【常闇の魔神】   作:黒闇 紫苑

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先ずは、前回で原作沿いに進めると言ったのに、速攻で嘘にしてしまい、申し訳ごさいません。

言い訳をすると、作者の定番になりつつある、キャラが勝手に動いたということです。一部思いつきもありますが、殆どは執筆しているとキャラが勝手に喋っていった感じです。

ですから、もう二度と前書き及び後書きで予定報告はしません笑



馬鹿の勘違い……からの兄弟喧嘩!? 【修正済み】

「それではデオノクス様、行って来ます!」

 

エリザベスはデオノクスの方へと体を向けると、胸の前で小さく握り拳を作り、やる気十分の意気込みを見せていた。

その姿は、見た目こそ大きいものの、幼い子どもが親に初めてお使いを任される様を彷彿させた。

 

「ああ。気をつけてな、エリザベス」

 

そんな彼女の姿に、デオノクスはフッとクールに微笑むと、彼女の髪を優しく慈しみを込めて撫でる。

 

撫でられてるエリザベスはくすぐったそうに目を細め、父親とは違う男の人の手の感触を味わっていた。手の皮の層が厚く、大きくて威圧感を与えてしまいそうだが、それに反して撫でる手つきは、何日も水分を取らなかった旅人が砂漠の水を掬い上げるかのようだった。

 

「初の仕事頑張れよ。例え失敗しても、お前はこれが初めてなんだから、あんまり重く受け止めんなよ」

 

「はい!」

 

「メリオダス、エリザベスに色々と教えてやれよ。客を呼び込むことも必要なんだから、村の住人とも仲良く出来るようにしっかりとサポートしてやれ」

 

「ん、色々?」

 

「おいこら、どこに反応してんだよ!俺は箱入り娘のエリザベスに、酒場で働くためのノウハウを教えろつっただけで、てめえの性癖やエロ知識を教えろって言ったわけじゃねえからな!?」

 

「デオノクス。オレは色々とは言ったが、それが何なのかはまだ言ってねえけど?」

 

「あっ」

 

「うすうす思っちゃいたが、やっぱりお前ってむっつりスケベだよな。【色々】って言葉だけで、そこまでの妄想を働かせられるなんて、やっぱりお前もオレに負けず劣らずの変態だったんだな!」

 

「なっ……このクソガキィ!!」

 

「ウンウン。それなら、不用意なエリザベスへの接触や、酒場に来る若い姉ちゃん達への満更でもない態度にも納得できるな。お前は表ではなんてことないように装っても、実は裏で必死にその無駄に優秀な頭脳と様々なスキルを駆使して、妄想を掻き立てていたわけだ。そうかそうか、お前もエリザベスのモチモチでプニプニとした身体(パーフェクト・ボディー)に魅了されたわけかー」

 

もはやメリオダスは、完全にデオノクスの事をむっつりスケベだと決めつけていた。

彼の中では既にデオノクスのことを、エリザベスへの過度な接触や、酒場に来る女性客への態度は、プライドが高くて上手くスケベ精神(それ)を表に出せない憐れな男として認識してしまっていた。

 

「だが残念だったな!エリザベスは酒場の看板娘!つまりは、店主(マスター)であるオレの女だ!」

 

「え!?」

 

「いや、そりゃあちげぇだろうが!?なに勝手にエリザベスちゃんを自分のもの認定してんだよ!!てめーとエリザベスちゃんは、今日初めて会ったばかりだろ!!」

 

「だから違ぇって言ってんだろ!誰もエリザベスに手を出すなんて言ってねえだろうが!?つーか、てめえの唐突な発言で、エリザベスの表情がリンゴみたいに真っ赤に染まってんだろうがよ!!」

 

デオノクスの言う通り、唐突なメリオダスのオレの女発言に、エリザベスの表情は、恥ずかしさで頬が紅潮し、戸惑いを隠せない状態だった。

 

けれど、生来の生真面目さもあってか、唐突な告白であっても真剣に向き合おうとしていた。そのため、メリオダスの袖をクイクイッと遠慮がちに引っ張り、今の自分の本心を告げた。

