だけであり、知らない人間からすれば、デオノクスが事の元凶であると信じてもおかしくはい。それほどに、彼の噂は酷いものが多かった。

 

「あの……デオノクス様は……本当に……」

 

エリザベスは言いずらそうに、視線をあちこちへと彷徨わせる。声も少し控えめで、その様子から彼女が疑心暗鬼であることが窺えた。

 

「エリザベス、一つ目の噂に関してはともかく、二つ目の噂は確実にデマだぜ」

 

「え……?」

 

「デオノクスは十二年前に【七つの大罪】を脱退し、オレたちの前から姿を消してたからな。な?」

 

「ああ。実際、俺がこいつと再会したのは、こいつが酒場を立ち上げた後だからな」

 

そう。デオノクスは【七つの大罪】が散り散りになる二年前には、国王からの依頼を受け、既に【七つの大罪】を脱退していたのだ。そのため、【七つの大罪】が王国転覆を謀った疑いを掛けらた原因、【聖騎士長】ザラトラスが王国誕生際の日に滅多刺しに殺されたことについては彼は無関係と言える。

 

「そうですか……」

 

エリザベスは二人からの意見を聞き、安堵のため息をついた。彼女は自身に優しく接してくれた内の一人が、そんな酷い人物であるとは思えなかった。しかし、その噂が嘘と言える根拠も彼女が持ち合わせていないのも事実だった。

何故なら、彼女は【七つの大罪】についてあまりに無知過ぎるから。彼女の【七つの大罪】の知識に関して言えば、辺境の者よりも僅かに知っているというものであり、他の者とそう大差はないのだった。

 

「あの、メリオダス様。一つ……お聞きしたいことがあります」

 

「ん?」

 

だからこそ、彼女は決意したのだ。これから先、他の【七つの大罪】を捜すのであれば、彼らのことを今以上に知る必要があると。例え彼らが凶悪な大罪人であろうとも、その事実を受け止める必要があると。

 

「【七つの大罪】は──メリオダス様は本当に……世間の方が言うような大罪人……なのでしょうか?私には……なにか、世界の方が誤解していると思うんです……!!だって、あなたは……正体の知れなかった私を助けてくれた!」

 

「……実は」

 

エリザベスは喉をゴクリと鳴らし、目に覚悟の炎を宿したような、決意の表情へと変えた。

 

「十年前、ブリタニア各地で下着という下着を盗んで回ったんだ」

 

「う……うそですよね!?」

 

「うそ!」

 

「メリオダス様!!」

 

「実は、王国中にいる千人以上の姉ちゃんのおっぱいというおっぱいを揉んで歩いたんだ」

 

「じょ……冗談ですよね!?」

 

「ああ……。勿論、冗談だ!!」

 

メリオダスはいっそう、清々しいまでのドヤ顔を浮かべる。そこには彼女のコロコロと変わる表情を楽しんでいる節があり、真面目に解答する気がないのは明白だった。

 

「もう、茶化さないで下さい!!私は真剣なんです!」

 

けれども、それは【七つの大罪】をあるがままに受け止めると決めた彼女にとっては、馬鹿にされているようにしか思えなかった。

 

「それとも……本当に、人には言えないような罪を……?」

 

「まあな……」

 

メリオダスの表情を見て、教えてもらえないと悟ったエリザベスが諦めかけた時……

 

「こいつ、己の憤怒で我を忘れ、挙句の果てには国そのものを地図上から抹消させたんだよ」

 

「「…………ッ!?」」

 

デオノクスの発言に驚くメリオダスとエリザベス。けれども、その意味合いは全くの別物だった。

 

エリザベスが、スケールの大きさにびっくりして言葉を無くしているのに対し、メリオダスは彼が秘密を明かすとは思ってもみなかったといった表情だった。

 

「デオノクス……ッ!!お前……っ」

 

「どうした?そんな殺気だって、今にも俺を殺しそうな顔してるぜ?」

 

メリオダスに殺意の篭った視線をぶつけられるも、デオノクスには効いた様子もなく、それどころか更にメリオダスを煽りにかかった。

 

