口下手なオタクがヒソカの兄に   作:黒田らい

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ジールの得意分野らしい二次試験の話です。
よろしくお願いします。


二次試験が始まりますよ?

 古文書には今は無き高等技術や、遥か昔に書かれた物語、はたまた遺跡から出てきた日記に至るまで様々な内容の物がある。しかし、それを見つけたからと言って読める物だとは限らない。中には古代の文字で書かれたものから、情報の漏洩を気にして暗号で書かれた物もあった。

 

 そしてそれを専門にハントを行う者たちがいる。その一人であるロッサ・ブルーメは手に持った本で受験者達を指しながら、二次試験の内容を発表していた。

 

 熱烈な宣言にざわついた受験者達を置いて、ブルーメはルールの説明を始める。

 

「あなた達にはわたくしが用意したテストを受けてもらうわ。詳しい事はリリーが説明するから、精々そのスカスカな頭に叩き込むことね。」

 

 多くの受験者に見られながらも態度ひとつ変えずに話しきったブルーメはそのまま箱から飛び降り、キャスター付きの椅子に戻っていった。

 

「ご紹介に預かりました。二次試験の補佐官を担当するリリーでございます。本日はよろしくお願い致します。」

 

 会議室全体に聞こえるようにマイクを通して行われた自己紹介は、先程とは打って変わってとても丁寧なものである。これには、散々煽られまくった受験者達も大人しくせざるをえなかった。

 ブルーメ?ブルーメは良くも悪くも響く声をしているマイクなんぞ使わなくてもその言葉は全員に聞こえていただろう。

 

「皆様には、これから四つのテストを受けていただきます。つきましてはテスト中に以後述べるルールを遵守して頂きますようお願い申し上げます。」

 

 四つと聞いて、ただでさえざわついていた受験者達はさらに動揺を示した。

 

「テストを円滑に進めるための措置ですので、こちらを遵守頂けない場合は失格とさせて頂きます。ご了承ください。」

 

 室内のざわめきに耳ひとつ貸さない様子のリリーは、淡々と注意事項を話していく。堅苦しいと表現出来るその話し方に、普段からノリと勢いで話している受験者達は意味を汲み取るのに全神経を注いでいた。

 

「まず1つ目に、テストの解答権は先着順となっています。解答用紙をブルーメの元にお持ち頂いた方から採点を行いますが、最も遅かった10名の方は自動的に解答権を剥奪致しますのでお気をつけ下さい。」

 

「答えの分からない馬鹿にいつまでも付き合ってられないわ。」

 

「2つ目に、テストを行う部屋に入室していただく際に解答用紙を配布致します。挑戦者の方々の人数分しか用意しておりませんので、紛失しないようお気をつけ下さいませ。」

 

「失くすんじゃないわよ。あんた達に使う無駄な資源なんて無いの。」

 

「3つ目は、解答用紙の記入に関する事です。お渡しした解答用紙には受験番号をお書きください。採点の際の識別に使用致しますので、くれぐれもお間違いの無いようお願い致します。」

 

「名前が書けない馬鹿の為に番号制にしてあげたわよ。」

 

「最後に、試験中は発言の一切を禁止させて頂いてます。発声による答えの伝達等、試験を著しく妨害する恐れがあるためこちらの規則を設けております。ご理解の程よろしくお願いたします。」

 

「馬鹿でも四つのルールくらいは覚えられるでしょう?シンプルで良かったわね。」

 

 

 まるでコントのように挟まれる罵倒に苛立ちながらも、受験者達はルールの把握に勤しんでいた。

 

「長々と説明してしまいましたが、聡明な受験者の方々には何ら支障は無かったと存じます。質問等はこの後受付ますのでお声掛け下さいませ。」

 

 そう言って壁際まで下がっていったリリーを目で追いながら、一部の受験者は最後の言葉に違和感を覚えた。まるで、ブルーメが喋った後のような気分に陥る。

 

 しかし、そんな事を気に止めるような試験官達ではない。質問が無いことを確認し、そのままひとつのドアーを指さし入室を促してきた。

 

「それじゃあ一次試験のクリア順に入ってちょうだい。用紙を貰ったら直ぐに解いていいわよ。」

 

 隣室に直接繋がっているらしい、無機質なドアーを通る最初の受験者はジールであった。

 

 ルール説明の間全くもって反応を示さなかった麻袋がどうしていたのか、二次試験の内容を思い出して貰えれば分かるだろう。

 

(古文…古文書。ぐへへ合法的に本が読める。昔に書かれた本かぁ、ロマンがありますなぁ。)

 

