バカとウチと本当の気持ち   作:mos

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part F

 僕たちは病室に戻ってきた。

 

「それじゃ勉強しましょ」

「え゛?」

 

 ベッドに乗ろうとした僕は美波の言葉でピタリと動きを止めた。

 せっかく授業をサボれてラッキーなんて思ってたのに……。

 

「玲さんに言われたでしょ? 学校を休んでいても勉強はしなきゃダメよ」

「えぇ~……そんなぁ……。こんな時くらい勉強も休もうよ」

「抵抗してもダメよ。観念しなさいアキ」

「うぅっ……い、イヤだっ……!」

「そんなこと言っていいの? 今日のことは玲さんに全部報告するつもりなのよ?」

「ぼ、僕を脅迫しようっていうの!?」

「さぁ、どうかしらね。アンタの出方次第よ」

「くっ……」

 

 もしサボってることを姉さんに報告されたりしたら、今後の僕の行動は全て監視され、制限されるだろう。

 そんなのは牢獄で生活しているも同然だ。

 冗談じゃない。僕は誰にも縛られず自由に生きたいんだ!

 

 でもそうなると、今ここで美波に逆らうのはまずいか。

 

 けど……勉強か……。嫌だなぁ……。

 足がこんなじゃなければさっさと逃げ出すんだけどなぁ。

 でも仕方ない。僕に逃げ場は無いみたいだ。

 

「分かったよ。やるよ。やればいいんだろう?」

「最初から素直にそう言えばいいのよ」

 

 くそっ……。なんて嬉しそうな顔をしているんだ。

 僕の嫌がることをさせて喜んでいるのか?

 やっぱりいつもの美波じゃないか。

 

 はぁ……。仕方ない。

 昨日秀吉が持ってきた課題をやるとするか。

 って、どこに置いたっけ?

 

 えーと……。そうだ、紙袋に放り込んだんだった。

 

 ガサガサと紙袋の音を立ててプリントを探す。

 あった。これだ。化学の課題か……。

 

 ん? あ……そうだ! ベッドの上じゃ机が無いから書きたくても書けないじゃないか!

 これなら無理のない言い訳になる!

 へへっ、やったね!

 

「いやー美波、机が無いからこれじゃ勉強したくても────」

「はいアキ、これ使うといいわ」

 

 そう言って美波がどこからともなくベッドテーブルを引いてきた。

 

「……」

「? どうかした?」

「いや……。これ、どこから持ってきたの……?」

「その入り口の横にあったわよ? 自由に使えって書いてあったから持ってきたんだけど」

「そっ……そうなんだ。ありが……とう……」

「うんっ」

 

 僕は肩を落として項垂(うなだ)れた。

 最高の言い訳ができたと思ったのに……。

 

「あ、アキも課題があるのね。じゃウチも課題をやるわ」

 

 そう言うと美波も鞄からプリントを取り出した。

 あれは一昨日に僕が届けたプリントのようだ。

 

「テーブルの端っこ借りるわね」

 

 美波はベッドテーブルの端にプリントを置くと、問題を解きはじめた。

 

 もう逃げられそうにない。僕も課題をやるか……。

 ペンを取り、僕もプリントの問題に集中した。

 

 

 

 ……この課題、難しい。さっぱり分からない。

 

 横目に美波を見てみると、顔をしかめて考え込んでいる。

 こちらも苦戦しているようだ。

 でも僕の方は昨日姉さんが持ってきてくれた参考書のおかげでなんとか終わりそうだ。

 

「ふ~……。終わった~……」

「ウチも終わったわ」

「よし、じゃあこれで今日の勉強はおしまいだね!」

「次は今日の授業の分よ」

「何を言っているのか分からないよ……」

「本当なら午後まで授業があるのよ? 午後は検査なんだから午前中くらいしっかり勉強しなきゃダメよ」

「え~……もう疲れたよ。勘弁してよ」

「ダメよ。諦めなさい」

「うぅ……姉さんみたいに厳しいじゃないか……」

「当然よ。ウチは玲さんの代理なのよ?」

「はぃ……」

 

 仕方ない……。諦めてやるか。

 姉さんに監視されるよりマシだ。

 

 今日の午前中の授業は現国。

 美波の苦手科目だ。

 僕も得意な方じゃないけどさ。

 

 

 僕たちはそれぞれ問題集を広げて問題を解いていった。

 途中、何度か美波に日本語の意味を質問された。

 こういう時、美波が帰国子女であることを思い出す。

 

 話しているとぜんぜん違和感は無いんだけどな……。

 だからすぐ忘れちゃうんだけどね。

 

 その質問には僕の知っている範囲で教えてあげた。

 自信が無かったから答える度に語尾に『多分』を付けておいたけどね。

 

 

 

          ☆

 

 

 

 どれくらい時間が経っただろうか。

 

 僕の集中力は限界を迎えていた。

 美波は顔をしかめながら、まだ問題集に集中している。

 

 頑張るなぁ……。

 休憩しようなんて言い出せそうにない雰囲気だ。

 はぁ……。

 

 僕が大きくため息をつくと、そこへ看護師さんが昼食を持ってきた。

 助かった。お昼の時間のようだ。

 いいタイミング。

 

「もうお昼なのね。じゃあウチも」

 

 美波は問題集を片付け、お弁当を取り出した。

 

 なるほど。さっき自分の分は別にあると言っていたのはこれか。

 そういえばなんで僕の分のお弁当なんか作ってくれたんだろう?

 

 僕は疑問を感じながら昼食を口に運んだ。

 

 ……ま、いいか。

 

 

 

 僕たちは学校にいるときと同じように昼食を取りながら他愛のない話に花を咲かせる。

 

 Fクラスの皆のこと。

 試召戦争のこと。

 一年生の頃の出来事。

 

 食べ終えてからも話し続けた。

 

 学校で話しをする時はいつも姫路さんや雄二、秀吉、ムッツリーニが一緒だった。

 美波と二人きりでこんなに話したのは初めてかもしれない。

 

 今この時間は僕にとって、とても楽しい。とても嬉しい。

 これも今朝の夢の影響なんだろうか。

 

 

「吉井明久さん、検査の時間ですので診察室へいらしてください」

 

 時間を忘れて話し込んでいたら検査の時間になっていたようだ。

 看護師さんが僕を呼んでいる。

 

「じゃあ行ってくるよ」

「うん。ウチはここで待ってるわ」

 

 僕は病室を出て診察室へ向かった。

 やっぱり歩きづらいなあ。

 

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