「別に話したところで問題ねえだろ?俺やお前の噂は、他の奴らよりも出回ってんだ。どのみち、エリザベスにはいつかバレる。早いか遅いかの違いでしかねえよ。なら、今の内にこっちのことを少しでも教えておいた方が、なにも知らねえ連中に明かされるよりもマシだろ?」

 

「だからって、人の罪をペラペラと勝手に喋るなよ」

 

「てめえが言おうとしねえから、親切心で教えてやったんだろ?感謝はされても、殺意をぶつけられる所以はねえな」

 

そう言って、デオノクスもメリオダスを見下ろしながら殺意を押し返す。

ブリタニアでもトップクラスの実力の持ち主の殺意、無意識に漏れ出る魔力の衝突は空間を軋ませ、圧力による影響で店内を揺らし始めた。

 

「お、おい……おめーら、まさかこんなところで殺し合いなんかしたりしねーよな……?」

 

ホークは先程とは真逆な雰囲気の二人におずおずと声を掛ける。

 

「「…………」」

 

しかし、両者はホークへと返答を返さず、それどころか彼の心配を他所に、魔力、殺意の出力を更に引き上げる。

それに伴って、二人の瞳からはスーッと熱が引き、冷たい鋭さが宿っていく。

 

 

メリオダスの烈火の如き殺意と、デオノクスの深海のように濃い殺意がぶつかり、せめぎ合い、店内を先程以上に揺らし始める。棚に置いてあった酒の入ったビンは割れ、辺りに破片が飛び散る。

 

「キャッ……!!」

 

「お、おい二人とも!!いったん落ち着けって!!」

 

 

そして、今にも両者が殺し合いを始めそうな雰囲気を纏っていると、店内を別の揺れが襲った。

 

「……どうやら、次の目的地【バーニャの村】に着いたようだな」

 

デオノクスの言う通り、酒場を乗せたホークママが手頃な場所に穴を掘り、その巨体を土の中に埋めた。

先程の揺れは、その時のものだったようだ。

 

「ホーク、エリザベスを店の制服に着替えさせてやれ。いつまでもその格好だと、おちおちと外に出歩くことも出来やしねえ」

 

「お、おう、分かったぜ!このホーク様に任しとけ!」

 

ホークはエリザベスを連れ、店の奥へと消えていった。二人が出ていくのを見計らったデオノクスは、今だこちらに鋭い視線を送るメリオダスへと声を掛ける。

 

 

「メリオダス、酒を仕入れるのはお前の仕事だろ?エリザベスの着替えが済んだら、一緒に村に行って酒をもらってこいよ」

 

「……ああ」

 

納得のいかなそうな表情をするメリオダスに、デオノクスは深いため息をつくと、呆れを含んだ眼差しを送る。

 

「ハァ……お前が気にしてんのは、エリザベスの記憶のことだろうが……。断言する。十年前の記憶のことすら曖昧な奴が、あの一言だけで前世(リズ)の記憶を取り戻す筈がねえだろ」

 

「…………」

 

「だいたいお前は秘密主義が過ぎんだよ。そんなんだから、十年以上前にバンともめたんだろうが (まあもっとも、刃折れの剣……。いや、【常闇の棺】に関してはしかたねえがな……)」

 

デオノクスは己のことを完全に棚上げして、メリオダスを責め立てる。

もっとも、デオノクスの秘密に関しては仕方ないと言えるのかもしれないが、それはメリオダスだって同じことなのだ。

 

 

メリオダスの秘密、エリザベスの記憶が戻れば三日以内に彼の目の前で死ぬというのは、デオノクスも把握している。彼女の記憶が、何かを切っ掛けにして戻るのか、或いは突発的に戻るのかということも……。それを知った上で、デオノクスは敢えて彼の罪を明かした。そうしなければならない理由があったからだ。

 

 

(アイツが命を代償にして掛けた禁術。それは、アイツの恋人を奪った奴と、俺を知る奴全員の記憶を別の記憶に上書きするというもの。その対象は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。けどっ、それはどちらか一方しか知らないか、どちらとも関係の薄い者だけで、エリザベスはその対象には入ってねえ……っ!)

