口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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ヒソカの旅第二弾です。

よろしくお願いします。


会いたい人は決まってるよ?【中】

 ヒソカが魔女の家に住み着いてから暫くが経った。

 初めはトランプのきり方や持ち方から順番に、といっても時間がかかったのは初めのシャッフルの仕方くらいである。兄が見せてくれたものと、マジックに使いやすいものは別だったようで、癖を直すことから始まった。

 それが終わってからは次々にマジックの技術を仕込まれたが、ヒソカはさほど苦労することなく習得していき今に至る。

 

 途中、ユーリンがヒソカの習得の早さと手先の器用さを褒めていたが、ヒソカとしては兄の器用さを思い出し褒められる程では無いとも考えていた。

 一度その旨を伝えた時に、ユーリンは自身の言葉を否定されて不機嫌になることもなく笑っていたことがある。

 

 話の飛び方は相変わらずであったが、意外にもユーリンは真面目にヒソカの師をしていた。

 そんなユーリンが殊更上機嫌になるのは新しい薬草を手に入れた時と、ヒソカが兄の話をした時である。前者に至っては正に魔女の趣味だと言えるだろう。後者の意味は分からなかったが、ヒソカは気持ちよく兄の話をさせてくれるので特に気にしていなかった。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※

 

 ヒソカはいつもの様に大ぶりのバケットを少し離れた位置に置き、大通りの一角に立っていた。

 昼時を少し過ぎ、ゆったりとした歩調で石畳の上を通っていく人がいる中で、少し特別な日常の一幕を始めるのだ。

 

 既に半円状に集まっている人々は、目的の少年が現れたことに拍手喝采だ。

 木箱に上り、いくらか高くなった視線を確認したヒソカはそのまま客からトランプを貰う。

 我に我にと、差し出されたトランプの中から選ばれた青年は、握りこぶしを天高く突き出し喜んでいた。

 

 ヒソカはパッケージを開封し、ケースにハートのサインを書くとそれを青年に投げて返した。そのまま取り出しておいたトランプを混ぜると笑顔で喋り出す。

 

「今日も見に来てくれてありがとう。まずは、いつものマジックをしようか。」

 

 扇状に広げられたカードを差し出され、最前列にいた女性はその中から1枚のカードを抜き取る。

 

「覚えたかな?それじゃあ誰かのポッケに入れてあげて。」

 

 その言葉に周りは期待するように女性の方を見る。少し悩む素振りを見せた後、女性は2列目に立っていた奥方のエプロンにそれを入れた。

 

「ちゃんと確認したかい?」

 

 掛けられた言葉に、頷き返した2人の表情はわくわくしたもので、一連の流れを見守っていた観客も期待したようにヒソカの方を見た。

 

「それじゃあ……。」

 

 パラパラと両の手の間を移動するトランプに観客は注目する。手遊びのように混ぜられたトランプの山が、ある一点でピタリと止まった。

 

「うん、あなたが彼女にプレゼントしたのはこのカードだね?…ほら、しっかり渡さないと僕のところに戻って来ちゃうよ。」

 

 一度、最前列の女性に見せてから全体にも見えるようにトランプを掲げる。見せられたカードに覚えのある奥方は慌ててエプロンのポケットを漁るが、その中には何も入っていない。

 

「まぁ!本当に無くなってるじゃない!!」

 

 待ってましたと言わんばかりに湧く歓声、奥方はエプロンを脱ぐ勢いで確認をするが、渡された筈のトランプは出てこなかった。

 

「それじゃあ次のマジックも……。」

 

 何が起こるのかと、ヒソカの右手に視線が集まった。そこには指の隙間に挟まれた4枚のトランプが綺麗に並んでいる。

 

「これを使って………と、思っていたけど無理みたいだね。」

 

 軽く手を振った一瞬で、ヒソカの手からトランプが消える。確認する様に手を裏返してみても無くなった4枚のトランプは出てこない。

 

 盛り上がる歓声も気にすることなく、流れるようにカードを扱う。左手のヤマから吸い込まれる様に右手へトランプが飛んでいった。

 

「そしたら、そこの君に手伝って貰おうかな。」

 

 呼ばれた少女はそわそわしながら隣の木箱に上ると、ヒソカからトランプを1枚渡される。しっかり持っているように言われると、少女は両手でトランプの裏が上になるように持った。

