バカとウチと本当の気持ち   作:mos

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part G

 検査は昨日ほど時間は掛からなかったけど、それでも二時間くらい掛かった。

 なんでこんなに時間掛かるんだよ。待ち時間ばっかりじゃないか。

 でも明日退院できるみたいだ。これは嬉しい。

 

 ようやく検査が終わり、僕は松葉杖を借りた。

 なるほど。

 脇で体重を支えるんじゃなくて腕で支える感じか。

 つまり松葉杖は腕を延長して足の代わりにする役目を果たすってことだな。

 これはなかなか面白い。

 

 僕は姉さんに電話をして検査の結果を伝えた。

 姉さんは今日はとても忙しいらしく、今夜は来られないそうだ。

 

 電話を終えて、僕は松葉杖を突きながら病室へ急いだ。

 

 すいぶん美波を待たせちゃったな。急ごう。

 

 松葉杖で歩くのは意外に楽しい。軽快に足を運ぶ僕。

 その途中、すれ違った看護師さんから『大切にしてあげてね』なんて声を掛けられた。

 屋上で会った看護師さんだ。

 

 大切に……? なんのことだろう。

 

 ……まぁいいか。

 

 

 

「ただいま~って……あれ?」

 

 病室に戻ると、美波は僕のベッドでシーツを握り締めて寝ていた。

 

 疲れて寝ちゃったのかな。

 風邪が治ったばかりなのにあんなに頑張るからだよ……。

 勉強ってすごく疲れるんだよ?

 

 それにしても……。

 

 ちょっとスカートがめくれ気味で……その……。

 下着が見えそうなんだけど……。

 

 待てよ? 美波はよく眠っている。これはチャンス到来なんじゃないか!?

 

 ……いやいや。それはダメだ。

 

 美波はさっき僕がトイレに行くのにまで付き添ってくれたじゃないか。

 覗いたりしたらそれこそ恩を仇で返すようなものだ。

 いくら僕だってそんなことはできない。

 

 けど、このままってわけにはいかないよな……。

 

 僕は背を丸くして眠る美波を見ながら、対応に悩んだ。

 

「……すぅ…………すぅ…………」

 

 気持ち良さそうな寝顔だな……。

 顔色もいいし、もうすっかり治ったみたいだな。

 あんなに青白い顔をしていたから心配したけど……治ってホントに良かった。

 

 そんなことを思いながら僕は美波の寝顔を眺めていた。

 そして次に頭に浮かぶのは、やっぱりあの写真のこと。

 

 何故かあのことを話そうとすると邪魔が入っちゃうんだよな……。

 

 ……

 

 美波が目を覚ましたら話そう。……ちゃんと話せるかな……僕。

 

 子供のようにシーツを抱え、無邪気に眠る美波。

 僕はその体にそっと毛布を掛けてやった。

 

 

 さて、どうするかな。

 ゲームも漫画も無いし、美波も寝ている。

 となると勉強するか寝るくらいしか選択肢が無い。

 眠気は全くないから残る選択肢は勉強だ。

 

 ……最も嫌な選択肢しか残らないのか。

 はぁ……仕方ない。試召戦争のためでもあるし、勉強するか。

 暗記物なら音も立てないで済む。

 世界史にするかな。

 

 

 僕は椅子に座って気の進まない勉強をはじめた。

 でも僕の勉強への集中力は長くは保たない。

 すぐに飽きて欠伸(あくび)をしていたら、さっきの看護師さんが夕飯を運んできた。

 この看護師さん、いいタイミングで持ってくるなぁ。

 

 看護師さんはお盆を下ろすと、ベッドで寝ている美波に目をやった。

 そして僕の横まで来ると、耳元で小さく囁いた。

 

(この子が起きたら握ってるシーツちょうだいね)

 

 僕がそれに頷くと、看護師さんは部屋を出ようとした。

 でも何故かまた戻ってきて妙なことを言ってきた。

 

(シーツを交換しに来たらね、この子『自分がやります』って言って聞かなかったのよ? とっても一途でいい子ね。羨ましいわ)

 

 もしかしてさっきの大切にしてあげてというのは、美波のこと……なのか?

 

 そう思ったら、急に顔から火を吹きそうなくらい恥ずかしくなってしまった。

 看護師さんはそんな狼狽(うろた)える僕を見ると、からかうような笑みを浮かべながらワゴンを押して部屋を出て行った。

 

 一人になった僕は妙な緊張感に包まれながら静かに食事を取った。

 

 ……そういえば美波が誉められたのになんで僕が恥ずかしがってるんだろう?

 

 

 

          ☆

 

 

 

 食べ物をお腹に入れて一息ついた僕は、何をするわけでもなく、ただ美波を見ながら(ほう)けていた。

 

 ……

 

 たまに寝返りを打つが、美波はまだ寝ている。

 

 病み上がりなのに今朝からずっと頑張っていたんだ。

 余程疲れたんだろうな……。

 

 僕は何も考えられず、ぼんやりと美波の寝顔を見ていた。

 そんな時、聞き慣れた声が後ろから聞こえてきた。

 

「うーす、明久。死んでるか?」

 

 なんて挨拶だ。こんな挨拶をするのは雄二しかいない。

 って! ヤバい!! こんな所を見られたら!

 

「や、やあ雄二! お見舞いご苦労!!」

 

 僕は慌てて立ち上がり、腕をばたばたさせてみた。

 だがこんなことで隠せるわけがない。

 バカか僕は。

 

「あ? なんで島田がこんな所で寝てるんだ?」

「……雄二。どうしたの」

 

 雄二の影から霧島さんが出てきた。

 

「なんじゃ? どうしたのじゃ?」

「…………?」

「どうしたの~? ボクにも見せてよ」

 

 ぞろぞろと秀吉、ムッツリーニ、それに工藤さんまで部屋に入ってきた。

 美波はまだすぅすぅと寝息を立てている。

 

 最悪だ……。

 

「んむ? あれは島田ではないか? なぜここにおるのじゃ?」

 

「……吉井、ロビーに。雄二と皆も」

「あ? 翔子? 何を――ぐがっ! ま、待て翔子!! こ、こめかみ……に……穴……ががががぁーっ!!」

 

 霧島さん気を遣ってくれたのかな?

 ……相変わらずすごい握力だ。

 

 雄二はアイアンクローで引きずられ、皆も霧島さんに続いて部屋を出て行った。

 僕も松葉杖を手に取り、皆を追ってロビーへ向かった。

 

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