 

 

 

この魔術の効果は、デオノクスという男が存在したことによって生まれた異常(イレギュラー)を別の記憶で上書きし、デオノクスの存在を他の対象に移すというもの。

しかし、この魔術には重大な欠点が存在した。

 

 

一つは彼との関わり具合によって、魔術の効き目が違うというもの。魔術の効果は、彼との関わりが薄い者ほど効き目があり、逆に深い者ほどふとした瞬間に違和感に気づいてしまう。そのためにデオノクスは、己の魂に枷を掛け、その強過ぎる存在を誤魔化した。

そして二つ目の欠点だが、なんのことはない。彼が周りに与えた影響が、その程度では誤魔化しきれないというだけだった。それこそが、エリザベスには通用しない理由なのだ。

 

 

デオノクスの存在した影響は【魔神族】だけでなく、【女神族】にも存在しない人物を誕生させてしまった。

そして、その人物こそが、当時のエリザベスの実の姉であり、デオノクスの嘗ての恋人なのだ。デオノクスと関わっていれば、記憶の認識の違いに気づくだけでなく、存在を無かったことにされた彼女との記憶さえも蘇ってしまう。それほどまでに、デオノクスが世界に与えた影響は大きかった。

 

 

(今はまだ、転生による影響で前世の記憶は思い出してねえ。けど、俺と関わる以上、それは時間の問題だ……っ!そうなりゃ、記憶を取り戻したエリザベスは、絶対に俺を止めようとするだろう。それだけは、なんとしても死守しなきゃならねえ)

 

 

デオノクスの目的。それは、()()()()()()()()()と殺し合いを演じ、自分を殺してもらうことだった。

そのためには、彼にはなんとしても【魔神王】を倒してもらわなければならない。でないと、己と戦うことさえ出来やしない。

だからこそ、デオノクスは共に【七つの大罪】に入ることで、メリオダスに『魔力』の覚醒を促し、他の【七つの大罪】の成長も見守ろうとした。

 

 

でなければ、彼というイレギュラーによって本来の道筋(レール)から外れた【魔神王】には勝てやしないのだから。

 

 

(俺にとっちゃ【魔神王】は雑魚だが、それは俺がこの世界の歯車を乱すイレギュラー的な存在だったからだ。だから、普通では有り得ない『魔力』を身に付けることが出来たし、その力で【魔神王】からの支配も逃れることが出来た)

 

 

彼がこの計画を思いついた時から、彼は何故自分が【魔神王】や【混沌の母】をも越えることが出来たのか。何故度々、命を狙われていたのか、その理由を知ってしまった。

 

そして、同時に悟った……

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それが、彼が己を〈原初の罪〉と掲げる理由。

【七つの大罪】に入団する時に、自分にはどんな罪があるかと考えた時、ふと頭に浮かんだのがそれだった。生まれてきたことそのものが罪。

自分は生まれた時から、罪を背負っていたと。

それは、彼の胸にストンと落ち、妙に納得させられるものだった。自分さえ生まれてこなければ、愛する者が死ぬこともなかったし、メリオダス達に【原作】以上の苦しみを与えることもなかったと……。

 

 

(だから、あの時に誓ったんだ。俺さえ消えれば、この世界は正常に回ると……)

 

 

けれど、世界は彼に自害という選択を与えてはくれなかった。彼が生まれたことによる影響は、あらやる者達に変化をもたらし、本来の道筋(レール)から大きく外させてしまった。

それ故に、【魔神王】は例外を除けば最強クラスの存在となり、彼の片割れである【原初の魔神】は正史にはない力を宿す始末。

例え自分がこの世界から消えたとしても、自分が周りに与えた影響が消えることはない。寧ろ、自分が消えれば大切な者達に危害が及ぶかもしれないと、()()()()()

 

 

だから、彼はこの世界の【主人公】であるメリオダスに、自分がいたということを逆に利用し、【原作】にはない『魔力』を覚醒させようと思い至った。そうすることで、自分がいなくなっても問題なく、メリオダスとエリザベスが幸せに暮らせるように。例えイレギュラーな状況に遭遇しても、問題なく対処出来るように力を付けさせて……。

 

それが、()()()()()()()()()()二人の()()の最後の務めなのだから

 