もちろん、その際にも表情は頭から湯気が出るほどに真っ赤に染まり、恥ずかしさが極地に達したのか目元には僅かな水滴まで浮かんでいたが。

 

「あ、あの……メリオダス様。お気持ちは……その……すごく嬉しいです。けれど、私にはまだ……やるべき事があるので……その、お返事の方は……その後にさせていただけませんか……?」

 

言葉だけでみれば、メリオダスは後回しという名の振られた感が拭えないが、エリザベスの様子からそれは違うと断言できた。

何故なら今のエリザベスは、表情は変わらないが、返答した後もメリオダスの方をチラチラと伺い、身体をモジモジさせているのだから。第三者目線からすれば、どう見たって好きな異性に対しての行動にしか見えない。

 

 

「お前、ちょっとこっち来い!」

 

エリザベスの予想外の対応に、事態の深刻さを察したデオノクスは、メリオダスの襟を引っ掴むと、風のように素早くその場を離脱した。

 

 

人気のないところまでやって来た二人は、さっきのエリザベスについてと、これから先の事について話し合っていた……。

 

 

「お前、どうすんだよ!?さっきのエリザベスの態度、満更でもなかったじゃねえかよ!?」

 

「うーん……やっぱりここは、オレが今よりも積極的に行くしか……」

 

「真面目に答えろ。てめえが思ってる以上に、今の事態は深刻なんだよ」

 

メリオダスが茶化そうとするのを、デオノクスの刃物の如き声が一刀両断する。

デオノクスも、実はメリオダス本人も本心で戸惑いを隠せず、敢えて巫山戯ることで、冷静に保とうとしていることを察している。

しかし、これから先の展開を知る彼にとっては、今の段階でメリオダスとエリザベスが恋人同士になるのは不味いと感じていた。

 

 

「……どうしたんだ?そんな真剣な面して、今にも聖戦が始まりそうな顔してるぜ?」

 

「始まってたまるか!つーか、巫山戯るなって言ったろ。お前もエリザベスの対応に驚いているのは知ってるが、それどころじゃねえんだよ」

 

「……どういうことだよ?」

 

「いいか、よく聞けよ?このままだと、エリザベスは確実に殺されるぞ?」

 

「っ……誰に!?」

 

デオノクスの発言を聞いてようやく、彼が何故焦っていたのかを理解したメリオダス。彼は瞳を鋭くさせると、デオノクスを勢いのままに押し倒して胸倉を両手で掴み上げ、声を荒立てて問いただす。

 

「落ち着けって!」

 

「これが落ち着いていられるかよ!!言え!!エリザベスは誰に殺されるんだよ!!?」

 

メリオダスは【魔神族】の証でもある闇の魔力を噴出させながら、片方の瞳を闇色に染め上げて、先程以上にデオノクスの胸倉を強く掴み上げる。

 

「くっ……いいから落ち着けって言ってんだろうが!!」

 

デオノクスはメリオダスの頭冷やすために、掴んでいる手を胸元から力づくで引き離すと、その手を掴みながらメリオダスの顔面へと頭突きをかました。

 

「ガハッ……!」

 

デオノクスから強烈な一撃をもらったメリオダスは、その勢いのまま近場に生えていた木を何本もへし折りながら、十数米ほど吹き飛ばされていった。

 

「ったく、真面目にしろとは言ったが、だからって冷静さを欠けなんざ一言も言ってねえだろうが!」

 

デオノクスは身体を起こすと、店の制服に着いた土を手で落としていく。

 

「……悪かった。エリザベスが殺されるって聞いたら、頭ん中真っ白になって、何も考えられなくなっちまった……」

 

吹き飛ばされて冷静になったメリオダスは、戻って来るやいなやデオノクスへと謝罪した。

 

「ふぅ……まあ、てめえの気持ちも分からねえてもねえよ。急にこんな事言われたら、逆に冷静でいろって方が無理があるしな」

 

「…………」

 

「んで、肝心のエリザベスが誰に殺されるかって言うと、お前も良く知ってる奴だ」

 

「……ッ」

 

メリオダスの中で最悪の答えが浮上する。

どれだけ否定しても、自分の知る者の中でエリザベスに殺意を向ける相手と言えば、一人しか思い当たらない。

 

