台所に来た僕は落ち着きを取り戻した。
でもショックから立ち直ることはできず、ぼんやりしながら洗い物をしていた。
あの写真立て……。
前に見た時はオランウータンの写真だった。
あれは僕をからかったのだろうか?
さっき見たのは確かに僕の写真だ。
さすがに僕も毎日洗面所で見ている自分の顔を見間違えたりはしない。
じゃあ本当は美波が好きなのは……僕?
でも今までの美波の言動からしてそれは無いと思う。
でも写真立てには僕の写真……。
それにあの抱き枕……あれはサンドバックの代わりじゃないのか?
美波は僕を……?
分からない……。
ガチャッ
「お母さん、ただいまですっ!」
急に玄関の扉が開く音がして、元気な声が家中に響き渡った。
この声は葉月ちゃんだ。
我に返った僕は手を拭いて玄関に向かった。
「こんにちは。葉月ちゃん」
「あ! バカなお兄ちゃん! こんにちはですっ!」
挨拶と共に玄関からロケットのように僕の鳩尾に頭突きを入れてくる葉月ちゃん。
相変わらずいい頭突きだ。
「お姉ちゃんのお見舞いですか?」
葉月ちゃんが僕の服にしがみ付き、見上げながら問い掛ける。
その顔は美波を幼くしたような感じで、吊り目なところも良く似ている。
「うん。そんな所」
僕は鳩尾の痛みを堪えながら答えた。
本当は課題を届けに来ただけなんだけどね。
「お姉ちゃんどうですか?」
「まだ熱が下がりきってないみたい。今は寝てるよ」
「そうですか……心配です……」
心配そうにしょんぼりする葉月ちゃん。
なんて姉思いな妹だろう。
「でもさっきご飯を食べてくれたから、きっとすぐ元気になるよ」
「ホントですか! よかったです!」
「うん。だから今はゆっくり寝させてあげようね」
「はいですっ!」
安心させる言葉を掛けてあげると、葉月ちゃんは満面の笑みを浮かべた。
葉月ちゃんは表情がころころ変わって可愛いな。
「お母さんいないですか?」
「うん。一時間くらい前に仕事に行ったよ」
「それでバカなお兄ちゃんがお留守番ですか?」
「うん。そうだよ」
「じゃあ葉月も一緒にお留守番するですっ!」
美波のお母さんからは葉月ちゃんが帰ってくるまでって言われてたけど……。
葉月ちゃんも一人じゃ寂しいだろうな。
姉さんは今日帰り遅いって言ってたし、お母さんが戻るまで一緒にいてあげるか。
「じゃあ一緒にお留守番しようね」
「はいですっ!」
しゃがんで頭を撫でてあげると葉月ちゃんは目を細めて気持ち良さそうにした。
とりあえず洗い物を終らせないとな。
僕は台所へ戻り、洗い物を終らせることにした。
☆
残っていた洗い物を終らせた僕はぬいぐるみで遊ぶ葉月ちゃんに付き合った。
でも葉月ちゃんと遊んでいても、どうしても写真立てのことが気になってしまう。
美波の今までの行動。
お弁当を作ってきてくれたり、誤解だったとはいえ……その……キスしたり……。
勉強会の時には部屋の写真を見てもいいなんて言ったり……。
それに肝試しの時のずっと隣にいてあげるって言葉……。
確かに関節技を極められたり殴られたりもしたけど……。
今思うとほとんどは僕の言動が原因だったんじゃないだろうか。
もし美波が僕のことを好きなんだとしたら……。
今まで僕はなんて無神経なことをしてきたんだろう……。
「バカなお兄ちゃん? どうかしたですか?」
葉月ちゃんに呼び掛けられて気付いた。
どうやら考え事に集中してしまっていたようだ。
「あ、ううん。なんでもないよ」
って、そうだ、美波の容体はどうだろう。見てこないと。
「葉月ちゃん、ちょっとごめんね。お姉ちゃんの様子を見てくるからね」
「あ、葉月も行くですっ!」
「だめだよ。葉月ちゃんはここで待ってて。風邪がうつっちゃうかもしれないからね」
「でもそれならバカなお兄ちゃんにもうつっちゃいますよ?」
それなら心配無用だ。なぜならバカは風邪を引かないからだ。
「僕は大丈夫だよ。バカだからね」
「? よく分からないですけど……バカなお兄ちゃんがそう言うなら葉月、ここで待ってるです」
葉月ちゃんは意味が分かっていないみたいだった。