「Prrrrrrr、Prrrrrrr」
「……はっ!?」
やばい。やばい。身体が震える。吐く息が白い。そんな状態で寝袋の中からもぞもぞと動いて身に纏っている毛布から顔を出す。
寝袋の中に入れておいた悟パパに買ってもらった携帯を開く。着信はお姉ちゃんだった。
「もしもし?」
『無事か!?』
「うん、大丈夫だよ……」
実は寒さで死にかけたけど大丈夫と伝えておく。この寝袋の中にはカイロもいっぱい入れてあるから、少しはましなんだけどね。
『雪がかなり積もってるけど、そっちは大丈夫か?』
「無茶苦茶寒い。でも、なんとかするから大丈夫だよ」
『私がそっちに行こうか?』
「来ちゃ駄目。雪山とかどれだけ危険だと思ってるの。お姉ちゃんが死んだら私も死ぬからね?」
『何言ってんだよ、そんなこと……』
「そういう縛りをして術式とか強化しているからね。私とお姉ちゃんは一心同体みたいなもの」
『そんなの聞いてないぞ!』
「今言った。まあ、お姉ちゃんは気にしなくていいよ。私が死んでもお姉ちゃんは生き残るから」
『ふざけんな! いいか、こないだの事だってまだ許してないんだからな!』
「私が助かるためには絶対にお姉ちゃんが助からないと駄目だったから、反省も後悔もしていない」
ドヤァ顔になるけれど、向こうには伝わっていないだろう。そう思ったら、お姉ちゃん声が滅茶苦茶冷たくなった。
『今度泣かす』
「ごめんなしゃい」
思わず謝ってしまったけれど、やっぱり反省も後悔もしない。お姉ちゃんを優先する。それが私ができるせめてものことだ。私は
『まあ、今はいい。それで本当にやばかったら助けを呼べよ』
「うん。ちょっと連絡を取ってナイフをさっさとお金に変えて、寒さ対策をするか、どこかのホテルにでも泊まるよ」
『それがいいかもな。じゃあ、また連絡するからな』
「またねー」
電話を切った後、寝袋から外に出る。外は無茶苦茶寒いので毛布に包まりながら移動する。
神社の中なので、祭壇まで行ってからお祈りしてから改めて外にでる。ものすごい寒さの中、外を移動して畑に向かう。そこで黒苺を収穫して口に入れる。
すると苦味とえぐみ、酸味など吐瀉物を処理した雑巾の味のような感じ。味の改修は終わっていないから仕方がない。そんな時間はないからね。
「あぁ、最悪な目覚めだ。でも、これは覚醒にはちょうどいい……ふぇ!? マジで? マジかー」
滝壺へと通じている水中への入口を見ると、そこは氷が張っていた。そう、凍っていたのだ。十二月とはいえ、こんなのないわー。
「そりゃ寒いはず……って、まずい!」
急いで空気を取り込むためのパイプを確認する。こちらも凍り付いていた。もしかしたらパイプの向こう側が雪で埋まってるかもしれない。
「うん……本当にお姉ちゃんには感謝だね」
下手をしたら酸素不足で永眠していたかもしれない。とりあえず、急いで酸素を構築して放出しておく。
しかし、こうなると新たに空気を取り込む方法を考えないといけない。まあ、その前に寒さ対策をしないとね。火を焚くのは不味いので、エアコンとかがベストかな。どちらにしろ大改造が必要だ。
タープの天井もどうにかしないとね。やっぱり、お姉ちゃんが居た方がいいけど後回し!
