真依廻戦   作:ヴィヴィオ

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真希

 真依は私の妹だ。生まれた時から常に私と一緒に居た。ただ、真依は私と違って何時もぼ~としてしていた。まるで見てはいけない物を見ているかのようだった。実際に真依は呪霊を見ていたようで、怖がって私から離れなかったし、私の服の裾を掴んで何時も一緒に行動していた。

 だから、私は真依を守ることが私の使命だと思った。いくら私が知らない事を良く知っているとはいえ、妹だからな。その手段として禪院家で認められるよう呪術師となることを決めた。真依に伝えると真依は変わった。

 私と違って呪術師としての才能がある真依は色々と術式を使って作ってくれた。それも自らの体を犠牲にしながらだ。私は心配で何度も止めたけれど止めてくれなかった。

 その後、呪霊討伐の依頼に出て後悔した。そこで出会った鬼によって真依が手足を失った。私は逃げるしかできなかった。だから、必死に体を鍛えた。私にはそれしかないから。

 それからしばらくして真依が用意してくれた。師匠である可愛いウサギの叔父さんは私と同じ天与呪縛によるフィジカルギフテッドだったらしい。彼に師事して激しい訓練を頑張った。色々な武術を教えてもらい、前よりも動けるようになったし、真依の銃弾を斬ることすらできるようになった。

 そのせいか、真依が泣いて拗ねて引き籠った。何やら一心不乱に呪具を作り出しているみたいだが、日に日に顔色が悪くなっている。心配しても聞いてくれない。ただ期待して待っていて……と、言うだけで聞いてくれない。真依の居る工房(アトリエ)に行っても居る時と居ない時がある。

 一年が経ち、いよいよ真依の様子がおかしくなってきた。悟さんにお願いして協力してもらった。その結果、真依はおぞましい事を行っていた。

 人形にされた人達を通して知った知識を利用して自分と同じ体を作り出し、その体を使って実験を繰り返していたらしい。体を切り刻み、トラウマになっているであろう呪物、鬼の角を作り出して植え付けていたらしい。

 何十、何百体もの自分を殺して作り上げた呪具としての鬼の角は封印用の呪具を使う事でコントロールできるらしい。

 確かに凄いことだが、真依が傷ついている事は許せないので徹底的に説教してやる。それでも反省しているのかはわからない。真依は強くなる事や呪具を作る事に関しては私の言う事を聞いてくれないし。それでも真依と双子である事を利用して説得したから、今回は少しは反省してくれているだろう。

 

「じゃあ、説教が終わったところでその呪具の性能チェックと行こうか」

「っ~~!?」

 

 悟さんが正座をしている真依の後ろから足裏をツンツンしている。真依はそれで悲鳴を上げないように耐えていた。

 

「ならやっぱり戦いか」

「そうだね。ま、ここじゃ無理だから行ってみようか。はい」

 

 気が付いたら目の前の光景が変わっていた。私達は悟さんによって何処か別の所に移動させられたみたいだ。周りを見渡すと、周りが山で囲まれている窪地だな。

 

「ここは家が持ってる土地で派手に暴れても大丈夫だよ。ここで真依ちゃんは僕と戦ってみようか」

「さっきの恨み、返してやる」

 

 震えながら立ち上がった真依を見て、私は一つ決めた。

 

「私がやる」

「いやいや、真希ちゃんが相手したらまずいでしょ。死んじゃうかもよ?」

「大丈夫だ。真依が私を殺すことはない。だよな?」

「当たり前だよ。むしろお姉ちゃんが死んだら私も死ぬ」

「なら大丈夫だ」

「ん~」

「お前が止めたらいいだけだろ」

 

 叔父さんの言葉に悩んでいた悟さんも納得してくれたみたい。

 

「それもそうだね。いいよ」

「うし!」

 

 真依の前に立つとすっごく不安そうにしている。自分が作った物がどんなにヤバイ代物か理解できているのかもしれない。

 

「なんだよ。私が相手じゃ駄目なのか?」

「だって、殺しちゃうかもしれないし……怪我させちゃうかも……」

「大丈夫だよ。僕が止めるからね」

「パパなら大丈夫か。ちゃんと止めてね」

「任せて~♪」

 

 軽く言ったけれど、悟さんの実力は本物だ。私の師匠である叔父さんも悟さんに殺されたらしいし。

 

「よし、やるぞ。来い、真依」

「ん。行くよ、お姉ちゃん……っ!?」

 

 真依が瞳を閉じると、痛みを感じたのか頭を抑える。すぐにカチューシャから捻じれた大きな角が生えていく。

 

「アレは明らかに頭蓋骨に入ってるのかな?」

「呪具を融合か寄生させているような物だろうが……」

 

 少しして、真依の瞳が開かれる。深紅に変化した瞳が私を見詰めてくる。そこに映るのは何時もの真依の感じじゃない。

 ニヤリと笑った真依から禍々しい巨大な押し潰すような呪力が放たれる。その呪力に覚えがある。

 私と真依が初めて呪霊を討伐しに大江山に行った時に出会った鬼の呪霊と同じ呪力だ。いや、それよりも巨大で禍々しい感じがする。体が自然に震え、嫌な汗がダラダラと流れてくる。

 

「あの時の鬼かな?」

「そう。奴が飲んでていた神便鬼毒を分離させ、純粋な鬼の力だけを抽出した。それから鬼の角を量産し、鍛錬して重ね合わせて精錬して作り上げた一品」

「明らかにあの時に感じた鬼の呪力よりも上だけど、何本使った?」

「きりよく一本に百本合わせてみた。つまり、鬼の角二百本分!」

「うん、君は馬鹿だね」

「馬鹿だな」

「ああ、大馬鹿だ」

 

 そりゃそんだけ使ったら、特級クラスの呪具にもなるし、真依の呪力が鬼の呪力で覆いつくされている。手足の枷の部分だけはちょっと薄いか? 

