ボルト時々プレスのちプログラムくん   作:凍り灯

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『ヨッテラッシャイ 見テラッシャイ!!何デモ ゴザレ ノ "FORGOTTEN FACTORY(フォーガトゥン ファクトリー)"デスヨ!』
『────』
『コレハ ナント 愚カ ニモ 万引キ ヲ 企テタ ナビ ヲ 固メテ 作ッタ────オヤ?オ久シブリ デスネ!』
『────』
『…オ元気 ソウデ 何ヨリ デス。マタ 来テ イタダケル トハ 思ッテモ イマセン デシタ ガ』
『────』
『エエ、エエ。オ客 ヲ 選ブ ヨウナ 事ハ シマセントモ!…何カ ゴ入リ用デスカ?』
『────ここにしばらく置かせてほしいの…それと…手紙…手紙を………もう一度"彼"に会う前に、便りを送りたいから』






















《あなたへの"イリス"》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アジーナエリアにはあらゆるもの(ゴミ)が流れ着く。

まるで大海の潮の流れのように、ネットワークにもデータの流れがある。

時に座礁したものからは、奇跡的に"何か"が生まれることもあるそうだ。

そうして今日もまた流れ着き、いつものように彼らが拾い集める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はなんとも珍しく、ジャンクマンだけが一人で過ごす日だった。

 

マシになっとはいえ未だ不安要素のあるジャンクマン、彼のメンテナンスを"ばーさん"ががっつりとやるために、まる1日時間を割く必要があったからである。

カチュアも暇ではない。ナビがいないからといってやることがなくなるわけでもなく、プロ-gくんと共に住処である教会もどきを後にした。

 

さて、その調整も終わり、再起動してからすぐのこと、ばーさんの提案で一人で電脳を歩いて調子を確かめることになったジャンクマン。

 

カチュアたちは、夜まで別の用事でまだまだ帰ってはこない。あまり機会のない一人行動に、ジャンクマンはやや緊張気味のようだ…そうとも、今では一緒にいるのが当たり前。かつての孤独の名残は、既に彼の中から消えて久しい。

 

…昔は人の目を悪い意味で避けていたジャンクマンは、今ではみんなの人気者なのである。しかし彼自身がその周りの変化に対応しきれていない。

さもありなん。自らの出自や境遇のコンプレックスをすぐに払拭できるならば誰だって苦労はしない。

まだ称賛の声が気まずい彼は、人目を避けようとコソコソと歩く。

 

────なんてことが、この目立つ外見で出来るはずもなく。結局は爆速で黄色い声をかけられ投げられ投げ入れられ、時たま一緒にスクショを頼まれるなんてことになるわけだ。

 

「ありがとージャンクマン!」

「オ、オウ。気ヲ付ケテナ」

 

 

スラム(ゴミたち)の英雄。

 

ゴミ(ヤマ) () (オウ)

 

 

(けな)してるのか、褒めているのか…しかしまぁ、そんなことは彼ら(カチュアたち)には関係ない。気にもしない。

彼らの"価値"は彼らだけで既に完結している。互いが互いを認める、認め合う。たったそれだけで彼らは絶対的な"根っこ"を地面の奥深くに埋め込んでいる。

 

抜けるものかよ、俺たち を。

崩せるものかよ、私タチ ヲ。

 

だから、ジャンクマンもズシリと構えて有象無象を圧し潰すのだ。

そんな彼らを見て、人々もまた熱に浮かされていく。

 

当然、スラム出身の人間からは絶大な支持を受けているのは言うまでもあるまい。

徐々にスラムの見直しの政策も進んでおり、間違いなくそれは彼らの存在が影響しているともっぱらの噂だからだ。

 

噂は噂、しかし火のない所に煙は立たぬ。

こうまで名声を得た個人を無視できないのも事実であり…実のところ、分かり易い"アジーナドリーム"として国も利用する気満々であるからして、噂は真実に近かった。

 

ネットマフィアである"ゴスペル"に一度は壊滅させられたとはいえ、元々は高いセキュリティ技術を持つ国である。メンツを保つために彼らはあらゆることをやる意気込みだったところで…パクチー・ファランの出奔(しゅっぽん)が事件が起きた。(ファランは断固同意の上だと言い張っていた)

であれば力あるものを求めるのもむべなるかな(もっともなことだ)

 

それが最下層の民(カチュア)であろうと。

 

結果は…語るまでもないだろう。彼は多くの者を魅了した。

機嫌を損ねないように、国が便宜(べんぎ)を図るのも無理はない。

 

…とは言え、現実もそうだがアジーナエリアは未だにジャンクデータが多い。それはデータの"流れ"があるからだ。止める事の出来ない潮の流れというべきか、一朝一夕(いっちょういっせき)では解決できない根深い欠陥。この厄介な"流れ"を抱えてアジーナは、アジーナエリアは生きていかなければならない。

いつも通りに、これからもずぅっと。

 

しかしそれこそがプロ-gくんがアメロッパから流れ着いた理由であり…ジャンクマンが生まれた理由。

 

────あぁそうだとも。

雑然として、汚らしいのだろうけれど、この"流れ"は間違いなく今のカチュアたちを産んだ命の温床。忌むべきものと切り離すことの出来ない、芽吹き。

ネットワークの世界では、ゴミから命が生まれるのだ。

 

そんな故郷で、ジャンクマンは今日も今日とて、道端に吹き溜まったジャンクデータを吸いこんでいく。

ガゴン!と開いた胸の吸引口から雑多なデータを、慣れない今の立場(勝ち取った栄光)と一緒に咀嚼(そしゃく)しながら。

 

 

…すると、おや?突然、少女型のナビが、どこからともなくジャンクマンの前に現れたではないか。

 

そう、言葉通り"少女"と言うべき、人間の姿を、服装をしたそんなナビがじぃっとジャンクマンを見上げているのだ。

亜麻(あま)色のロングヘアーと蝶形の髪飾り。

その目は、多分に"興味"を含み…同時に、警戒のような色も見えたかもしれない。

 

驚くあまりに固まってしまったジャンクマンは、なんとか戸惑いながら呟く。

 

「二、人間………ミタイナ、ナビ??」

「…?あなた、は…ウィルス、じゃないのね。兵器…でもない」

「ソレ…久々ニ言ワレタナ…────エ、兵器??」

「ご、ごめんなさい。勘違いを…してた」

「???…オウ、オデ ハ 気ニシテ ナイ カラ 大丈夫 ダ!」

「…」

「????」

 

意味深長な少女ナビの様子に、ジャンクマンはガコリと首を傾げる。

 

これ以上、ジャンクマンにはもう用はないのか、ふらりと背を向けてはきょろきょろ。…明らかにここらのネットに慣れていないのが彼にもわかった。

 

そんなナビを放っておけるほど、ジャンクマンは薄情ではないわけで…

 

 

 

 

 

「────ソシテ ココガ "仏像ノ電脳" ダ!」

 

現実ではアジーナ遺跡に立ち並ぶ見事な仏像よりプラグインできる"ホームページ"。

観光客から国民まで多くの人間が利用するここは、現在最もナビのアクセスが多い場所だろう。

 

そんな場所にいて、この目立つ二人組はヒトゴミに紛れるばかりなのは不可思議だ。片や今ではアジーナ屈指のネットナビ。片や人間のような見た目のナビ。だというのに、まるで誰もそのことに気が付いていないようである。

────実際にそうなのだ。

この少女型ナビの持つ不思議な力なのか、彼らはナビたちの認識の"外"にいるらしい。

 

便利ダナ~ソレと羨ましがるジャンクマン。

…"これ"が誰かにバレれば一大事になるということなど知りもせずに呑気なものであるが、少女型ナビもまた、全く気にした風ですらないのはどういうわけか。

 

"ジャンクマンが誰かにばらす可能性"を考えていないのだろうか?…だが、"インビジブル"系統のチップの能力を鼻で笑い飛ばすようなステルス性を有する力である。姿を(くら)ますためとしか思えない力を持っておいて、危機管理能力がないとは思えないが。

いくら彼女の感情が希薄なように見えたとて、それにしたってちぐはぐだ。

 

…なんてことを思いつきもしない観光案内ナビジャンクマンは少女を連れて一休み。

 

近くの屋台ナビから電脳サイダーを購入しつつ(誰なのか気付かれないだけで店員とはやり取り出来ている)、ベンチに少女型ナビが座る。

ジャンクマンは………立つ座るの概念がないのでベンチの横の空きスペースに収まることになった。

 

「ここは…すごい…そ、その、溢れているのね」

 

少女がぼうっと、行き交うナビたちを眺めながら呟いた。

"活気に溢れている"。そう言おうとしたのかもしれない。その言葉がすぐ出てこない彼女の様子をやはり疑問に思いつつも、ジャンクマンは思ったままの言葉を投げかける。

 

「モシカシテ 最近 生マレタ ナビ なのか?」

「…いいえ。ただ、ずっと同じ場所にいたから」

「同ジ 場所?」

「ええ」

 

なんとなくジャンクマンには、彼女が驚いているようにも見えた。自分たちが当たり前と思っているこの光景に対して。

ソウイウ モノ ナノカーと、まだ観光客の相手をあまりしたことないジャンクマンは()()()をする。

 

