今回で幼少期編はラストです。
よろしくお願いします。
いっけなーい遅刻遅刻☆!
……やめよう。野郎に星マークはキツいと言ったはずだ。
まぁ、このプリティフェイスならワンチャン行けそうだがな。
ということで、最近学校にも行けてない俺、ジールが病室からお送り致します。
昨日、心の整理を終えて後、時間が解決してくれるだろうと思えるくらいには回復してきました。
そんな俺が、おっさんが来るのを待ってる間何をしてるのか。
唯ゴロゴロしてる訳では無い。本があって、布団の上という素晴らしい組み合わせだったとしてもだ。
怠けてないからな!しっかり色々考えていた。
実は、ツバメの会について思いついたことがある。
ツバメのモチーフと、慈善活動。この2つを聞いてデジャブを覚えたのだが、さっきその正体に気づいたのだ。
『幸福の王子』って知ってる?俺は知ってる。
簡単に言えば、ある国では幼い頃に亡くなった王子を偲び豪華な王子の像が街中に作られた。
実はその像の中には王子の魂が入ってたんだ。街の人が貧しい生活をしているのを見て心を痛めた王子は、ツバメに王子の像を飾っている宝石や金属を運ぶようにお願いする。
そうしてだんだんみすぼらしくなっていった王子の像を見た人々は、その像を燃やして撤去してしまう。冬になって力尽きたツバメと王子の魂は天国で幸せに暮らしましたとさ。
って感じのお話だ。持ってきた絵本の中にあった。
これを思い出してからは、あの人達が自分達をそのツバメと称して活動している様にしか思えなかった。
そして、俺としては団体全部か、一部の人かは置いておいてもツバメの会の中に、お金持ちは施しをして死すべしって思想の人が居そうだなと。
いや、違ってたらほんとごめんだけど、そうとしか思えないのよ。
ちょっと前に新聞で見たお金持ちを狙った事件で、その写真のひとつにツバメのバッチが写っていた。壊れた自動車と飛び出した荷物の近くに転がっていたものだ。
もちろん偶然なのかもしれない。他の同類の事件にはツバメをモチーフにしたものは写ってなかったしな。
今のままでは十分に動けないし、情報も集められない。とりあえずツバメの会が怪しくて、あのおっさんが黒幕っぽいところまでしか分からない。
両親の仇という考え方もあるけど、純粋に犯人が気になる。あとタコ殴りにしたい。
というか、会ってからずっとあのおっさんの事、おっさんおっさん言ってるけど、中身を考えると俺も充分おっさんなんだよな…これ以上は辞めておこうか。
ほら、話を変えようではないか。ピチピチなひー君とかどうだい?若くて可愛いぞ。
まぁ、今は何処にいるかも教えて貰えてないので会いに行くことも出来ない状態なんだけどね。
とりあえず、ナントカススのおっさん……ラなんとかススって名前だったはず。ごめんって、人の名前覚えるの苦手なんだよ。
そのおっさんが来た時にひー君に会わせて貰えないか聞こう。最悪病室だけ聞いて会いに行こう。
噂をすればなんとやら、お昼近くになって病室の扉が開けられた。入ってきたのは予想通りナントカススのおっさんだ。
あぁ、胡散臭いおっさんよりひー君とお話したい。
革靴を鳴らしながらベッドの近くまでやってくると、黒服の人に目配せをして、テーブルの上に書類を出してきた。茶封筒から出されたのは二枚の洋紙。行動がお早い。
それを目で追ってから、おっさんの方を向く。
「こんにちは、今日はこちらの書類のことでしょうか?」
あっ、ひー君の事どのタイミングで聞こう。
この話の後かな、でも早めに聞きたいんだが。
「あぁ、君を我が家に迎え入れるための書類でね。サインをして欲しいんだ。」
「そうなんですね。わざわざありがとうございます。」
流石に今じゃないよな。サインしてる時に話すか?
……まてまて、俺ナントカススの家に行くなんて言ってないぞ。
待って?ひー君の話のタイミングを考えてたらサインする事になっていたんだが?
