僕はいつの間にか眠りに入っていた。
とても心地良い眠りだった。
こんなに心地良い眠りはいつ以来だろうか。
だが、不意に頬に柔らかくて温かいものを感じ、僕は目を覚ました。
「……んぅ……」
「あ──アキ!? お、起きてたの!?」
目を開けると慌てふためく美波が見えた。
あぁ、いつの間にか寝てたのか。今の感触は何だろう……?
「ふあぁ……おはよぅ美波ぃ……」
「お、おはよぅアキ……」
?
美波の顔が少し赤いみたいだ。
「ウ、ウチ顔洗ってくる!」
美波はそう言いながら洗面所へ走って行った。
あ、そうか。結局ソファで寝たんだった。
ん? 毛布一枚で寝たはずだけど……なんでもう一枚掛かってるんだろう?
って、そうだ……結局、僕は美波と一緒に寝たのか……。
な、なんか急に恥ずかしくなってきた……。
……
でも……何だろう。とっても心地良い眠りだったような気がする。
あの感じ……安心するって言うのかな。
よく覚えてないけど、そんな感じだった気がする。
「あら、吉井君起きた?」
そんなことを考えていたら、横から久しぶりに聞く声がした。
この声は美波のお母さんだ。
「あ、おはようございます。お邪魔してます」
「おはよう。昨日は葉月が邪魔しちゃったみたいでごめんなさいね」
「いやぁ。そんなことないですよ」
「でも葉月がベッドに潜り込んで蹴飛ばして眠れなかったからそんな所で寝ているんでしょ?」
「はい……お察しの通りです……」
まさにその通りだ。
さすが娘のことをよく分かっている。
「ごめんなさいね。よく叱っておくからね」
「いや、いいですよ。僕も気にしてないし、葉月ちゃんも悪気があったわけじゃないですから」
「ありがとう。吉井君って優しいのね。あの子たちが惚れるのも分かるわ」
な、なんか……すごく照れくさい……。
バカにされることは日常茶飯事だけど、誉められることなんて滅多に無いからな……。
お母さんは朝食の準備をしているみたいだ。
パンとハムにクリームチーズ、ジャム、それにゆで卵とコーヒーが見える。
「吉井君、朝ご飯食べるわよね?」
「あ、はい。いただきます」
「じゃ、顔を洗ってらっしゃい」
今日は日曜日。
忙しい美波のお母さんも今日は休みらしい。
とりあえず言われたとおり顔を洗ってこよう。
洗面所へ行くと、美波が戻ってくるところだった。
そういえばさっき僕の顔に何かしていたような……?
「ねぇ美波、さっき僕が寝てる時に顔に何かしなかった?」
「なっ! 何もしてないわよっ!」
美波はそう言うと、そっぽを向いて行ってしまった。
何か気に障ること言ったかな……。
僕は洗面所で鏡を覗き込んでみた。
でも寝ぐせのついた髪以外は特に変わったところは無いみたいだ。
落書きでもされたかと思ったけど違ったのか。
うーん? ……まぁいいか。
僕はあまり気にせず、顔を洗うことにした。
冷水で洗ってさっぱりしたけど、やっぱりまだ眠いな。
なかなか眠れなかったからな……。
そう考えていたら昨日の美波の寝顔を思い出してしまい、また鼓動が早くなってきてしまった。
うぅ……昨日の夜からドキドキしっぱなしだ。
心臓に悪いよね、きっと……。
リビングに戻ると、美波はもう席に着いていた。
僕も席に座り、用意してくれた朝食をいただくことにした。
「「いただきまーす」」
うん。パンとクリームチーズがおいしい。
食べはじめるとすぐにお母さんが怪我の具合を聞いてきた。
「吉井君、交通事故で足を怪我したってこの子から聞いたけど、もう大丈夫なの?」
「あ、はい、おかげさまでバッチリ治りました」
「そうなの。よかったわ。この子が風邪なんか引いたばっかりに……ごめんなさいね。ほら、あなたもちゃんと謝りなさい」
お母さんが美波に謝るように言う。
「あぁいや! 美波からはもう十分過ぎるほど聞いたからいいんです!」
慌てて僕はそれを止めた。
けど、思わずお母さんの前で美波を呼び捨てにしてしまった。
失敗したな……。
「あら、そうだったの。ふ~ん……」
な、何だ? この不敵な笑みは……? なんか嫌な予感がする……。
って、そういえば美波が無口だな。
今のお母さんが言ったことにも反応しなかったし。
それにまだ少し顔が赤いように見えるな。
もしかしてこんな所で寝たからまた風邪を引いたんだろうか。
やっぱり無理にでも部屋に戻すべきだったかな……。
と、そんなことを考えていたら、妙な視線を感じた。
その視線は向かいに座るお母さんのものだった。
やけに機嫌がいいようで、僕と美波を交互に見ては楽しそうに笑みを浮かべている。
「「……」」
なんか……いたたまれない……。
妙な雰囲気の食事を終らせると、葉月ちゃんが目を擦りながらリビングに入ってきた。
「おはよですぅ……」
「おはよう。葉月」
「おはよう葉月ちゃん」
「バカなお兄ちゃん! おはようですっ!」
美波と僕が挨拶すると、眠そうな顔から一転して笑顔に変わった。
そして僕が椅子に座っていてもお構いなしに突撃してくる。
でも今は僕の鳩尾に隙は無い。
すると葉月ちゃんは頭突きの代わりに僕の腕にしがみ付いてきた。
よしよし。これなら僕も痛くない。
僕はいつものように頭を撫でてあげた。
「こら葉月。お兄ちゃん困ってるでしょ? やめなさい」
「バカなお兄ちゃん、困ってるですか?」
「あ、ううん。僕は大丈夫だよ」
「葉月、いいから朝ご飯食べちゃいなさい。その前に顔を洗ってきなさい」
「は~いですっ」
お母さんの
朝から元気いっぱいだ。