「それは……」

 

「…………」

 

メリオダスの頬から、いやな汗が滑り落ちる。今の彼は心臓が外に聞こえるのではというほどに脈動し、心の奥底で必死に最悪な事態であって欲しくないと考えていた。

 

 

「ディアンヌだ」

 

「………………は?」

 

「だから、【七つの大罪】の一人である〈嫉妬の罪(サーペント・シン)〉のディアンヌだって」

 

「……悪い、耳が遠くなったみてえだ。もう一回言ってくれ」

 

「ったく、三度も(おんな)じこと言わせんなよ。いいか?これが最後だからな、良く聞けよ?」

 

「ああ……」

 

「今のままの状態でエリザベスを殺そうとする犯人は、ディアンヌだ」

 

「…………ハアァァァ〜〜」

 

メリオダスは腹の底から深いため息をつく。そのため息には、犯人が自分の想像した相手でなくてよかったという安堵と、デオノクスの阿呆さ加減に呆れたという意味が込められていた。

 

「……んだよ、その馬鹿でかいため息と呆れた目は?俺は真面目に言ってんだぞ。このままだと、ガチでエリザベスは殺されるぞ?」

 

「すう……ハアァァ〜〜……」

 

メリオダスは尚も同じ事をのたまう目の前のデオノクス(バカ)へ向けて、今度はわざわざ肺に空気を取り込んでから、深く長いため息をついた。

 

「お前さー、オレとアイツがそういう関係じゃねえってこと、知ってんだろ?それでなんでエリザベスが、アイツに殺されるっていう答えに行き着くんだよ……」

 

「あん?そんなもん、お前がアイツに好意を向けられてるからに決まってんだろ?」

 

憐れ、デオノクス。

どうやらここへ来て、彼の恋愛経験の薄さが浮き彫りになってしまったようだ。言っておくが、彼は本気で、このままメリオダスとエリザベスがくっ付いたらやばいと考えていた。間違いなく、嫉妬で怒り狂ったディアンヌに殺されてしまうと……。

 

 

「お前バカだろ。オレとディアンヌが恋人同士ならともかく、そうじゃねえのに、あいつがエリザベスを殺す動機がねえだろ」

 

「は?いやだから、お前に恋人若しくはそうなる相手がいると分かったら、あいつは嫉妬に狂って、その相手か若しくはお前をぶち殺そうとするんじゃねえの?」

 

「……お前、仮にも元仲間なのに、ディアンヌの事そんな風に見てたのかよ……お前こそ逆に、あいつにぶち殺されるんじゃねえの?」

 

「は?なんで?」

 

「いやだって、お前のその発想はどう考えても、嫉妬じゃなくてメンヘラとかの類いだしな。あいつの事そんな風に見てたって知られたら、お前絶対確実にあの世に送られるぜ?」

 

「えっ、マジで?」

 

「マジで」

 

「……んだよ、それなら別に心配する必要もなかったな」

 

「…………」

 

反省する気がない、というよりも悪いとすら思っていないデオノクスの態度に、メリオダスは腹の底からふつふつと、炎という名の怒りが湧き上がって来るのを自覚した。

 

 

当たり前である。

なんせメリオダスは、彼の恋愛経験の浅さの所為で余計な心労を抱えさせる羽目にあったのだ。しかもその相手に、自分が冷静さを欠いてしまったとはいえ、思いっきり頭突きを食らわされているのだ。しかも、それさえもよくよく考えたら、デオノクスの阿呆な勘違いが原因で起こったものなの。

 

この一連の騒動及びメリオダスの心労は全て、デオノクスのくだらない妄想から始まってしまったものなのだった。

 

 

「(これ、殴っても許されるよな?)おいデオノクス。わるいけどさ、一発本気で殴らせてくれ」

 

「は?なんで?」

 

「お前の人騒がせな勘違いの所為で、オレは余計な気苦労を抱える事になったんだ。殴っても許されると、オレは思うぜ?」

 

そう言うと、メリオダスは拳に闇のオーラを纏わせ、気苦労の元凶へと殴りかかった。

 

 