 

「減った分は、増やしておかないとね。」

 

 そう言って弾かれたトランプに、少女は違和感を覚える。

 

「それじゃあ、今度はそれぞれ片手で持っててくれるかい。」

 

 手の中のカードが2枚に増えていたのだ。少女は驚きながらも言われた通りに1枚ずつトランプを持ってヒソカの方を向く。

 それをリズムよく弾いてみせるとさらに4枚に増えたトランプが少女の手の中にあった。トランプを受け取ったヒソカは軽い調子で喋り続ける。

 

「まあ、僕も無くなったものは戻せないから増やすしかないんだけどね。」

 

 観客に見せられたのは同じ絵柄のトランプが4枚。あるはずも無いそのカードに一同がどよめき、直後割れるような拍手が響いた。

 

 その後も、リズムよく進んでいくヒソカのマジックに足を止める人が増えていき、大通りの半分を塞ぐような人々で溢れかえる。

 

 1ヶ月程前に現れたマジックの上手い少年。

 人々は、見目好い少年が道端で披露する巧妙なマジックに惹かれていた。

 第二の享楽の都と言われているロンマーナでは、数多くの大道芸が日々披露されている。その殆どはパフォーマンスを見るだけのものだったが、ここにきて観客がショーに参加出来る魅力的なものが現れたのだ。

 トランプを扱うその技術も文句なしの腕前となれば、ここら一帯の話題をさらうのに時間はかからなかった。

 

 

 

「じゃあ、皆もこのカードを覚えたかい?」

 

 1時間のショーもいよいよ大詰めとなり、最後のマジックが披露される。

 

 ヒソカが観客にだけ見えるように、カードの絵柄を見せるとそれをヤマの中に仕舞った。ざっくりと混ぜられたトランプのヤマを高く掲げると、それを勢いよく真上に投げる。

 当然カードはバラバラになって落ちてくる。その中から1枚だけ掴むとそれを観客の方にむけ、演技じみた身振りで幕を閉じる。

 

「今日のラストはハートの3。ハートのカード達と一緒に貰っていくよ。」

 

 そう言って息を吹きかけた瞬間、ハートの3のトランプはヒソカの手の中から消えた。

 木箱の周りに落ちているトランプの中からもハートのカードが無くなっており、派手な幕引きに観客は金貨をバケットへ放り込んだ。

 

 

 「ありがとう。また明日見に来てね。」

 

 木箱から飛び降りると、ヒソカはそのままバケットを持って路地裏に消えていった。

 

 

 

 

 

(ふふっ、今日もマジック楽しかったなぁ。)

 

 跳ねるような歩調に合わせてバケットが揺れる。路地裏を迷いなく進んでいくヒソカは、今日の観客の表情を思い出しながら笑っていた。

 

 自身の一挙手一投足に視線を奪われ、信じられないものを見た時のあの反応。それを見るのが何よりの楽しみであった。エンターテインメントを求めている観客との関係は正にwin-winなものである。

 

(兄さんも驚いてくれるかな。あぁ、早く見せたいな。)

 

 いくつかの角を曲がり、大差ない建物が並ぶ中、ヒソカはひとつの階段を上り始める。ボロく、今にも底が抜けそうな足場を上り切れば、そこはヒソカにマジックを教えている魔女の家があった。

 

 

 

「なんだ、今日のパフォーマンスは終わったのか。せっかく冷やかしに行こうと思ってたのに。」

 

 扉を開けた先には、とんがり帽を被ったお出掛け用の格好をしたユーリンが立っていた。言葉の通り、ヒソカの様子を見に行こうとしていたのだろう。

 

「いやー残念だ。それで?稼げたのかい?」 

 

「うん、大成功さ。」

 

 住み始めてからも一向に片付く様子のない部屋の中、テーブルの方に向かうヒソカの後をユーリンは手元のバケットを覗き込みながら付けていく。

 

 ヒソカが施設から持ってきた鞄を取り出しながら返事を返すと、ユーリンはそれに薄い反応をしながらこっそりバケットの中を覗き込んでいた。

 

「……ふむ、やっぱり増えてるな。」

 

「なにが?」

 

