真依廻戦   作:ヴィヴィオ

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ちゃんとトレースできてるかわかりません。ごめんなさい。


伊地知

 

 

 ネームレスに受け渡し場所として指定された宮城仙台市にやってきました。荷物は彼女に依頼された品物であるドラグノフ狙撃銃とPGM ヘカートII。それをゴルフバックとギターケースに入れて持ってきています。どちらも日本では所持する事が禁止されている物ですが、政府と制作会社の許可は取れたので問題ありません。

 

「はぁ……」

 

 五条さんの娘であるネームレス。彼女は五条さんの本当の娘ではありません。ただ、彼女がパパと呼んで五条さんを慕っているだけです。何処の誰かもわかりませんが、五条家の血が入っているのかもしれません。どちらにせよ名前をネームレス、名無しとしていることからろくでもない出自なのは確実でしょう。ただ、五条さんに頼まれて偽の戸籍は用意しました。スナイパーライフルやアンチマテリアルライフルを所持するためのライセンスは必要ですからね。

 詮索したらヤバイ事はわかっているので、詮索はなしです。幼い子供を戦場に出すのは心苦しいですが、力量はあの五条さんが認めているのですから年齢以外の問題はないのでしょう。それでも力の無いこの身を不甲斐なく感じます。

 

「彼女は戦いに出ずに呪具を作るだけでいいのですが……」

 

 良質な呪具を制作している彼女を危険に曝すよりも、高専などで匿って呪具を作ってもらっている方が安心できます。五条さんに何度言ったとしても聞いてくれません。

 

『本人の希望だからね~。それに心配ないよ。彼女は二級なら楽勝だから』

『それって一級クラスってことですか?』

『限定的だけどね』

 

 そう言って取り合ってもくれません。確かに彼女の年齢で一級の実力があるのであれば天才と言っていいでしょう。ですが、彼女から感じられる呪力はそれなりにあると思える程度です。それでも自ら作り出した呪具を使って呪霊を狩ったり、呪霊によって肉体を欠損した人に義足や義手の呪具を与えるなども行っています。それ以外の呪具は五条家を通して呪術高専に降ろしてくれていますから、こちらとしても助かっています。義手などは五条家の者が優先されていますが、五条さんの義理の娘として戸籍は登録してあるので当然でしょう。派閥としては五条家ですからね。

 考え事をしていると彼女から電話がかかってきました。車を運転しているので停車してから出ます。

 

 

「はい。伊地知です」

『伊地知さん。ネームレスだけど……』

「どうなさいましたか?」

『待ち合わせの場所を変更』

「は?」

『変更して。場所はメールに地図を添付して送ったからすぐに来て。じゃないとめん……大変な事になるかも。じゃ』

「ちょ!?」

 

 あっさりと切られ、思わず携帯を叩き付けようとして止めました。すぐに着信音が響いてメールが届きました。確認すると地図が添付されてあったのでそこに向かいます。

 

「五条さんに似て来てる……」

 

 最悪な想像をしながら待ち合わせの場所に到着しました。看板を確認する限り、そこは地下にあるクラブのようです。仕方が無いので車をコインパーキングで停車してゴルフバックとギターケースを持って向かいます。

 地下に降りて扉を開くと、音楽や喧騒が聞こえてきます。そのまま進んで幾つかの扉を超えて中に入ると、若い男女が音楽に合わせて踊ったり、お酒を飲んだりしています。煙草の煙が漂ったりもしています。

 

「失礼します。伊地知様でしょうか?」

 

 ネームレスの姿を探して辺りを見渡していると、店員の名札をつけたイケメンの青年が声をかけてきました。彼は気配を偽っていますが、明らかに堅気ではない人ですね。

 

「そうですが……」

「お嬢様がお待ちです。どうぞこちらに」

「はぁ……」

 

