バカとウチと本当の気持ち   作:mos

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part O

 僕はまだ全身が熱い。

 歩いていて右手右足が同時に出てしまうくらい緊張している。

 美波はそんな僕の腕を引っ張る。

 

「ちょっとアキ、しっかりしてよ」

「う、うん」

 

 そう返事をしたものの、僕の体は意思に反して硬直したままだ。

 まっすぐ歩くこともできない。

 なんて情けない姿だ。

 

「わ……とと……」

「あっ、ちょっ──アキ!?」

 

 僕は引っ張る美波に付いて行けず、足がもつれて転びそうになってしまった。

 そして腕を掴んでいる美波も一緒に転びそうになっていた。

 

 あぁもう……ぜんぜん思うように動かないよ……。

 誰か僕の体をなんとかしてくれ……。

 

「もうっ! しっかりしなさいってば!」

 

  ゴキっ

 

「あだだだだだっ!!」

 

「あっ……! ご、ごめんね。痛かった? つい……」

「あ……だ、大丈夫……」

 

 肘関節を逆に曲げられたみたいだ。

 いきなりだったからびっくりした……。

 それにしても『つい』で関節技を極める女の子なんて世界中探しても他にいないだろうな。

 まぁそれに耐性ができている僕も珍しいと思うけどね。

 

 って……あれ? 体が動くぞ?

 

 そうか。今のショックで治ったのか。

 どれだけ関節技に慣らされているんだ僕の体は……。

 嬉しいような哀しいような……複雑な気分だ。

 でもおかげで体が戻ったのは違いないか。

 

「ありがとう美波。おかげで体が元に戻ったよ」

「えっ? そうなの? ……うん。じゃあ今度からアキを正気に戻す時はこうするわね」

 

 ……近いうちに多関節生物にされそうだ。

 

「……お手柔らかに頼むよ……」

「任せて。ふふ……」

 

 美波は何故嬉しそうなんだ。

 そんなに僕を異形の生物にしたいのだろうか。

 

 ん? あれ?

 もうすっかり暗くなっているじゃないか。

 いつの間に……。

 

 気付けば日は完全に沈んでいて、辺りはすっかり暗闇に覆われていた。

 だが園内は鮮やかな照明でライトアップされ、まるで昼のような明るさだ。

 この明るさのせいで気付かなかったのかな。

 

 そういえば案内板に『夜間限定イベント』なんてのが書いてあったな。

 つまりこれからやるイベントもあるってことだ。

 どんなのだったか忘れちゃったけどね。

 

 それを見てみたい気もするけど……。

 あんまり遅くなると美波のお母さんも心配するよね。

 そろそろ帰らないといけないか……。

 

「アキ?」

「あ、うん。そろそ────」

 

 言いかけた瞬間、近くに設置されているスピーカーから急に大きな音楽が流れはじめた。

 音楽はテンポのいいマーチ。

 その音楽が流れはじめると、一際輝く大きな物が中央通りをこっちへ向かってゆっくり進んで来るのが見えた。

 

 そうだ……。案内板に書いてあった夜間限定イベント。

 思い出した。これは確か──『ノインのイルミネーション・マーチ』だ。

 

 大きな物は車輪が付いたお城だった。

 そのお城はとてもメルヘンチックな外観で、色とりどりの照明で綺麗にライトアップされていた。

 お城の前ではノインとアインが可愛らしく踊りながら先導している。

 フィーはお城の上で周囲に手を振って愛想を振りまいていた。

 道の両脇ではショーを見ている子供たちが喜んでいる。

 

 ショーは見ている人たちを魅了した。

 僕と美波も例外ではなく、足を止めてショーに見入っていた。

 

 この微笑ましい三匹のマスコットの動きを見ていると心が和む。

 僕は体にぎこちなく入っていた力が抜けていくのを感じた。

 可愛らしいショーは僕の緊張も解いてくれたみたいだ。

 

 

 そんなショーの中、僕はキラキラしたものを横目に感じた。

 視線を送ると、それは美波の胸元のネックレスの輝きだった。

 美波はとても優しい顔でショーに見入っている。

 

 イルミネーションに照らされた美波の横顔は、ネックレスと共にキラキラと輝いていた。

 

 ……

 

 サーカスの時も思ったけど、やっぱり──

 

「綺麗だな……」

「え? 何か言った? アキ」

 

「……いや。なんでもないよ」

「?」

 

「……綺麗だね」

「ほんとね」

 

 僕は美波もショーも綺麗だと思った。

 

 それと────思ったことが口に出てしまう癖は治りそうにない。

 

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