 金額のことだろうかと思いながら、ヒソカは今日の稼ぎを仕舞うための袋を出してユーリンの元に近く。すると彼女は半歩ずれてバケットの中が見えるようにヒソカを前にやった。

 

「ほら、これだよ。君はこいつが投げ入れられたところを見たかい?」

 

 そう言って見せられたのは青々しい葉っぱだ。金貨や札の間に埋もれる形で顔を覗かすそれに見覚えはなく、何とも奇妙な光景に思えた。

 偶然入ったと言うには多すぎる量だが、ヒソカはバケットを持ち帰る際に葉っぱが入っていることに気づかなかった。否、ヒソカが持って帰ろうとした時には入っていなかったはずだ。テーブルの上に鎮座したバケットの中は、十分の一が葉っぱで埋まっている状態だ、流石に気づけないはずがない。

 

 とりあえず眺めていても仕方がないとバケットから葉っぱを取り出し、テーブルの上に適当に避けていく。ジャラジャラと音を立てながらバケットの掻き回して、ある程度取り除けたら袋に詰める。

 

 テキパキとヒソカが作業をする横で、ユーリンは避けられた葉っぱをつまみ上げ何やら思案しているようだった。ランプの光に照らしてみたり、軽く火で炙ってみたりと、傍から見れば好奇心のままに実験をする子供のように見える。

 すり鉢で潰され粉々になった葉っぱがゴミ箱に捨てられ、また葉っぱを後ろの机に持っていく。特に興味もないため、ヒソカはその行動に質問することなくお金を詰める作業を進めていた。

 

 ここに来てから約2ヶ月、ユーリンの行動に慣れた結果である。むしろ、彼女が喋らずに黙々と何かをやっている時の方が会話に振り回されず楽だった。

 

 バケットの中身も殆ど無くなってきた頃、十数枚目の葉っぱをユーリンが持って行った。そして袋の口を結ぼうとした時、ヒソカは背筋が粟立つような気配を感じた。

 

 何事かと後ろを振り返えると、その気配は消えており、変わりにユーリンが夏場のゴミ箱の底にGを見つけた時ような表情をしていた。先週見たので間違いない。

 

 

「どうしたの、殺虫用の薬草持ってくる?」

 

 項垂れるように、顔を覆いながら机に撃沈していたユーリンは髪をバサつかせながら否定する。

 普段、ネガティブなリアクションなど見せないユーリンが明らかにショックを受けている様子に興味を持ったヒソカは、練習用にトランプを出しながら片手間で話を聞くことにした。

 

「…うん………じゃ…………ねぇ、く…が!!」

 

「ねぇ、聞こえないんだけど。」

 

「私のうん……をじゃ……いい…ねぇ、クソが!」

 

「あぁ、うん。もういいよ。」

 

「私の運命の出会いを邪魔するとはいい度胸じゃねえか、クソが!!!」

 

 だからもう言わなくていいと言ったじゃないか。ヒソカは、その言葉を飲み込み説明する気のないユーリンに冷たい目線を送る。

 

「…それで、何か分かったの?」

 

「それなんだが、君は長くてもあと数週間の命になってしまったようだ。」

 

「……。」

 

「……分かったよ説明すればいいのだろう!?君はあと一週間程稼いだらこの街を出ていきたまえ!!」

 

 教え子からの冷たい視線に耐えきれなかったのか、はたまた説明する気分だったのか珍しく話が飛ぶこと無く会話がなされた。

 

「ううー、しくしく。後一週間で会えなくなるというのに君は冷たい視線を送ってくるなんて。」

 

「何で一週間後に出発することになるのさ。」

 

「悲しくて悲しくて、偉大なる魔術士も心が痛んでいるぞ。」

 

 どうやら気分が乗ったから説明しただけらしい。まぁ、視線ひとつで会話出来るなら今までこんなに苦労はしなかったとヒソカはそこまで気にすることなくトランプをきる。

 

「葉っぱが入ってたのと何か関係があるんでしょ。」

 

「まあ、端的に言えばそうだな。」

 

 泣き真似にも飽きたのか、ユーリンはムクリと起き上がり手に持っていた葉っぱをクルクル回しながら普通に話し始めた。

 

「その葉っぱにはどんな意味があるの?」

 