 ニコニコした表情で案内してくれる彼に従い、奥へと進んでいくとVIPルームの個室に到着しました。扉をノックすると、中から何も聞こえてきません。つけられている窓を店員が確認すると、扉を開きました。

 

「お嬢様は歌を歌ってらっしゃるようですので、このままどうぞ」

「ありがとうございます」

「それではごゆっくり」

 

 店員の人が去って行ったので中に入ります。中では幼い容姿をした……明らかに日本人ではない金髪紫眼の子が片手にマイクを持ち、もう片方の手に大きな黒い兎のぬいぐるみを抱きながら熱唱しています。曲はアニメのマクロスΔに出て来た物のようで、画面にはワルキューレがとまらないと出ています。

 

「いや、あわないでしょう」

 

 服装が青いエプロンドレスで、不思議の国のアリスをモチーフにしているのがわかります。しかもご丁寧に呪具で作られていますね。髪の毛は伸ばして染めているのかもしれません。瞳はカラーコンタクトですね。肌の色は……何かで変えているのかもしれません。どちらにしよ大変可愛らしい人形のような美少女です。

 

「遅い。美少女天才錬金術師を待たせるなんてひどいんだぞ☆ 歌い続けて喉が潰れるかと思ったんだからね☆」

 

 大変な事になるってそっちですか。

 

「無茶苦茶いいますね! 変更したのはそっちでしょう!」

「アレ、ツッコミはなし?」

「何度もからかわれていますからね」

「じゃあ、止めよ。正直キツイし」

「それならやらないでいいじゃないですか……」

「それはそれで面白くないし……どうせならロールプレイしてみたいし……」

 

 まあ、言っても無駄でしょう。とりあえず、荷物を置いてソファーに座ります。VIPルームなだけあって良い物を使っています。

 

「何か飲む? お勧めは飲まない方がいいけど」

「……」

 

 彼女の言葉に注文しようとメニューを取ったのですが、テーブルにおきます。忠告のように言ってくる時は必ず何かがある時だと思った方がいいです。五条さんは罠という時もありますが、彼女はそこまではいっていません。直に忠告してくださいます。

 

「……ところで、何故ここに?」

()()()()()()()だったから札束で殴った」

「なるほど、()()()通りですね」

「うん、()()()()()

 

 彼女が面白いというのは呪霊か呪詛師、呪具か呪術師が関わっている事でしかない。つまり、ここは私達の仕事に関係する何かがあるということです。

 

「それより、私が欲しい物、買って来てくれた?」

「こちらにあります」

 

 テーブルの上にギターケースを置き、少しだけ開いて書類を取り出します。それを彼女に渡し、読んでもらいます。

 

「ふむふむ」

「登録名は五条音夢。五条家が何かあった場合、責任を取る事になります」

「了解。まあ、妥当な線だね」

「はい。それと改造などは構いませんが、線状痕の変更をした場合は必ず届け出てください。もし届けていない場合は捕まります」

「うわぁ……」

「それと使用した弾丸の数も記憶しておいてください。こちらも提出してもらう必要があります」

「面倒」

「アンチマテリアルなんて物騒な物を頼む方が悪いんですよ」

「じゃあ、アンカーバスターやクラスターで我慢するよ?」

「それは我慢じゃありませんから!」

 

 確かに特級クラスを相手にするならそれぐらいは必要です。呪具にした後であれば必要はないでしょうが……

 

「販売はできる?」

「できません。改造の許可を取るだけでもかなり大変だったんですからね」

「素材は変えないと話にならないし、そこは頑張ってもらわないと……」

「わかっています。ですから、何とかしてきました。少なくないお金と呪具が必要でしたが、呪具に関してはよろしくお願いいたします」

「了解」

 

 使ったリストを渡すと、彼女は顔を顰めました。それもそのはずです。彼女が想定していたよりも交換した呪具の量が多いのでしょうし。

 

