それでは前回のあらすじ
グループ学習で小崎と組むことになった春日部はガックリと肩を落とした。
それではどうぞ!
side陽真
就業のチャイムが学校全体に鳴り響く。これを合図としてどんどんと生徒たちが下校していく。
皆も疲れた表情だが、俺は多分ホームレスのように絶望にも似た疲れた表情をしていることだろう。
今日は栞里が入学式だったものの、入学生は午前で帰るから学校内で会うこともなかったし、漫画やアニメのように一緒に帰るとかいう展開もなかった。
そもそも、兄弟一緒に仲良く登下校っていうのは幻想だ。確かに小さい頃は小学校などに一緒に登下校していたものの、同級生なんかに栞里がからかわれたのをキッカケに一緒に登下校しなくなった。あの頃が懐かしい。
そんなことを考えながら歩いていると玄関にたどり着いたので、俺は靴を外履きに履き替えて下校し始める。
しかし、雨が降り始めて来てしまったため、近くのバス停の中で雨宿りをさせてもらうことにした。
凍えるような寒さが肌を刺す。
「これは少し長引きそうかな。栞里に連絡しておくか」
そして俺はメッセージアプリで栞里に遅れる旨を送った。こんなことならば折りたたみ傘でも買ってバッグに入れておくべきだったか。
そう思いながらバス停の中で携帯を弄りながら雨が収まるのを待つ。
すると、バス停の前を小崎が通っていくのが見えた。
だが、視界の橋でちらっと見えた程度であまり気にしていなかったのだが、その直後、何人かの手に急に腕を引かれて行く姿が見えた。
普段だったら俺もあんまり気にしないし、他人がどうなろうと知ったことではない。
だが、目の前の席なだけあって、このままスルーするのも夢見が悪くなってしまう。
俺は穏やかで平穏な時を過ごしたいだけなんだけどな。
「はぁ……我ながらめんどくさい性格しているな」
俺は重い腰を上げてベンチから立ち上がり、小崎が引っ張られて行った方へと走っていく。
そこは人通りの少ない路地で、気の強そうな女子と屈強な男が数人、小崎を囲って立っていた。
普段、小崎は顔色をあまり変えないで対応しているものの、今回ばかりは目に恐怖の色が浮かび上がっている。
それもそうだ。小崎は見た目からして小学生くらいだ。飛び級したとはいえ、年齢的にはいくつも上の男女に囲まれて恐怖しないわけが無い。
「ねぇ、あんた、少し勉強できるからって調子乗ってるよね」
「い、いえ、そんなことは」
「正直、あんたみたいなのはウザイんだよね。だからさ、消えてくれない?」
「……っ!」
ポキポキと手を鳴らしながら近づく屈強そうな男たち。
アイツらは見たことがある。学校内でも態度が悪いと先生方に目をつけられている連中だ。そしていい噂は聞いた試しがない。
それどころか、悪い噂しか入ってこない。
恐らく、小崎はそんなヤツらの怒りを買ってしまったのだろう。ただ、小崎は悪くない。アイツらが勝手に怒っているだけだ。
流石にあれじゃ小崎が気の毒で仕方がない。
すると男の一人が拳を振り上げて、勢いよく振り下ろした。
「じゃあ、消えてもらうぞ」
「ひっ」
それを見た瞬間、俺の体は反射的に動いていた。
俺にとって小崎はどうでもいいが、目の前で殴られるのをただ見ているのは、負い目を感じてしまって教室内に居づらくなってしまう。
「おい、ちょっと待ってくれないか」
「あ?」
振り下ろされた腕の手首をがっしりと掴んで止めて見せた。
間一髪だった。少しでも遅れていたら小崎が殴られているところだった。
「なんだテメェ」
「まぁまぁ、落ち着いて」
「そんなにぶっ殺されてぇならお前から消してやるよ!」
「えぇ」
なんか矛先が俺の方に向いた。
だが、その方が都合がいい。それならば、守ることが出来る。
すると、男は俺に掴まれていない逆方向の手で殴りかかろうとしてきたものの、俺はその拳を受け止めて全力で握る。