「いんや、意味は特に無いけど……。面倒事の前触れ的な?君はまだ分からなくていいよ。」

 

「へぇー。それってお姉さんが偶に出してる気配と関係ある?」

 

「…………。」

 

 ユーリンが弄んでいた葉っぱは、ヒラヒラと机の上に落ちた。

 

「少年!君のお兄さんに会えたらよろしく言っておこう!!」

 

 話はどうやら終わりのようだ。キッチンへ向かっているユーリンはスキップしながら料理の準備を進めていた。なんとも器用なことである。

 

 それにしても、とヒソカはトランプを並べながら考える。ユーリンは先程の質問に答えたくなかったのか、単に彼女の中で会話が終了した可能性も否定出来ないのが難しいところだ。

 

 丁度いい機会だからと聞いてみたが、結局ゾクゾクする気配の正体は分からずじまいだった。しかしユーリンの話が飛ぶ時は、兄さんの話題になっていることが多い。もしかしたら兄さんが答えを知っているかもしれない。

 ただの勘であるが何故か間違ってる気はしなかった。

 

 

(それはそうと、兄さんによろしく言ってあげるのは僕なんじゃない?)

 

 

 綺麗に並べられたトランプは、無造作に混ぜられていたにも関わらず、Aから順に揃っていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※

 

 

「それじゃあ僕は行くね。」

 

 いつもと同じように玄関に立ったヒソカは、いつもより少し多い荷物を持って声を掛けた。

 

「おぉー教え子よ!!強く生きるのだぞ!」

 

 テーブルに座ってジャムパンを片手に持ったユーリンは間抜けな声で送り出す。にぱっと笑いながら、見送りのポーズとして手を振っているがそれはパンを持っている方の手であった。

 せめて置いてからバイバイすればいいのにと思うが、思うだけである。ヒソカは笑顔で手を振り返してドアーを潜った。

 

 

 

 ヒソカ、2度目の旅立ちである。

 

 

 

 感動的な別れなど無く、早朝に家を出たヒソカはそのまま国境沿いに立っている関所まで行き出国の手続きを済ませていた。

 

 出発が決まってからも、ユーリンとヒソカの生活に変化は無く一週間で旅程に必要な残りの資金も集めることが出来た。

 

 しかし、バケットの葉っぱの量は日に日に増えていた。勿論気になったヒソカはお金が投げ入れられる時にバケットの方を見ていたが、葉っぱが入っていく瞬間は目撃出来なかった。それでも家に着いてからバケットの中を見ると、葉っぱが混ざっているのだ。

 昨日なんかは、半分が葉っぱで埋まっており、今までより金額も減っていた。どう考えても嫌がらせだが、ユーリンはあの日以降は反応しなくなったし、ヒソカもマジックが出来れば十分だった。今までの稼ぎでお金が貯まっていたのもあるだろう。

 

 大してダメージも無い仕掛けだったが、そのタネは気になる。僅かに後ろ髪を引かれる気持ちでヒソカは次の街に向かった。

 

 

 

 

 

 ヒッチハイクで車を捕まえたり、圧倒的に増えたお金を惜しみなく使って町を渡り歩いていく。

 大陸の海岸沿いに行けば方向を間違えることも無いだろうと、雑な世界地図で旅を続けるヒソカは気分で目的地を選んでいた。いや、半分は流されるままに着いたところを目的地と呼んでいた。

 

 

 

 そのおかげで、捕まえた車が山奥に突っ込み、布を体に巻き付けただけの個性的な部族に遭遇したこともあった。そのまま集落に招待されて三日三晩焚き火を囲んだ宴に参加し、山の中で狩ってきたであろう肉に豪快に齧りつくワイルドな体験をしたのだ。

 

 

 

 半月前には高層ビルが並ぶ街に着き、せっかくだから何か見ていこうかと思った時に辺りが真っ暗になる事もあった。

 時間は昼頃であったし、青空の広がるいい天気だと思っていたのだが、それは覆われたドームに着いているパネルが見せていた空であり、ヒソカが遭遇した暗闇はその空が一気に塗り替えられて起こったものだった。

 

