口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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お兄ちゃんがはっちゃける回です。

よろしくお願いします。


仕込みは上々ですよ?

 若葉が風に吹かれる爽やかな朝。だんだんと人々が起き始め、街中ではその日の意気込みを入れながら歩いていく人の姿が見える。

 

 そのうちの街道ひとつでは、育ちの良さそうなお坊ちゃんが屋敷の前に立ち尽くしている。

 その顔はどこか複雑そうなものだった。

 

(……ついにこの時がやって参りました。)

 

 しかしその表情は一瞬のものであった。少年は出てきた門を振り返り、そして感情のままに中指を突き立て、舌を出し全力で威嚇し始めたのだ。

 

(おっと、誰かに見られる前に退散しなければ。)

 

 3秒程そうしていたかと思うと、足元に落ちている鞄を担ぎあげ、街の外へ向かって歩き出した。

 血のにじむ頬も気にせずに意気揚々としている。

 シックな石畳を踏みながらご機嫌で歩く少年の名はジール。家名は先程無くなったばかりである。

 

 

 

 その経緯はジールにとってあっさり受け入れられるものであったが、一般的に穏やかとは言い難い出来事が起こっていた。

 

 

 

 事の始まりは昨日の朝、ジールが新聞を読んでいるところにジブット…ジール風に言うなら胡散臭いおっさんがやってきたのだ。

 

 暫く顔を見せていなかったおっさんが、胡散臭さを割り増しにして書類を渡してきた。もちろんジールはこの時点で嫌な予感しかしなかった。部屋の外にある複数の気配も含めて、心のシャッターを下げてお引き取り願いたかったが、相手がそれを汲んでくれる訳もなく話は進んでいったのだ。

 

「君の役目は終わったんだ。ラケルスス家の輝かしい未来のためにその身を捧げられるのだよ。ああ、よかったね。」

 

 まず何を言ってるのかわからなかったが、数秒後ジールは自分がお役御免でここを出られることを悟った。

 節々にウザイ言い回しがあった気もするが、そんなものは些細なことだ。ジールは素敵な窓から小動物に話しかけプリンセスばりにキャッキャしたい心境だったが、自重した。

 目の前では、外戚の血筋がどうのラケルススの歴史がなんちゃらと語っているおっさんがいたからだ。

 まあ、お気づきの通りジールは半分程聞き流していた。その話はもう何十回と聞いているのだ、お腹いっぱいである。

 

 頬杖をつきたいのも我慢して、お利口に座っていた訳だが、ある1点でその身を乗り出し口を挟んだ。

 

「病死と次男の継承権の繰り上げですか?」

 

 立ち上がった拍子に椅子が音を立てて倒れた。

 ジールの慌てようを見て愉快げに笑みを浮かべたおっさんは鷹揚に頷いて声を張り上げる。

 

「ああ、我が家程の名家ともなると長男が当主になれないなど体裁が悪くなってしまう。息子に後を継いでもらう為にはこうするのが一番いいのだよ。」

 

(そうですか。俺的には継承権とかいらないんでラッピングしてお渡ししたい気分なんだが。)

 

 シンプルな話で終わることはないようだと、素敵に見えていた窓辺に死んだ目を向ける。

 

(小鳥が俺を助けてくれるとかないだろうか。)

 

 立ち尽くしたままのジールを見て何を思ったのか、どこか慰めるような……いや、敗者を見るような視線と共におっさんは言葉を続ける。

 

「わかるよ、ラケルススを継ぎたい気持ちはよく分かるが……、所詮君は外戚なのだよ。」

 

 おっさんがそのまま右手を上げると、男達が勢いよくドアを開けなだれ込んでくる、その数はざっと7人。だいたいはジールも屋敷の中で見かけたことのあるお抱えの護衛だった。

 黒い服を着た男達の手には銃が握られており、ジールがそう来たかと眺めている間に他の使用人達は廊下に避難していた。

 

「安心してくれたまえ、君は既に病死と結果が出ている。どんなに汚くなったとしても世間は美しい体で死んだと思ってくれるだろう。………撃て。」

 