「ア、ソウダ、名前!自己紹介 ヲ 忘レテタ ゾ!オデ、"ジャンクマン" ッテ 言ウンダ」

「…アイリス」

「アイリス!ヨロシクナ!アイリス タチ ハ ドコ カラ 来タンダ?」

「…()()?」

「???…オペレーター ト 一緒ニ 来タ ンダロウ?」

「私にオペレーターはいないわ。ここには、一人で来たの」

「エ!?」

「来た…というより、流れ着いてしまったの。あなたに教えてもらうまで、ここがどこかも分からなかった」

 

その時、驚きと共にジャンクマンの脳内ではある悪い可能性が、かつての記憶と共に閃光の如く思い浮かんだ。

 

1人ぼっちのナビ。

かつての自身の境遇。そしてジャンクマンが産まれたところと同じ場所で見つかった彼女。

 

カチュアとプローgくんと出会う前の自分。(ののし)られ、(さげす)まれ、一人泣いた日々。

削られゆく心と、少しづつ崩れていく自分を構成するプログラム。

 

 

けれども辿り着いた奇跡的な、出会い。

だが、それが誰しもあるはずがない。

 

もしや彼女もそういった類の…────

 

 

「カ…カッ…カ…!!」

「…か?」

 

ぷしゅう。

そんな間抜けな空気が抜けるような音と共に、ジャンクマンが白目を向く。

(ソモ 白目 ハ ドコデ スカ?)

 

「………え?」

 

簡単な話、彼はオーバーロード(過負荷で気絶)した。

再起動直後の高負荷はお気をつけを。

(あーコイツの演算プログラムあたりが元々弱かったもんナァ…)

 

 

「カチュアロジークン」

「え?…え、っと………え…??」

 

彼女は左を見て右を見た。

そしてジャンクマンを見る。

 

 

「……………………」

 

 

 

 

 

「え???」

 

自立型ナビであり、Dr.ワイリーが生み出した兵器制御用の軍事ナビである"アイリス"は、初めての事象に、誰に助けを求めることも出来ずにひたすらあたふたするしかなかった。

(オイ、助けに行くか??)

(イエ、面白イ ノデ モウ チョット 見テ マショウ ヨ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽▲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナ、ナンダ。…良カッタ。オデ ト 同ジ カト…」

「…お、驚かせて、ごめんなさい…?」

 

いやいやこちらこそ、いいやいやいやこちらが…と未だに困惑の抜けない二人は電脳サイダーでキツケを入れる。

(なぁにやってんだコイツら)

(アオハル デスネェ…)

(アオ…なんだって?)

 

では落ち着いたところで。

 

「私は…"外"の世界が見たくなったの」

 

アイリスは少し、言葉を選ぶ様子で続ける。

 

「…ずっと。ずっと同じ場所にいたから…同じこと、しかしてなかったから。自分のしていること、以外に興味ができて」

「それで、一人でどこかに行こうとしたんだけれど…"外"のこと、全く知らなかったから。あてもなく歩き回ってたらいつの間にかここに来てた」

「ここは…すごい所ね…こんなにも"溢れている"。ナビが、感情が…────」

 

 

────戦い争うこと以外の、全てが。

 

 

その一言を、彼女は呑み込んで。

 

「ソウ ナンダ!良イ所 ナンダ!」

 

その純真無垢なまでの在り様に、アイリスは全てを明かすことを躊躇(ちゅうちょ)した。

自分の"無知"とは違う、何か。

こんな自分ですら穢すことを踏みとどまってしまう存在。

妙なことを色々とカチュアとかプローgくんで吹き込まれているものの、ジャンクマンという存在はずっとそのままだった。

 

「デモ アイリス ハ モット 静カ ナ 場所ガ 好キ ソウダナ」

「…そうね、ここはちょっと、そ、その…情報が多すぎる、かも」

 

あらゆるデータが流れ着くアジーナエリア。

雑多で不必要な情報が断片的に飛び交い吹き溜まるここは、理路整然とした軍事施設にいたアイリスにとって刺激が強すぎる。

嫌いではない。けれど、長居をするには少し彼女にとっては辛い場所でもあった。

 

「ウーン…"二ホン" トカ ドウダ?」

「二ホンって…インターネットの基礎を築いた"光正(ヒカリタダシ)"博士の?」

「エ?"光熱斗" ジャナクテ カ?」

「え、えっと…誰、かしら?」

「ンン??」

 

奇妙なすれ違いがありつつ、話題はネットの世界ではなく…オペレーターたちのいる世界の話へと変わっていく。

 

「カチュア…さん?」

「オウ!オデ ノ オペレーター ダ!」

 

あとプローgくん。(アト、トハ 失礼ナ!)

 

「ぷ、プロジーくん?」

「一緒ニ イル プログラム クン ノ 名前ダ!」

「プログラムくんって…あの?」

「ソウ ソノ。物凄イ 声ガ 大キインダ!」(ホント ニ 失礼 デスネ!?)

 

"軍事"以外にはてんでものを知らないアイリスは、だんだんと、この不思議な不思議なジャンクマン一行にもまた興味が湧いてきていた。

…それにちゃんと他人と雑談をすることなんて初めてで。

 

カチュアさん────手が出るのが早いけれど、芯の通った優しさを持って、多くの人たちのことを本当はちゃんと考えてる人。

プローgくん────声が大きくてすぐに手が出て(チョットォ!?)…でも頼りがいのあるプログラムくん。

 

そんな彼らの活躍を記録した映像データを、アイリスは今、ジャンクマンから見せてもらっている。

 

『ガルルルルルルァッ!!今日こそ貴様の命!貰い受ける!!』

『はっはぁ〜今日もテメェの命が狩られる番だゼ!!来いよ!!』

『オウ!!来イ!!ビーストマンッ!!』

『気安く名を呼ぶなッ!!!!』

『スッカリ 常連 デス ネー』

『よく飽きもせずに何度も来るケロねー』

『ビーストマン三体に分身したーーーーー!!しかしその連撃猛攻百裂爪を上回る質量弾(ストーンキューブ)の雨あられをどうさばくというのか!!!!』

『実況をするなッ!!人間っ!!』

 

ドガンボゴングァッシャッセ!と破壊音を巻き散らしながら壊れる壊れる。

その映像にアイリスは戸惑った。

派手な"破壊"に対してではない。悲しいかな、アイリスは()()()()()は当の昔に見慣れてしまっていた。

そうではない。"それ"を見て、盛り上がる人間たち(主にチームオブジャンク)に対してだ。

 

…まぁ、ある意味では狂気的と言えるかもしれない笑いではあるが、本当の戦場で人間が直面する狂気とは大きく異なったもの。

 

それはある種の突き抜けた爽やかさ。

 

画面の中で起こっているこの大破壊はまさに無茶苦茶だ。惨状と言っていもいい。しかし、この"破壊"を人々が楽しんでいるということに疑問を抱かずにはいられないアイリス。

心の底から、楽しくて仕方ないという"熱"。

今まで感じたことのない人々の"それ"に、アイリスは困惑したのだ。

 

ジャンクマンはその疑問に答える。

 

「コレハ スポーツ ミタイナ モノナンダ」(おい!ふざけるなよ貴様ッ!)

「ネ、ネットバトルが…?」

「オウ!オ互イ ニ 正々堂々 戦ウ カラ トテモ 気分 ガ 良イ ンダゾ!」

「でも…勝敗を決めて争ってるわ」

「ウン?アイリス ハ 勝チ負ケ ヲ 決メル ノガ 嫌イ ナノカ?」

「………好き、ではないのだと思う」

「ソ、ソウナノカ」

 

アイリスの生まれた環境。

ジャンクマンの今の環境。

同じであるはずもなく、明確に軍事用として生み出されたアイリスとジャンクマンがわかり合えることはない。そうやってすれ違ったまま。

 

────だが、かつてはジャンクマンもまた"アイリス"だった

オペレーターを持たず、抱いた"飢え"のままに行動し…幸運なことに彼はカチュアと出会えた。

()()()()()()()()()()もあったことだろうに。

 

 

…あぁなんだ、同じじゃないか。

 

 

ジャンクマンは気が付く。

 

『────よく見ろ!オマエのなりたいものはなんだ!?』

 

自分が"カチュア"になれるとは思わない。憧れもあるし、そうだったらきっと素晴らしいことだと思う。けれどジャンクマンは自分がそうはなれる自信がなかった。

 

だからそう、カチュアになれなくとも…カチュアみたいな"誰か"とアイリスが出会える手助けを少しでも出来たらいいなと、思えたのだ。

 

「ア、アイリス」

「…?」

「モット 見テ ミナイカ?」

 

それからアイリスは多くの記録をみた。

 