「ドラグノフはともかく、ヘカートはやはり厳しかったですね。それとその二つを呪具にできたら引き渡すよう依頼もされています。頼めるでしょうか?」

「強欲ね。それにこちらがやりたい事がバレているみたい」

「情報が漏れていたようです。国内にスパイが潜んでいるのでしょう」

「私の身が狙われる心配は?」

「あります。多分にありますが、五条さんに喧嘩を売るような物ですからね。ある程度は抑えられるでしょう。ですが、何人かは無理です」

「そいつらは好きにしていいのよね?」

 

 実験動物でも見るような瞳をしながら、ぺろりと舌で唇を舐める幼い少女。彼女から一瞬、恐怖を感じる。全身から冷汗が噴き出しました。

 

「ええ、正当防衛が認められますし、登録された呪術師でなければ好きにしてください。ただ一般人を使ってきた場合は……」

「一般人に興味はないから、殺さないように気を付けて渡すね」

「お願いします。こちらがライセンスです。身分証明にも使えるので持つ時や使う時はしっかりと肌身離さず持っておいてください」

 

 ライセンスも渡しておきます。彼女の顔写真と年齢がしっかりと書かれています。年齢は22歳で女性で階級は左官。特殊部隊に所属しても問題ない物になっています。ええ、政府が作った偽造とも言えない身分証です。しっかりと登録されるので問題ありません。対テロリスト部隊という扱いです。テロリストは呪詛師と言い換えて構いません。これは昔からあります。捜査権を得られる理由付けの一つとして扱われています。

 

「このライセンス、GPSとか入ってる?」

「さあ?」

「ふ~ん」

 

 彼女はあっさりとライセンスを両手に挟んで分解し、再構築した。一瞬の早業である。

 

「あの……」

「監視装置は潰しておいた。女の子に監視装置を付けるなんて駄目だぞ☆」

「あ、はい……言っておきます」

「お願いね☆」

 

 そう言ってから、彼女は兎のぬいぐるみに取り付けられているリュックサックに手を突っ込んで中から札束を取り出します。

 

「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ……あれ?」

「どうしました?」

「おかしいの。ここに入るのに二つ使ったけど、後八ツはあるはずなんだけど……」

 

 黒い兎のぬいぐるみがダラダラと汗をかいているのを感じます。二つ、つまり二百万を使ってここを借りたのでしょう。出された五つの札束を確認します。何時もの事ですから。

 

「おかしいな、おかしいね、おかしいですね。なんで? なんでかな? なんでなのかな?」

 

 黒い兎のぬいぐるみの耳を掴んで持ち上げ、ぬいぐるみと視線を合わせました。

 

「何に使いやがった。馬か? スロットはないよな? あの人と会った時、一瞬だけトイレにいった時かな? でも、電子マネーじゃないから買えないよね? だから持たせてたわけだし……まさか、頼んだの?」 

 

 黒い兎のぬいぐるみが顔を背けてこちらを助けを求めるかのような視線を送ってきます。

 

「うふふふ」

「あ~」

「おらっ!」

「ぐはっ!?」

 

 うさ耳を持ったまま壁に押し付けて何度も何度も殴ります。黒い兎のぬいぐるみは手を巧みに操作して受け止めて弾いていきます。しかし、段々と威力が増していっています。それに比例して頭のヘッドドレスに隠れていた物が伸びだしていますね。

 

「叔父様、叔父様。私、ちゃんと小遣いをあげてるよね? どうせ勝てないんだから賭け事なんかしないでよ。やるならゲームにしなよ。何度も私、言ってるよね?」

「ケチケチすんなよ。どうせはした金じゃねえか」

「三百万ははした金じゃないから! 車が買えるんだよ、車!」

「走った方が速い」

「それはアンタだけだぁぁぁっ!」

「いや、お前もだろ」

「まさかそんな……かもしれない」

 

 どちらも化物ですね、はい。普通は無理です。フィジカルの化物同士、相性がいいのかもしれませんね。

 

