よろしくお願いします。
この世界には多種多様な場所が存在している。
古の国家の跡地であったり、珍しい生き物の巣や、大きな植物が生い茂る森だったりと人間社会が形成されている場所を一歩離れれば、少年の心をくすぐる世界が広がっているのだ。
(ラジオ体操第一!)
木漏れ日が差し込む中、黒髪の子供は大木の根元から出てくるとそのまま準備運動を始めた。
身長が170はある人間でも十分に入り込める木の洞というのも乙なものである。
人里から離れて過ごしているジールは、小さい頃からの憧れだった秘密基地で生活をしていた。
それと言うのも、ハンター試験を受けるに当たって念能力の精度向上や、身体訓練の特訓期間を設けるようと考えたからだ。
今までも日課の筋トレや、堅の維持などの修行を行ってきたが試験合格の為には万全の準備が必要だと思ったのだ。一応、オーラの使用は緊急事態だけに留めておくつもりではあるが、もしもの時に使えないのでは意味が無い。
タンクトップと、短パンというこの時期にしては寒そうな服装で出てきたがこの後のトレーニングでガッツリ汗をかくので薄着の方がよかった。
ジールが一目惚れして住み着いている大木とその周辺をとりあえず走るのだ、根が浮き上がっていたり、木が密集していて走りにくい場所が多々ある森の中は修行にうってつけである。
まあ、当の本人は森で修行とかそれっぽいという理由で選んでいたが。
体力作りを終えると次は腕立てなどの筋肉トレを始める。これは道場に通っていた頃のものをそのまま続けている。余計な事をして無駄な筋肉が付かないようにとジールが自制心を働かせた結果であった。
それがなかったら、廃材のタイヤを2、3個括りつけ街の外を走っていただろう。足腰を鍛えるのにはいいかもしれないが、外聞的にはアウトである。
そうしてジールは合間に食事を挟みながら、着々とノルマを熟していった。
偶にやる気が出なかったり、天気が悪い事を理由に洞から出てこない日もあるが、ジールはまあまあ真面目に修行をしていた。
そして、そんなジールが一番やる気になるのは念の修行である。
最近は実践的な訓練と称して色々試しているのだ。
(チキチキ、ジールの三分クッキング!〜念の修行を添えて〜)
服の裾で汗を拭いながら開けた場所まで移動してきたジールはテンション高く念の修行を開始する。
(まずは、指先に集めたオーラを数字の形にします!)
立てられた右の人差し指の先には、0から順番にどんどん数字を型どっていくオーラが現れていた。
9までいくとまた0に戻され、ずっとぐるぐる変わっているようだ。そしてジールは人差し指を残すように体を離していき、最後にオーラだけをその場に残す。
(はい!1つ目が完成しましたね、それではこれを10個程作っていきましょう。)
ルーレットのようにくるくる変わるオーラの塊を空中に増やしていく。初めの頃は1つを指から話すのにも苦労したが、今では心の中でふざけながらでも作ることが出来る。
(そして用意しておいたものがこちらになります。)
たった今自分で作っていたのだが、そんなことはなかったと言わんばかりに一列に並んだルーレット群を紹介する。
ジールが手のひらで示した先には数字をランダムに変えるオーラの塊が浮いていた。
(さて、では最後の仕上げにまいりましょう。)
どうやらそろそろ終わりのようだ。三分の尺に収めるためにテキパキ動くとは中々優秀なコックである。
ジールはオーラから20mほど離れた位置に立つと、手を銃の形に握り前に突き出した。
(よーく狙って……からの、バン!)
