途中、ジールが長々と喋るシーンがありますが、読まなくても支障はありません。
よろしくお願いします。
肉はおやつに入りますか?
朝の光が降り注ぐ窓際、テーブルにセットされた紅茶からは仄かにローズの香りが漂ってくる。
光の粒が溶けるように美しく揺れるそれをひと口含み、音もたてずにソーサーへ戻した。
少年は、綺麗に整えられた黒髪に天使の輪を浮かべ、気だるげに落とした視線を手元の新聞へ向けている。
アンティーク調の家具にも劣らないその雰囲気には、著名な画家のお気に入りとなるであろう魅力があった。
名家の子息として完璧である少年を見た者は、惹き込まれるように見惚れ、我に返っては足早に去っていく。
まるでーーー、
「……あ”ぁ。…ねっむい。」
ーーまるで、幻想のような情景だ。
少年は、広々としたベッドの上で欠伸をしながら起床した。
「……新聞。」
険しく顰められた目は、未だ半分も開いていない。
サイドテーブルの上を叩くように移動する右手は、目的のものを見つけると乱雑に掴み、少年の方へと引き寄せる。
少年は何度か大きく瞬きをしながら、畳まれた紙束を開く。
足で蹴りあげるように退けられた毛布は、シワを作り隅に寄せられた。
少年が新聞と呼んでいる紙束の表紙を読みながら、慣れたようにスリッパを履き、まだ薄暗い室内を移動する。
明るい窓際に吸い寄せられるように近づき、そのまま大振りな動きで腰かけるとテーブルに肘を着きながら2ページ目を読み始めた。
少年の黒髪に艶はあれど、寝癖で四方に跳ねたくせっ毛に天使の輪は出来ない。
確かに目元はアンニュイな雰囲気が無いとは言えないが、それは唯々眠いからであろう。
行儀悪く組まれた足は、つま先を揺らしながらスリッパをパタパタとさせ落ち着きが感じられない。
絵に描いたようなモーニングタイムは、まさに絵に描かれただけだった。
少年は、ここ半年でかなり擦れていた。
前に住んでいた家では見られない、態度の悪さである。
まあ、精々人が見ていない時だけの小心な態度ではあったが。
※※※※※※※※※※※※
はぁい。グッモーニン。
ただいま、スクラップにする良さげな記事を探しているジールです。
この後、配達時間が少し遅めの二社分も届くので今のうちに読みきってしまいたいのだ。
この家に来てそれなりの時間が過ぎたが、欲しいものが何でも貰える環境にだけは感謝している。
新聞も数カ所の会社と契約しているし、本もたくさん手に入れた。もちろん代金はおっさん持ちだ。
せいぜいそのポケットマネーを搾り取ってやるぜ。
……まぁ、ひー君との暮らしだけは許可が出なかったがな。
いいもん、ぼくこのお家から出てってひー君に会いに行くし。
出ていく時に火でも付けてってやるよ。
日々、ひー君に会えないストレスを愚痴と散財(他人の財布)で発散している、そろそろ禿げてしまいそうだ。俺のプリティーフェ(コンコンッ
「坊っちゃま、電報局と、ガーランド街役場、ハンター協会の広報誌が届きました。」
ノックとともにかけられた声が、俺のぶりっ子をキャンセルしてきた。
ふと時計を見ると、いつもと同じ時間を指している。入室を許可する返事をすると、一礼して女中さんが入ってきた。
どうもいつもありがとうございます。
「こちらになります。……本日の朝食はどちらでお食べになりますか。」
「そうですね…部屋で食べるので、持ってきて下さい。」
「かしこまりました。それでは失礼します。」
リアルメイドさんは、出入口の部分でもう一度礼をし、静かに扉を閉めた。
ーーーーー行った?