「巫山戯んな、そんな理由で簡単に殴られるわけねえだろ!?」

 

しかし、自分が悪いとすら思っていないデオノクスは、しっかりとその拳を受け止めた。終いには、彼へと責任を擦り付けて。

 

 

「だいたい、俺が妙な勘違いを引き起こしたのは、全部てめえの責任だろうが!!」

 

「はぁ?オレのなにが悪いって言うんだよ!?」

 

「てめえがさっさとディアンヌからの想いを断ってたら、俺も余計な勘違いをせずに済んだんだよ!てめえこそ、俺に勘違いさせたことを謝りやがれ!」

 

「ふざけんな!こっちはお前と違って、団長としての責任とか色々あるんだよ!!仲間に何一つ伝えず、騎士団から抜けたロクデナシと一緒にするんじゃねえ!」

 

両者は掌を押し付けたまま取っ組み合いをしながら、責任の擦り付け合いをする。というよりも、今回の場合は誰がなんと言おうとも、デオノクスの責任なのだが……。

 

なまじデオノクスも【原作知識】を保有していたという事と、彼の【人間】の頃からの人付き合いの少なさもあって、ろくな対人経験を学ぶこともなくそのまま【転生】してしまった。しかも、【転生】した当初も【人間】の頃と大して変わらない環境で育ってしまったので、彼の対人経験は前世も含めても五十にすら満たないのだ。

 

その結果が、今回のバカな勘違いを引き起こしてしまったのだが……。

 

 

「「ぐぬぬ……っ!」」

 

両者は同時に手を離して間を取った。

そして、互いを睨み合う。

 

 

「どうしても、謝る気はないんだな?今ならまだ、許してやらねえこともねえぜ?」

 

デオノクスは右手を首元に添えると、首を左右に振ってコキコキと子気味のいい音を鳴らし、ズボンのポケットに手を入れながら、つま先で地面をトントンと二回鳴らす。

 

 

「ふざけんな。今回に関しちゃあ、オレはなに一つ悪くねえだろうが。お前こそ、オレにトラウマを掘り起こさせたことを謝れ」

 

メリオダスも、自然体の構えで左右の指をパキパキと鳴らしながら、デオノクスの申し出を断る。

まあ、当然ちゃあ当然だが……。

 

 

「分かった。なら遠慮しねえからな」

 

「望むところだ。今回ばっかしは、絶対に負けねえ」

 

 

突如始まった、ブリタニアトップクラスの兄弟喧嘩。

 

片や正体を隠してるとは言え、今でもその培った強さと技術は衰えていない、メリオダスとゼルドリスの実兄。

 

片や伝説の騎士団団長にして、【聖戦】の頃は【次期魔神王】とまで謳われた、世界最強の兄を持つ弟の片割れ。

 

 

「「…………」」

 

両者は互いに相手の隙を伺う。互いが互いの実力を知っているが故に、下手に先手をうって反撃(カウンター)が飛んでくる事を警戒しているのだ。

 

二人の緊張が高まるに連れ、空気がピリッとし始める。

どちらも殆ど構えを取ろうとしないが、両者の闘気は高まりつつあった。そして、お互いの心臓の鼓動が時が経つにつれ、平常な時のように戻り出すと、それに反比例して集中力が引き上げられ、周りの音が耳を通らないようになりだした。

 

二人の身体から同じ闇の魔力が放出されると、それは徐々に形をなしていき、両者に刻まれた(シンボル)と同じ獣へと変化した。形をなした二人の魔力は、お互いを食い殺そうと上空で激しくぶつかり合う。純粋な力の衝突に空間が歪み、辺りを衝撃波が襲う。

 

 

そして、上空で両者の獣が同時に消えた。

 

その瞬間、両者はカッと目を見開き、拳に魔力を纏わせて相手へと殴りかかった。

 

 

「はあぁあぁあぁぁーっ!!」

 

「ハアッ……!!」

 

両者の距離が零になる、その瞬間に中心部が爆ぜた。

遅れてやって来た衝撃波は周りの木々を揺らし、大地にクレーターを作り上げた。

 

 

「へぇー、俺の拳に押し負けねえとはな。てっきり吹っ飛ばされるかと思ったが、よく踏んばったじゃねえか」

 