 

「あ、これ渡しておくね。私が暴走したら注射して」

 

 そう言って、真依が悟さんに注射器のケースを投げ渡した。

 

「中身は神便鬼毒を濃縮させて作った奴だから、それさえ打てば大人しくなる。成分と分量はしっかりと実験してあるから大丈夫だよ」

「この配分量とかを調べるのに苦労したでしょ」

「うん。頑張った」

 

 多分、何体もの真依が犠牲になっているんだろ。

 

「よし、それじゃあやってみようか」

「行くよ、お姉ちゃん」

「来い」

 

 私は真依に作ってもらった鍛錬用の鋼鉄製八角棒を構えながら、真依を見る。真依は楽しそうに笑ったあと、目の前に現れた。

 そう、目の前にだ。轟音と共に一瞬で。瞬きする暇すらなく、近づいてきていてギリギリ八角棒で真依の拳をガードする。

 

「流せ!」

「っ!?」

 

 師匠の言葉が聞こえて即座に条件反射で正面からではなく、横に流すようにして背後に飛ぶ。しかし、真依の一撃であっさりとへし折られ、私は錐揉みのように高速回転して吹き飛ばされる。空中で体勢を整え、地面に指を突き刺して削りながらようやく体が止まる。

 真依が居た所には足跡のクレーターが出来ていた。先程まで私が居た場所から少しずらすと真依が拳を地面に突きさして転んだ状態で巨大なクレーターの底に居た。

 

「大丈夫か?」

「それ、私のセリフだよ?」

 

 呆然としている真依に言った後、つっこまれた。確かに真依のセリフかもしれない。

 

「うん。これは駄目だね」

「死ぬな」

「真依ちゃ~ん。ちなみにそれ何%?」

「5%」

「なるほどなるほど。じゃ、僕が相手するよ」

「うぃ」

 

 私じゃ無理なので大人しく下がる。師匠を抱きしめて二人の戦いを見る。真依は悟さんを相手に殴りかかっていく。悟さんは顎に手をやり、肘をもう片方の手に置きながら真依の攻撃を受けていく。全くの無傷だ。

 

「もっと出せるよね?」

「うん。10%……あはっ♪」

 

 拳が音速を超えて轟音と共に悟さんに激突する。けれど、悟さんの身体に触れる前に止まる。それに対して真依は蹴りや拳などの乱打をしていく。

 

「20、30、40、50……」

 

 呪力の出力が上がっていくと、真依の体に変化が現れていく。爪が伸び、腕が赤い光に覆われていく。その光は段々と真依の身体中から発せられ、真依の瞳もどんどん凶悪な感じになり、笑い声をあげながら殴っていく。

 

「うん。ちょっと攻撃してみるね~」

 

 悟さんが攻撃すると、真依の腕が吹き飛んで背後の山肌が削れた。次の瞬間には真依の腕は再生していた。いや、再構築か。

 

「もっかい行くよ」

「がっ!」

 

 今度は腕が吹き飛ばされずに赤い骨が残った。そこから逆再生するかのように再構築されていく。

 

「これは骨も変えているのか。狂気の産物だ」

 

 真依は暴走状態のようで、暴れだしている。だけど、それを悟さんが受け止める。頭に手をやってこちらに来れないようにしている。ちなみに地面はどんどん削れて吹き飛んでいた。

 少しすると、真依の拘束具についている鎖が勝手に伸びていて真依の体を縛りつけていく。真依が苦しみだすと、赤い光が消えて鬼の呪力がどんどん小さくなっていった。最後にはカチューシャの状態に戻り、瞳の色も普段の真依の奴に戻った。

 

「アレだね。解放しても10か20が限界だ」

「それでも充分にバケモンだろうが」

「まあね。ただ技術がない。ただ身体能力に物を言わせて殴ってくるだけだ」

 

 筋肉痛なのか、悶え苦しんでいる真依を膝枕しながら話を聞いていく。

 

「そもそも、これ、狙撃を逃れて接近してきた奴へのカウンターと逃走用の奴だからガチの接近戦なんてやらない」

「は?」

「お前、その為だけにこんなのを作ったのか?」

「前、お姉ちゃんの動きが見えなかったのもある。援護できないし、視力とかをあげる必要があったからそのついで」

「ついででこんなの作るなよ……」

「大丈夫。お姉ちゃんのも用意するから」

「……」

「つまり、真依ちゃんの攻撃をやっとのことで抜けてきたら鬼の力でカウンターを決めるか、逃げるわけだ。それも煙幕とか爆弾とか使いながら」

「そう」

「敵からしたら滅茶苦茶嫌がるだろうな」

「本当だね~」

「戦いは敵の嫌がることをしてなんぼ。それに私はお姉ちゃんやパパ達と違って戦う者じゃない。造る者。道具を作り出すのがメイン。それを戦いに使用するだけ。サポーターでクリエイターなの。ファイターじゃない。戦えるだけの呪術師(錬金術師)なだけ」

 

 戦いの場に出るなと言いたい。でも、真依は絶対に出てくるだろうな。私が戦いの場に居たら確実に出る。

 

「まあ、宝の持ち腐れには違いないから、慣れていこうか。僕が定期的に相手をすれば大丈夫だろうしね」

「よろしく~」

「仕事の依頼もあるから、そっちもよろしく頼むよ。それと理子達のメンテもあるしね」

「ん」

 

 真依は手をひらひらさせてから、気を失うように眠りについた。やっぱり、私も一緒に住むのがベストだろう。いっそ禪院家に戻すか? 

 

 

 

 

 

 

 


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