シャーロ軍ネットワーク第13部隊隊長ライカのオペレートするサーチマンとの激闘。

突如現れた謎の赤いネットナビ、ゼロ.EXEとの遭遇(そうぐう)戦と和解。

二ホンの科学省からの推薦で行われた帯広シュンとの親善試合は、フリーズマンとジャンクマンの物量戦が凄まじかった。

クリームランドの王女プリンセス・プライドとの戦いは、ちょっと変な敬語を使うカチュアさんの方が面白かったのは秘密だ。

荒駒虎吉のプレイするキングマンが、ジャンクマン対策で披露(ひろう)した"ストーンキューブチェス"は見事に彼らを苦戦させていて、今でも名勝負として語り継がれているらしい。

 

みなが自分を、相手を応援して、楽しみにしてくれていて、ソレに応えるためにも勝とうと努力して、その結果こうなっただけ。ジャンクマンはそうアイリスに語る。

 

「皆二 迷惑ガ カカル ヨウ ナ "破壊" ハ 良ク ナイ コトダ」

「…うん、私も…私も、そう思う」

 

アイリスは自分が何故ワイリー博士の元から逃げ出してきたのか?今まで上手く言語化できていなかった自分の衝動的な感情を少しづつ言葉へと変えてココロへ(つづ)る。

それはほんの小さな変化、だが"(きざ)し"となる変化。

 

「ダカラ ネットバトル 以外 デ 壊ス 時モ 迷惑 ガ カカラ ナイ ヨウニ スレバ イインダ!ソウ スレ バ 盛大ニ 壊シテ イインダ!」

「そう、なの?」

「皆ニ トッテ 迷惑ナ "モノ" ヲ 壊ス ノモ イインダッテ!」

「………そうなの…?」

「カチュアトプロ-g君ガ言ッテタ!!」

(言ったなぁ)(言イ マシタ ネェ)

「そう…そうだったのね…」

 

…まぁ、おおむね道徳的なことを学んだアイリス。

こうして彼らと彼女の奇妙な友人関係が始まった。

たまにふらりと訪れては、去っていく。

 

そんな日々がしばらく続いて…そして彼女は、子供たちの学び舎であり、カチュアたちも知らない「学校」というものに興味を持つことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出す。

そんな昔ではないのに、たくさん時間が経ったかのような、そんな思い出を。

 

「た、たすけて…くれて…ありがとう」

 

────ウィルスでおかしくなった犬型ロボットに偶然襲われて。本当に偶然、あなたと出会った。…そうあれは、初めは、ただのお礼のつもりだった

水族館で"クロヒゲ"が起こしたの事件の時に、彼に私がプラグインしていたコピーロイドを使ってもらったんだ

 

「そういや、今もサカナの水槽を見てるけど、サカナが好きなの?」

「サ、"サカナ"を自ら出しては…いけないわ。"サカナ"は水の中で生きているから陸の生き物と争わずに生きていけるの」

 

────才葉学園に転校してきていたことは知っていたから、少しだけ興味が沸いてしまって…

 

「…私は、アイリス」

「アイリスってのか…俺は…」

「ひ、光くん、だったよね…この間は助けてくれてありがとう…」

「覚えててくれたんだ…なんかちょっと嬉しいな。改めてよろしくな!そういやさ、さっきのサカナがどうしたって…」

「…気にしないで」

「なんか質問ばっかで悪いけど、アイリスって何組?このクラスじゃないことは確かだよな?」

「…私は────」

 

────ジャンクマンの言っていた"光熱斗"がこの人なんだなって

勇敢な人なんだって…それくらいにしか思っていなかった

 

「ゴメン、俺、そろそろ行かなくっちゃ!また今度ゆくっり話そうぜ!」

「…」

「それじゃ、また!」

「…またね」

 

────だからあの時はまだ、彼が事件に巻き込まれないことこそが、恩返しになると思った

 

「どうしたんだよアイリス?まさか、ウチに来るなんて思いもよらなかったからびっくりしたぜ

で、何の用事?」

「…」

「オレ、これから友達とインターネットする約束があるんだ…あっ、そうだ!アイリスも一緒にインターネットに行かない?」

「………、…ダメ」

「ダメ…?何が?」

「い、今、インターネットに行ってはダメ。悪い予感がするの…」

「悪い…予感…?」

 

────それから、サーカスマンによって電脳獣が復活してしまって…

 

「コジローのナビが…いや、インターネットが大変なことになってるんだ!」

 

────でも、光くんは

 

「俺、行かなきゃならないんだ!」

「…けど…」

「危険なのはわかってる!」

「だけど、仲間がピンチなんだ。だから俺は行く!心配してくれてありがとな!」

「………気をつけて…」

 

────戦うことを選んだ

 

 

ロックマンが電脳獣に取り憑かれた(インストールされた)と知った時、とても驚いた。同時にすごく安心もして…納得があったの。

だって光くんと出会ってから、彼らの活躍を調べていたから。

 

WWW(ワールドスリー)との戦い、ゴスペルとの戦い、ネビュラとの戦い…その記録(物語)を追ってるうちに、彼らはこんなところで終わるはずがないっていう、"願い"があったから。

まるでそれは、物語の主役を応援するかのように。

 

最初は。

 

最初はそれだけだったの。

 

 

TO 光熱斗

 

"インターネット、シーサイドエリア3に”

”「癒しの水」と呼ばれるナビを回復させる電脳水が沸いているわ”

”それを使えば電脳獣を弱らせることが出来るかもしれない”

 

"アイリス"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

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薄緑に光る刃が、光くんに向かって振り切られるその前に。

私は立ち塞がった。

 

…誰よりも知っている顔。瞳は驚愕(きょうがく)に彩られ、切先は一度だけ震えた。

の兄(カーネル)…私と同じように、仮初の身体(コピーロイド)で陸に上がった黒いナビ。私の半身。ワイリー博士が完璧な兵器とするために「やさしさ」を「()()()()」として切り離してしまった、ナビ。

あの人が壊れてしまってから、私たちは別たれた。

 

「ア、アイリス…!?」

「…」

 

────兄さん(カーネル)

 

「な、なぜ…お前が…ここに…?」

「…」

 

────私は

 

「…ック!! 光熱斗…命拾いしたな。だが、次(まみ)える時は必ず斬る!」

 

────私………

 

「またアイリスに助けられちまったな。これじゃ、どっちが助けに来たのかわかんないな!」

「…良かった、光くんが無事で…」

「アイリス…君はいったい…」

 

────きっと私は、この人に………

 

「…なんだ、急にロックマンの動きが止まった…!」

「まだよ、安心しないで」

「アイリス!?」

「…んっ!…ッダメ、流石に電脳獣を完璧にはコントロールしきれない…!」

■■■■■■■■■(グルルルルルルルルルルル)…」

「アイリス、いったい君は何を!?」

「っ光くん!あなたは彼に声をかけ続けて…!彼は今、内側で暴れる電脳獣と必死に戦ってる…助けられるのは、オペレーターのあなただけ!」

「あ、あぁ…!!わかった!」

「ロックマン!負けるな!電脳獣なんて抑え込むんだ!」

「グ…グオォ…!…ググ…ネ、ネットクン…」

「ロ、ロックマン?ロックマンなのか!?」

 

「がんばれ!もう少しだ!」

 

 

────…

 

 

「…俺、そろそろ行くよ。何か言いたいことがあったら、遠慮なく俺に言うんだぜ?」

「うん…」

「…それじゃな!」

「…またね」

 

 

 

────私、ね

 

 

 

「────ねぇジャンクマン」

 

プロ-gくんに手渡された特性電脳スープを飲みながら…意を決して、私はこの奇妙な友人に秘めるべき思いを吐き出す。

 

「…私…少年に…こ、"恋"、してしまったの…」

「オオ!良イコト ダナ!」

「………………え?」

 

 

否定、されると思った。

 

 

ジャンクマンは優しいから…否定の言葉でなくとも、もっと、困惑すると思っていた。

予想と全然違う言葉に、私はつい驚いてしまう。

…だって、だって…だって。

 

「だって私はただのネットナビ、それに私は()の…とにかく、あってはいけないことなのよ」

「ダメ ナノカ?」

「…一緒の空間で過ごせないの。仮初(かりそめ)ならば、今の技術ならば出来るわ…でもそれは偽り。一緒に歳も取らないし…食べ物の味も分かることはない」

 

手元のスープを眺める。

これみたいに、限りなく近いものだとしても、決定的に違う。

ナビの人格がプログラムであることと同じように、違うのだ。なにも、かもが。

 

「広大に海にいる"サカナ"が私…"陸"には上がれないわ…」

 

ネットという海で生まれたサカナは、決して現実という陸では生きられない。

歌声を捧げて"人"になった人魚がただ………私は羨ましい。

 

「ダメ ナノカ…?」

「────え?」

 

それでも彼は言う。

 

「仮初デモ 歳ヲ 取ラ ナクテモ 一緒ニ イレテ、味ハ 教エテ モラッテ 知ル ジャ ダメ ナノカ?」

「…だ、だめよ。それを相手が望むとは限らない。例えその時望んだとしても、それがいつまで続くの?」

「…続ク 限リ 続ケル ジャ、ダメ ナノカ…?」

「それは…辛くなっちゃうだけよ。お互いに、おんなじ感覚を理解できないで生きるのは、きっと辛いわ」

「デモ、オデ ハ 皆ンナ ト 違ウ トコロ シカ ナイ ノニ 楽シイゾ!」

「…」

 