「ぐあぁぁぁぁぁっ」
男が悲痛の叫び声をあげる。
今、全力で握ったからすこし骨にヒビが入っているかもしれないな。
「おいおい、そいつはひょろひょろだぞ? そんなに力あるわけないじゃねぇか。遊んでやるなよ」
「ひゃははははは」
男の醜態を見て他の奴らは大笑いするものの、これは遊んでいる訳では無い。本気で叫んでいるのだ。
俺は昔からこんなひょろひょろの姿だから勘違いされてきた。まぁ、こういう場合、相手が勝手に勘違いして油断してくれるから有難いことではあるものの、男としてはもっと男らしい体つきに見られた方が良かった。
すると、いつの間にか拳を握っていた男が泡を吹いて倒れてしまっていた。
それに気がついて俺は手を離す。
「おいおい、良くも俺たちの仲間にやってくれたな」
すると、他の男たちもどんどんと寄ってくる。
面倒なことこの上ないが、相手をしてやることにしよう。
「ぶっ殺す!」
なんか物騒なことを言って殴りかかってくる男たち。だが、俺はその拳を全て避けて的確に腹に一発一発パンチを入れていく。
だが、素手で戦うのは少々限界があるな。多勢に無勢だ。何か武器のようなものがあれば簡単なんだけどな。
すると、小崎の手のひらに傘が握られているのが目に入る。
「小崎!」
「は、はいっ!」
「その傘を貸してくれ!」
「え」
「お願いだ!」
そんな俺の言葉に驚きつつもおずおずと傘を差し出してきた。
それを受け取って竹刀のように構える。
「このやろー!」
「めーん!」
俺は掛け声と共にすれ違う瞬間に男の頭に思い切り竹刀を振り下ろした。
それを食らった男は地面に倒れた。
他の男たちも剣道の技を使ってどんどんと倒し、遂に全員を倒すことが出来た。
「あ、あんた何者?」
「それよりもさ、俺はこの子に今、消えられたら夢見が悪いから八つ当たりをしたいなら他を当たってくれないか?」
「……」
女子達は面白くないとても言いたげな表情で俺を睨みながら帰っていった。
久々に動いて疲れてしまった。
だが、あいつらを倒すためとはいえ、あれだけ手荒に傘を扱ってしまったのだ。
骨がボロボロになってしまってとてももう使えるとは思えない見た目になっていた。
「傘、悪いな。これで新しい傘を買ってくれ」
「え?」
俺は傘を弁償するために傘代を渡す。
すると、小崎にとても驚いた表情をされた。
「いえ、大丈夫ですから! むしろ助けていただいて感謝しか無いです。なのに傘を弁償してもらうことはできません!」
「いや、でもさ」
「いえ、これは譲れません」
意外と頑固なようだ。
これでは傘代を受け取ってもらうことは出来ない。
しっかし、すっかり俺たちは雨に濡れてしまった。ビショビショで気持ち悪いから家に帰ったらシャワーを浴びよう。
だが、心配なのは小崎だ。
俺は体が丈夫なのでそんなに風邪は引かないが、小崎もビショビショに濡れてしまっているから風を引く可能性がある。
「なぁ、小崎の家ってここから近いのか?」
「はい、少し歩くと着きます」
「そうか、じゃあ送って行ってやるよ」
「え、いいんですか?」
「俺ん家も近いんだ。だから問題ない。それよりも、これを羽織っておけ」
そう言って俺が差し出したのは俺の制服の上着だ。
俺は男だからシャツが透けても何ともないが、小崎は小さいとはいえ女の子だ。あんまりシャツが透けるのは良くない。
「あ、ありがとうございます」
「それじゃあ、帰るか」
俺は何とかボロボロの傘を開いて何とか差して二人で傘に入って帰った。
その時の小崎の顔が朱に染まっていたのを俺は気が付かなかった。
はい!第6話終了
はい、どうでしたか?
春日部が初めて主人公らしき行動を取りました。
なんだかんだ言って小崎のことを気にかけていた様です。
それでは!
さようなら