「だいたい少ないんだよ。月五百万は寄越せ」

「じゃあ、もっと働け」

「楽しい仕事を寄越しやがれ」

「オーケー、オーケー。仕事をたっぷりとあげる。伊地知さん資料ちょうだい」

「こちらに」

 

 仙台市に存在する呪霊が確認できたリストを渡します。言われた通りに調べて用意しておきました。

 

「これなら、先にこっちかな」

 

 怒りは収まったようで、ソファーに座って膝の上黒い兎のぬいぐるみを置いて頬っぺたを引っ張って遊びだしました。大変可愛らしい姿ですが、引っ張ってる力が半端ないです。

 

「お金が足りない分は後で渡すね」

「ええ、構いませんよ。振り込みでも問題はありませんが、念の為ですし……」

 

 そう告げた時、部屋の中に白い煙が入ってきました。

 

「火事ですかっ!?」

「ちがうよ。はい」

「あ、どうも」

 

 渡されたのは酸素ボンベ付きガスマスクでした。部屋の中に煙が充満する前に取り付けます。彼女も付けていますし、大丈夫でしょう。

 

「一番怖いのって呪霊より人だよね?」

「だろうな」

「ですね」

 

 しばらくした後、煙が床下の隅にある換気口から吸われていきます。

 

「あ、伊地知さんは気絶したふりでいいよ。叔父様は伊地知さんの護衛をよろしく。狙いは私だろうしね」

「任せておけ」

 

 黒い兎のぬいぐるみは私の懐に入ってきました。いつの間にか彼女の手にはもう一つの黒い兎のぬいぐるみが握られておりました。それとギターケースやゴルフバックが別物とすり替えられています。

 

「くれぐれも一般人相手に呪術は使わないでくださいね」

「大丈夫、大丈夫。フィジカルでぶん殴るから」

 

 既に肉体が凶器なのでそれも可能でしょう。彼女がガスマスクなどを消してからソファーに寝ころび、しばらくすると、扉が開いて店員たちが入ってきました。その後、彼女が連れていかれました。

 私も別の所に連れていかれ、何処かに監禁されました。二時間ほど暇をつぶしていると、外が騒がしくなり、警察が入ってきました。事前に通報されていたのでしょうね。

 

「警察です! 無事ですか!」

「ええ、ありがとうございます」

 

 警官の人達によって拘束を外してもらい、外に出ます。彼等に聞くと、ここで大規模な麻薬の取引や拉致監禁、人身売買があるとの事で、通報が女の子の声であったそうです。また警視庁のメールに私が監禁されている部屋の映像が流れてきて、事実と認定して突入したそうですね。この黒い兎のぬいぐるみがやったのではなく、部屋の隅に確認できた白い石で出来た蛇がやったのでしょう。電波は遮断しても呪力まで遮断できませんからね。

 

「銃声!?」

 

 地下から聞こえてきたソレと同時に建物全体が揺れていきます。地下からは膨大な量の呪力が感じられました。すぐに携帯を借りて連絡を取り、捜査権を貰い出ていってもらいます。

 それから黒い兎のぬいぐるみの指示に従って移動し、隠し扉を兎のぬいぐるみ蹴り飛ばして破壊しました。そのまま進んでいくと、エレベーターがありました。エレベーターに乗って移動すると壁際が牢屋になっている広いダンスホールのような場所に到着しました。

 牢屋の中には若い女性達が捕らえられており、薬でおかしくなっている人も居ます。ステージの方を見ればそこに上半身が裸の女性で下半身は蛇の姿をした呪霊が存在し、尻尾に店員であろう者達を捕らえていました。その上から白い石でできた蛇達もからみついています。