 

 

 鼓膜を割りそうな激しい音と共に、体に強い衝撃がはしる。7人の連携がとれた攻撃は銃弾を切らすことなく標的に当てようと硝煙を発している。

 一発では満足出来ないのか銃弾が切れるまで撃ち、全員が構えを解いた時、その違和感に気づいた。

 

 標的は損傷した様子も無く立っている。周りの床が抉れ、座っていた椅子も壊れている中で1歩も動くことなく耐えきったのだ。

 

 反射的に頭を守るように腕で庇う動作をしていたジールは、止んだ音に終わったことを察し普段の立ち姿に戻っていた。

 騒音が無くなり、自然から聞こえてくる音が部屋を包んだ。

 

(…………知ってた。)

 

 エグい魔獣や、ブラックリストが存在する世界で旅をしようと準備してきたのだ、未だ納得のいくものでは無いとしても、銃弾のひとつも防げないようでは流石に拗ねてしまうだろう。

 攻撃手段が割れている状態でベラベラ話しているのだから、その間にオーラを練ることなど簡単にできる。正面から対面する形になっているのもよかった。堅と流で前面だけ固めれば良いのだ、これくらいは朝飯前である。……本当にご飯の前だった。

 

 おっさんは計画が崩れて焦ったのか、そのままジールを連れていくように指示を出し、地下の部屋に押し込んだ。

 ジールの足首と壁を鎖でつなぎ止めると、残りの黒服達が入ってくる。

 それからは色々な武器を使ってジールを殺そうとしてきたのだが、“周”もされていない金属如きに負ける訳もない。

 もはや滑稽な見世物のように思えてきたが、ジールは逃げることなくその見世物を見続けていた。

 

(ひー君への支援を続けてくれるように、せめて言質だけでも取っておきたいんだよなぁ。)

 

 それがどれだけ効力があるのかは未知数であるが、何も手を打つことなく屋敷を出ることは出来なかった。

 

 地面の下にあるからか、ジメジメとした空気に冷たい石の床が足を冷やしていく。

 前に立って指示を出し続けているおっさんは上着を着ているが、ジールは部屋着のままであった。たまに入ってくる風にくしゃみを零していると、どうやら日が沈んだようだ。

 地下であるため時間の流れは分かりにくかったが、外から入ってきたおっさんの手にもライトが握られていたのだ。

 

「……ヒソカへの支援を続けて頂けるのなら、僕は黙ってこの屋敷を出ていきますよ。」

 

「………………やれ。」

 

 指示を受け振り下ろされた鉄の棒は、ジールの腕に当たって曲がった。

 銃弾は既に使い切り、刃物も軒並み折れていた。偶に切り傷を付けることに成功したが、その傷口は命を奪うのには到底至らないものばかりである。

 

 そうして日が沈んでからも、ジールへの攻撃は続いたが結果は芳しくなく、朝日が昇る頃にはジールも飽きてきており欠伸をしていた。

 初めは他人の攻撃に身を守る構えをしたし、多少もしもを考えて怖がったりもしていたが、一向にダメージがこないとなるとどんどん気が抜けていった。

 この時は足元に散らばる銃弾や、剣などを眺めながら朝食を食べに行ってしまったおっさんを待っていた。

 

(夜通しやっても無理なんだからそろそろ諦めて欲しいんだけどなぁ……俺もオーラが枯渇しそう。)

 

 入ってきた時よりも湿度が増し環境は最悪であったが、地上の入口から小鳥の囀りが聞こえてきて、僅かな癒しに体の力が抜けそうになる。しかしそれを狙って新しく銃を向ける者はいなかった。

 

 しばらくすると、革靴が石畳を叩く音が聞こえてきた。疲弊仕切った黒服はその重い足をなんとか動かし壁に並ぶ。僅かな間の後に姿を見せたおっさんは目の下が窪んでおり、シャツもよれていた。

 着替えることさえ忘れているようで、これはそろそろ終わりにできるかもしれないと期待させるのには十分であった。

 

「…………あの時の言葉を受け入れても良いだろう。」

 