 

(アイツとの約束を果たすまでは、まだ俺の正体を知られるわけにはいかねえ……)

 

だから、彼はここでメリオダスと殺り合う羽目になったとしても、エリザベスが抱いた違和感を拭いさることにした。自分への興味を、メリオダスに移すことによって、自分の正体を隠すことに専念したのだ。

全ては、己の計画を遂行するために……。

 

 

 

「ッ……じゃあお前はどうなんだよ」

 

「あん?」

 

「オレを秘密主義と断じてえんなら、お前もオレらに隠してることを言えよ」

 

「……俺の秘密、か……。勘違いすんなよ、メリオダス。俺の抱えてる秘密は、今この場で語り聞かしたところで無駄に終わるだけだ。お前とは事情が違うんだよ」

 

「……そうやって、いつもいつも誤魔化してきたよな、お前。その度に引き下がってきたけど……今回ばっかしは話してもらわねえと気がすまねえし、納得できねえ……っ!!」

 

メリオダスの力強い瞳が、デオノクスの緋色の瞳を射抜く。今まで散々はぐらかされてきた鬱憤が、今回の件で遂に限界を迎えたのだ。

 

 

「(こりゃあ、話すまで引き下がらねえって面だな。まぁ、流石に今回のは俺もやりすぎたし、話せるところまで話すか……)ふぅ…………分かった、話すよ。俺の罪と【七つの大罪】を抜けた理由を…」

 

 

そう言って、デオノクスは彼に話せる範囲だけのことを話した。真実をぼかしながら、ところどころに偽りを交えて。

 

 

「……ってわけだ。このこと、ディアンヌやキングには伝えるなよ。他のメンバーと違って、アイツらは人一倍仲間思いだからよ。奴が、罪人を殺すために結成された騎士団の一人だと知ったら、どんな風になるかは想像できんだろ?」

 

「まあな。けどさ、なんでそれをオレに伝えてくれなかっんだ?」

 

「お前に伝えたとして、アイツらがもし、お前がエドガーが消えた事実を知ってると気づいた時、お前はまた誤魔化すだろ?そうなった時のことを考えて、誰にも伝えなかったんだよ」

 

「ん〜……」

 

「だってお前、()()()()すげえ甘いからな。野郎が例え裏切り者だったとしても、それをアイツらには伝えなさそうだしな。かと言って、俺が仲間内で悪く言われるのも嫌がる。そうなったら、俺とお前は他の奴から不審な目で見られるぜ?特にキングとか」

 

「ん〜そうか?アイツとあんなまし気の合わねえバンですら、あの程度の喧嘩だぜ?オレたちと揉め事を起こすとは思えねえけど?」

 

「そりゃあ、俺とお前のことを【人間】だって思ってるからだろ?俺らが【魔神族】だって知ったら、他の奴らの認識だって変わる。その中でも、特に良い印象を抱かねえのがキングだってわけさ」

 

「なんでだ?」

 

「アイツは【魔神族】に故郷をめちゃくちゃにされ、挙げ句の果てには妹まで殺されてる」

 

「ッ……どういうことだよ?【魔神族】が、キングの妹を殺したって」

 

「これは推測でしかねえが、封印から逃れた【魔神族】がどこかに潜んでて眠りにつき、目覚めたそいつが【妖精王】の治める森を焼き払ったんだろ。その際に、【生命の泉の聖女】すなわちキングの妹は殺された」

 

「おい、それって……」

 

「ああ……お前の想像した通り、バンに掛けられた罪と似てる。恐らくは、バンはその時に森にいたか。最悪の場合はその聖女と親しい間柄だったかもしれねえ」

 

「……っ」

 

「気をつけろよ、メリオダス。俺らというよりも【魔神族】とアイツらには、深い因縁がある。そこにお前が、不用意に嘗てのお前が【十戒の統率者】だったことや、エリザベスの呪いなんかを秘密にすると、一気に不審な目で見られるぞ。そうなった時、何をどう言ったところで信じてもらえねえってことを肝に銘じとけよ」

 

「ああ……」

 

 

メリオダスは俯きながら上の空の状態で返事する。

 