『なんだ?』
「ナイフが出来たけど、連絡がなかった。送り先もわからないし……それに色々とまずい状況だからお金が欲しい」
『あ~忘れてた。色々とあったんだ。ごめんね。それでナイフだっけ。できたんだ?』
不機嫌な声がすぐに元に戻った。おそらく、色々と言うのは親友である夏油傑のことだろう。確か、この時期ぐらいに呪詛師になった気がする。うろ覚えだけど。
「うん。早急にお金が欲しい」
『まずい状況ってどうした? お兄さんに相談してみな』
「寒い。お腹すいた。凍死しそう」
『それは確かに不味いな。ちょっと待ってね。俺も呪具の値段とか詳しくないからさ。専門の人に頼むから』
流石に由緒正しい一族の跡取りなだけあって、自由にできるお金とかもいっぱいあるし、呪具とかも揃えてもらっているんだろう。いや、そもそも呪具を使う必要すらないのかも。
「すぐにお金は貰えない?」
『そうだね……あ、真依ちゃんの術式は構築術式だったか。それなら泊まる場所も用意するから、こっちにおいでよ』
「いいの?」
『いいよ~。その代わりさ、俺のお願いも聞いてね』
「わかった」
『じゃあ、合流場所は……』
「了解。向かえはどうする?」
『そこに行くと禪院家にバレるかもしれないから、そっちから頼むよ。人里まで降りたら、途中でタクシーを拾ってくれてかまわない。俺が代金を支払うからね』
「お願いします。出来る限り、急ぐけど準備に数日かかる」
『わかったよ。それじゃあ、待ってるね』
とりあえず、これでいい。まず必要な物を用意しよう。必要なのは夏以外の水へと潜る時に必要なドライスーツを構築する。
ドライスーツとは、首から足の先まで一体になった完全防水のスーツのことで、水が入ってこない構造になっていて、首と手首から先以外は濡れない。ドライスーツの下には水着ではなく動きやすい服を着ることができる。これでダイビングを終えた後はスーツを脱ぐだけでいいので、楽ちんとなるわけだね。あとはフードなども作ってしっかりと防寒の準備をする。
これ以外にももう十二月なのでクリスマス用の服を用意しておく。赤いモコモコのワンピースとパンツを用意しておく。それと山の移動用にスノーボードとスノーボード用のブーツも作っておく。
三日ほどでダイビング道具も含めて血を吐きながら黒苺を食べながら用意した。それと収穫した黒苺のヘタを取って洗ってから大鍋で水とお砂糖、お酒を煮込んだ物に入れて飴にしておく。それを瓶に入れて赤いポシェットを作って、そこに携帯やナイフと一緒に入れて、デリンジャーと共に防水ケースにいれる。それからケースにスノーボードを結び付けておく。
「ほいっと」
ドライスーツに着替えてゴーグルもつけて潜る用意をしてから、蹴りを氷が張っている穴へと叩き込んで粉砕する。そこにケースを掴んで飛び込む。無茶苦茶冷たいのを我慢して水中を泳いでいく。
数分、泳いでから外に出てドライスーツを脱いでタオルで体を拭いていく。それからケースから荷物を取り出し、着ていたドライスーツなどは術式反転で水を撤去する。ケースにドライスーツを入れて岩を動かして隙間にいれて、そこに岩や石を入れて隠しておく。
「さて、いきますか」
ケースから取り出したスノーボード用のブーツを履いてスノーボードにセット。デリンジャーを袖に隠してそのままスノーボードで山を下っていく。
どんどん速度が上がり、体を上下に揺らしながら左右に移動して木を避けながら移動していく。
「ヒャッハー!」
映画の某頭脳が大人な小学生のように木々を回避して……無理!
「いたゃい……」
起き上がってからまた降りる。呪力で強化した身体能力で回避していく。本当に名探偵はすごい。まあ、木々の間を高速で駆け抜けていくのは訓練になるので、これはこれで面白い。
何度も木や根にぶつかりながらも、森を抜けた。そう思ったら、地面がなくなった。すぐ下に道路があったけれど、どう考えてもガードレールの先へと飛び越えてしまう。だから、空中で身体を回転させてガードレールにどうにかスノーボードをあてて体を後ろに倒すことで道へと戻る。
道には頭から落ちたので、両手をついて即座に腕の力だけで飛び上がり、空中で体勢を整えて床に立つ。
「……ふぅ……」
危なかった。鬼の力を一部とはいえ手に入れたお陰で身体能力はかなり上がっているので助かった。しかし、道まで出ると流石に雪は退けられている。なのでスノーボードにタイヤをつけてスケボーのようにして走る。
道を滑るだけでいいのでかなり楽になる。とはいえ、京都府の人里離れた山なのでかなり長い距離になる。正直、走った方が速いかもしれないけれど、見られたらやばいからこちらでいい。
数時間、滑っていくとようやく人里に降りられた。坂が凄い面倒だった。今度、ソーラーとエンジンでも取り付けてやろうか。でも、そうなると免許とか、保険とか、ナンバープレートの習得とか糞面倒になるのだ。
とりあえず、住宅地に着いたので、携帯でタクシーを呼ぶ。でも、一応その前に悟パパに連絡しておこう。
「あ、パパ? 今、住宅地に降りたからタクシーを呼ぶところだけど、大丈夫?」
『ん? 大丈夫……ああ、そうだ。場所だけ教えてくれるかな? こっちで呼んでおくから。それと呪力は極力抑えておいてね。一般人として活動してもらわないと困るから』
「任せて」
『じゃ、少し待ってて』
「うん」
