土曜の夜。
僕は約束通り美波の家に向かった。
雨は降っていないけど今日はなんだか風が強い。
これは嵐の予兆だったりするのだろうか。
あれ……? そういえばパーティーに呼ばれた時って何かお土産持っていくべきなんだっけ?
しまったな。何も用意していないや。
うーんそうだなぁ……ちょうど商店街の前だし、何か買って行くか。
僕は目の前の商店街を見渡してみた。
何か手頃なものは……。
ん? あれは……?
ちょっと先の店に果物が並んでいるのが見える。
果物ならお土産にちょうどいいかな。
早速その店の前まで行ってみると、それはおいしそうな真っ赤な林檎だった。
手持ちのお金でギリギリだけど……これが良さそうだ。
☆
僕は林檎の袋を手に下げ、美波の家の前までやってきた。
けど、インターホンを鳴らそうと指を伸ばしたところで
お母さんが出てくるかな……。
やっぱり僕のことを彼氏だと思ってるのかな……。
……
えぇい。ここまで来て引き返すわけにも行かない。
覚悟を決めよう。
ピンポーン
や、やっぱりドキドキするな……。
「あ、アキ? 今開けるわね」
すぐにカメラ付きインターホンから声が聞こえてきた。
これは美波の声だ。
ふぅ……変に緊張しちゃったな。
僕は内心、ほっとしていた。
そしてすぐに扉が開き、エプロン姿の美波が出てきた。
「いらっしゃいアキ。上がって」
「お邪魔しま~す。あ、これお土産」
「そんなの気にしなくていいのに……ありがと」
僕はリビングに案内された。
そこでは葉月ちゃんが食器を並べていた。
「あ! バカなお兄ちゃん! いらっしゃいですっ!」
食器を放り投げんばかりに置いて僕に突撃してくる葉月ちゃん。
そして葉月ちゃんはその勢いのまま、適確に鳩尾に頭を叩き込んできた。
こういう所は主人の帰りを待っていた仔犬のようで可愛い。
が、やっぱり痛い……。
「アキ、あのね……」
「うん?」
葉月ちゃんを引き剥がして頭を撫でていると、美波が言い辛そうに話しはじめた。
「今日のパーティーね、本当はお父さんとお母さんも一緒のはずだったの。でもお父さんは急な仕事が入って泊まり込みだって……お母さんは帰ってくるけど夜遅くなりそうって言うの……」
「そっか……残念だね」
「せっかくのパーティーなのに……ごめんね……」
美波はとても寂しそうな顔をしてそう言う。
ご両親忙しそうだなぁ……。
だから代わりをやってる美波がこんなに何でもできるのかな。
僕はお祝いしてくれるってだけで十分嬉しいんだけどな……。
よし、ここは元気付けてあげるべきだろう。
「お仕事なら仕方ないよ。僕は美波と葉月ちゃんがお祝いしてくれるだけでも嬉しいよ」
「はいですっ! 葉月がいっぱいお祝いしてあげるですっ!」
「……そうね。せっかくのお祝いに暗い顔してちゃいけないわね」
そう言うと美波は元気な笑顔を取り戻した。
「それじゃ、もう少しで準備終わるからアキはテレビでも見ていて」
「僕も手伝うよ」
「何言ってるのよ。お祝いされる側が手伝ってどうするのよ。いいからこっちは任せて」
それもそうか。じゃ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。
僕はソファに腰かけてテレビを見ながら待たせてもらった。
その僕の前で台所とリビングをせわしなく行き来する美波と葉月ちゃん。
てきぱきと葉月ちゃんに指示しつつ準備を進める美波。
こういう所、すごいよなぁ。
僕は気付かないうちに美波の顔をじっと見つめてしまっていた。
「? なぁにアキ?」
「あ、いや……美波ってすごいんだなぁって思って」