とりあえず、書類を手に取って内容を読む。
まぁ、簡単に言うと養子縁組の書類だな。書類の隅にどこかの役所の名前も書かれてるし正式なものなんだろう。
おっさん、ブジット=ラケルススって名前なんだ。確かにそんな名前だった気がする。へぇー。
それで、ラケルススのおっさんが俺の保護者になりますよってことか。もう1枚の方も手に取りひー君用だろうかと内容を確認すると、全く別の書類だった。
あれ?ひー君の分は?俺のと一緒に書かれているのかと見直したが、やはりひー君の名前は無い。
「すみません、ヒソカの分はどこにあるんでしょうか?」
「あー、あの子ね。我が家に迎えるのは君だけだからね、あれには施設に行ってもらったよ。…確か3日前だったかな?」
だから、書類は君の分だけで良いんだよ。と表情ひとつ変えずに言われた言葉に、俺は書類を破ってやろうかと思った。
まだ聞きたいことがあるからやらないが。
「ひー…ヒソカは、ラケルスス家に引き取られないということですか?」
「そう言っているだろう?わざわざ家を出た者の子を後継者に選んでやるのだ、せめて黒髪でいてくれなくてはな。」
「……そうなんですね。ヒソカには何と?」
あぁ、書類にシワができてしまった。
「別に何も言わなかったが?新しく過ごす場所を紹介してやったんだ十分だろう。」
このおっさん嫌いになりそう。というか、嫌いなんだが。なんでこんな言い方するんだ。こんな真面目な話をしてなきゃエンガチョって叫んでた。
何故に引き取らない?面倒見れないとか、お金が無いとかなら仕方ないだろう。
どんなに胡散臭くてもこっちは世話になる側だからな、二人は面倒見れないと言われたらひー君だけでも育てて下さいと頭を下げて頼み込むなりしたさ。
無理なら、潔く諦めよう。
だが、要らないから送っただと?
はぁーーー?馬鹿にするんじゃないわよ。ひー君は優秀なんだからね!
それに、俺の大切な弟なんですけど。
昨日のこと教えてやろうか。
月がいい感じに窓から覗き込んできた夜。俺は寝付けなかったからその月をじっと見ながら考えたんだ。
両親は既に居ない。なら、その分俺がひー君を愛していこうと。
かっこいいお兄ちゃんとして、困っている時は助けてやりたいと。
ハイハイを頑張っていたひー君や、笑顔でつみき遊びをするひー君を思い出してこれからの決意を固めたのだ。健やかに育てるよう守っていこうって。
決心したんだ。
まあ、それをおっさんに伝える話術は持ち合わせて無いので言えないが。
俺の心の中では全力で叫んでおいた。
「……ヒソカの行った施設を教えて頂けませんか?」
「なに、気になるのか?…確かミンポの方だったかな、聞いたとして君はどうするんだい?」
「会いに行くんです。」
あっ、握ってた書類の端が切れた。…少しだしバレないだろう。テーブルの上に返しておくか。
「なにを言っているんだ、大切な後継者をどんな輩がいるか分からない場所に行かせるわけがないだろう。ほら、早く書類にサインをしてくれたまえ。」
そう言って万年筆を渡してきたが、そんなことを言われて書くとでも思っているのか。
「……いやです。僕はヒソカと居たいんです。有難いお話でしたが断らせて下さい。」
差し出された万年筆を受け取ろうとせずに、膝の上で拳を固く握る。身長差で睨みあげるようになってしまったが、相手は整えた髭を撫で、僅かに眉を上げるだけだった。
「…そうだな、君とあれを会わせてやりたい気持ちはもちろんあるんだが、何分上手くはいかなくてね。もし、君がこの書類にサインをしないのなら、ヒソカ君だっけ?彼のいる施設へお金を送るのは辞めなければいけないなぁ。子供二人で生きていけると思っているのかい?」
今までと変わらない雰囲気で話してはいるが、機嫌はあまり良くないようだ。
「別に脅しているわけではないよ。ただ、君は彼のことを大切に思っているんだろう?なら、彼が安心して生活出来るように考えたらどうだい?」
実際、このおっさんが俺を引き取ろうとするのは単に子供がいないからだろう。それも黒髪の。