「ぬかせ。本気じゃなかった癖に、よく言うぜ」

 

 

両者は拳をぶつけ合ったまま、不敵な笑みを浮かべながら話し合う。

 

 

「へぇー…やっぱバレたか」

 

「遠慮しねえとか言っときながら、本気を出さねえとはな。それは余裕の表れかよ?」

 

「さあて、どうだろうな?」

 

両者から笑みが消えると、二人の姿がぶれた。

 

次に二人が現れたのは、その地点から数十米離れた上空でだった。

 

 

二人は互いに上空での攻防を繰り広げる。

 

メリオダスが【聖騎士】すら目で追えぬ拳と蹴りの連打を繰り出す。だがデオノクスも余裕の笑みを浮かべながら、それらを全て 分身を生み出す速度で避ける

 

 

「どうしたよ?逃げてばっかりじゃ、オレが勝っちまうぜ!」

 

「ハッ!そう言うのは、まともに俺に一撃を食らわせてからほざけや!」

 

 

メリオダスの右ストレートを、身を捻りながら腕を掴み、そのまま、背負い投げの要領で真下の地面に向かって投げた。

 

 

「おらよ……っ!」

 

 

風を切りながら、メリオダスは頭から地面へと、一直線に向かって行く。

 

 

「くっ……」

 

 

だが彼は、身体を無理やり空中で反転させ、両足と右手をついて衝撃を大地へと流すことでダメージを最小限に抑えた。

 

受け流された衝撃によって中心部からヒビが入り、大量の土埃が周囲を覆い隠す。

 

 

「ふぅ〜危ねえっ……!!」

 

 

その時、視界を遮っていた土煙が中心から霧散した

 

 

その間を突っ切るが如く、デオノクスが拳に闇のオーラを凝縮させ、一条の流星となって向かってくる

 

 

メリオダスは咄嗟に両腕両足を闇で覆い、顔の前で腕をクロスした。

 

 

次の瞬間、デオノクスの大地をも粉砕する拳が、メリオダスの全身に衝撃となって駆け巡る

 

 

「グッ……!!(耐えろッ!!)」

 

 

両足に力を入れ、強く踏ん張るメリオダス

 

 

メリオダスに走った衝撃は勢いを留まる事を知らず、彼の立つ足場にも駆け巡り、その結果で地面が沈んだ。

 

 

両者の魔力の衝突は大地だけでは飽きたらず、周囲に突風が吹き荒れ、上空の雲を消し飛ばしてしまった。

 

 

落下の勢いを利用した奇襲は成功せず、デオノクスは仕方なしにその場を飛び退いた。

 

それは彼の成長ぶりを実感したからであり、視界の見えない状態でその場に留まるのは危険だと判断したからだった。

 

 

 

「チッ、今ので仕留めるつもりだったが……流石にそこまであまくねえか」

 

 

デオノクスは口では文句を言いつつも、表情には喜びの笑みが浮かんでいた。

 

 

「いつつ、流石に今のはヒヤッとしたぜ?」

 

周囲を覆っていた土煙が晴れると、メリオダスの姿が顕になった。無傷とはいかないまでも、奇襲を受け止めた腕に青痣が出来ていること以外は、外見から傷は見えなかった。

 

しかし、それはあくまで本人だけであり、彼の立っていた足場や周囲の大地は、小規模な地震が起きたみたいに、荒れに荒れていた。

 

十数米の深さは有りそうなクレーターに、そこから周辺にかけて地面に無数の傷跡が刻まれていた。特にメリオダスの立っていた足場は、もはや原型を留めていない。

 

 

 

「よく凌いだじゃねえか…(以前のこいつなら、足に踏ん張りが効かずに、そのまま俺の拳をまともに受けて終わり(ジ・エンド)だったんだがな……。少し見ねえ間に成長したってことか)」

 

「言っただろ。今回は絶対に負けねえって…(ふぅ……やっぱ、純粋な体術ならデオノクスが一枚上手だな。さっきの攻撃だって以前も同じやられ方をしたから、咄嗟に身体が反応しただけだしな)」

 