趣味全開の調理法だった。
しかし、格好を付けた攻撃でも3年やれば形になるだろう。指先から撃たれたオーラの玉は一番左のルーレットに当たって散る。そしてオーラが当たったタイミングでルーレットも止まったのか数字が0のまま固定されていた。
続けて撃たれたオーラ玉も順々に当たっていき、最後には0から9の数字が綺麗に並ぶ。
(はい!ということでご覧の番組はキュー〇ーの提供でお送りしました。)
そうして満足したのか、ジールは晩御飯を求めて森の中に消えていった。念の修行第二部だ、使う得物は勿論オーラである。
とまあここまで見ていると、ジールの系統的に可笑しな部分が出てくる。そう、原作ではオーラの形を変えるのは変化系の修行方法だ。
当然ジールの系統が変化系に変わった訳では無い、変わっていたら喜びのままに金でもばらまいていただろう。何を隠そうジールが一番なりたかったのは変化系なのだ、兄弟でお揃いがよかったらしい。
さて、ここでひとつ言えるのは、ジールが数字を作っていた方法が変化系のものではなく操作系に依存したものであるということだ。
それ以上はジールが勘違いしていることが露呈しまうため、彼の名誉のためにも黙っておく。
まあ、そのうち自力で気づくだろう。多分。
先程の念の修行は、主に離れた所にあるオーラの操作と、放出系で念弾を飛ばす練習であった。
今は実体を持たせたオーラで獲物を捕まえる練習をしている。きっと一時間もしないうちに森鹿を狩って帰って来ることだろう。
そして日が落ちれば暗くなってしまうため、ジールは洞の中に戻り就寝する。
(明日は久しぶりに街に行く日だった…はず。)
日付けからも解放された修行期間はジールにとって充実したものだったが、生憎と星座から暦を算出するような高等技術は所持していない。
澄んだ空気に、洞の外側には満点の星空が広がっていた。
街中をスーツを着て足早に進む人や子供の手を引く母親が歩いていく。平日の朝ならではの人の多さである。その日一日のやる事が山のようにあるのだ、すれ違う人を気にしている人など殆ど居ないだろう。
小道からひょっこり顔を出し、通行人の多さにフードを被り直す不審者が居ても誰かが足を止める事もない。
(人が多いでござる。役所まで行ける気がしない。)
直進200m先には、ジールの本日の目標がある。
そう、今日はハンター試験の申し込み開始日なのだ、いつもより1時間も早く起きたジールはご機嫌に荷物を纏め森から出てきていた。
(あっ、今めっちゃガラの悪そうな人が通っていったぞ。あの人も試験受けるのかな。)
建物かの陰からこっそり出てきたジールは、オーラを一般人のそれに似せながら通行人Aのつもりで人混みに紛れた。
内心では久しぶりの人に怯えていたわけだか、特に何のトラブルも無く役所に着いた。強いて上げるなら、途中にあった信号機に全部引っかかったことくらいだろうか。
(マッ、マッチョがたくさんいる…。)
街の規模に合わせた大きい役場の中には荒くれ者がみっちり詰め込まれていた。
「ハンター試験の応募カードはこちらで配布しています!」
何か拡声器を通した声が室内に響く。
目の前に立っていた男達は互いを押し合いながら声の方に進んで行った。それを見てジールは先の長さに気を飛ばしかけるが、気合いを入れ直すようにフードの前を下げた。
(いや、ちょっと人が多いだけだ。欲しい物のために何時間も並ぶことなど慣れているだろう。)
前世で培った忍耐力を発揮し、列の最後尾らしき場所に立つ。プラカードが無くて少しソワソワしたのは内緒だ。時には押しのけて前に進もうとするマナーのなってない奴もいたが、後ろへ並ぶよう丁重に話し合ってポジションを守っているとだんだん受付のテーブルが見えてきた。
「はい、こちら申し込み用のカードとなります。必要事項をご記入の上指定の場所までの郵送をお願いします。」
前の人物が横に捌けると、遂にジールの番だ。
「ハンター試験の申し込みでよろしいでしょうか。」
「……はい。」
「それではこちらをーー、」
