原作第九巻のバルブロが率いる軍勢とカルネ村の戦いのクロスオーバーIFネタです。

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もしもエンリが呼び出したゴブリンの軍勢があの作品だったら

 以前、ゴブリン将軍の角笛でエンリがジュゲムたちを召喚した時のようなプーという、子供の玩具の様な音色とは違う、地を揺るがすような重低音が轟く。

 それに呼応するように、カルネ村の横手から太鼓やラッパの重く、そしてリズミカルな音が戦場に響き渡った。音の方へ集まった視線が、次の瞬間には見開かれる。推定で五千を超える軍勢が規律ある動きで、楽器の音の響きに合わせて進み出てくるところであった。

 軍勢を構成するのがゴブリンでなかったら、バルブロ王子側もカルネ村側も、バルブロ王子側の援軍だと考えていただろう。

 このゴブリンの軍勢の肌は多くが紫色だ。緑色の肌をしている通常のゴブリンとは明らかに違う何かを感じさせる。

 しかも、ゴブリンの軍勢の装備も、バルブロたちが知るものとはかけ離れていた。

 歩兵の装備は王国のアダマンタイト級冒険者アズスが身に纏う強化鎧を思わせるものだ。さすがに着こむような形ではなくて胴体の辺りに乗るような形だが、それゆえに人間の子供サイズのゴブリンの視点は大人と同程度になっている。

 その後ろにいるゴブリンたちも似たような強化鎧を身に纏っているが、こちらは歩兵の物より一回り小さい代わりに大きな筒状のもの背中に担いでいた。

 あまりにも不気味な存在だが、ゴブリンから逃げた王子という不名誉を被りたくないバルブロは、撤退を進言してくる騎士を怒鳴りつけて自らの軍勢に戦闘を命ずるしかなかった。

 ゴブリンたちの装備が見掛け倒しの浅知恵であることを祈りながら行われた一当ては、ぶつかり合うことなく槍を持った民兵たちが蹂躙されるところから始まった。

 強化鎧の右腕にある筒状の物からパンッ! と破裂音が響く度に、民兵たちの身体に血の花が咲き誇る。民兵は仲間たちが近づく間もなく斃れ伏す様子に恐怖し、手に持つ槍はブルブルと震えていた。

 慌てたバルブロ軍の騎兵が左右から突撃を図る。しかし今度はパラララッ! と細かい破裂音が立て続けに響いたかと思うと、騎兵たちは軍馬共々柘榴のように真っ赤な肉片となり果てていた。

 ゴブリンたちの猛攻は止まらない。後方のゴブリンたちが担ぐ大型の筒状のものからドゥンッ! と大きな爆発音が響くと共に、バルブロ側の陣内で閃光と共に紅蓮の花が咲き、灼熱が花弁となって吹き荒れる。まるで魔法のような攻撃に、民兵たちがなすすべもな爆発の度に吹き飛ばされていった。

 

「な……何なのだ。何なのだ、あれは!!?」

 

 あまりにも一方的な戦いに、思わずバルブロは叫ぶ。

 考えられるのはトブの大森林内に巨大な王国を築き上げているゴブリンの軍勢が南下してきた事だが、その場合は明らかに人類よりも進んだ技術力とゴブリンらしからぬ統率された動きと戦術を駆使する軍勢が今まで気づかれずに息を潜めていたという事になる。

 

「糞! 糞! 糞がぁ!!!」

 

 もはや体裁を取り繕うこともできずに腹の内に溜まった煮えたぎるようなものを吐き出そうと悪態をつくが、バルブロの心は落ち着かない。

 その時、上空から虫が羽ばたく時に聞こえる様な煩わしい羽音が聞こえてくる。

 バルブロたちは恐怖に顔を引きつらせながら上空を見上げると、そこにはトンボのような羽をはばたかせる甲虫の様な何かがゴブリンを乗せていくつも接近していた。

 

「折角だから出向いてみたけど、この王子は私が知るあの王子と比較するまでもないほど愚かで無能なようねぇ」

「ハハァッ! その通りでございます、メカゴブリンクイーン様!」

「ザコテキ! ザコテキ!」

 

 ゴブリンらしからぬ流暢な言葉で話すのは、金色の甲虫のような何かに乗った、人間ほどの大きさはあるゴブリンであった。右腕が金属の筒状の物を数本束ねたものになっていて、顔の一部も金属質な物で覆われているが、そのゴブリンから感じられる女王としての風格は圧倒的なものがある。

 その斜め後ろに追従している紫色の甲虫のような何かに乗ったゴブリンは、大きさは普通のゴブリンと同じだが顔面を覆う奇妙な形状のマスクを被っている。こちらも流暢な言葉で話していること事から、かなりの知性をうかがわせる。

 

「な、何者だ! 貴様ら!」

「私? 私は異世界のゴブリン族を率いる女王にして、かつては魔王軍の幹部だった女……メカゴブリンクイーンよ」

 

 異世界? 魔王軍? なんだそれは? 親が子供に読み聞かせるような御伽噺の存在だとでも言いたいのか? それとも、アインズ・ウール・ゴウンは異世界からの侵略者だとでもいうのか? 