だからこうして、事故の後わざわざ俺に会いに来たし、説得というか脅迫をしてくるんだと思う。
そして、俺が今一番優先したいのはひー君が元気に育つ事だ。ここで、サインを断りひー君に会いに行ったとしてその後生きていけるか。正直いってわからない。連れ出して、危険なこの世界で生き残れる保証は無いのだ。
なら、安全な施設にいた方がいいだろう。
取引材料にしてくるくらいだ、それなりの場所に送られたことを祈ろう。
「わかりました。ヒソカはちゃんとした施設で暮らせるんですよね。」
「もちろん。わかってくれて嬉しいよ。」
手間取らせやがってとか思われているんだろうか。
押し付けられるように渡された書類にそれぞれサインする。
万年筆なんて使ったことがなかったため、インク溜りが出来て滲んでしまったところはあるが、まあまあ上手くかけたと思う。
書き終わると直ぐに黒服の人が奪っていってしまった。
別にそんなにしなくても、もう破いたりしないさ。
黒服さんは、サインの部分を数箇所見たあとおっさんの方に頷き、茶封筒に丁寧にしまった。
どうやら、ビリッとしたところはバレなかったようだ。セーフ。
「退院は明日だったね。また迎えに来てあげよう。」
「……ありがとうございます。」
それじゃあと、言い残しておっさんwith黒服は去っていった。
俺もベッドに入って布団を被る。毎日嗅いでいる病院の匂いにもそろそろ慣れてきた。
大きく吸い込むように深呼吸をしてから目を開ける。目に入るのは最初に見たのと同じ天井。
……病院の天井嫌いになりそう。
昨日の俺の決心は何処にいったのか。
でも、あれ以外に方法が分からなかったのだ。
それに、諦めたわけではない。サインはしたが隙を見て逃げ出してやる。なんなら金目の物を引っ掴んで出ていってやる。
あのおっさんは胡散臭すぎるし、なにより人を見下した感じが嫌いなのだ。
それまでは、ひー君が施設で元気に過ごしてくれる事を願うしかないな。弟頼りとは情けない兄だ。
それにしても、ひー君の方が軽傷なんだから早めに動けるようになることは予想出来ただろうに、ホント情けない兄だな。
暫くは、ひー君と過ごせないことが決定したからか、これから育っていくひー君の姿が見れないのを残念に思う。
思春期には少し早いか…、しかしグズグズしてたら直ぐだろう。
大きくなって、出来ることも増えて、きっと戦うのも上手くなって…………?
多感なお年頃に、ひとり戦闘力をつけるヒソカ?
なんか字面がヤバい。ゾワゾワっとした。
これはあれではないか、このままひー君をひとりにしたら、可愛い弟が、変態な弟になってしまう可能性が出てくる。
それはちょっと、いやかなり遠慮したい。
身内が、人前で股間を滾らせるのは普通に嫌だ。
強い人と戦ってテンション上がるのも、将来有望な子を気に入るのも構わない。それはひー君の個性になるかもしれないからな頑張って受け入れよう。しかし、出来れば言動だけは慎みを持って頂きたい。
他人だったらそりゃ気にしないで放置してたかもしれない。いや、ちょっと距離は置いて放置するかもしれない。
だが、『お宅の弟さん。ちょっと子供の教育的に良くないんですけど…』なんて言われたくない。
これはいち早く、ラなんとかススの家をでてひー君に会わなければ。のびのび育つのにも限度がある。
そのためにも、力をつけようと固く誓った俺はあることを思い出す。
ーーーそういえば、俺念能力に目覚めたんだった。
次回から、少年期編です。
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《人物紹介》
ジール
本作主人公。好きな物は、肉と本。
手先が器用な男の子。
この度、念能力に目覚めたが喜ぶ暇もなく怪しいお家へドナドナされた。
将来の夢は冒険という名の聖地巡礼をすることと、頼れる兄になること。
ヒソカ
好きな物は、組手と兄の作品。
まだ変態じゃない男の子。
この度、兄と別れて孤児施設へドナドナされた。多分、早々に抜け出す。
将来の夢は、????。