彼にとっては、それだけ衝撃的な事実だった。

言われてみれば確かにそうなのだ。バンは異常に傷の直りが早いが、それでも種族は【人間】だ。だから、【魔神族】の扱う炎でしか焼けない【妖精族の森】を焼失させれるわけがないのだ。

 

 

メリオダスはデオノクスにも言われた通り、いずれその時がくることを覚悟しなければならなかった。

 

 

「メリオダス様、あの……準備の方ができました」

 

着替えが終わったであろうエリザベスが、店の階段から顔だけを覗かせて、こちらを伺っていた。

 

(着替えにそんな時間が掛かるとは思えねえしな。どうやら、俺らに大事な話しがあると察して、上で終わるのを待ってたのか……。んで、終わったのを見計らって声を掛けたってところかな〜)

 

デオノクスは、自分とメリオダスが話していた時間、着替えに掛かる時間を考慮して計算し、その場の状況の分析をした。

 

「悪いなエリザベス。待たせちまって」

 

「い、いえ。私は大丈夫です!それよりも、メリオダス様達はもう大丈夫ですか……?」

 

エリザベスは、二人の先程の件が尾を引いているのか、両者に視線を移しながら遠慮がちに声を掛ける。

 

「ああ。お前らがいない間に、この十年で空いた溝を埋められたからな。もう心配いらねえよ」

 

「よかった〜……」

 

エリザベスは安堵のため息をつき、胸を撫で下ろす。

彼女の表情には、余程緊張していたのか、額に汗がついていた。どうやら、かなり心配を掛けさせてしまったらしい。

 

 

「ったく、おめーらは初日から、なに看板娘に負担を掛けさせてんだよ!こっちまでハラハラしただろうが!」

 

「ホークも心配させて悪かったな。その詫びとして、今晩の飯の量は三倍にしといてやるぜ」

 

「プゴッ!ま、マジかよ…!?」

 

「ああ。それよりもその制服、良く似合ってんじゃんねえか、エリザベス」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「ああ。あながち、メリオダスのセンスも侮れねえかもな」

 

「いや、これはこいつの趣味全開だろ」

 

「まぁ確かにそうかもしんねえけど、それでも似合ってるしな。心配なのは、その格好で風邪ひかねえのかってことだけだ」

 

 

エリザベスがホークに案内されたところに用意されていた服は、胸元にリボンを巻いたピンク色の臍出しノースリーブに、紺色のスカート。片方しかない太腿までを覆うソックスという、防御性能が薄い服装だった。

 

 

「キャッ!!」

 

「安心しろ、ただのサイズチェックだ」

 

メリオダスは彼女のスカートを捲り上げながら、そんなことをのたまう。

というか、先程まで上の空の状態だったのに、彼女がきた途端に復活するとは、恐るべきスケベ精神と言えよう。

 

 

「……いや、まだあったわ。服装がメリオダスの趣味全開なんだから、エリザベスに対してのセクハラが増えるな」

 

「いや、おめーはそこで冷静に分析せずに、とっととあのエロ店主を止めろや!!」

 

「ホーク、これは店主として必要な管理責任なのだ」

 

「アホか!!せっかくの看板娘が逃げちまうだろうが!!」

 

流石は【豚の帽子亭】一の苦労人(?)の称号を授かるホーク。戻って来て早々に、アホ二人に振り回されるとは、彼の気苦労は絶えない。

 

 

(よかった。メリオダス様とデオノクス様も、いつも通りに戻ってくれて……)

 

そんな三人の様子を傍で見ていたエリザベスは、心の中で無意識に呟いたその意味に、まだ気がついていなかった……。

 

 




シリアスから急に場面転換してしまいましたが、残念ながら今の私にはこれが限界でした。
当初はこんな風に書くつもりはなかったんですが、キャラが勝手に動いてしまい、収集がつかなくなったので、無理やり場面転換しました。(だってそうしないと、いつまでも話し進まねえし!)


ですから、あまりツッコまないで頂けるとありがたいです。

前書きでも書きましたが、一応これでデオノクスとメリオダスの蟠りがなくなったので、これからはメリオダスがデオノクスのことに不審を抱くことはないです!(……多分)
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