ハアッと、まあまあ大きいため息を吐き、息を整える。最近、俺(社会人の姿)をやりすぎて息が詰まってしまう。
前世では、家に帰れば解放されていたのにここではそれが無い。これが息が詰まるというやつか…と、1ヶ月目には悟りの境地にいた。
持ってきて貰った新聞に目を通して、また記事探しをしようか。買っている新聞は、世界各地の事が書いてあるものと俺が今住んでいるガーランドの役場のもの、それと前まで住んでいた街のものだ。
今日は、珍しくハンター協会のものもある。これは不定期なので、新しく出たら購入するようにお願いしておいたのだ。
ウキウキとハンター協会のものから読み始める。
前回は、ハンター試験の合格者発表があったのでそれ中心のものだったが、今回は何が書かれているのか。
ぶっちゃけ軟禁状態といっても過言ではない俺にとって、この新聞達だけが外を知れる情報源なので前よりものめり込んでいる自覚はある。
ーーーふむ、今回は星付きハンターの発表と、目星しい活動成績を残したハンターの紹介な。
おっ!顔写真あるじゃん。良いねぇ、これはスクラップ決定だな。
ほうほうシングルが2人、プラントハンターと……幻獣ハンター!!うんうん、ベタながらにオタク心がくすぐられるやつだ。
『83年2月〇日。固有種の花を保護し、その伝来と進化の過程を発表したフレン氏は、その根が特定の薬の効果を…』
やばい楽しい。何時間でも見てられる。
今日は家庭教師の先生が来ないし、ワンチャン日暮れまで読めちゃうぞ。
…まぁ、やりたいことがあるのでそんなことはしないが。
とりあえず丁寧に仕舞って、他の新聞も開く。
このまま読めるところまで読んでしまおう。
8時になり、メイドさんが朝食を持ってきてくれたので、自室にあるダイニング擬きでぼっち飯を食す。
坊っちゃんがぼっち飯…………おもんな。
やめよう、ダジャレにもならないような寒いギャグを言うでない。
味は最高に美味しいはずなんだが、いかんせん食べるのが楽しくない。最早工場の流れ作業のように口にものを運んでいくだけだ。
出されたものは残さず食べきり、食器のひとつは置いておいて、ワゴンに残りの食器類を乗せ廊下まで押していく。
綺麗に磨かれた銀食器などを見るとこの家が冗談ではなくお金持ちなのが分かるが、金持ちの家の子になった嬉しさは微塵も湧いてこない。
あーあ、前世では宝くじ当てたいとか言って、大金欲しがってたはずなのに。
やはり、可愛い弟とロマンの前には勝てないか。
本当は、食べ終わったらメイドさんを呼んで片付けをしてもらった方がいいのだ(ご本人に私どもの仕事ですって言われた)が、あまり部屋に入ってきて欲しくないので廊下まで持って行ってしまう悪い子です。
最近は諦めたのか、何も言われなくなった。
さて、これでお昼までは誰も入ってこないだろう。
あのおっさんは、俺が後継者役を最低限こなしていれば無関心なので関わってはこない。
さっき言ったように今日はお勉強の時間が無いので万が一にも様子を見に来るといったことも無いのだ。
つまり、俺は自由の身(一時的)となったのさ!
はてさて、1人になってやることは、ずばり念の修行だ。
纏は事故にあった後から出来ていた。
といっても、なんとか体の周りに留まっているだけでオーラの流れは雑なものだった。
自称手先が器用な男である俺は、オーラの流れがガタガタなのに耐えられない。ダサい布を体の周りに
巻き付けている気分だ。ファッションセンス大丈夫ですか?って聞きたくなる。
ということで、オーラを淀みなく流せるように細部まで意識しながら纏をする訓練をした。
今では、ほぼ無意識で出来るようになり、日常生活中もダサい布では無くなった。イメージ的にはモノトーンで無難にまとめたファッションくらいだ。
そして、それと同時に始めたのは練の修行だ。
早くひー君と会うために、一刻も早く力をつけたかった俺はがむしゃらに修行を積んでいた。
才能はあるようで、毎日全力で練をして気絶するように眠るという生活を繰り返していれば、段々とオーラ量が増えていくのがわかった。
しかし、急いては事を仕損じるっていう諺があるように、周りも見ずに突っ走っても躓くだけだ。