彼は言うのだ。私に。

握った手のひらに力が入る。未練を切り離すために、ここに来たのに。そんなものは無理だって、諦めさせてほしかったのに。

彼は手を伸ばせと訴える。

 

「カチュア ト プロ-gクン ハ オデ ヲ 受ケ入レテ クレテ、オデ ハ 嬉シイ!色ンナ 事ヲ 教エテ 貰ッテ、色ンナ 物ヲ 一緒ニ 掴ンデ キタ。一緒ニ ヤレ バ ドウニカ ナルゾ!」

「それはやっぱりオペレーターとネットナビの関係でしかないと思うの。私は…私は…」

「アイリス ハ…ソレ?ヲ、モウ ヤッテ 見タ ノカ?」

「…や、やってみた、わけじゃないけど…それが当たり前、だと、思う。私は…いえ、やっぱり私は今のままで満足するべき────」

「4テン!」

 

ピコン、と。

彼の手というには大雑把すぎるアームが持ち上がって、私を指さす。

 

「え?」

「10000テン中!」

「………え?…え??」

「現状ニ 満足シチャ ダメッテ カチュア モ 言ッテタ!アイリス ハ キット 今ドン 底ニ イルンダ!」

「ど、どんぞこ?」

「辺リガ 何ニモ 見エナク ナル クライ 真ッ暗ニ 思エル 時ノ 事ダ!」

「真っ暗…」

「ダカラ" ダメナンダ "ッテ 気分ニ ナッテル ンダ!…ドンナニ 遠イ モノ デモ "ナリタイモノ" ヲ チャント "見ル" 事ガ 大事 ナンダ!オデ ハ ソウ ヤッテ 皆ンナ ト 一緒ニ 手ニ イレ タンダ。ダカラ、アイリス モ "ナリタイモノ" ヲ シッカリ 見テ、ソシテ 一緒ニ 目指シテ 行カ ナイト ダメダ!」

「一緒に、見つける…?」

 

ダメだと思っていたことを否定される。諦めてしまうには勿体ないと口説かれる。…満足するなと、闇の中にいたまま受け入れるのではなく、"光"に向かって走れと背を押される。

少しづつ、少しづつ。

"空っぽ"を選んだココロが()()を求めようと上を向く。

 

揺れ続ける私の様子を見ていてくれたのだろう。

ただ黙って私とジャンクマンの話を見届けていたカチュアさんとプロ-gくんが笑う。

 

『がむしゃらに突き進んでみることも大事だぜ?俺たちはそうやって"当たり前"なんつーものは無視して来た。これからもな!!』

「エエ!アナタガ ジャンクマン サン ノ 言葉ヲ 聞イテ 決意ガ 変ワル カ…ソレハ 分カリ マセン ガ、ソウ言ウ 風ニ 生キテ、成シ 遂ゲタ 奴ラ ガ イル コトハ 忘レ ナイデ クダサイ ヨ!」

 

────時たま、ジャンクマンに会いにここに来た時に知り合った二人は、映像で見た通り無茶苦茶で。…でも、何があろうと突き飛ばしていく気持ちよさに、こっちも見ていて楽しくなってしまうような人たち。

 

そんな彼らが、私は羨ましくって…とても眩しかった。だから…

 

「ソウ 言エバ カチュア、トードマン カラ "特ダネ" ト 言ウ 名目 デ SOSガ 届イテ マス ヨ。場所ハ…ウラインターネット デス。ヨク ワカラナイ 狂信者 タチ ニ磔刑(たっけい)ニ サレテ マスネ…」

『嘘だろあの女、またこりずに突っ込んだのか…まぁいいかぁ!賑やかに盛り上がってんなら、トードマンごと燃やしてもっと賑やかにさせに行くゼ!!』(やめてケロ!!??)

 

 

小さな決意が結ばれ始める。

そう、もう少しだけ…欲張りに生きてみようって。

もう少しだけ、頑張ってみようって。

固く結ぶために、決心するために私はココロへ(つづ)る。

 

私は、あなたと友達のままでいいのでしょうか?

私は、あなたを見つめ続けてもいいのでしょうか?

あなたは、私の本当の姿を知っても、今までのように笑って、そして一緒に考えてくれるでしょうか?

…もしそれが叶わなくとも、その背を追うことを許してくれるでしょうか?

聞いて欲しい。知って欲しい。そしてせめてずっと友達のままでいたい。

 

綴った言葉。

私は届かぬと諦めた想いを、届けに行く決意を確かな言葉としてココロに結んだ。

きっと、きっとすぐには伝えられないけれど、必ず。

 

 

 

 

『────ところでよ、ここは仮にでも店だぜ?たまには買ってきな』

「仮 トハ 失礼ナ!私ノ イカシタ 内装デザイン ヲ────」

「ご、ごめんなさい。考えても、いなかった…」

 

カチュアさんの言葉で、はっとする。

確かにいつも話に来るだけで、お店の方に目を向けたことがなかったことに気が付いた。今までは、そういったものが目に入りすらしていなかった。

 

自分の今までの失礼さを恥じながらも改めて見回せば…そこには"何でもある"としか表現できない。

アジーナという情報の多い国の縮図のように、ジャンク品としか思えないプログラム類から、明らかに質の良いナビカスタマイズプログラムまで何でも。

 

ここにいるナビたちだって様々だ。

 

パッチワーク柄の…いえ、実際にパッチワークされた店員のプログラムくんがお客さんからゼニ―、或いはバグの欠片と商品を交換しているのはいつもの光景で。ガラの悪い(ヒール)ナビが真剣に並べられたリサイクルチップを見比べて頭を悩ましたり、水の入ったままの金魚鉢を被ったような小さなナビが安売りの商品棚を泣きながら漁っていたり。

 

「そう…ね。…えっと、何を、買えばいいのかしら?」

 

何でもあるからこそ、わからなくなってしまう。

私は素直に、カチュアさんに(たず)ねることにした。(ナゼ 隣ノ 私ニ 聞カナインデス??)

 

『────…あーいややっぱ今回はサービスってやつだ。ホラ、これなんていいんじゃねーか?』

 

私の手元にインストールされてきたのはボルト。ボルトのネックレスだった。

 

「エ?良イノカ?"ソレ" ハ…」

『いーんだよ!細けぇことは!!そいつは"お守り"さ』

「…?」

 

なんの変哲もないボルト…六角形の頭部が赤いだけの。

 

「えっと…どうしてこれを?」

『光熱斗とお揃いだぜ。(勝手に投げ渡しただけだが)

「え…でもそんな、ただでは貰えないわ」

『気にすんな。ジャンクマンと対等なダチってだけで、こっちは助かってんだゼ?ちょいと人気になり過ぎちまってなぁ。日頃の礼とでも思ってくれ』

『有名人 ノ 辛イ トコロ デスネ~』

「……も、貰うわ。…ありがとう────また、お礼をしに会いに来るわ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…カチュア、良カッタン デスカ?"アレ" ハ "バーサマ"ノ 試作品 デショウ?」

『そうやって聞く割には、オマエも口を挟まなかっただろ?』

「ムゥ…」

『ソックリさ、昔の俺みたいで放っておけやしねぇ…』

「エ? 誰ガ、誰ト ソックリ ナンダ??」

「聞イテ 驚ク ナカレ デス ヨ、昔ノ カチュア ハ────」

『そんな昔にオメーと俺はまだ会ってもいねーからな?』

「ヲ」

『お前は知ってたなそういや…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、アイリス!いいところにいた!」

 

「────…万博に、私も誘ってくれるの?」

「あぁ!ぜーったい楽しいから一緒に行こうぜ!集合場所は学校前の広場!わかった?」

「…う、うん…」

 

「────ねぇ光くん」

 

「………ご、ごめんなさい、何でもないの」

 

「…万博…楽しみだね────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして私は、またここに戻って来た。

 

 

 

 

 

「────私が軍事兵器から見て来た人間たちは、皆んな傷つけあってばかりいた」

「私はそれが当たり前だと思っていた」

「だけど、ワイリー博士の研究所から逃げ出した時、初めて戦争をしていない町を見たの」

「アジーナ、アメロッパ、いろんな国…不思議な人たちとも出会った…」

「そしてこの国…中でも学校はとても新鮮で」

「…私と同じくらいの子供たちがたくさんいてとっても楽しそうだったの」

「学校に興味を持った私は才馬学園のネットワークに潜り込んで…」

「他の子供たちと一緒に授業を聞いたりしたわ」

 

「────皆んな本当に幸せそうだった」

 

「そして気づいたの…これが本当の人間の姿だって」

「人が、人を傷つけ合うのは間違いなんだって」

「私たちがやってきたあの人を傷つける"破壊"は、間違いなんだって」

「…だから私、兄さんを止めようって決めたんだけど」

「ワイリー博士に捕まったらと思うと、怖くなって」

「だけど、そんな時才葉学園に光くんがやってきて…」

「光くんはどんな困難にも恐ることなく戦いを挑んだわ」

「他人の命を救うために自分の命を懸けて…」

「光くんを見てると勇気が湧いて来たの…自分も頑張ろうって…」

「…兄さん、私戦う!」

「一緒に電脳獣を倒しましょう!」

 

兄さんが、そのいつだって真っ直ぐな眼差しで私を見つめる。

思い込みかもしれない。そこには冷徹なナビの面影などなく、ただ妹の成長を喜ぶような、そんな風にも見えた。

 

「アイリス…強くなったな…」

 

ワイリー博士の手先となっていたバレルさんは、自らその意志を曲げて立ち向かうことを決心してくれた。兄さんも、バレルさんも、恩人(ワイリー博士)に報いることはただ"破壊"という願いを叶える手伝いをするだけではダメだとわかっていたはず。

ようやく、一緒に歩める。

ようやく、一緒に戦える…!

