バカとウチと本当の気持ち   作:mos

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part Q

 目を覚ますと、いつもの教室だった。

 僕はいつの間に学校に来たんだろう?

 

 周りを見回してみたが人影は無く、誰もいないようだった。

 窓からは夕焼けの橙色の光りが差し込んでいる。

 既に放課後のようだ。

 

 どうやら僕は今日一日ずっと寝ていたみたいだ。

 朝どうやってここまで来たのか、お昼ご飯をどうしたのかも覚えていない。

 もちろん今日の授業なんて微塵も記憶に残っていない。

 まぁそれはいつものことだけど。

 

「あ、アキ? 起きた?」

 

 突然、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

 振り向くと、そこには本を手にした美波が座っていた。

 

「あ、美波。おはよう」

「おはようじゃないわよ! 何時だと思ってるのよ!」

「わわっ! ごご、ごめん……!」

「まったく……教室に入ってくるなり突っ伏して寝ちゃうんだから……。何度も瑞希や木下が起こしたのにぜんぜん起きないし。西村先生もあきれて『明日補習だ!』なんて言ってたわよ?」

 

 しまった……そんなことがあったのか……まったく記憶にないよ……。

 また一歩観察処分者返上から遠ざかった気がする……。

 

「はは……明日、休もうかな……」

「ダメよ。そんなのウチが許さないからね」

「え~……」

 

 相変わらず美波は厳しいなぁ……。

 

(……だって……休まれたら会えないじゃない……バカ……)

 

 美波が口を尖らせて何か呟いた気がした。

 

「ん? 何?」

「な、なんでもないっ!」

「?」

 

 まぁいいか。

 

「そう言えば姫路さんたちは帰ったの?」

「そうみたいね」

「みたいって……美波も一緒じゃなかったの?」

「ウチは先生の手伝いに職員室に呼ばれてたのよ。戻ってきたらアキだけ残っててまだ寝てるんだもの。あきれたわよ」

「あはは……ごめんごめん。でも美波、僕が起きるの待っててくれたの?」

「えっ? う、うん……そっ、そんなことより! どうしてそんなに寝てるのよ!」

「いやぁ、実は昨日ぜんぜん眠れなくてね」

「アキもなの? 実はウチも……」

 

 そう言う美波は確かに眠そうな顔をしている。

 でもその顔はどこか嬉しそうでもあった。

 

 美波は片手を胸元に当てている。

 その手からはチェーンが伸び、美波の首の後ろに回っていた。

 これは──昨日プレゼントしたアクセサリか。

 

「それ、持ってきちゃったんだ」

「うん。だって家に置いてきたくなかったから……」

「でも鉄人に見つかったら没収されちゃうよ?」

「大丈夫よ。こうして服の中に隠してたから」

 

 そう言って美波は首に掛けたままのネックレスを襟元からシャツの中に入れた。

 

「西村先生も女子のシャツの中までは調べないでしょう?」

「確かにそうだね」

「これはウチの宝物よ。だから肌身離さず持っていたいの」

 

 美波はとても幸せそうな、優しい目をしている。

 正直、僕のプレゼントをこんなに喜んでもらえるとは思っていなかった。

 僕は照れくさくてどう言葉を掛ければいいか困って────

 

「えっと……喜んでもらえて僕も嬉しいよ」

 

 こんなありきたりな言葉しか掛けられなかった。

 

 はぁ……ほんと情けないな。

 僕の言葉の引き出しはこの程度の台詞しか入っていない。

 こう言う時、秀吉や雄二ならもっと気の利いた言葉を掛けられるんだろうな……。

 

「うんっ! ありがとね、アキっ」

 

 でも美波はそんな僕のありきたりな返事にも嬉しそうだった。

 ますます照れくさい……。

 

「さ、帰りましょ」

「うん」

 

 僕は今日一度も開けていない鞄を取り、立ち上がった。

 

 ん? 何か上着のポケットに入っている?

 

 たまたま触れたポケットに何か異物感を感じ、僕は手を突っ込んでみた。

 この表面がつややかな厚紙のようなものは──写真か?

 それに小さい紙切れのようなものも入っている?

 なんだろうこれ。

 

 取り出してみると────

 

 なっ!! こ、これは!?

 

 その写真には昨日の如月ハイランドでの僕と美波の姿。

 腕を組んで歩いている姿が写っていた。

 僕の硬い表情からして、観覧車に向かっているところだろうか。

 そして小さい紙切れには一言。

 

 『貸し、ひとつ』

 

 とだけ書いてあった。

 この字、ムッツリーニだ。

 確かに昨日は周りに注意してる余裕なんて無かったけど……。

 くそっ! どこで見つかったんだ!

 ハッ! まさかあのピエロか!?

 あのピエロはやっぱりムッツリーニだったのか!?

 

 ……いや、あのピエロは身長が高かった。

 どう見てもムッツリーニの体格じゃない。

 ということは、あれとは別の形で潜入していたのか?

 

 く……なんてことだ……。

 これから僕は逃亡の日々を強いられるのか……。

 

 

 ……いや、待て。

 

 恐らくムッツリーニはこの写真をバラ撒いてはいないだろう。

 もしバラ撒いていたら僕が今日一日寝ていられるわけがない。

 ということは────

 

 そうか……。あいつめ、これを使って僕を脅迫するつもりだな?

 『貸し』というこのメモからしても間違い無いだろう。

 ムッツリーニはこれからこの写真を使って何らかの取引を要求してくるはずだ。

 恐らく僕をネタに商売をするつもりなのだろう。

 

 あいつのことだ。きっと僕に女装をさせて……写真を撮って……。

 

 おぞましい……!!

 

 くそっ! このままではまずい! 何か対策を考えないと……!

 

「アキ? どうしたの?」

「な、なんでもない! 今行くよ」

 

 美波に余計な心配をさせるわけにいかない。

 このことは美波には黙っておこう……。

 

 僕は写真とメモをポケットに戻し、教室を出た。

 

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