案の定、俺はコケた。
『君は賢いと思っていましたがそうでは無いようですね。最近は家庭教師から逃げて勉強をしていないとか、私は後継者になる君のことを応援しているんですよ。もし君がその役目を放棄するなら、私はショックで施設にお金を送ることを忘れてしまいそうです。』
ラケルススの家に来て1ヶ月経った頃に、おっさんに呼び出されて言われた言葉だ。
あの時は、とにかく迎えに行ける力が欲しくて修行しかしていなかった。誰か来た時は邪魔されないように屋敷中を絶で逃げ回っていたのだ。
それを知ったおっさんに釘を刺された。
ひー君が大切だと知られている以上、それを盾にされることも考えつかなかった当時は、本当に切羽詰まっていたんだろうと思う。
それに、念の修行も行き詰まっていたのだ、練のオーラ量を増やしていくと、そのうちまともなコントロールが出来なくなった。オーラにムラが出るし、その分余分なオーラを消費して疲れるのが早くなっていった。
今なら、精神が乱れた状態でまともに念能力が使えるわけがないと分かる。気持ちが大きな影響を与える念能力は、焦っていた俺が習得出来るほどぬるいものでは無い。
おっさんには、これからしっかり後継者の教育を受けることを伝え、ひー君への支援を止めないようにお願いした。
タイムアタックのような雑な脱走計画では、ひー君と出会う前にひー君が施設から追い出されてしまう可能性が高い。
心を入れ替えて、大人しくしつつ隙を見て脱走する計画に変更した。おっさんから追い出してくれるようなことがあれば万々歳だ。
心に余裕が出来た…というよりは一旦焦るのをやめてから、オーラをしっかりコントロール出来るようになった。
それからは、ひー君が何かに巻き込まれていないか新聞で情報収集しつつ修行に勤しんでいる。
施設の場所は未だに分からないので、子供の巻き込まれ事故なんかがないかを探しているが、個人的には赤髪の少年が殺人事件の犯人とかいう記事が書かれて無いことを祈ってる。
まぁ、ヒソカならバレずに殺れちゃいそうな気もするが。
朝食の片付けを終えた俺は、部屋の中央でオーラを練る。
堅をしながら考え事をしても、オーラが乱れなくなった今日この頃。最近は最大火力で堅をすると窓ガラスを割りかねないので、それなりの量を長時間保つ訓練をしている。
きっかり3時間、堅をしても倒れなくなったな。
出すオーラの量を少しづつ絞っていき、纏の大きさに留める。
……さて、そろそろいいだろう。
ふふふふっ。ハンター世界にやって来た人が楽しみにしていることランキング(総投票者数:1人)
第3位にランクインしているあれをする時が来た。
そう!水見式!!!!
今日の朝食についてきたグラスと、窓際に飾られている花から頂戴した葉っぱをセットする。
場所は、何かあってもいいように窓際のテーブルにしようか。
ドキドキだ。テーブルに置いたグラスに手を翳し、深呼吸をする。
…どれくらいの強さで練をすればいいのだろうか。
弱すぎて反応しないなんてことにならないよう強めでいこうか。
つまみを一気に捻るようにオーラを放出すると、
浮かんだ葉っぱがクルクルと回り出した。
おっ、と喜びを顕にしようとした瞬間。
クルクル回っていた葉っぱは勢いを増し、周りに水を撒き散らし始めた。
「……うぇ、ちょっ。」
勢いよく回り、そのまま浮き上がりかけたところで慌てて練を解いた。
危ない、やりすぎた。
おかげでテーブルの上は水でベチャベチャしている。やばいと思ったら直ぐに練を解けばよかったのだ、全く判断が遅い。
適当にタオルを持ってきてテーブルの上と、濡れた顔面を拭く。高級そうなふわふわタオルだが、遠慮なく使わせてもらいます。
洗濯物増やしてごめんね。
ちょっとトラブルもあったが、無事に水見式をする事ができた。
どうやら操作系らしい。
……俺にしては落ち着いた反応だなって?
何を言う、傍から見たら1人でいるんだぞ急に喋り出したらキモイだろ。考えても見ろ、ひとりでにブツブツしだす少年はもはやホラーだって。
いや、逆に考えれば1人だからこそ人目を気にせずに喜べるのでは?