 スクリーンの文字を見てからは脳内がお花畑状態であった。本好き兼ハンター世界マニアとしてはこれ以上無い黄金タッグでやってきたのだ最早カモネギ。

 

(あっ…、呼ばれた?へへっ、それじゃあ最初に読ませていただきますわ。)

 

 外見上は気負った様子なくスタスタと歩いていくジールは、心の中で花畑の中でスキップしていた。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※

 

 

 ジールが問題と解答用紙を受け取り設置されている机のひとつに向かって行ったあと。それに続いて受験者達が入ってくると、もはやお約束といわんばかりにジールと距離を置いて着席した。

 

 遺跡の中でも異様な雰囲気を醸し出していたが、こうして日常的な空間でテストを受けていると尚さらその異質具合が浮き彫りになる。

 

 

(ふふん、暗号?任せろ?スパイに憧れていた俺に掛かればイチコロよ。)

 

 当の本人は周りの様子など気にすることなく、ウキウキと解読の作業に取り掛かっていた。

 ちなみに、ジールはスパイに憧れていた“だけ”なので専門的なことは一切分からないことを注釈しておこう。

 

 

 

【第一問】以下の例文を参照し、書かれた文の内容を解答すること。なお、記号を優先し、余分な物を取り除き位置を正した上で音を交換せよ。

 

 

〇問題

 「やるにみ“おて”つきこ、をれたなしあゃうろいわしあゅくふくして“うり”やうど。」

 

 

〇例文その1

 「そんそいごやくたれち、とあゃ“あぐ”うごほこだる。」

 

 「さんさいがよくとれた、ちょうごうがはかどる。」

 

〇例文その2

 「“いか”ょを、ゆとしはしらいねかわひらあっと。」

 

 「きょう、わたしはしろいねこをひろった。」

 

(以上)

 

 

 

 

(問題文には解読の手順が書かれているし、いけそうだな。)

 

 一枚の紙に書かれたシンプルな問題は、ジールにとってただのパズルと変わりはない。意気揚々とペンを回しながら、解読の答えまでをスラスラと書いていく。

 

(……入れ替えて〜、小文字前は置き字だからそのまま飛ばす。んで音は多分母音のことだから――)

 

 暗記以外はだいたい出来ると豪語しているとおり、法則の発見と適用はジールの十八番だ。調子に乗りまくったジールは、ついに文章の解読に成功する。

 

 そうして完成した文章を眺めた瞬間、ジールはペンを落とした。

 騒がしい室内にペンが落ちる固い音が響く。

 

(……くっそ、不意打ちをくらった。)

 

 机に向き合ったまま、ジールは脳内でダメージを受けた自身を盛大に弔っていた。その原因はつい先程意味が分かるようになった文章だ。

 

『よるにみえたつきは、かれとのしょうらいをしゅくふくしているようだ。』

 

(リア充の日記じゃねえかよ!!)

 

 ジールはただ今14歳、そろそろ15歳になるという思春期真っ只中の純情ボーイである。色恋の話に敏感になっているところへカップルの結婚報告は刺さった。この場合、精神年齢上で結婚適齢期を過ぎているためダメージは倍である。

 

(まあ、解けた事に変わりはない。さっさと提出してしまおう。)

 

 

 そうして席を立ったジールを見た周囲の受験者達は乱闘の途中にも関わらず、全員が驚きで動きを止めていた。

 きっと、あいつ頭イッて無かったんだな等と思われている事だろう。発言が禁止されていなければ数人は声に出してツッコミを入れていた。

 

 

 さて、ジールは文章に夢中で気づいていなかったが、試験会場では強奪戦が開催されていた。

 

 解答用紙の強奪が禁止されていないため、答えに辿り着いた者からそれを奪い取り受験番号を書き換えれば通過することが出来るのだ。それに気づけた者はまあまあ頭が回る判定でこの一問目は通過を許されていた。

 

 そのままでは最後まで辿り着くことが出来ないように罠も仕掛けられているためブルーメはニヤニヤと楽しそうに見ていた訳だが、事態は思わぬ方向に転がっていく。

 

(…………てめぇ、それを寄越せ!)

 

(やめろ、そんなに引っ張っるな!)

 

 セリフを付けるのならこんな感じになるだろうか。ひとつの物に群がる野郎共は、互いに殴ったり押しのけたりと必死である。

 

(……誰か他にペンを持ってる奴いねぇのかよ!)

