口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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幼少期編です。よろしくお願いします。


第一章 幼少期
お手伝いの褒美は絵本でお願いします。


おはようございます。

健康的な朝ですね、ラジオ体操がやりたくなりますわ。

……前世で俺の地区はそういうの無かったけど。

 

 

親子で川の字の様に寝ているが、起きた時には片側が空いていることが多い。

 

既に父は部屋に居ないのだ。毎朝、何処かに行っている。

朝食の時には戻ってきているので、仕事の下準備をしに行ってるんだと思うけど。

 

母はまだ眠っているようだ。

最近は、夜泣きも減ってゆっくり眠れているようで、目の下のクマも薄くなってきてた。

ほんと、寝不足は良くないって。

納期近いときに何回か気絶したことあるけど、その寸前の時は平衡感覚マジ死んでたから。母もそこまででは無いけど、ワンパク()な弟に手を焼いていたから、心配だったんだ。

 

まだ薄暗い部屋のなかをそっと忍び足で歩く。

裏庭が見える窓の方へ行き、木の板を上げると朝日が入ってきた。

 

「……ん。」

 

 

まだ身長が足りないので、踏み台は必須なのが格好つかないが、家のお手伝いは進んでやる様にしている。

 

風通しを良くしたら、次は玄関まで行く。

扉には触れることもなく、横に備え付けられている箱を開けて中を確認するのだ。

 

どうやら本日も電報局の方は早朝労働に勤しんでいるようで、しっかり用紙が入っていた。

俺が心の中で“新聞紙”と読んでいるそれには、この都市で起きた出来事や世界的な大事件が書かれている。

 

 

俺は、まあまあな規模の都市に住んでいるが、やはり治安は日本に比べても悪い様で、1人で外に行ってはいけないことになっている。

 

まあ、こんな走ったらバランスを崩すような幼児を1人で外出させる姿は日本でも見かけなかったけど。

 

俺の手にはやや大きい用紙を抱え、リビングの机まで運べばミッションコンプリートだ。

 

 

「あら、ジールちゃんおはよう。」

 

「……!」

 

「おはよう。」

 

 

弟を抱えた母が、朝食の準備を始めるためにやってきたようだ。なら、そろそろ父も帰ってくるだろう。

それまでに顔を洗って来なければ!!

 

…っと、その前に母の方へ駆け寄って行く。

いつもの事なので、何をしたいのか分かっている母は膝をつくようにしゃがんでくれた。

そうすると、腕の中に収まっている弟が俺の目線と同じくらいになるのだ。

 

 

「…!!、んぅ!」

 

 

「…ひー君も、おはよう。」

 

 

こちらに気づいたようで、手をパタパタと動かしている。くりっとした瞳が細められ、口をあうあうと開く様子は最近よく見る表情だ。…可愛い。

 

 

母は、俺のことをちゃん付で呼んでくる。かなり恥ずかしいのでやめて頂きたいが、それを口に出してませている子だと思われるのも恥ずかしい。結局、何も言えずに返事をしている。

 

もちろん、ヒソカの事もちゃん付なので、せめて俺だけは君付けで呼んでやろうといった経緯がある。

ちなみに、父は“おい”とか“あいつ”とかでそもそも呼ばれる機会が少ない。どうやら名前呼びというのが恥ずかしいらしい。

よく分からんが、きっとクラスの女子を名字以外で呼べないようなものだろう。うん。

 

あと、あだ名なのは俺の勝手なこだわりであり、より兄弟感が増すと思ったからだ。

決して、“ヒソカ君”という字面に違和感を持った訳では無い。こんなちびっ子はひー君で十分だ。

 

「…顔、洗って来る。」

 

「えぇ、気をつけてね。」

 

 

転ばないように気をつけながらも、父が帰って来るのに間に合うよう急いで洗面台の所まで行く。

俺が動き易いよう、開けたままになっている扉の部分を通り、踏み台に登る。

 

最近はドアノブに手が届くようになったのだが、開けようとすると身体のバランスを崩してたまに転ぶことがある。

 

幼児になってから、よく転ぶので受け身もどきが取れる様になった。俺としては、偶にバランスを崩すくらいなら対処可能なのだが、心配した父が母に部屋の扉はなるべく開けとくように言ったのだ。

そのおかげで、全室バリアフリーとなり毎朝のお手伝いもスムーズに行えるので感謝している。

 

桶に溜められた水で顔を濡らし(洗うとは言い難い雑さ)そのままタオルを探しながら鏡を見る。

 

そこに映るのは、黒髪の美幼児。もうすぐ4歳になるが、将来がとても楽しみな顔である。

 