そうして差し出されたカードにジールの視線は釘付けである。
「何か質問はございますか?」
「…この用紙に枚数制限はあるか。」
「いえ、ございません。毎年たくさんの方が申し込みにいらっしゃいますので、役場では余裕を持ってご用意させていただいてます。追加でご用意しますか?」
「……もう一枚を。」
「かしこまりました。」
受付で担当をしていた人は特に疑問に思った様子も見せずに、二枚目の申し込み用のカードを渡してきた。代理で取りに来た人や、友人間の代表で取りに来る人もいるのだろう、この人の多さを見れば納得である。
しかし、ジールはそういった理由で二枚目を頼んだわけでは無かった。受け取った後は、いち早くこの場を離れようと丁寧な足取りで役場をでていく。
本当は森の秘密基地まで帰りたかったが、もう一度街まで来て郵送を済ませるのも面倒なので人気の少ないところに逃げる。
ジールが少々ぎこちなく歩いていると、街の中心から少し離れたところにある広場に出た。僅かに震える手はポケットの中に突っ込み、ベンチの方に近づいていくと人目に付かない場所であることを確認して座り込む。
ずるずると力が抜ける様に凭れ掛かると、落ち着くためにひとつ息を吐いた。
(いま、おれのてにはハンターしけんのおうぼカードがあります。)
傍から見れば静かに広場を眺めている人だが、内心はそう落ち着いている訳がなかった。
(あはっ、やべぇヨダレ出そう。だってハンター協会が発行した紙持ってんだぞ。やばい、これ書いて送ったらハンター試験受けられるとか魔法のカードかよ。怖い、もう持っているという事実が怖い。ああ興奮してきた、考えてもみなよ、原作で出てきたキャラ皆これ書いてんだよ?はぁ?カキカキして郵送してたとか、考えただけで永久保存版。マジ試験受けるのに必要無かったらこのまま囲ってた。だからこその二枚目なわけですが、いや手間をかけさせて申し訳ないとか思いましたよ、ホントごめんよ受付さん。あと邪な思いで二枚目貰っちゃってすみません。…返さないけど。)
二枚目の使用用途は、保存用だった。
そっとポケットから出されたのは正真正銘の応募カードである。
『【はんたー おうぼかーど】
わたしは はんたーしかくしけんに
せいしきに おうぼ いたします
てすとのさいに しょうじるあらゆる
じこについて せきにんをおいます
しめい:
……、 』
一応、街中であったため天を仰ぐだけに留めた。いや、ちょっとだけ地団駄は踏んだ。
(とりあえずこっちはオーラで保護しておこう。)
荒ぶっていることなどおくびにも出さないジールはスンッと真顔のままオーラで二枚目のカードを包んだ。
相変わらずオーラの使い方が可笑しい。
ジールはカードの保護が終わったあと、両手で持ち上げたカードに向かって頭を下げ鞄の中にしまった。
太陽の光を反射したカードはどこか神々しく見えた気さえする。
(さてさて、過去一綺麗な字で書いていこうか。)
取り出したボールペンをクルクル回しながら、ジールはもう一枚のカードを取り出すと集中力を遺憾無く発揮した。
そうして無事に郵送までこぎつけたジールは意気揚々と森まで帰ってきていた。
久しぶりの街も楽しかったし、美味しいものも買えたわけだが、何よりこれでハンター試験に参加できるのだ。祝いと称してビーフなんぞ買ってしまうくらいには嬉しかった。
洞のある大木まで戻って来る頃には月が爛々と森を見下ろしていたが、ジールは夜更かしを決行した。
キャンプファイヤーのように大きい焚き火を組んで、買ってきた牛肉を焼く。その間に持って帰ってきた応募カードをいい感じに立てかけてパーティーの準備を進める。
途中、カードの神々しさに体が反応しアリクイのように威嚇をしたりもしたが、最終的には泣きながら焼きあがった牛肉を供えていた。
そうしてボッチのパーティーが始まる。
その夜は森中に奇声が響いたとか、なかったとか。
こうして申し込みが終わった後は、偶に新聞を買いに行って俗世間に触れたりしながら、ジールは修行を続け年明けを待った。
「……寒くね?」