 その呪霊は身体中から植物の蔦を生やし、店員達と一緒に拘束されています。銃声が響き、呪霊の鱗が粉砕されて中には弾丸が食い込みました。そこから黒い蔦が生えてきます。

 銃声をした方を見ると、二階の席の手摺にドラグノフを乗せて構えている普段の黒髪に赤色のドレスを着たネームレスが居ました。彼女の周りには店員が倒れて気絶しています。彼等の身体には白い石で出来た無数の蛇が巻き付いて身体を拘束していますね。

 

「ほらほら、早く術式を出してよ。終わっちゃうよ? 私は射撃訓練が出来ていいけどね」

「GAAAAAAAAAAAAAAA!!」

「あ、外れた。首を狙ったのに胸にいった。惜しい」

 

 捕らえられている店員を一切気にせずに撃っていますが、呪霊にしか効果が無い弾丸を放っているようです。ですが、この距離なので普通に死にます。そういうのは白い石で出来た蛇が身を挺して守っているようですね。

 

「これはちょっと早かったかも。術式を出すまで成長してないか」

「そもそもよく気付きましたね」

「この子達を通して声が聞こえたの」

「そうですか」

 

 白い石で出来た蛇を撫でる彼女はまるで母親のようです。

 

「もう食べていいよ」

 

 ネームレスの言葉に呪霊に向かって一斉に殺到して噛みついて喰らっていきます。彼女が従えているあの白い石で出来た蛇からは莫大な量の呪力が感じられます。呪術師何人分かもわかりません。一匹一匹が最低でも二級はあるでしょう。

 

「叔父様、お花を摘むよ」

「面倒だ」

「三百万」

「ちっ」

 

 黒い兎のぬいぐるみが黒い茎から出てきた黒い花を回収していきます。それをネームレスが食べて顔を顰めます。

 

「まずい。もう一個」

「不味いなら食べなきゃいいじゃないですか。むしろ食べ物じゃないでしょう」

「これは彼女達の無念や怨念だから。しっかりと食べて浄化してあげないとね。そうしたら、きっと来世では幸せになれると思うよ。私が言うんだから間違いない」

「そうですか……そうですね。そうだと良いと思います」

「じゃ、後始末よろしく!」

「良い子だと思ったんですが、間違いでした」

「呪術師に良い子が居るわけないじゃない。何言ってんの。頭大丈夫?」

「デスヨネー」

 

 ネームレスは椅子に座りながらスケッチブックを取り出してペンで何かを書いていきます。どうやら魔道具の設計図のようです。早速、ドラグノフを改造するのでしょう。持っていた銃たちは既に分解されているようです。

 

「手伝っては……」

「叔父様、ミシャグジさま、手伝ってあげて」

 

 黒い兎のぬいぐるみと白い石で出来た蛇に手伝ってもらいながら後処理に来た人達に引き渡します。

 

「あ、呪術師になれる素質がある人、いたけど教える?」

「お願いします」

「この子とこの子で……」

 

 教えてもらった人達に話をして彼女達をマークしておきます。治療が終わってから、調査して適正があれば高専に連れていきましょう。無ければ監視だけして解放です。問題がありそうなら呪力を封じる呪具を渡します。

 

「あの、こちらの荷物は……」

「あ、私の荷物です」

「そうですか。では署の方でお話を伺えますか?」

「はい?」

「貴方の荷物から大量の麻薬が出てきました」

「ネームレス!」

「ああ、アレ、ただの白い粉よ。魔法の粉ね。気持ち良く、ヘブンになれるわ」

「やっぱり……こんな幼い子に……」

 

 手錠を持ってにじり寄ってくる警官の人達に壁際に追い込まれます。

 

「あの成分分析の結果がでました。確かに魔法の粉でした」

「麻薬だろ?」

「いえ、魔法の粉です」

「ねるねるねるねと混ぜて練れば練るほど美味しい魔法の粉よ」

「「「 ねるねるね~るね!」」」

 

 焦った。凄く焦りました。ネームレスはクスクスと笑っています。つまり、確信犯ですね。私をおちょくるためだけに白い魔法の粉を用意したのでしょう。

 