ーーーーースゥッ。
「うわぁぁぁ、やっちった。やっちった。水見式やっちゃった。俺、念能力者だよ。反応したよ?見た?見たよね!?やばくない?ハンター世界やばくない?念使えるのやばくない?うっっっわやっべぇ。操作系だってよ。ハァハァ、葉っぱ回ってた。オレ、ミタ。やっば、操作系って誰だっけ?アッ、アァ、某暗殺一家の長男さんと、某虫旅団のケータイくんじゃないか。それにグラサンマッチョもそうだった気がする。はぁー痺れる、最高かよ。まぁ、このリアクションはどの系統出てもした気がするけどね。いやでもほんと待って!?やばいって、これから発考えるんでしょ?あぁ、黒歴史生産しそうでござる。ムリムリ考えられん。は?強、発考えられるとかつよつよやん。それに片足突っ込んでるとか未だに信じられん、待って?見た?水飛ばしてるようなマヌケが水見式やったんすよ?いや、水見式やったから水飛ばしたんだけどね。ハッ、そうだ水見式やったんじゃん(小声)」
ここまで無限ループしながら、意味もなく腕を動かしてジェスチャーをし、膝を着いて祈り始めたかと思ったら、流れる動きで床を叩き出した。絨毯がなかったら拳の音が響き渡ってたぞ。
弾かれるように、水見式をやったコップに近づけば僅かに減った水を見て、先程のことが幻覚じゃなかったことを確認し、エアでテーブルをバンバン叩く。
極めつけに頭を抱えて仰け反ったところで、あまり動いてなかった表情がごっそり抜け落ちスンッとなると、黙って椅子に腰掛けた。
「やっぱキモイ。1人だからって限度を知ろ。(小声)」
想像以上に感情が漏れ出た。我ながらドン引きものだ、だから下手に喋らない方がいいんだって。封印しよ。
今世紀最大の醜態を晒した気もするが、誰もいなかったのでセーフだ、セーフ。
さて、改めて俺の念能力について見直そうか。
いま俺が出来るのは、纏と練と絶。加えて円と凝と堅。練習中なのが、周と隠。そして一番得意なのは流だ。
硬?発も必要になる知らない子ですね。
周と隠は純粋に最近始めたやつなので熟練度がまだまだなのだ。それでも、周の方は結構相性が良い。
どうやらガタガタの纏を直しているうちにオーラ操作に慣れてきたようで、他の技を習得する時もオーラを動かすのだけはスムーズにいった。
そんな俺に、操作系の能力。これはモノクロで無難にまとめたファッションから、流行も取り入れたオシャレファッションに昇格できる予感がするぞ。
いやぁ、まさに俺向きだ。きっとそうだ。ほら喜べ?
……正直に言うと、操作系の発が思いつかない。
この貧弱な脳みそからは、操作してみたいネタも出てこないのだ。
お前はなんの為にオタクやってきたんだ?こういう時くらいネタの一つや二つ出して欲しい。
まぁ、無茶を言っても無理なものは無理なので、普段の念の修行に、オーラ操作を入れて発の練習でもしよう。何かを思いついた時に実行出来る下地作りが大切だからな。
ほらビスケも言ってたよ、直感が大事だって。
その時まで焦らず地道に行くんだ。
そうだな、放出系が隣合っているしちょっと離れた所にあるオーラも操作できるように頑張ってみようか。
これで念能力の基本が出来ればソッコーで死亡することも減るだろう。
よし、力をつけるの具体的な目標は、応用技までの基礎習得にしよう。
この修行と並行してこの家の弱点でも探れば、ひー君に会える日も近づくはずだ。
出来ればひー君が念を習得する前に会う!
念について理解が深まれば、理屈屋でマイペースな兄の烙印を押されてしまうからな。
……それで言うと強化系のほうがよかったな。
【1984年1月21日】
「「「「「ご生誕おめでとうございます」」」」」
そう言って、クラッカー(この世界で初めて見た)を鳴らす使用人達。
広いホールのようなリビングに並ぶのは高級食材をふんだんに使った食事。
中央に集められた箱たちはいわゆる誕プレというやつだろう。中には子供に持たせるのは早いと思う品がいくつか混じっていたがな。
さて、ここでひとつ注釈を入れるならこれは俺のお誕生日会じゃないということだ。
俺、誕生日5月だし。
では、誰なのか。
「ありがとうございますわ。わたくしも、この子も大変嬉しく思いますの。今日はこの子の0歳のお誕生日を祝えて感激ですわ。」
この家のニューベビーのお誕生日会だ。
もはや、誕生日というより出産おめでとうの方な気もするが、やりたいと言ったのはあの義母なので、本人が満足していればいいと思うよ。
ちなみに俺の13歳の誕生日は特に何もやらなかった。むしろ、1ヶ月後にあったひー君の誕生日に合わせて手紙を送れるようお願いしただけだな。
それ以降はお願いしても送ってくれなくなったけどね。今年のお誕生日に合わせてまたお願いしようか。
義母と赤ちゃんの周りに使用人や、親戚の人達が集まっているのを見ながら隅で肉を攫っていく。
ニューベビーに会いに行かないのかって?