 水溜まりが出来ている部屋の中を歩きながら、ジールとの距離を詰めてくる。

 

「施設にいるヒソカ君が生活出来るよう支援しよう。その代わり君がラケルスス家を名乗ることは今後一切許可しない。まあ、社会的には既に死んでいるので戯言として流されるのが落ちだろうが。」

 

 そう言って渡されたのは誓約書。

 書かれていることはおっさんが言ったことと違わず、後はジールがサインをすれば終わりとなる。

 

 ジールは朝がけにあった水責めにより前髪から水が滴っていた。かきあげるように水を払い、ペンを受け取ると濡れないように気を使いながらサインをする。

 

 成立した契約に、安堵したような息を吐きながらおっさんは書類を懐に仕舞い、黒服に足の鎖を解くように指示を出した。

 ジールは黒服が鍵を持ってくることも待たず、近くにあった鉄柱を振り下ろし鎖の部分を破壊する。その後は足首の枷の部分を手早く外しスタスタと階段を登っていった。

 

 (寒っ、こちとら服が濡れてんだよ。さっさと日光浴びさせろ。)

 

 二の腕を摩りながら外を周り、自室まで向かっていく様子はいささか間抜けであった。

 

 ちなみに服が濡れているのは半分自業自得だったりする。

 日が上り始めた頃、黒服が持ってきた大きなバケツに顔を押し付けられた訳だが、切られていた頬の傷が沁みて悶えた結果、バケツの側面にひざをぶち込みバケツを大破させたのだ。

 当然中に入っていた水は流れ出し、それがジールの服にかかることは分かりきった事である。

 

 

 半乾きのまま自室に戻ってきたジールはクローゼットを漁り新しい洋服を引っ張り出した。

 

 (まあ、一晩で終わったのだから良しとしよう。ひー君を迎えに行くのにも最低限の条件は揃った。)

 

 そのまま床下の麻袋を取り出し、中身を確認すると最後に金庫の中から名刺を取り出す。破損しないよう丁寧に鞄に詰め、最速で準備を終わらせたジールはおっさんの気が変わらないうちに屋敷を出ていくことにした。

 

 振り返った部屋の中は随分と寂しいものだ。新聞の切り抜きやお気に入りの本は、従兄弟が生まれてから旅立つ日のために小分けにして家に送っておいた。

 愛着も湧かない部屋に別れを告げ、屋敷の門を潜る。

 

(出来れば戸籍は残しておいて欲しかったが、あの様子じゃあ既に手続きも終わってただろうし……あぁ、おっさんの思い通りになったのが癪だ。)

 

 僅かに騒がしい屋敷を背に、ヒソカを迎えに行ける嬉しさと、おっさんの安心した顔を思い出しもう少し粘ってやろうかという気持ちが湧いてくる。

 

 そして吹っ切れた勢いで、中指を突き立て舌を出すと、荷物を持って歩き出す。用意しておいた報復も思い出し気が晴れたジールはヒソカを探す旅へと繰り出した。

 

 本人は大して気にしていないが、相手の都合で社会的に殺され、殺人未遂までいったのだ。一般的には訴訟しても良さそうな字面だが、本人の被害は今のところ擦り傷、切り傷のみであったためそこまで気にしていなかった。

 

 ……そう、“今のところは”だ。ひー君に会えると気分が浮ついているジールは事の重大さに後ほど気づくこととなる。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※

 

 

 街の外までやってきたジールは、列車に飛び乗りミンボ共和国に向かって西に進む。

 

 三等席と座り心地はお察しの席であったが、ジールのテンションは過去最高を叩き出していた。

 列車の窓を開け頬杖をつくと本人的には満面の笑みで、傍から見れば多少口角が上がっている程度に微笑みながら流れる景色を追っていく。

 

(風が気持ちいい、素晴らしい日だ記念日にして毎年祝っても良いくらいだぞ。)

 

 生憎とカレンダーは持っていなかったが、頭のメモ帳に二重丸をつけておいた。

 これから毎年ケーキを用意して祝うだろう。ジールは意外にも有言実行タイプの男だった。

 

 1日以上何も食べておらず、空腹に耐えかねたジールが車内の弁当を買ってみたり、時々変わる隣席のお客さんと会話(ほぼ相槌)をしたりと列車の旅を満喫した頃、高く鳴った鐘が列車の終着を告げた。

 

(今日は、このまま宿を探して明日にでも入国の準備をーーー、)

 

 ジールはそこではたと動きを止める。

 

(入国って、パスポートとかいるのかな??)