携帯を切ってから少し時間が出来たので、ネットサーフィンでもしていよう。必要な知識は貪欲に蓄えるに限る。まずは断熱材とかの方法かな。秘密基地……アトリエは絶対に改造しないと不便すぎるし。
車が私のすぐ横に停車したので、顔をあげるとタクシーが泊まっていた。どうやら、個人タクシーみたい。
「依頼を受けてやってきました。五条様ですね。どうぞ、お乗りください」
「ありがとうございます」
運転手さんが私を上から下まで見て、嫌な気持ち悪い感じがした。でも、悟パパが手配したような物だし、素直に従うことにする。呪術師に嫌な奴は多いし。
「荷物はトランクにお願いします」
「わかりました」
タクシーの後部座席に乗り、発進していくのを窓を見ながら待つ。タクシーが角を曲がる時にカーブミラーに別のタクシーが私が居た所にやってくる姿が見えた。
「ん……」
「お、起きたか?」
頭が重い。なんだかフェンタニルを決めた後みたいな感じがする。目を開けると見知らぬ天井が存在していた。
「……パパ……?」
「残念ながら違うねぇ……」
その声に嫌な感じがして体を起こそうとしたけれど、動かない。視線をやると両手と首が鉄製の輪で固定されている。足も同じようで少しも動かせない。
「なっ……」
「可愛い可愛いお嬢さん、君は誘拐されたんだよ」
タクシードライバーの人がハサミを持ちながら近くによってくる。そして、服を切っていく。
「ああ、その表情はいいね。でも、安心していい。可愛い姿のままずっと生きられるようにしてあげるだけだからね。あの子達みたいに」
頭を掴まれて無理矢理動かされ、視線を壁際に移される。そこには幼い少年少女達や女性が並んでいた。彼女達は一切動かない。生気の無い瞳はまるで人形のように感じる。
「……ま、まさか……」
「俺の術式は人を人形に変えることができる。生体アンドロイドだ。これがまた好事家連中に高く売れるんだぜ。ましてや五条家の娘だったらな。変態共に可愛がってもらえ」
「ひぃっ!?」
頬をペロリとなめられる、怖気が走る。そんな中、必死に考える。もしかなしくてもピンチだ。相手は呪詛師だから、殺される可能性が高い。両手両足も動かないし、本当にやばい。
「たっぷり怖がって……」
「あ、あの、わかりました。でも、せめて両手を自由にさせてください」
「そんなことするわけないだろ」
体が動けば……いや、待てよ。原作の真依は手に持つリボルバーに銃弾を構築していた。だったら、多少は離れても構築ができる。それなら……無茶苦茶気持ち悪いけれど我慢できる。
「その、最後にキスがしたいです。キスもしたこともなくて死にたくありません」
「いいぜ」
至近距離まで近づいてくる男の顔を見ながら一気に呪力を利用して構築していく。
「っ!?」
男は勢い良く離れた。フラフラとしながら、壁に手をついてこちらを見詰めてくる感じがする。私は即座に術式反転を使って両手と両足、首の拘束を撤去して立ち上がる。
「……なに、しやがった……」
「フェンタニルを気化させて顔面に叩き込んであげました」
「鎮痛剤……麻酔薬……」
「正解だ」
「だが、甘ぇっ!」
人形に命令を発しようとしたので、接近して喉を噛んで声が出ないようにする。更に構築術式を使ってフェンタニルを顔面に叩き込んでやる。死んでも構わないから高濃度の奴だけど気にしない。私も吸わないように口元をしっかりと押さえて自分の体内に入る奴は撤去しておく。
私の体を舐めたコイツは殺す。絶対に殺す。苦しめて殺す。すり潰して並べて、晒して……いや、それは勿体無いか。
とりあえず、男の体を先程まで私が寝ていた場所に寝かせて枷を取り付ける。それから、荷物を漁ってデリンジャーを回収して弾丸を男の体内に入れてやる。一応、人形達も拘束しておく。
「うわぁ……」
人形達は人の皮を外して張り付けられたりしているのもある。死んでいると思ったら、この人形達の一部には意識があった。体その物を人形に変化させたのもあるようだ。
とりあえず、術式反転で人形を分解してみる。すると内部の構造まではっきりとわかった。死んでいるのは処理し、意識が残っているのはそのまま残しておく。ただ拘束だけはしておいた。
「とりあえず殴ろう」
呪力を拳に込めて男の腹を殴る。殴る。殴る。殴る。殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る……数十数百回も殴ると狙いどおり黒閃が発動した。
黒閃は打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪みだ。自分で出すために精密な呪力コントロールが要求される。でも、私は生まれてすぐに呪力コントロールの練習をしていたので精密操作には自身がある。
「黒閃が出たならいいや」
「……たす……て……」
こちらを見詰める男にニコリとほほ笑んでから答えてあげる。
「そういう人を助けてあげた?」
「……助けた……!」
「そう。それはいい人だね。でも、私には関係ない。私は貴方を実験体として分解してやるよ」
「っ~~~!?」
男を術式反転で少しずつ撤去して肉体構造を理解し、コイツが持つ術式も深く理解した。黒閃の補助もあり、色々と楽しくなってきた。最終的に男の体は術式を吸い上げて果実に作り変える植物を構築する。
まあ、術式を抽出してもちゃんと使えないだろうけれど気にしない。知識を得られるのならそれでいい。どちらにせよ、偽俊さんのように術式を抽出するような植物はかなりつらくてできた瞬間、気絶しそうだったのでそれを食べる。