 

二人で、今度は一緒の敵に向き合った。相手はあまりに強大な電脳獣。

けれど元々は一つの存在として完成していた私たちが揃えば、倒せるはず…いえ、倒さなくてはいけない。

 

間もなくして、ロックマンがもう一体の電脳獣と対峙した。…ここで止めなければネットワーク社会は崩壊してしまうのだ。

ワイリー博士に、あの人に、そんなことをさせるわけにはいかない。私が、私たちが守るんだ。世界を、不思議な友人たちが────そして光くんが生きる世界を。

 

「きたな!ロックマン!再びお前と肩を並べて戦えるとは思わなかったぞ…相手は電脳獣…決して気を抜くな!!」

「兄さん、ロックマン、来るわ!」

『愚か者共が!電脳獣の力を思い知るがいい!』

『ワイリー、お前の思い通りには絶対させない!』

 

『行くぜ、ロックマン!ラストオペレーション!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝利は油断を生む。

誰だって、いつだって。

そんなものは、そんな悲劇は、兵器の中から長いあいだ見てきたはずなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────私たちの抗いを嘲笑(あざわら)うかのように、倒されたはずの電脳獣は牙を剥く。

…最後の力を振り絞り、ロックマンという器を支配することに成功した獣は、私たちの前に再び現れてしまったのだ。

 

()()()私たちは悟った。

 

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

 

『ロックマンッ…!!…アイリスもカーネルもさっきのバトルで傷ついてるはずだ!逃げろアイリス!カーネル!!』

 

目の前の正気を失ったロックマンから目を逸らさずに、光くんの声を噛みしめる。

きっとこれが最期になるから。

 

「…光くん、ロックマンは私たちが助けるわ…」

『何言ってるんだ!?…今のロックマンは俺のオペレートすら受け付けないんだぞ!それにお前たちの体力だって…!』

「確かに我々の体力も限界だが、ロックマンを救う方法がたった一つだけある…」

『そ、それってまさか』

「私と兄さんが一つに戻って完全体になれば、ロックマンから電脳獣を引き離せるかもしれない…」

『な、何を馬鹿な!?お前たちが一つになればワシが仕込んだプログラムが発動して大爆発だぞ!』

 

この人の…ワイリー博士の言葉に、私が初めて感じる感情が混じっていたのを、私は理解した。

いいえ、ずっとずっと昔。私が、私たちが別たれる前のこの人の中には、確かにあったのだ。

それは、本当は今も、きっと。

 

『無駄死にするつもりか!?』

 

それを全て、振り払う。

 

「いいえ、決して無駄ではないわ…!」

 

ほどく、ほどく。

あの雑多で生気に溢れた国(アジーナ)で結んだ決意を、自らほどいていく。

 

「光くんは素晴らしい未来を作り出してくれるはず…ワイリー博士…憎しみと破壊(人の笑顔のない破壊)からは何も生まれないわ。だけどね…」

 

けれども借りた勇気はこのココロに、"友人たち"の言葉で戦意を燃え上がらせた。

 

「人に迷惑をかけなければ…────盛大に壊していいの!」

「…ふっ…アイリス、お前がどんな"友人"と出会ったのか、聞いてみたかったものだ」

『あ、あれ?なんか聞いたことあるようなセリ、フ…?』

 

 

────俺はアイリスちゃんを心配していたワケであって、別にお前の心配なんてコレっぽっちもしてないぜ!

────アイリスさん、あの時はありがとうございましたッス。おしおきロボットたちを一声で一斉に退けさせたり、スゴいの一言に尽きるッス!!

────オレ、デカオってんだ!よろしくな!秋原町最強のネットバトラーだぜ!

 

みんな。

 

────セントラルパビリオン楽しみだね、アイリス

────うん

────そうだわ、アイリスちゃんこんどウチに遊びにいらっしゃいよ

────とびっきりのいちご牛乳をご馳走するわ

────ホントに?

────えぇ、いつでもいらっしゃいよ!

────…

────どうしたの、アイリス?

────ううん、なんでもないよ、いちご牛乳楽しみにしてるね

 

メイル、やいと。

二人とした約束、守れなかったな。

 

「…兄さんッ!」

 

胸の痛みを、兄を呼ぶ声で吹き飛ばせ。

 

「────戦闘に明け暮れ敵をデリートすることだけを考えて来た俺が、世界を救うために消える…このような最期を迎えることになるとはな…光熱斗、バレルに伝えておいてくれ…"私は電脳獣と共に消える…しかしこれは運命などではなく、私の意志だ"…とな…!」

『ま、待て!!お前たち…!』

『アイリス!カーネル!!』

■■■■■■■■■(キルルルルルルル)ッ!!」

 

ネットの世界を震わせる咆哮(ほうこう)に…あぁ、けれどもアジーナであった彼らの方がもっともっと世界を震わせていたなと思いを()せた。

そっちの方が、良いに決まってる。笑って笑って笑わせて、そんな響きの方が絶対いい。きっとこれからも彼らはずっと…

 

ごめんなさい。もう会いに行けない。貴方たちとも約束したのに。

私はもう、ダメ、みたいだから。

 

 

 

────ダメ ナノカ…?

 

 

 

「────…」

「どうした、アイリス…何か心残りがあるのか?」

「光くん…私…わたし…」

 

ぎゅっと、首にかけたボルトのネックレスを握りしめる。

 

 

 

「わたし…       、      」

 

 

 

そしてゆっくりと、その拳をほどくのだ。

 

「アイリス………」

「…ううん、いいの…」

 

(よぎ)った言葉を抱きしめて、私はそっと、出かかった言葉に蓋をする。

私は理解していた、この言葉は、光くんの胸を刺す棘になると。

すぐ忘れてくれるかもしれない。けれどもそんな小さなものだとしても何一つ、残したくなどなかった。

 

けれど、けれど。

 

「私、ネットナビだから…でもね、兄さん?私は、まだもう少しだけ諦めないでいたい…!」

「アイリス?」

 

望むことぐらいは、許されるよね?

…そんなあり得もしない未来絵図を、遠い地の"友人たち"が、嬉しそうにやかましく笑って頷いてくれた気がした。

 

「…始めましょう、兄さん」

「…ウム!」

『アイリス!カーネル!!』

 

そして私たちは一つに戻る。

内から溢れた膨大な力。内から聞こえた致命的なプログラム(ワイリー博士が仕組んだ自爆プログラム)が作動する感覚。

思考が冷ややかにクリアになって、それでも溢れたやさしさが使命感となり目の前のロックマンを、その中で暴れる電脳獣を睨みつけた。

 

■■■■■■■■■(キルルルルルルル)ッ!!!」

「行くぞ、アイリス!!」

「はい!!」

 

音を置き去りに、兄さん(わたし)の神速の踏み込みによってロックマンの反応速度を超えて接近、そこから伸ばした手がロックマンの…その内側の深いところに潜む獣に触れた。

 

「…っ!カァーッッッ!!!」

 

一瞬に全ての力を注ぎこんで。弱った電脳獣を私たちはロックマンから引き離した!

掴んだ"コア"が暴れまわろうが、この瞬間だけは、私たちはビクともしない!

 

離して やる ものか。

お前(あなた)はここで、ワイリー博士の(私たち)と共に消え果てろ。

 

兄さん(わたし)がやり切ったように呟く。

 

「これが電脳獣の中心部か…光熱斗!!ロックマンをプラグアウトさせろ!今なら出来るはずだ!」

『あ、あぁ…。ッ!お前も早くプラグアウトを…』

『ムダじゃ…』

 

光くん。

 

『あやつらは自らの爆発を利用して電脳獣に止めを刺すつもりじゃ』

『そ、そんな…カーネル!!アイリスッ…!!』

 

光、くん。

 

彼の慟哭(どうこく)が聞こえる。振り向きはしない。

 

「光熱斗、ロックマン、バレル、そしてワイリー博士………さらばだ!!」

 

 

 

 

 

────あのさ、アイリス…君は一体何者なんだ?

────えっ…

────あっイヤ、変な意味にとらないでくれよな

────俺、よく考えたらアイリスのこと、何にも知らないなと思ってさ…

────…

────別に無理して答えなくたっていいぜ

 

────だけどさ、俺たちって友達だろ?

────もしもアイリスが何かを抱えてるとしたら、俺もちょっとは手助けできるかなと思ってさ

 

────何か言いたいことがあったら、遠慮なく俺に言うんだぜ?