 無論、適当に流れ着いた街のことなど知らないヒソカは突然の事に驚き、街のど真ん中で立ち尽くしていた。周りを見ても混乱した様子のない人々ばかりでどうしていいか途方にくれた時、爆発音と共に辺りが一気に明るくなったのだ。

 

 音に驚き肩を跳ねさせたヒソカはその正体を探ろうと顔を上げ、笑みを見せていた。

 周囲が明るくなったのは空が戻ってきたからでは無い、建ち並ぶビルのひとつひとつがライトアップされ、それぞれがレーザーライトを出し、ある一点を飾り立てていた。爆発音の原因らしき白煙もその一帯から上っているのだ。

 

 何か面白いことがあるのだろうと、一直線にそこへかけていけば、多くの人でごった返した空間が広がっていた。空から紙吹雪が降っており、爆音ともいえる音楽が街全体を揺らしている。

 スポットライトがあたっているかのように明るい大通りは、ヒソカが立っている地面よりも高くなっており、そこを数人の人がスマートに歩いていた。

 

 長いランウェイを歩く美男美女に街の人々は興奮しており、ヒソカも街ひとつ使ったショーの賑やかさにテンションを上げていた。

 

 毎日ゲリラ的に行われるファッションショーが面白く飽きるまで何日も滞在したことがあった。

 

 

 

 他にも大の大人より2倍ほど大きい、もはや小屋のサイズまで成長した羊の牧場に行ったこともある。

 町というよりは、牧場を中心とした土地にぽつぽつと家が建っているような場所だったが、その毛玉の大きさが気になっておもわずバスを降りてしまったのだ。

 親切なおじさんに実際に羊を見せてもらった時には見上げすぎておもわず後ろに転びそうになった。

 大きい羊という意味の“ゴースシャフ”と呼ばれる品種らしい。名前の付け方が安直だと思ったが言わないでおいた。その日の夜に泊まった藁のベッドは少し獣臭かったが、ふかふかで寝やすいものだったのを覚えている。

 

 

 

 とまあ、ここまでの旅の記憶を思い出せば分かるようにヒソカは旅を満喫していた。いくらか不満な部分もあるが、初めて見ることには胸踊らされるものばかりだった。

 

 きっと、ジールがこのことを知れば、下唇を噛みながら血の涙を流していただろう。

 

 弟の変態化に怯えながら、念能力を磨き、そろそろ頭部の草を燃やし尽くしてやりたいぐらい嫌っているおっさんと暮らしているのだ。ストレスマッハの状態である。

 ヒソカが旅の様子を伝えようなどと手紙の事を思いつかなかったのは幸いだった。

 もし知っていたらやけくそで家中の花瓶を割っていたかもしれない。きっとその後我に返って賠償金の文字に震えていただろう。

 

 

 

 

 

 そしてヒソカの長い旅も一区切り打たれた。住んでいた家のある街にたどり着いたのだ。

 

 約1年ぶりの我が家に足を踏み入れる。

 誰かが掃除をしているのか、少しだけ積もっていた埃が舞い上がり、ヒソカはひとつくしゃみをした。

 

 

 落ち着く我が家で一息着く間もなく、ヒソカは玩具の箱をひっくり返し始めた。ガラガラと音を立て散らばる玩具に目もくれず、そのまま絵本の棚に向かう。バサバサとたたき落とすように出された絵本に目を向けると、今度は丁寧にページを捲り始めた。

 

 

 

「……あった。」

 

 

 兄のお気に入りの絵本に挟まれていたのは1枚のメモ用紙。

 別にヒソカは気が触れたわけでは無かった。ただ兄なら何か家に残しているのではないかと、それを探していたのだ。

 

 何事もヒソカより上手くやる兄だからこそ。闇雲に探し回らず、家に向かえばいいとわかっていたヒソカが旅を楽しむ事が出来たのだ。

 

 ゆっくりと、四つ折りになっている紙を開く。そこには手紙と同じ文字で、ひとつの住所が書かれていた。

 確認するように文字をなぞると、一気に力を抜いて座り込んだ。

 

 

 

 

(ははっ、やっぱり兄さんは凄いや。……早く会おうね。)

 

 

 

 

 舞った埃が落ちてくる中、ヒソカは満足気に笑っていた。

 




ユーリンさんには、また登場して欲しいところです。
次回でひー君の旅は終わります。

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