 飛躍した話に困惑するバルブロをよそに、メカゴブリンクイーンは言葉を続ける。

 

「せっかく自己紹介してあげたんだから、あなたも自己紹介するべきではなくて?」

「私がだれか知らないのか!? リ・エスティーゼ王国第一王子、バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフだ!!!」

「あらあら。名前だけは立派だけれども、中身が悲しいくらいに伴っていないわねぇ。軍勢もあんな数だけの弱兵しか与えられないなんて可哀想に……」

「貴様ぁ! 俺を愚弄するか!」

「だってねぇ……後方支援を行う魔術師、神官どころか弓手も碌にいないような烏合の衆じゃない。前線に出る兵の練度も大した事ないし、私が知るあの国の一般兵でも100人足らずで制圧できるような弱さよ?」

 

 メカゴブリンクイーンの憐れむような言葉に、バルブロは激昂しそうになるのをすんでのところで思いとどまる。怒りが振り切って却って冷静になったともいえる。

 

「……それで、何をしに来た」

 

 喚きたくなるのを必死にこらえて紡いだ言葉には、おそらくは王国との交渉のための人質として捕虜になるであろうというバルブロなりの考えがあった。

 ここまで一方的な結果を見せつけられては敗北を認めるしかない。更にあのような飛行生物まで使役しているとなれば、撤退も不可能だろう。

 第一王子である自分には、捕虜として丁重に扱われるだけの価値がある。

 それに捕虜になればアインズ・ウール・ゴウンと出会うチャンスもあるはずだ。場合によっては王国の領土を何割か渡し、代わりに自分が王になれるように協力を呼び掛けてみるというのも悪くはない。

 

「単刀直入に言うわぁ……捕らえに来たのよ。──」

 

 バルブロは遠ざかっていた王位を手繰り寄せる可能性を引き当てたと内心ではほくそ笑む。

 しかし、そのあとに続いたメカゴブリンクイーンの言葉はそんなバルブロの安堵を打ち砕くものであった。

 

「──野垂れ死んで行方不明よりも、合戦の合図として公開処刑に処す方が良いものね?」

「……ぇ?」

「先に捕まえた騎士や貴族から聞いたわよ。本来あの村には王様の命令で話を聞きに行くだけだったのが、あなたの一存でアインズ・ウール・ゴウンに対する人質にすることになって、そこからさらに村人を皆殺しにすることになったそうね。現地で命令違反と独断行動の末に捕まったなら、やらかしたことを白日の下にさらして罪は償うべきでしょう?」

「罪だと? それならばあの村の連中こそが王国に逆らう反逆者であろうが!」

「本当に度量の狭い男ね。先に攻撃したのは村に火矢を射掛けたあなたたちでしょう? それに公開処刑は決定事項だからこのことで問答するつもりはないわ」

 

 バルブロの反論を一蹴したメカゴブリンクイーンが片腕を挙げると、バルブロの軍勢を取り囲むようにいくつもの影が姿を見せた。

 それは黒い肌のゴブリンたちだ。手には綺麗に磨き抜かれた弓を持っていて、かなりの本数の弓矢を要れた筒を何本も背中に背負っている。

 

「殺さずに無力化しなさい」

「「「リョウカイ! リョウカイ!」」」

 

 メカゴブリンクイーンの指令を受けた黒いゴブリンが、目にもとまらぬ早業で次々と正確に弓矢を射掛ける。

 貴族や平民の分け隔てなく手足を射抜かれて悲鳴が上がる。黒いゴブリンたちが弓矢を射掛けた時間は1分にも満たなかったが、バルブロが率いていた軍勢を沈黙させるには十分な時間であった。

 

 

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 千年戦争アイギスのゴブリンたちが召喚されました♪ 

 本当はもっと色々な装備のゴブリンを出したかったけれども、冗長になってしまうと判断して省略。

 原作にいたゴブリン軍師がいないので、捕らえてバルブロ処刑コース。

 もしもアイギス世界の王子がいたならば、説得→戦闘を介してバルブロの命は助かっていました。

 

 



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