 

 

 

 

 

「光くん…────────────またね」

 

そして私はこの『想い』を信じる…

いつか皆で笑いあえる日がまた来る───って…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

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「────これからみんなに宛てて送られてきた電報を読みますね!」

 

あの爆発から、数日後。

爆発の威力は凄まじくて、万博会場が吹き飛んだり、爆風で町はメチャクチャになったり、学校の一部が壊れたり、大変だったんだ。

ワイリーは瓦礫(がれき)の中で倒れているところを逮捕されたそうなんだ。

奇跡的に大きな怪我はなかったらしい。

バレルさんは結局見つからなかったそうなんだけど、きっとどこかで生きてるはず…俺にはわかるんだっ…

 

 

────バレルさん。カーネルは…世界を救うために電脳獣と一緒に…

────…

────"私は電脳獣と共に消える…しかしこれは運命などではなく、私の意志だ"…カーネルがバレルさんに伝えて欲しいって

────…そうか

────バレルさんも一緒に行こう!

────…行け、光熱斗…お前には帰るべき場所があるだろう

────…え?

────熱斗ーーーーーっ!!

────!………みんな!!

 

 

…アイリスとカーネルのことを皆に説明したら、一緒に悲しんでくれた。

アイリス、カーネル…どこかで俺たちのこと見てるのかな?

 

…さて、俺たちなんだけど、実は、今日は小学校の卒業式なんだ!

 

まりこ先生が、俺たちが関わってきたいろんな人から来たお祝いの電報を読み上げていく。

懐かしいなぁ、みんな元気しててよかったなぁ。そう思う反面、俺は、アイリスが最期に言おうとしてた言葉を考えていた。でもまりこ先生が泣きだしちゃったり、才葉学園のせんせい(麻波剛)が戻ってきてコジローが泣きだしちゃったり…色々な感情が込み上げて来て…

 

そうやって、俺たちの学校の最後のホームルームが幕を閉じた。

でもまた会えなくなるわけじゃない。俺たちは…生きているんだから。

 

「────光くん、ちょっといい?」

「ハーーイ!…なんだろ?」

 

この後どうしようか?そんなことを放課後にメイルたちと話している俺たちに、まりこ先生が俺を呼ぶ。

 

「どうしたの、先生?」

「二つあるのだけれど…まずは、アジーナのジャンク屋?を営んでいるカチュアさんって人から、光くん宛てにお手紙が届いてて」

「へ?カチュアさん?手紙…手紙?…紙で??」

『あー…カチュアさんらしい…かも…?』

 

あの人ちょっと怖いんだよなぁ…

熱斗くん…気持ちは分かるけど、とても鮮烈な戦い方するけど…し、失礼だよ?

ロックマン…あの人の顔、思い浮かべたろ?

さ、さぁ?

 

「ゴホン!…それともう一つはね、ホームルームの前に私のところに男の人が訪ねて来て、あなたに渡してくれって大きな箱を置いて行ったのよ」

「!…せ、先生!その人ってどんな格好してた!?」

「確か髪が長くて、無精髭を生やした渋い人だったわ…」

「…やっぱり…先生!その箱ってどこにあるの!?」

「し、職員室だけど…」

「オッケー!先生。悪いんだけど皆に俺のウチに集合って言っておいて!」

「あ、ちょっと!ちゃんとカチュアさんからのお手紙も読むのよ!…んもう!最後まで光くんらしいわね」

 

多分、バレルさんが置いて行ってくれたコピーロイドにロックマンをプラグインさせて皆を驚かせたり。結局いつも通りネットバトルをして盛り上がったり。

………そんなこんなで手紙の話は、夕食を食べ終わるまで俺もロックマンもすっかり忘れててさ。

 

────外国の言葉で書かれた封筒を破いて取り出した便箋(びんせん)

意外とそれは、いや本当に意外に可愛らしい、なんて言うか女の子が好きそうな何かの花があしらわれた便箋が使われていて、俺は驚いた。

 

こう…もっとごちゃごちゃしてて、大味な印象がある人だったからさ。

手紙の内容はちゃんと俺の国の言葉で書かれてて一安心だ。女性が書きそうな丸い字体…もしかして誰かに代筆して貰ったのかもしれない。

 

 妙な勘違いをしてそうだから最初に言っておく。当然ながらこの便箋は俺が買ったものではない、趣味じゃねーよこんなの。

 

「だよな?」

『良かった…こんなのが趣味だったらちょっと…ね?』

「お前もちょくちょく失礼だよな…」

『つ、続き読もう!ね!』

 

 まずは卒業おめでとう。俺ぁガキの頃に学校なんぞ行ったことないからわからねぇし興味もねぇが、お前みたいなヤツを育てたってんなら良いところなんだろうな。外から見ただけでも随分と綺麗な場所で感動したもんだ。"アネさん(パクチーファラン)"もヘンな悪臭が立ちこめてないって褒めてたぜ。まぁそこはお国柄か?んで、そこで授業受けてたヤツからも実際にイイとこだって聞いたからやっぱり間違いないんだろうな。

 

「…あれ?カチュアさん、どっかでこっちに来てたのか?言ってくれればいいのになぁ」

『きっと忙しかったんだよ』

「学校の目の前まで来ておいて?」

『うーん…それもそうだね…』

 

 …俺からはこれ以上大して言うことはねーんだ。じゃぁなんで手紙なんぞよこしたのかっつー話だ。理由は単純だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そういうわけで俺は"前座"ってわけだ。贅沢な嬢ちゃんだぜ?俺にわざわざこんな便箋買わせて送らせるとはな。いやそもそもうちの商品だったわ。

 

 

「────………え?」

『ね、熱斗くん、これって…!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         ▲

 

    

▽△▽△▽△▽△▽ ▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アジーナエリアにはあらゆるもの(ゴミ)が流れ着く。

まるで大海の潮の流れのように、ネットワークにもデータの流れがある。

時に座礁したものからは、奇跡的に"何か"が生まれることもあるそうだ。

そうして今日もまた流れ着き、いつものように彼らが拾い集める。

 

 

『ヨッテラッシャイ 見テラッシャイ!!何デモ ゴザレ ノ "FORGOTTEN FACTORY(フォーガトゥン ファクトリイー)"デスヨ!』

『…』

『コレハ ナント 愚カ ニモ 万引キ ヲ 企テタ ナビ ヲ 固メテ 作ッタ────オヤ?オ久シブリ デスネ!』

『…うん、久しぶり。ジャンクマンも…相変わらず人気者みたいね』

『…オ元気 ソウデ 何ヨリ デス。マタ 来テ イタダケル トハ 思ッテモ イマセン デシタ ガ』

『私も────いえ、また来れるって、信じてたから。…今日は、私も大事な用があって来たの…いいかしら?』

『エエ、エエ。オ客 ヲ 選ブ ヨウナ 事ハ シマセントモ!…何カ ゴ入リ用デスカ?』

『────ここにしばらく置かせてほしいの…それと…手紙…手紙を………もう一度"彼"に会う前に、便りを送りたいから』

 

読んでくれるでしょうか?

喜んで、貰えるでしょうか?

 

私から、あなたへのイリス(1通の便り)

a IRIS to you.

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

"「イリス」はギリシャ神話に登場する虹の女神として知られています"

"彼女は、多くはオリンポスの神々のメッセンジャーとして描かれていました"

"また、イリス…または"アイリス"は花の「アヤメ」の学名で、女神の聖花ともなっています"

"女神は伝令役として優秀な働きをしたことから、アヤメの花言葉には「よい便り」や「メッセージ」…「恋文」などが生まれることになったようです_

▽△▽△▽△▽△▽▲▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

「────ウフフ…あはは…」

『お?イケる口じゃねーか?』

「そう…?かしら」

『心機一転!!笑っていこうゼ。…笑わなきゃやってられんって時も、笑い方を知らなきゃ乗り越えられねぇ…俺が、死んだダチから教わったことだ。はっはぁ〜だから笑うんだよ俺たちゃぁッ!!なぁ!?』

「笑ウ コト ニ ソンナ 面倒ナ 理由 ナンテ イリ マセンヨ!!」

『そりゃそうだ!!全部忘れろ!!』

「えぇ…」

 

『────しかしあのボルトのネックレス、案外売れるもんだな』

「フフフ…『サルベージボルト』。私ガ 考エタ "salvage(サルベージ)" ト "garbage(ガベージ)"ヲ カケタ 渾身 ノ ネーミングセンス コソガ 売上ゲ ノ 秘密ニ 間違イ アリマセン!」

「…"バーサマ" ノ "サルベージプログラム" ノ オカゲ ダト 思ウ ケドナ…」

「(°°)」

「ウ…!ス、スマン…ソノ、目ヲ 光ラ セル ノ ヤメナイカ…!?」

「光る機能をわざわざつけたの…?」

I can do anything I set my mind to(私ニ 出来ナイ コト ナド ナイ ノデス!!)!!」

「…あ、翻訳プログラムくんが」

「フン!…チョット!カワサ ナイ デ 下サイ ヨ!!」

「ヲー」

Wait, you piece of junk(待テ ヤ ポンコツゥ!!!)!!!」

「落チツケ!?」

「…放っといていいの?」

『いいんだよ────しかしまー、お前らには緩まねぇボルト(オチを綺麗に締める)が必要だったろ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《あなたへの"イリス"》

おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…じゃない!!!!!!