1985年 1月3日 ジール カヨイの森出発
分かっていた事だが、ジールは寝不足だった。
遠足が楽しみで仕方がない小学生状態となり正月のどんちゃん騒ぎ(一人)と相まって酷い顔色をしている。
まあ、その顔が誰かに目撃されることは無かった。
これでも一応真面目に考えたのである。人が多くいる中に行くのだ、身バレしない為にはどうすれば良いのか、もしハンターになったら有名になるかもしれないから素顔が分からないようにしようと。
フードは嬉しくない風のイタズラがあるかもしれないし、サングラスなんかは危険な試験中にいつ壊れるか分からないからと、うんうん頭を悩ませた。
…結果、袋を被れば良いのではないかと閃いた。
なんなら、濡れるかもしれないから紙袋は辞めようと麻袋を思いついた時は天才かと自分を褒めたたえていた。
決まったら最後、ジールは本などを入れていた麻袋の中身をカラにして、小さく覗き穴を開けたあとにずっぽり頭から突っ込んだ。
真面目に考えたのでは無かったのか、いや本人は至って真面目だった。たとえ思いついたのが正月の浮かれた時であったとしても、お節代わりに用意した豆にアルコールが入っていたとしてもあの時は真面目だったのだ。
なんなら被った時に、ちょっと収まりがいいかもと納得してしまったのだから後の祭りである。
落ち着いて考えれば、かっこいい仮面をつけようとかマシな案が浮かんだかもしれないが少なくともこの世界線のジールではなかったようだ。
晴れて不審者(完全版)に進化したジールは、三賀日の余韻も抜けないまま、森を出て田舎道を歩いていた。
(しっかし、ハンター試験会場案内だっけか?雑な事しか書かれてねーじゃねーか、どこだよダーグン街って。)
ジールは会場に辿り着くところから試験は始まっているという言葉を胸に刻み、麻袋スタイルのまま港を目指している。その手には一週間前に届いた紙が握られていた。
(適当にネッカフェに入るかなぁ。)
3日程で一番近い港町に到着すると、とりあえずは情報収集をしようと建物に入っていった。
※※※※※※※※※※※※
(はーい、ダーグン街が真逆だったことにめっちゃ焦ったのは俺ですどーも。)
勝手に別の大陸だろうと港町まで南下していたジールだったが、電脳ネットで調べた時に船に乗らないことを知って勝手にショックを受けていた。
慌てて来た道を戻りダーグン街の近くまできたのが6日、試験開始は7日である。
むしろ住んでいた森から西に2日で着く場所だった。完全に遠回りしたジールは、続々と集まってくるハンター試験の受験者を横目に自販機の横で座り込んでいた。
(マジで危なかった。……というかここからどうしようか。)
飲み終わったブドウジュースの缶をゴミ箱に投げながら目の前にある長蛇の列を眺める。
ジールからしてみれば「成程、これが…。」となる試験会場直通バスの列だ。勿論乗るわけが無いので、何かヒントを見つけなければと辺りを見回していると、その列の前で困ったように立ち尽くしているお婆さんが目に入ってきた。
突破口も見つからないし、とりあえず徳でも積んでおくかとジールは立ち上がりお婆さんの肩を叩いた。
「おやまぁ、不思議なお方ねぇ。」
振り返ったお婆さんは騒いだりしなかったが、近づいた列に並んでいた男達は軒並み距離をとった。
(……そういえば麻袋被ってたんだっけ。)
3日間の強行軍のせいですっかり馴染んでいたジールはその存在をやっと思い出した。
しばらくお婆さんの顔を見ていたかと思うと、ひとつ頷き鞄からフリップを取り出した。
『どうした?』
「それがのぅ、これを娘のところまで届けたいんやが今日はバスに乗れないらしくてなぁ。」
周囲の受験者は急に筆談し始めた不審者に驚いたが、それに普通に帰すお婆さんを見て引いた。
『どこまで?』
(このお婆さん、肝が座りすぎでは?)
「2つ隣の酒場町で働いとるんよ。」
『ものだけか?あなたも?』
「おや、もしかして持って行ってくれるんか?なら、この籠と伝言だけお願いするかのぅ。」
『了解した』
(うーん、これはワンチャンあたりか?)