「……大変ですね」

「……はい……もっとひどい人が更に一人いますから……」

「あははは」

「伊地知さん、美味しい物を食べにいく。仙台市の名物は何?」

「それはですね……なんでしょう」

「それでしたら……」

 

 お勧めの物を聞いて食べにいきます。ネームレスが奢ってくれるそうですが、辞退して自分の分は自分で払います。流石に子供に、幼女に奢ってもらうわけにもいきません。これは大人として当然です。ええ、高価な場所なので財布の中身が寂しくなって少し泣きました。

 

 後日、勤労感謝の日に上質なスーツが二着、送られてきました。どちらも呪具で防御力と快適性が強化された物です。呪具としては低く見積もって二級、高く見積もれば一級の品物です。どう考えてみても数千万はする品物です。

 仕舞いたい、仕舞いたいのですが……無理です。何故なら添えられたメッセージカードにはこう書かれていました。

 

『仕事着にしないと祟る。具体的には胃を完膚なきまでに破壊するから。着なきゃ殺す』

 

 着るしかありません。流石に殺すは冗談でしょう。ですが、胃を破壊するぐらいはやってくるはずです。それに職人らしくしっかりと拘って作られています。いえ、これは名店にいるテイラーが作成した物を呪具に変えたのでしょう。どちらにせよとんでもない呪力を使っている事は確実です。

 私の安全を思って用意してくれたのですから、着ないのは失礼にあたります。それにまだそんな歳ではないですが、まるで娘や姪からのプレゼントのようにも感じてしまって嬉しくもあります。

 年末の忘年会で会った七海さんもネームレスから白いスーツをプレゼントされたようです。私と違って完全に着こなしています。ただ、五条さんは拗ねていました。私と七海さんにはスーツが送られたのに自分には渡されていないからです。

 

「音夢~俺にプレゼントは~?」

「え? パパにスーツ? いらんでしょ」

「ちょっ!? ずるいよ!」

「防弾、防刃、防水、消臭などなど刺されても無傷ですむスーツだけど、パパはダメージ喰らわないじゃない」

「そうですね。五条さんには必要ありません」

「ええ、そうですね」

「欲しい~! 俺も欲しい~!」

「子供か」

「ぶふっ」

 

 皆が笑い五条さんが更に拗ねます。そうしたら、ネームレスは唇に指をあてて可愛らしい声でおねだりをしました。

 

「私、パパの目が欲しいな~くれたらなんでも作ってあげる」

「駄目だね~」

「六眼欲しい。代わりのを用意するから、駄目?」

「だ~め!」

「ちっ」

 

 可愛らしい見た目に騙されてはいけません。彼女はイカれてる呪術師の中でも特にクレイジーなぐらいな子ですから。プレゼントで懐柔されてはいけません。何を要求されるかわかったものではありませんから。ただ、数年後に私は彼女に心から感謝する事になりました。このスーツのお陰で命が助かったのですから。

 

 

 

 

 

 

 




 真依ちゃんのオーダーメイド・白黒スーツ

高級店のテイラーに作ってもらったスーツを撤去して解析し、素材を土蜘蛛の糸にして特殊な液(呪力と鬼の血、鬼の角の粉末、着色料)で染め上げてあります。
身体能力強化、防刃、防弾、呪力耐性、快適な温度調整、服の自己再生、匂いの消臭が得られます。夏でも冬でも快適に過ごせる一品になっており、常日頃からスーツを着る人にとっては最高の一品です。ななみんもニッコリ。

五条さんもちゃんと真依ちゃんから貰えましたが、最初の一週間しか着ずに仕舞いこまれて真依ちゃん激怒一ヶ月口をきいてくれません。五条さんは甘味でご機嫌取りをしましたが無理だったので一級呪霊を数体献上して許してもらえました。
なお、二人の喧嘩に巻き込まれた伊地知さんは胃がやられましたとさ。
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