両者は改めて相手の実力を認め合うと、仕切り直しと言わんばかりに、互いの最速の構えをとる。

 

 

「どうする、まだ続ける気か?(まぁ、今回のこいつは引き下がらねえだろうな)」

 

「ったりめえだろ。今日こそは、絶対にてめえを負かす!」

 

メリオダスは戦意十分だと言うかの如く、身体から闇の魔力を放出する。

 

「じゃあ、教えてやらねえとな。てめえと俺との実力差をよ!!」

 

そう言うと、デオノクスも先程のは準備運動ですと言わんばかりに魔力の出力を上げ、闇で全身を覆う。

 

「絶対に勝つ!!」

 

「ハッ!捻り潰してやるよ!!」

そして、二人はまたぶつかり合った……。

 

その後、両者の喧嘩が終わったのは、最後にデオノクスがメリオダスの顔の前で寸止めをするという形で終わった。

 

 

こうして、メリオダスに感情が芽生えてから行なわれた初の兄弟喧嘩は、デオノクスが兄の威厳を示したという形で終わりを迎えた。

両者は互いに傷を負い、ボロボロになったが……。それでも、肩を支え合いながら、エリザベス達の元へと戻る姿は、なんの因縁もない仲の良い兄弟に見えたとか……。

 

 

「お、おめーら……この数分間の間に何があったんだよ」

 

戻ってきた二人にホークが掛けた第一声はそれだった。

両者の服装はあちこち破れてボロボロで、汚れまみれだった。おまけに二人の身体には幾つものアザが出来ており、顔は原型をとどめていないほどに腫れまくっていた。

 

「おぉァ?ひひにふんま。ひょっおへんはひへはまへは(ああ?気にすんな。ちょっと喧嘩してただけだ)」

 

「……いや、なに言ってんのか全然分かんねぇよ」

 

「た、大変です!お二人とも、すぐに手当てしないと!」

 

「おひょ〜はんひゅうまへみはへぇふ!(おお〜サンキューな、エリザベス!)」

 

「いやだから、なに喋ってんのか全然分かんねぇって!!」

 

その後、二人ともエリザベスの手当てによって回復し、制服も新しいのを新着して、最初と同じように店の外にいた。

 

「それでは、行ってきますね、デオノクス様!」

 

「ああ。メリオダスがいるから心配はねえと思うが、気をつけてな」

 

「はい!」

 

「安心しろ。エリザベスはオレが何としても守ってやるからな」

 

言葉だけなら格好良いこと言っているが、あいにくメリオダスは現在進行形で、背後からエリザベスの胸を揉みながら言っているので、信用度はゼロに等しかった。

 

「……おいホーク。エリザベスが危なくなったら、すぐに俺を呼びに来い。コンマ一秒で駆け付けるから」

 

「お、おう…(デオノクスって、ここまでエリザベスちゃんに甘かったか?)」

 

何らかの心境の変化があったのか、デオノクスのエリザベスに対しての過保護っぷりに、思わずタジタジになってしまうホーク。

 

「ほら、てめえもいつまでもエリザベスにセクハラしてねえで、さっさと行け」

 

デオノクスはメリオダスの襟を引っ付かむと、無理やり彼女から引き離した。

 

「ホイホイ、分かりましたよ。まったく、デオノクスちゃんは嫉妬深いんだから」

 

「こんのクソガキィ……ッ!」

 

デオノクスは額に青筋を浮かべるも、それ以上は何もしなかった。これ以上構うと、肝心なエールを分けて貰う時間が減ると理解していたからだ。

その代わり、帰ってきたら思いっきり殴ろうと決意した。

 

 

「それじゃ、留守番宜しくな、デオノクス」

 

「ああ」

 

「土産には期待してろよなー!」

 

「……土産って、エール分けてもらうだけだろ。俺が酒飲めねえの忘れてんのか?」

 

デオノクスは、村の方へと歩いて行くメリオダス達を見送りながら、ボソッと呟いた。

 

 

「ふぅ……さてと、それじゃあ俺は店の掃除でもするかね〜」

 

メリオダス達の背中が見えなくなると、デオノクスは店内の清掃のために中へと入っていった……。

 

 

 

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