バス停に置かれた時計はまだ午前中を指している。幸いにも一度行ったことがある場所だったので、最悪違ったとしても開始時間までに戻って来れるだろうと見積もっていた。
ジールは伝えられた伝言をそのままフリップに書き込み籠を受け取るとそのまま走り出した。
「助かったわい、気を付けてのぅ。」
お婆さんの気の抜ける声援を背中に走れば、2時間とちょっとで目的の酒場町に到着した。ちなみに籠の中身はワインとパンである、少しくらいなら雑に走れるのも助かった。
(さてと、娘さんがやってるのが“レッドレディ”)
レッド、レッドと頭の中で繰り返しながら練り歩こと暫く、目的の店を見つけたジールはそのまま中に入っていき無事に籠を渡した。
「あら、ありがとうね。お母さんから伝言とか聞いてないかしら。」
(親子揃って神経図太いなぁ。)
これはスムーズにいくかもしれないと期待しながら、ジールは伝言の書かれたフリップを見せた。
「うんうん、確かに受け取ったわ!……ところであなた強そうね、是非倒して欲しい魔物がいるんだけど。」
食堂として開かれている店の中にはジール以外にも数人の客がいた。娘さんと呼んでいる女性はその人達に聞こえないように、声を潜めて山の麓にいる魔物の話を始めたのだ。
唐突な話題の振りに驚いたもののジールは大人しくその話を聞いていた。
「……そこの洞窟まで行って、その魔物を退治して欲しいのよ。」
『了解した』
喋らなくていいの結構便利だなと思いながら、ジールはその山に住む魔物の討伐を引き受けた。
そろそろ疑惑が確信に変わりそうであったため了承したのもあるが、もうひとつジールには心当たりがあった。
話が終わると、ジールは食堂でランチセットを注文し一服するとそのまま店を出ていく。注文をした時は娘さんもこのタイミングで!?と驚いた顔をしていたが、面白そうにサービス付きのセットを出してくれた。
そうしてやってきたのはとても見覚えのある山と麓の洞窟である。
そもそもジールが知っている町など、旅のところで通った場所だけだ。その中で洞窟のある山となれば心当たりはひとつしかない。
「あら〜?懐かしい匂いがしたかと思ったらあなたなんて格好しているのよぉ。」
洞窟の中からかけられた声に、ジールは手を上げることで応える。
「あぁ!わかったわぁ、ワタシのことが恋しくなったのねえ〜。」
影の中から出てきたのはベァベァだった。
ジールが国境を越える際にお世話になった魔獣はどうやらハンター試験の審査委員会に雇われているらしい。なんとも羨ましい職業だ。
半年前に別れた場所で再び出会った一人と一匹は暫くの間会話に華を咲かせた。
「少し見ないうちに、また強くなったわねぇ。ワタシ好みになっちゃってもう。」
『嬉しい』
「ダサい帽子さえ無ければ完璧よぉ。」
『……。』
偶に華のトゲがジールに刺さったりもしたが、心置き無く話せる相手にジールも癒されていた。
しかし、それもベァベァが会話を切り上げたところで終わりとなる。
「そろそろかしらぁ、安心して〜。ちゃあんと分かってるわよ。」
そう言って起き上がったベァベァは、ジールの周りをひと周りすると大きな牙を見せながら笑った。
「アタシの男が通らないわけないじゃなあい?合格よ。」
ジールとしては、これから何か試練があるものだと思っていた。なんならベァベァと戦うのかなと少し楽しみにしていたのだが、あっさりと通ってしまったらしい。
急な展開に驚き固まっていると、さらに追い打ちがきた。
「さぁ、これで案内できるわね〜。」
ボンという音と共に煙が出ると、その中からは成人男性がでてきたのだ。
短く刈られた茶髪に長いまつ毛、褐色の肌と白い唇。整っている顔立ちは雄を全面に出したものであった。そしてなにより目がいくのはそのガタイだ、端的に言うとマッチョ。
(これはぁ、おネエさんかな……。)
薄々思っていた事だが、正直獣の性別はそこまで気にしていなかった。しかしこうして人型で現れるとなんともインパクトのある組み合わせだ。
「あらなぁに、ワタシの美しさに惚れ直したのかしら〜。」
頬に手を当てながら、こちらにウィンクしてくるのはここら一帯を締め上げた肉体派だ。
『いい筋肉だな。』
(マッチョ……!!)
「やぁ〜ん、嬉しいわ!」
そうして終始ご機嫌なベァベァに連れられ、ジールは最短距離で試験会場となる小屋の前に来ていた。
ここまで来るのに通った街のなかで人目を集めたのは言うまでも無いが、ベァベァがノリノリでジールに引っ付いて周りにアピールしていたのは意外だった。
「この中に入ったら、そのまま階段を降りるのよ〜。」
『了解した』
「ふふふっ、健闘を祈ってるわぁ。」
最後に投げキッスをされたが、ジールはそれをプラカードで防ぎつつ麻袋をとった。
最後くらいは相手の顔をみて言いたい。
「……ベァベァのおかげだ、ありがとう。」
しっかり麻袋を被り直したジールは小屋の下、試験会場に向かっていった。
「あらやだ、ホントにいい男ね。」
次回は一次試験から始まります。
読んでいただきありがとうねございます。
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