ここが2次元だからなのか、やはり遺伝子が優秀なのか。一重だがパッチリして見える瞳に、緩い天パの黒髪と白い肌。作画が神ってる。

 

前世も当然のように一重だったが、上瞼は分厚く豆のように小さい目が潰されていた。

学生の頃から暗いところでゲームしていたせいで、眼鏡も必須だった。

コンタクトなんて、入れづらさが半端なく眼科で勧められたその日に捨てた。

いや、勿体なくて捨てなかったか?多分埃を被っていた気がする。

 

最初は、見慣れなくて顔を洗うたびに鏡を見ては固まっていたがそろそろ慣れた。

 

濡れてしまった前髪も軽く拭き取って、リビングへ戻ったのだ。

 

 

 

 

 

そこには既に帰ってきた父が母と話している姿があった。

 

 

「今日は、予定通り午前で店を閉められるだろう。お前達も用意しとけ。」

 

「それは良かったわ!お出かけ着はどこに仕舞ったかしら?」

 

机の上に並んだ朝食は、どれも美味しそうだった。

家族揃って食べるご飯は、結構楽しい。

前までは、ご飯は栄養摂取の作業だった。

むしろ、ご飯を食べるよりも本を読んでるか、ゲームをしたい欲の方が大きかった。

 

1人黙々と食べるよりも、皆で食べる方が楽しいというのは迷信では無かったようだ。

 

座面にクッションが置いてある席に着く。

こちらに気づいた父が席に座ったまま声をかけてきた。

 

 

「おい、今日は出掛けるから朝食を食べたら用意しとけ。」

 

言葉は強いが、声色は弾んでいる。お出かけを楽しみにしているんだろう。

 

「うん。」

 

「ジールちゃんも、おめかししましょうね!」

 

エプロンを外しながらニコニコしている母の言葉を拒否することなんて出来ないが、多少は手加減して欲しいものだ。

 

 

……だって、女の子ですか?って聴きたくなるほどのフリフリを着せてくるんだ。

 

「ほら、冷めないうちに食べるぞ。」

 

 

指を組むようにして、そのまま目を瞑る。

そして、しばらくしてから食べ始めるのだ。

 

どうやら食事の時の挨拶のようで毎食やるよう教えられた。ついでに心の中でいただきますも言っておくのがルーティンだ。

 

なるべくいい子でいようと頑張っているので、食事も綺麗に食べるようにしている。

ちなみにお手伝いもいい子作戦の一貫だ。

 

「……今日も美味しい。」

 

「あぁ、そうだな。」

 

「ふふっ、嬉しいわぁ。それなら、このトマトも残さず食べてね!ほら、おいしいわよ。」

 

母のフォークが避けておいたトマトを口元に持ってくる。

 

「ね?好き嫌いしてると大きくなれないわよ?」

 

いやなれる。大きくなれるよ。

だからトマトだけは勘弁してください。

 

じっと母の方をみて訴えかけてみるが、その手が引かれることは無い。

 

成長できるよ!たかがトマトひとつで子供が成長出来なくなるわけ無いじゃないか!

 

頑張って眉も下げてみる。下がっているだろうか?

 

「ダメよ。」

 

完敗だ。

これ以上駄々を捏ねても怒られるだけだ。

渋々といった様子で口を開きトマトを食べる。

あまり噛まないようにして、すぐに飲み込んだ。

うぇぇぇぇえ。

 

 

「頑張ったな。」

 

「偉い子ね。」

 

 

褒められるのは嬉しいが、その、苦手な食べ物を食べるだけで肯定感を上げてくるスタンスがやばい。

恐るべし子供時代。

麻薬のような中毒性があるぞ。

大人になったら何しても褒められることなんてなくなるからな、今のうちに享受しておこう。

 

 

褒め殺しに会いながらも、なんとかご飯を食べきった。

終盤になって気づいたが、食べ物の好き嫌いをするのはいい子ではないのでは?

しかし、魔のトマトを食べるかと聞かれれば全力でNOだ。

 

そもそも、いい子にしよう大作戦は育ててくれた親を少しでも助けようというものである。

前世の子供の頃なんて、お手伝いなんか絶対にやらないと思っていたが、精神が大人()な今では何かお返しがしたい気持ちでいっぱいなのだ。

そう、だからトマトを食べ無くても両親を助けることはできる!ほら完璧な証明だ!QED。

 

 

まぁ、いい子にしちゃおう作戦の最大の目的であるご褒美GETは、魔のトマトを倒さねば貰えないと思うので大人しく食べるのだが。

 

 

食べ終わってから、テクテクとベビーベッドに向かう。これから離乳食を用意した母がやってくるので、それまで相手をするのだ。

これも日々の積み重ねのひとつだ。

 

まぁ、ずっとべったりしているわけでは無いし、自分が絵本を読みたい時なんかは適当にガラガラを振ってあやすだけの時も間々ある。

 

今日は、これから出掛けるようなので絵本を読んでる暇は無いし、サービスしてやろうではないか。

何がいいかな?