 

 その中の一人は必死そうに辺りを見渡していた。

 

 そう解答用紙を奪い合っているのでは無い。それより低いレベルの争いである。

 

 生憎と試験官から渡されたのは問題と解答のための用紙だけである。解答を書くペンどころか、強奪した用紙の番号を書き換えるためのペンも不足している現状に流石のブルーメも蔑みを通り越して呆れていた。

 

 頭が痛いと言わんばかりに、眉間を抑えながらペンの手配を指示するとブルーメは力なく椅子に座り込む。横に立っていたリリーもどこか遠くを見るような目をしていた。

 

 そしてそこへやって来るのは、一番に暗号を解き終わったジールともう一人、白色の髪にベレー帽を被った眼鏡っ子であった。

 

「へぇ、ちょっとは見所がありそうじゃない。」

 

 番号の若いジールから解答用紙を受け取り、サッと目を通すとブルーメは合格の判子を押した。続けて眼鏡っ子の解答用紙も受け取ると同じく判子を押す。

 

「まだ終わらないわよ。さっさと次の部屋に行きなさい。」

 

 ブルーメに示されたドアーが2問目のテスト部屋らしい。

 ジールはブルーメに頷いて返事を返すと、リリーが開けてくれたドアーを潜った。ブルーメに一礼した眼鏡っ子もその後に続いていく。

 

 その後ろでは、やっと手に入れたペンを握りながら解答用紙を奪い合う受験者達がいた。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※ 

 

 パタンと閉められたドアーの前には麻袋を被った172cmと、ベレー帽を被った147cmが立っている。

 隣室の騒がしさから切り離されたそこで、件の眼鏡っ子は伺うようにジールを見上げた。

 

 それに気づいたのか否か、ジールは鞄を漁っていたかと思うとフリップを取り出して短く書き込んだ。

 

『やぁ』

 

 リベンジマッチである。

 その文字を見た眼鏡っ子は目を輝かせて、サイドポーチからメモ帳を取り出した。そのまま凄い勢いでペンを走らせると、背伸びをしながらジールにそれを見せてくる。

 

『初めまして!僕ティリー・ベルドっていいます!ずっと43番さんとお話してみたくて…、情報屋を名乗っておりますが、こんな麻袋を被った奇特な方には初めてお会いしました!』

 

 たった二文字の挨拶に長文で返されたジールはタジタジにされる。

 

(こ、これはコミュ強の気配がする……。)

 

 ジールは、グイグイくるティリーに及び腰になりかけるが、友情を深めるためにはむしろ好都合だと思い直すことにした。

 反応を返さないジールを気にすることも無く、ティリーはメモ帳をペラりと捲る。

 

(……二枚目!?)

 

『お名前を伺ってもよろしいでしょうか!?!?』

 

 爛々とした瞳で見られたジールはハッとした。友情を深める為の自己紹介は基本だろうと、こんな怪しい奴に話しかけてくれる子を逃さない為にも慎重に自己紹介を書いていく。

 

 キュキュッと書き終えると、ジールは見やすいように少し下の方にフリップを出した。

 

『ジール=モロウ。よろしく。』

 

 まあ分かっていた事である。失礼が無いように色々考えた結果なのだ。

 

 ちなみに名字の方はハンター試験に申し込む時に、原作のヒソカからパクったものである。

 

 よろしくの文字を見た眼鏡っ子はパァッと笑顔を見せると凄い勢いでメモ帳を埋めた。

 

『よろしくお願いします!!!』

 

 紙いっぱいに書かれた文字と、45度ピッタリに下げられた頭はとても友好的なものである。それに対してジールは親指をグッと立てることで答えた。

 

 そしてその時、二問目を開始すると試験官からの招集がかかる。互いに解答用紙を受け取った後はそれぞれの好きなところに座った。

 

(ベレーくんって呼ぼ……)

 

 ペンで麻袋を突きながら、ジールは問題用紙に目を落とした。

 

 

 

 

【第二問】以下はバビロイア文明で使用されていた器具の内部構造を図示したものとなります。注意書きからこの器具の使用方法を答えなさい。

 

 

(幾つかの受け皿と、上部に貯められた水の図)

 

 

 

 

 

 

 

 解答用紙と共に渡された辞書に喜んだのも束の間、中に書かれた記号には複数の意味が示されており前後の文の関係から判断しなければならないものだった。

 しかも今回は道具の説明だけである。部分的に書き込まれた単語から意味を書き出さなければいけないため難易度は跳ね上がっている。

 

 声にならない悲鳴を上げる受験者達を横にジールはスラスラと書き進めているようだった。

 

 前回、他から解答用紙を奪って来た輩はジールの解答用紙をもの欲しげに見つめているが、それを奪いにいく勇気はないため他のターゲットを探すことにした。

 