 

 前世のリアル知識を引っ張り出しながら、ミンボへの入り方を考える。ついでに原作の話も思い出してみたが皆ハンターライセンス持ちで入国手続きの参考にはならなかった。

 

(書類上で死んでるって事は……まさか出国もできない!?おいおい嘘だろ、オイ。)

 

 街灯が働き始めた時分、ジールは駅のホームで項垂れていた。どうやらやっと気づいたようである。

 

 列車の乗車券ぐらいは誰でも買えたが、国の移動となるとそうもいかない。浮ついていたまま役所で怪しまれることもワンチャンあったが、それだけはギリギリ回避出来た。

 とりあえずは宿を取ろうと、ナメクジのように歩き出したジールはなんとか方法はないのかと頭を働かせるのであった。

 

 

 

 そうして翌日、ケロりとした顔のジールがベッドの中から出てきた。

 世界を跨いでもそのパッションで気持ちを切り替えた男である。ただいま素敵な世界の旅をしているジールに死角は無かった。

 

 まずは周辺の地図を手に入れようと街の雑貨屋まで赴き、無事に土産用の大きめの地図を購入したのだ。……密入国する気満々である。

 

(いやぁ、良心は痛むけどね?しょっぴかれる身元も無いんだから一回くらい良くない?)

 

 昨夜散々悩んで出た結論がこれだ、徹夜で作戦など考えるからである。

 

(少し遠いけど、こっちの森からなら通れるか?)

 

 崖の高さにもよるなぁ等と、宿の部屋でルートを書き込んでいく。その目元にはバッチリ隈が出来ていた。一晩殺人ごっこに付き合って、パスポート問題に悩んだので実質二徹。旅のテンションでそれに気づかないジールは、完成したロードマップを高々と掲げ笑っていた。

 

 寝ろ。

 

 

 

 

 

 完成した地図は丁寧に鞄へしまい、街の外れまで行くバスを探しはじめたジールが、ふと空を見上げると真っ白な鳥が群れで飛んでいく姿が見えた。

 

 高いところを飛んでいるのにはっきり見える姿はきっと近くまで行けばとても大きいのだろう。

 じっと見つめるジールなど気にも止めてい無いように、大きく羽ばたくと鳥たちは東の空へ消えていった。 

 

 本人は気になることでもあるのか暫く消えていった空の方を見ていたが、その後直ぐに目的を思い出し慌ててバス停の方に走って行った。

 

 

 

 

 

 そしてバスの中で昼寝を挟みすっきりしたジールは、着々と密入国を果たしていた。どうやら疲れも取れてすんなり入国出来てしまったらしい。

 

 それと、多少の罪悪感も取り戻したのか国境から距離をとりながら旅を続けていた。

 今手に握っているのは屋敷にいるうちに書き出していた施設の場所が書かれた地図である。

 

 バーガーにかぶりつきながら、先程見てきた施設にバツを付ける。

 

(…これで3つ目。まだまだ候補があるとはいえ見落としが無いか不安になってくるな。)

 

 指に付いたソースを舐めとり、セットのコーラを飲み干すと、トレーを返却して店を出る。

 入国問題で対おっさんの報復スイッチを押してしまおうかと考えるくらいには(一瞬)落ち込んだジールだが、入ってしまえばこちらのものだと意気揚々さを取り戻していた。

 

 時刻ピッタリにやってきた相乗りの馬車に乗り込んだジールは途中で乗ってきたもりもりマッチョに感動しながらも旅を続ける。

 

 

 

 

 

 更に時は過ぎ、ジールが記念日を作ってから3ヶ月が経とうとしていた頃のこと。夏真っ盛りの季節であるが、最近やってきたこの辺は気候が涼しいものらしくジールは快適に過ごせてい、

 

(あぁ!痛い!!くっそ、足の骨引っこ抜いてやろうか!?)