 

この前は、握り心地がいいボールを渡した。

その前は、自動で回る棒付きのおもちゃ。

さらに前は、ピカピカ光る箱だったか?

 

あれ?俺、構わなすぎか?放置できるおもちゃばっかりだな。

いやいや、しょうがない。ちょっと長めの冒険風絵本がね?面白くてね?ほら、この世界の絵本はロマンがたくさん詰まってるから。

 

……うん。今日は人形劇とかやろうか。いいよ怪獣の人形と格好良いブリキ人形で、バトルものにしよう。

 

おもちゃ箱から目当てのものを探す。少し怖い顔をした恐竜のようなぬいぐるみと、木でできた帽子とサングラスを身に付けているブリキの人形だ。

 

右手に恐竜、左手に格好良いブリキを持ってベビーベッドを覗き込む。

 

弟の目はパッチリ開いており、眠気なんて無いのがわかる。

よしよし、お兄ちゃんが今から相手してやるかな!

 

「…こっちが怪獣。こっちは…多分ヒーロー。」

 

それぞれの手を動かしながらひー君に見えるようにする。

どうやら興味を持ってくれたようで、顔をこちらに向けて期待するような目で見てきた。

これは、兄貴ムーブのやりがいがあるね!!

 

「………。」

 

「…?」

 

「……………。」

 

「う“?」

 

 

…俺、即興劇なんて出来ないんだった。

この後どうすればいいの?

ほら、ひー君もこの後は?って顔でこっち見てるよ。

 

「…ガウガウ。」

 

右手に持った怪獣をひー君に近づけてみる。

 

「あうあう!」

 

よしよし。手を伸ばしてるし喜んでる、はず。

 

「ガオー。」

 

「だぁーー!」

 

そのまま怪獣でひー君のほっぺを突く。

ぷにぷになほっぺは俺のお気に入りだ。

 

「ガオー!ガー。」

 

つんつん。

 

「だぁ!あーー!」

 

よい、よいぞ。好評だ。そろそろヒーローも持ってこよう。

ストーリーのスの字もないが、仕方ない。むしろ、人前で怪獣の泣き真似をするのもギリギリなんだ。

そう、ギリギリなんだよ。

 

「…ま、まてー。」

 

セリフなんて恥ずかしくて言えないんだけど。

とりあえず、左手のブリキを怪獣とひー君の間に挟む。

 

「あぅ!」

 

「…」

 

何か、いい感じのセリフを言わなければ。

何か…。

 

 

「………ヒーローです。」

 

…終わった。やっぱ駄目だよ。どうすんだよこれ。始める前のあの自信はどこから来たのか小一時間問い詰めたい。

ほら、ひー君が続きを待ってる。

俺も、続きが知りたいよ。この後どうなんの?

 

…どうにもならないよね!

 

こうして、ものの1分も経たないうちに劇は終わった。もはや、劇と言うのも烏滸がましいレベルである。

 

「はーい。ヒソカちゃんご飯ですよ。」

 

手持ち無沙汰になり、怪獣でひー君のほっぺをつんつんしていると母がやってきた。

トレーにふやかしたパンと、つかんで食べれるお菓子を乗せてベビーベッドまで来ると、そのまま弟を座らせた。

 

「お兄ちゃんに遊んでもらえてよかったね。」

 

「あーあー!」

 

あれは、遊んだうちに入るのか…。そうか。

ん?というか、聞かれてたってことですか!?あぁ、恥ずかしい。なんということだ。

あんな稚拙な人形劇が見られていたなんて。

 

やば、つら。

 

「ふふっ、楽しかったのね。さぁ、ご飯も食べちゃいましょう?」

 

いつもなら、ここで代わりに食べさせるくらいするのだが、拙い人形遊びが見られていたショックで意識が抜けていたのだ。

せっかくの、お兄ちゃんムーブが出来るチャンスを逃してしまった。

 

 

そして気づいた時には、洋服も着替えさせられ出掛ける寸前だった。

これが新手のタイムワープですか、そうですか。

 

よーし。お出かけの時に兄貴風吹かせてやるからな!

 

 

 




次はお出かけ回です。
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