ひー君の時に赤ちゃんの可愛さを知ったから今回も見に行きたかったんだがな。
どうやら義母さまが俺に合わせたくないようでして、拒否られたんですの。
まあ、愛着もなにも湧いてないから、そうですかって引き下がったけど。
むしろ、これで後継者その2が誕生したんだ、手紙を送る前に上手く行けばひー君に会えるかもしれない。
俺は、いとこくんの今後を応援しています。A〇ジャパン〜。
あっ、この鴨肉うめぇ。ジビエだっけ?最高だな。
ムシャムシャし終わり、皿の中が空になると次の獲物を探す。
なにやら盛り上がっているらしい前方を気にすることなくステーキ肉を切り分けてもらった。
あーもう少し、厚めでお願いします。
「そうですわね、わたくしとあの人の子ですものきっと利発な子に育ちますわ!」
雑談でわいわいしていた所で一際大きく叫んでいるようだったが、俺は手羽先を綺麗に食べるのに忙しいんで、後でお返事しますね。
さて、ひー君と会うためにひっそり脱走しよう大作戦だがそのために必要な力はついたのか気になるだろ?
結論からいうなら、それなりに仕上がった。
実は、水見式をして発の系統が分かってからは更にサクサクいったんだ。やっぱり自覚して能力を使うのが大事なんだろう。
13歳になった時には基礎も仕上がって、1度動こうと思ったんだがひー君から手紙の返事も来ず、おっさんにそれとなく聞いてもひー君の様子を教えて貰うことは出来なかった。
それに、へそくりも溜まって、力もついたからいけるかと期待したんだが、おっさんにひー君への支援を続けて貰ったまま抜け出す方法が思いつかなかったんだ。
無茶をしてひー君を危険に晒す位なら、じっくり機会を狙うぞ。自分本位な作戦立案はもうしないって決めたからな。
そうして、待ちに待ったその機会が来たわけだ。
これは万全の準備をしてこの家から出よとのお達しだろう。
ちょっと贅沢を言うなら、万全な作戦の為に自分の実力が試せる相手が欲しい。この家、念を使える人居ないんだよね。
あと、このステーキも持って行きたいかな。
一通りの肉料理を食べて満足した俺は、そのまま自室に帰った。
※※※※※※※※※※※※※※
side???
薄暗い室内で、ガタイのいい男と少年が向かい合っていた。男性がソファーに座っており、2人の視線がかち合う高さだがどちらにも気負った様子はなく、淡々としている。
「天空闘技場はどうだった?」
「問題はなかったよ。少し時間はかかったけど。」
「そうか…、これからは仕事に復帰してもらうことになるだろう。」
2年以上会っていなかったとは思えないほど簡潔な会話だが、少年は特に気にしてないようだった。
少年は、長い黒髪を揺らしながら頷く。
「うん、わかった。」
「詳細は追って連絡しよう。」
簡潔なやりとりを終え、これ以上話すことがなくなると、少年はそのまま部屋を去った。
後日送られてきた資料には、国内でも有名な資産家一家のことが書かれていた。
当主と本妻、養子に入った子供、それと先日生まれた本妻の子の詳細が載っている。
最近出席した社交会など行動パターンが分かるものもあった。
依頼人は、一家全員分の依頼料を出してきたようなので少年の仕事は大忙しである。
(とりあえず、外出しない長男がやりやすいかな。)
ーーまぁ、順番も大差無いけど。
最近手に馴染んできた針を弄りながら少年は思案していた。
次回、ジールのもとに小さなお客さんが来ます。
ここまで読んで下さりありがとうございます。