 

 快適とは少々かけ離れた生活をしていた。

 

(耐えろ耐えろよ。これは必要なことだからな。)

 

 野宿をしていた寝袋から飛び出ると、そのまま木の間を転がり回る。

 

(まじでふざけんなよ成長期……!!)

 

 そう成長期、旅の途中だろうがなんだろが構わずやってきたそれにジールは完封されていた。

 小さい頃から高身長を目指し、早寝を心がけ肉を食べまくる。せめて原作のヒソカよりは大きくならないと格好がつかないだろうと、結構涙ぐましい努力()をしてきたわけだが、遂にまあまあ強烈なものがやってきたのだ。

 

(思ったよりも早かった……、まだ14歳ですぞ?プロテインか?空気中プロテイン効果か?)

 

 主に痛むのは足首。夜なんかは痛すぎて逆に折ってやればいいのでは?なんて思うくらいには悩まされていた。

 

 日中はマシになるのでちまちま旅程を進めている訳だが、成長期がやってきて早半月。涼しいこの街に着いてピークがやってきたジールは確実に身長が伸びている。

 

(これが終わったら、絶対測りに行ってやる。こんだけ痛いんだからデカくなってなきゃマジでキレるぞ。)

 

 なるべく冷やさないようにしながら寝袋に入り込んで更に数日。身長は……、

 

 

 

 

 

 165cmだった。

 

(……、アンコールお願いしまーす!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅の醍醐味である紆余曲折を経て、野郎の成長期の遅さに希望を託したジールは2桁目に入ってきた施設探しを再開していた。

 

 

「……少しいいだろうか。」

 

 大きな街の隣りにある孤児院までやってくると、柵で囲まれた外から中の様子を伺う。

 院の庭にあたる部分で鬼ごっこをしている子供達を呼び止めると、しゃがみこみ視線を合わせた。

 

「…大人の人はいるか?」

 

 知らない人を怖がっているのか、一定の距離から近づいて来なかった子供達だったが、要件が分かるとダッシュで建物の中に入っていった。

 仕事の速さに感心する反面、逃げられた気がしなくもないジールは、膝の土を払いながら門の前で待つことにした。その顔は少しだけ寂しそうである。

 

「あの、何か御用でしょうか。」

 

 暫くして出てきたのはエプロン姿の女性だった。何処か怯えたように客人に対応する様は見ているこちらが心苦しくなりそうだ。

 

「……難しいことでは無い、ただ訪ねたいことがあるのだが。」

 

 背の低い門越しではあったが、体の向きを直す。

 

「ヒソカという少年はこの施設にいるか?」

 

 ヒソカという単語を聞いた瞬間、女性は一瞬で青ざめ小刻みに震え出した。

 

「申し訳ありません。私達の不注意で、探したのですが既に姿は見えず、本当に申し訳ありません。すみません、すみません。」

 

 血の気の引いた顔を見て声をかけようとしたところで、女性は勢いよく頭を下げそのまま震えた声で謝り出した。

 

「すみません。どうか、取り壊しだけは…。お願いします。」

 

「待ってくれ。俺は責め立てに来たわけでは無い。」

 

「……えっ、」

 

 頭を上げさせようと、肩を掴んで止めれば女性はそのまま見上げるようにジールの方を向いた。その顔は依然として怯えの色を見せているが、身体の震えは止まっていた。

 

「ヒソカがここにいたんだな?」

 

「は、はい!援助金の増額を提案してくださった方がお連れになりました。」

 

「……話を聞くに、今は居ないようだが。」

 

「すみません。1年程前に姿を消してしまいまして、鞄なども無くなっていたので脱走だとは思うのですが、…すみません私共の監督不足です。」

 

 何度も謝ってくる女性を止め、ジールは叫びたい衝動を抑えながら言葉を続ける。

 