 

時はさかのぼる…

 

 

 

 

 

 

 

…突然の俺たちの乱入に狼狽(ろうばい)する柄のワリィナビ(コピーロイド)ども。

 

知っているならそうだろうゼ。

なんせ派手に戦うことに関しちゃ俺たちは世界一と言ってやる。言葉も行動も、ずっと示し続けてきた、証明し続けてきた!

 

「馬鹿な!?何故ここ(本拠地)にいるッ!?監視班は何をやっていた!!」

「────おいおいオイオイつれねーな?せっかくわざわざ足を運んでやったのに、"ようこそ!"も言えないなんてオモテナシがなってねーんじゃねぇのかぁ?」

『────マシテヤ ココハ "万博会場"、クレーム モノ デスネェ…?』

「…ッ!…いや、待て!コピーロイドには制限がかかる…ここ(現実)じゃぁ圧倒的な力の差は生まれない…間抜けは貴様らだ!このまま数で叩くぞッ!!」

「長時間活動できねぇのを知らねぇのかぁ!?いずれガス欠になる!やっちまうぞ!!」

「裏で俺たちの工作をいちいち妨害してるのは知ってるんだぜぇ…たっぷり()をしてやる…!」

 

"ぷれおーぷん"とかで光熱斗たちが罠に()められたかなんかを聞いて首を突っ込みに来たが、中々に愉快な状況だ。

 

こりゃぁ()()()()()()()()()の誘いに乗って正解だったなぁ…?

コソコソやるのは性に合わねぇからなぁ!本来の仕事を放りだしたもんだからウチの上司にゃぁどやされるだろうが、こっちの方が俺向きの"任務"ってやつだゼ。

 

「だとよプロ-gくん。俺たちは"トンデ ヒ ニ イル ナツ ノ ムシ"だそうだゼ」

『オヤオヤオヤ、コレハ 困リ マシタネ。絶体絶命 ノ 大ピンチ!!』

 

俺たちを囲むヤツらと同じように、コピーロイドによって実体化したジャンクマンはうんともすんとも言わずに油断なく周囲を見回す。

四方八方敵だらけ!人相の悪ーいナビが数十はくだらない数を揃えて各々が武器を構えてやがらぁ。

 

それでも動けないのはひとえに不相応な"余裕の態度"!さぞ不気味に見えるだろうさぁ。

 

「まーそれなら俺たちも"レイギ"にゃ"レイギ"で返すぜ。アジーナ流ってやつだ!!」

 

突然!ヒールナビに向けて四方八方からクナイが、或いはゴミの塊が襲い掛かる!

一撃で機能停止させるほどの威力はないが、すごい数で場を引っ掻き回した!!やるねぇ!!

 

「なんだ!?」

「クソッ援軍か!?」

「大当たりぃ!!!一人で来ると思ってたのかぁ!!!???」

 

「俺」という釣り餌は最大限効果を発揮し、思わぬ奇襲に崩れ始めるヒールナビたち。タイミングはばっちし。()()()()()()()()もこっちに来てるなんて…こりゃぁこの馬鹿どもをぶっ壊せっていう"オボシメシ"だよなぁ!!??

 

この隙を狙って俺はジャンクマンの背に乗り込み、GOサインを出す。

 

あとはスピードとの勝負だゼ!!!

ガン!とジャンクマンの背を叩き、戦意を(たぎ)らせる。バイクのエンジンのような駆動音が響き、発生源のジャンクマンが身を低くして目をビカリと怪しく光らせた!!

準備万端だなぁ!!

さぁ行くゼ!!ヨシ行くゼ!!こいつらを圧し潰す!!!!!!!

 

 

 

…の、前に。俺は優しいから最後の確認をしてやった。

 

 

 

祈ったかぁ(カミサマにお祈りは)!?」

『ジ、ジャンクマン サン!クレグレ モ 安全運────』

『全速前進ダァーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!』

『ヤッパリ コウ ナルンデスネーーーーーーーーー!?』

「だぁッハッハッハッハァーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「突ッ込ムゾォォォォ〜〜〜〜〜〜!!!!!」

『マタ 死ニ タクナイ デスゥゥゥ〜〜〜〜!!!???』

『イヤッフゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!』

 

字幕:「突ッ込ムゾォォォォ〜〜〜〜〜〜!!!!!」

   『マタ 死ニ タクナイ デスゥゥゥ〜〜〜〜!!!???』

   『イヤッフゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!』

 

 

 

「おー派手にやってんねー…で?アタシたちはこのまま暴れればいいのかい?ボウや」

「────あぁ、ワイリーは光が必ず止める。俺たちは、ここで横やりを徹底的に防げばいい」

「可愛い弟子の頼みでもあるでゴザルからね!これくらいは任せるでゴザルよ!」

 

────────────

 

────────

 

────

 

 

 

 

 

「ヒデェ爆発だ…他のやつらは無事か…?」

『タッタ今 連絡ガ トレマシタ!皆サン ゴ無事ノ ヨウデス』

『ヨ、良カッタ…。アイリスも………大丈夫ダト イイケド…』

「しかし派手にぶっ壊れてくれて良かったゼ…これで俺たちのやらかした弁償金は全部ワールドスリーに擦り付けられる」

『ソレ ニ 関シテ ハ 同意 デスネェ!』

『ショ、正直ニ 言ッタ 方ガ 良イト 思ウン ダケド ナァ』

「いーんだよ!犯罪する方が悪ぃ!!!」

『イーンデスヨ!コレモ全部ワールドスリー ッテ ヤツラ ノ セイ ナノ デス!!!』

 

 

 

────なーんて弱みを、私が見逃すはずがないんですよねー

 

爆発の時は死ぬかと思ったけど…そんなんで諦める私ではないのよ…!

そう!私は毎度お馴染み!DNN看板アナの緑川ケロでーす!!!降って来た建物の残骸の影から失礼します!!!危ないわね!!??

 

「これはチャンスよトードマン…!カチュアさんの弱みを握って、もっともっともーーーーーっと面白いことに首ツッコませ…ゴホン!突っ込んでもらわないとね!!」

『やらせるしかないケロ!マスコミならば!!…ケロ!』

 

ええ、分かってるわ…この緑川ケロ、カチュアさんがわざわざ二ホンに来たのが友人に会いに来ただけでないことぐらい分かっているわ…!(私にヒトコトモ言わないでコソコソしてる時点でバレバレよ!!)

噂程度でしかなかったWWW再活動のネタ。噂は噂、されど火のない所に煙は立たぬ!カチュアさんがコッソリ来てるってことはそういうコト!!

あぁ!深入りはしちゃいけない…こんな危なそうなことには!誰だってそう思うわ…そう、普通ならば!!!!!!!

 

逃げる、慎重に、大急ぎで!静かに軽やかに忍び足10000歩!あぁ!私の素敵なネタ(カチュア)さん!待っていてね!!四の五の言えない証拠をキッチリ揃えて馬車馬の如く働かせ────

 

ズドンッ!!!!!一歩先の地面を抉る何か。それは太いボルト。

 

思わず足を止めて…いやまずい!!と思った頃には。

 

「よぉ〜〜〜〜瞳がキュートなカエルのお姉さん、大丈夫かぁ…?ケガしてない?病院でも行くか?それとも異国への拉致尋問コースがお好みで?」

「あら?奇遇ねカチュアさん…心に傷は負ったかもね…なんせさっきの爆発のせいで機材がこわれちゃってね…?」

 

そうやって()()()()砕けていたカメラ類を見せびらかす。

 

「あん?おいおい本当に大丈夫か?そっち行くから、まぁ待てよ…なぁ?」

「あら、こんなことがあったのだから、無事な私よりも優先してやることがあるんじゃないかしら?…ねぇ?」

 

じりじりじり。

膠着(こうちゃく)状態の中で、私は念のためすり足で距離をとる。

 

そう、理論武装は完璧よ。見つかることも考慮してダミーも準備していたんですから!言い訳のレパートリーもパターンZまで完備!!!必ずこの状況を打破して『ア、サッキ ノ 会話ヲ 全部 録音シテイタ 見タイ デスネ。ソレニ 我々ガ 暴レテ ル 所モ ガッツリ 映ッテ イマス』「待って、待って、反則、マッテ」

 

いつの間にか、背に隠し持っていた本命のツールにハッキングしていた悪辣(あくらつ)で性格の悪い可愛さの欠片もないプログラムくんことプロ-gくんによって全てばらされる。

 

バカな!!??いつッ!!??

 

はっ!?と気付く。さっき地面に打ち込まれたボルトを振り向いて見ればなんと、無線中継用のアダプタがとりつけられているではないの!背を向けたタイミングで背後からプラグインかましやがった!!

 

トードマンが捕まえるよりも前にしゅぴっとカチュアさんのPETに戻っていくプローgくん。SHITッ!!!!つまりどういうことかというと。

 

 

「――――――――――――OK(覚悟は)?」

 

「               」

 

OK!………いえ、まだよ!!!!!!!!!!!!