「えっ!? な、何よ急に!」
「あっ、いや! な、何でもないよ! 忘れて!」
しまった……思わず口走ってしまった……。
美波は頬を赤らめながら準備に戻って行った。
「?」
入れ代わりに入ってきた葉月ちゃんは頭に疑問符を浮かべている。
余計なことを言わないように黙っていよう……。
僕は口を開かないように結んで、テレビに目を向けた。
正直言って、テレビの内容はあまり興味のあるものではなかった。
けど、忙しそうな二人の姿を見ていると、どうしても手伝いたくてウズウズしてしまう。
だから興味が無くてもテレビを見ているしかなかった。
そうしているうちに料理が次々と運び込まれ、準備ができたようだ。
「お待たせアキ、準備できたわよ」
「はい、バカなお兄ちゃんっ、お飲み物です!」
「ん、ありがとう葉月ちゃん」
葉月ちゃんが渡してくれたジュースはちょっと変わった色をしている。
特製ミックスジュースだろうか。
「それじゃはじめましょ」
「はいですっ!」
「アキ、怪我の完治おめでとう!」
「おめでとうですっ!」
とても嬉しそうな笑顔を見せる美波と葉月ちゃん。
見ているこっちも嬉しくなってくるから不思議だ。
「ありがとう美波、葉月ちゃん」
僕も笑顔で二人の祝福に応えた。
「「「かんぱ~い!(ですっ!)」」」
テーブルにはエビとレタスと玉ねぎのサラダ、きのこのスープ、オムレツ、グラタン、鶏のソテーなどが並んでいる。
とても豪勢な食事だ。
「サラダは葉月が作ったです! 食べてくださいっ!」
「ありがとうね。いただきます」
葉月ちゃんが取り皿にサラダを取って渡してくれた。
……すごい山盛りだ。
サラダなら大した質量は無いからいいけど……。
うん。エビのぷりぷり感に和風ドレッシングがよく合って美味い。
「とってもおいしいよ葉月ちゃん」
「ほんとですか! うれしいですっ! もっと食べてくださいっ!」
「葉月、サラダばっかり食べさせたら他のが食べられなくなっちゃうじゃない」
「そうでした。オムレツも葉月が作ったです! 食べてくださいっ!」
葉月ちゃんは自分の作った物を食べてほしいみたいだ。
今度はオムレツを山ほど盛り付けた皿を渡してきた。
「あはは……ありがと……」
「もう葉月ったら。お姉ちゃんの料理が入る分もアキのお腹開けておいてよ?」
「お姉ちゃんのは後ですっ。バカなお兄ちゃん、どうですか?」
僕は受け取ったオムレツを一口食べてみた。
ふんわりトロトロで塩胡椒の加減もちょうどいい。
うん。美味い。
やるなあ葉月ちゃん。
「うん。これもおいしい」
「ほんとですか! 葉月いいお嫁さんになれるですか?」
「う、うん、そうだね。きっとなれるよ」
「葉月嬉しいですっ! 葉月もっと練習して上手になるです! それで大きくなったらバカなお兄ちゃんに毎日食べてもらうですっ!」
「あ、はは……ありがとうね葉月ちゃん……」
た、助けて美波……。
僕はそう訴えかける視線を美波に送った。
その視線に気付いた美波はちょっと困ったような顔をした。
でもその後、クスッと少し笑うと葉月ちゃんを
「ほら、葉月も席に戻って食べなさい。お行儀悪いわよ」
「あっ、はいです」
葉月ちゃんは席に戻るとおいしそうにグラタンを頬張りはじめた。
「葉月、そんなに慌てて食べなくても沢山あるから大丈夫よ」
「お姉ちゃんのグラタンはいつもすっごくおいしいですっ!」
「ふふ……ありがと。アキも食べてみて。ウチの自信作よ」
「うん。いただくよ」
……こんな食卓って久しぶりだな……すごく楽しい。
いつも姉さんを警戒しながらの食事だったから余計にね。
僕はおしゃべりをしながら二人の手料理を