「分かった、施設の取り壊しなどは無いだろう。援助金がどうなるかは分からないが……。」

 

「はい、はい。十分でございます。ありがとうございます。」

 

「俺は正式な使いでは無いので、詳しいことは向こうに連絡してくれ。」

 

 建物の陰から子供たちがこちらを覗いていた。話の内容に不安を覚えているのか、静かに見つめられるのは耐えられない。ジールは安心するだろうかと思いながら僅かに笑って手を振った。

 

 ざわざわと話始める子供たちを横に、安心したようで顔色が戻ってきた女性の方を見る。

 

(おっさんの感じだとわざわざ取り壊しまではしてこないだろうし……まぁ、連絡して確認しといて欲しいけど。)

 

「……連絡は出来ればして欲しい。では失礼する。」

 

 ジールの方も叫びたいことでいっぱいだった。足早に孤児院から立ち去ると、野宿をしている山奥まで掛けて行った。

 

 

(居ないんですけどーーーーーー!?!?!?)

 

 

「えっ?居ない?居なかったね。どゆこと?ひー君旅に出たの?脱走だって。あははぁ?いや、まじで?あれかな、お兄ちゃん行くの遅かったから反抗期来ちゃったかな?い、いいいいいちねん。1年前だって。誕生日の手紙を送ってから直ぐくらい?は?じゃあ、おっさんがそれ以降送ってくれなくなったの知ってたからじゃん。はめやがたったなあの野郎。いや違う。待て?今はひー君がお兄ちゃんに愛想尽かした問題が先だ。おっさんなんぞどうでもいい。」

 

 

 

 まぁ内心荒ぶってはいた。施設の前で叫び出さなかっただけアカデミー賞ものである。

 朝方に焚き火をした後も残っているキャンプ地で地団駄を踏みながら悶えている様はさながら芋虫のようであった。

 

「…………迎えに行こうと思っていたのは、俺の独りよがりだったのでしょーか。」

 

(ちょっと凹んだ。いや、かなりへこんだ。もうベコベコである。)

 

 急にしゃがみこむと、地面にのの字を書き始める。大袈裟に言わずとも情緒不安定だった。

 ヒソカが待っていなかったという事実には流石のジールも傷つく。

 

(ひー君には、お兄ちゃんが必要無いんですよ。)

 

 そして拗ねる。まあまあ面倒ないじけ方をしたが当方、気分の切り替えなら世界級であった。

 三日三晩落ち込み、いじけた結果、初心に戻ることにしたようだ。勢いよく飛び起き、寝袋姿なのも忘れビョンビョン跳ねるとエネルギー切れでぶっ倒れた。

 

「ぜェ、ハァ。……元々、俺の目標は、ゲホッ颯爽と現れて助けるお兄ちゃんなので、ひー君が求めてなくても、ハア勿論求められても助けるのが信条だ。…息辛い。今回の旅も、ひー君の変態化阻止の為だったじゃないか。……つまり、ひー君が居ないなら地の果てまででも追いかけて止める!(手遅れかもしれないけど)無理でも無事な姿は見たい!!」

 

 芋虫を脱したジールは、誰も居ないことをいい事に両腕を突き上げて大声で叫んだ。

 

「待っていたまえ!兄VS弟の鬼ごっこ開幕だ。」

 

 

 

 

 仁王立ちの姿から、ちょっと恥ずかしくなったジールはしゃがみこみ、鞄の中を漁り始めた。

 

(まあ、それはそれとしておっさんに報復はしておこう。)

 

 

 

 中から取り出したのは一見ただの白い紙だ。それを両手で摘むと悪どい顔をしながらニヤリと笑う。

 

「ははっ、てめぇの毛根なんぞ死滅してしまえ!」

 

 そう言ってビリビリと紙を破ると高笑いしながらそれをばらまいた。ジールの報復セット第1弾である。

 

 

 

 

 

 

(………………とりあえず、作戦練り直そ。)




ちなみに、ジール君の身長はもう少し伸びます。
次回は、新しい作戦の発表会です。


いつも読んで下さりありがとうございます。
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