最後の手段があるの!!!!!!!!!!!!!

こうなっては仕方ないわ…

 

「無理よあなたには…私は逃げ切って見せる…!!!」

「いや、そのデータ消すだけでいいんだがよぉ」

『モハヤ 意地 デスネ??』

「私のことを甘く見てるみたいだけど…これならどうかしら?――――イヤあぁぁぁぁ〜〜〜〜〜たすけ…助けてェーーーーーーーッ!!!!!!!!!!

「ッ!!!???」

 

意外っ!!でもないが、それは被害者ぶることっ!!!!

迫真の演技!これには爆発でメチャクチャのセントラルタウンもびびるほどの情けない声だ!

だがそれが逆にジャンクマンのオペレーターのカチュアの逆鱗に触れたッ!!!!!!!

 

思い出すのはファランとの追走劇。

 

逃げるファラン。追うカチュア。追ってくるオフィシャルと国王の追手。飛ばされる謎のヤジ。終わらない事情聴取。逃げおおせやがったファラン。クソマスゴミによるスキャンダル報道。

(。・ω<)ゞてへぺろと書かれたファランからのメール。「本当にスマン…」というスラッシュマンの謝罪。

 

カチュアの悪魔の部分が言った。「速ヤカニ "シメル" ノ デス。サァ…」

カチュアの天使の部分が言った。「上司 ニ 正直 ニ 謝ッタ 方ガ 良イト 思ウ ゾ…」

カチュアの翻訳部分が言った。「ヲ」

 

全会一致、賛成者100人(関係ねぇコロス)により処刑が決まり、遠慮のない殺意が溢れだす。

 

 

………初めて会った時にもそんな声だしてねぇだろうがよォォォォーーーーー!!!!!ドイッつもコイツもォーーーーーーーーッッッッ!!!!!!?????

「ヒィぃぃぃ!!??」

『落チツケ!?』

『殺ス ナラ バレナイ ヨウ ニ ヤッテ クダ サイヨ!?』

『こんの蛮族どもーーーーーーーーケロ!!??』

『ヲー』

 

 

それは虎の尾だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ボルト時々プレスのちプログラムくん…

完!!!!!!!!

 

 

 






サブタイトルの表記される場所が閲覧する端末によって微妙に違うみたいなので、携帯で見てる人には「なんか最初あたりにやたら空白があるな…」となっているかもしれませんが、ご了承ください。


…さて、前回に続き、ようやくこれでエグゼ各シリーズの話を全てを書き終えました!(初代エグゼ開始の時期がジャンクマンとの出会いだったり)
草案だけあった話も今回でちゃんと形に出来たので、これで本当に出し切ったと思います。というか第一話から五年も経ってる…

今回のようなアイリスがメインの話が出来上がった理由は、ジャンクマンとアイリス、お互いに「やさしさ」というプログラムが共通していたところにあります。

光熱斗から「やさしさ」のプログラムを拒否したジャンクマン。
光熱斗に恋をしてしまった「やさしさ」のプログラムそのもののアイリス。

ジャンクマンが別の道を辿ったならば、彼女もまたその機会が与えられるべきでしょう。(断言)

これまでこんな抜群に読みづらい小説を読んでくださってありがとうございます!
些細なものでも、お気軽に感想お待ちしております!
それではおさらばです!



▲アイリス
かつてカーネルから切り離された「電子機器制御能力」と「やさしさ」のデータに擬似人格を組み込んだナビ。まるで人間のような姿をしている。
長い長い人間同士の悲惨な戦いに疑問を覚え、ついにはワイリー博士の元を逃亡、アジーナに流れ着いた。
「やさしさ」という共通の"何か"のせいか、彼らはアジーナという土地で引力のように引かれ出会ったのかもしれない。

想いや願いはチリとなっても集まり一つになる…なんて現実では起こらないことも、電脳ではあり得るのかもしれない。
記憶の底で滲んでしまったあの花の名前を誰かが覚えているならば、もしかしたら。

「いつか皆で笑いあえる日がまた来る───って…」
など、一部ロックマンX漫画版のセリフから引用。


■光熱斗
その後、彼がどう頑張ったかは語らないでおこう。


■カチュア
権力乱用でコピーロイドを上から奪い取り、アイリスに手紙を書かせた男。
幼い頃は内気な少年だった。大切な友達を亡くすまでは。
…というのは本人談だが、本当かどうかは"ばーさん(育ての親)"と翻訳プログラムくんなどPETにいる旧式の無口なプログラムくんたちしか知らない。


■プロ-gくん
電脳獣騒動の後にアイリスの末路を聞いていたので、「また来てくれるとは思ってもいなかった」=「デリートされたと聞いていた」と発言した。
その後の対応が淀みないのは経験あってのもの。
コレガ 貫禄ト イウ モノ デスヨ!


■ジャンクマン
得る必要のなくなった、そう本来であれば■■■(光熱斗)から手渡されそうになり…そして自ら砕いた「やさしさ(アイリス)」は、今度は彼らの手によって光熱斗へと手渡されるだろう。
今回のことを機に、誰かと誰かの"架け橋"こそが、己の役目なのだと思い始めてる。


■ビーストマン
もう常連扱いされているダークロイド。
多分「俺の得物に手を出すな!」とか言ってどっかで共闘する機会のある系のアレ。
私 ハ 詳シイ ノ デス。


■ケロ&トードマン
未だに絡んでくる。悪友。
一応、あの後ちゃんと病院で診察させられた後、拉致られた。
取り合えずWWW関連の報道は真っ先にDNNがやれたことだけをここに記す。
二ホンではケロさん経由で結構映像がバラまかれてるのでカチュアファンが増えているらしい。
ケロも実際の所は厄介ファンの一人なので、もはやただの布教であった。
今後の関係性がどうなっていくかはいっさいワカラン。


■パクチーファラン&スラッシュマン
才葉学園の講師として二ホンに滞在していた。
カチュアの誘いを受けて万博会場に乗り込み、無数のコピーロイドと戦いを繰り広げる。
その戦いを熱斗たちは気が付いていない。
かつて辛酸(しんさん)をなめさせられたゴスペル、その裏で糸を引いていたのがWWWであったこともあり、相当暴れたらしい。


■ミスタープレス&ダストマン
同じく才葉学園の講師として二ホンに滞在していた。
カチュアの誘いに二つ返事で頷いてくれる。
万博爆発後の瓦礫掃除の方が大変だったと強者の言葉を残す。流石シショ―だゼ。


■オフィシャルのガキ(伊集院炎山)
熱斗を一人残し避難誘導のために万博会場を後にした彼は他のオフィシャルに後を任し熱斗の邪魔をWWW団員にされないように一人会場へ戻る途中、偶然そこで見つけた陽動にうってつけの人材を引き抜いて暴れさせようとしたらなんか知り合いを呼んで即席のチームオブジャンクがパビリオンを壊しまくって頭を抱えていたら結果的に大爆発でなーなーになったのだけれど彼はまじめだからしっかりカチュアの上司に報告したらカチュアの上司も上司であ〜WWWのせいにしてぇな~って気分になってたからすごい複雑な反応をされて困った。


■FORGOTTEN FACTORY
要は電脳リサイクルショップなのだが、言うまでもなく知名度は高い。
プロ-gくんが店主をしており、行き場を失くしたナビやプログラムくんたちが働いている。盗みを働くとジャンクマンにプレスされて加工されるため、むしろやろうとしたやつは勇者扱い。
その勇者たちは今や「勇者の杯」という名で棚に並んでいる。
『ロックマン7 宿命の対決!』のジャンクマンがボスのステージ名が元ネタ。


■コピーロイド
ネットナビを送り込むことで外見がそのナビそっくりに変化するロボット。ナビの性能はある程度制限される。活動時間も短い。
コピーロイド自体をアイリスが普段は使うことはなく、どちらかというとジャンクマンが使う。ちなみにジャンクマンが実体化したことによりアジーナの裏の人間は顔が海よりも真っ青になった。
カチュアはその様を"アジーナブルー"と呼び、日々大海原を航海しているとか。


■ボルトのネックレス(サルベージボルト)
"ばーさん"開発のプログラム。ボルト状のプログラムで、頭部分が赤い。
ナビに持たせることで、損傷した際に復旧不可能なデータを生み出さないように抑え込む役目(ダメージを抑える役割)を果たしてくれる。
名前と違ってあくまでこれは"予防"のプログラムであり、完全に削除(デリート)されたデータを元通りに復元するような力はない。じゃぁ名前詐欺じゃん…って苦情が来たが全てカチュアたちが黙らせた。

あぁ?もしデリートから復元した場合はどーいうリクツになるかって?
野暮だなお前、キセキってことにしておけよ。





私タチ ニ 試作品 トシテ渡サレタ "ボルト" ハ 特別強力 ナ 効果ガ アリ マシタ カラネ。
…ソレデモ ホボ 完全 ナ 復元ト ナルト 夢物語。ココハ "愛の力" ト イウコト ニ シテ オキマショウ!!
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