 

 

 

『辞書は貰えるのか?』

 

 解答用紙に判子が押されるのを見届けながら、欲望のままに問いかける程度には簡単だったらしい。

 

「興味があるの?持っていってもいいわよ。」

 

 

 一問目よりも手際良く解けた者や、効率よく奪えた者達が並ぶ中で改めて辞書を貰ったジールは小躍りしながら3つ目のドアーを潜る。

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 受験者の人数がだんだんと減っていき既に80人もいない室内はガランとしている。ブルーメは一問目で半数以上が落ちた時には高笑いしていた。来年に出直して来なさいと、それはもういい笑顔だった。

 

 一番最初に部屋を出ていくジールは気づいていなかったが、きっと見ていたら高笑いの上手さに拍手を送っていただろう。

 

 

「それでは三問目を開始いたします。これから10分間のビデオを流しますので受験者の方々は、ビデオ終了後に解答用紙を持ってきてください。」

 

 リリーがプロジェクターらしきものの前で説明をする。再び暗くなった室内にも慣れて来た受験者達は、僅かに聞こえる機械音に耳を向けながら目の前のビデオを見ていた。

 

(…再現VTRにしては周りの植物が数十世紀前のものだし、まさかガチのやつですか!?)

 

 そして最前列に座る男が一人。

 麻袋を外しそうな勢いで映像に食いついたジールは、ふんふんと頷きながら後付けらしいナレーションを聞いている。

 

 関心意欲態度ならばぶっちぎりの好成績だった。

 

 

 ビデオが終了し、その内容にホクホクしていたジールは配られた問題用紙を受け取りさっさと解いてしまおうとペンをくるりと回した。

 

 しかしここで事態は一変する。

 

 

【第三問】ビデオで紹介されていた内容に当てはまるものを以下の選択肢から選びなさい。

 

1.家畜として飼育されていた動物は

 A馬豚

 B長馬

 C茶豚

 D豚鼓

 

2.次期族長を指す名は

 A供賦

 B豪倭

 C認仗

 D仭挺

 

3.…………

 

4.……

 

.……

 

 

 

(あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!詰んだ!やばいよぉ。いや待て、諦めるな、何とかするんだよ!)

 

 

 問題用紙を見た際の反応である。

 

 ジールは他の受験者達のように内容が難しくて悩んでいるのか、否。ビデオで説明されたものは1から10まで説明出来るし、問題用紙に書かれた事も理解している。ではなぜ絶叫しているのか。

 

(いやね、さっきチョロっと言われた単語なんて覚えてるわけないじゃん。)

 

 この麻袋、暗記だけはダメなのである。人に渾名を付けないと呼べないくらいには覚えない。

 正確に言うと固有名詞が覚えられない、あと単語。物語だとか、昨日あったことなど一連の流れがあるものは覚えられるのに単体では覚えられない。一度覚えればまだマシなのだがそれまでが長い。

 

 散々な言いようであるが事実である。HUNTER × HUNTERの漫画でさえ、出来事は直ぐに覚えるのにキャラクターの名前は単行本一冊読んでも覚えられなかった。どハマりして何周もしていなければ、今頃ヒソカの事もあのピエロっぽい赤髪の〜なんて呼んでいただろう。

 ちなみにゴンは名前が短かったので2巻が終わる頃にはツンツン呼びを卒業していた。

 

 

 さて、周りには分かりにくく項垂れているジールは心の中で全力で言い訳をしていたわけだが、もはや思い出すことは不可能である。

 

 ここまでかと、ペン先で解答用紙を突いていた時のことだ。ジールの机の上に一枚のメモ帳が置かれた。

 

『モロウさん!助け合いませんか!!』

 

 見覚えのある字にジールはそっと顔を上げた。そこにはベレーくんが懇願するような表情で立っている。これはもしや!とフリップを取り出したジールはいそいそと書き出す。

 

『分からないことがあるのか?』

 

『はい!選択肢の読み方が分からなくて選べないんです。』

 

 

 なるほど、確かにナレーションだけだった為、選択肢が読めなければ選べないだろう。

 

(これはまさに友達との協力作業!試練っぽい!)

 

 先程までの落ち込んだ様子はどこへ行ったのやらと、ワクワクしだしたジールは椅子を持ってきたベレーくんを横に座らせた。

 

『一問目の読みは覚えているか』

 

『トンコーでした!』

 

『D』

 

『はい!』

 

『二問目』

 

『ニンジョーです!』

 

『C』

 

『分かりました!』

 

『次』

 

 

 淡々としているが、ジールの中ではメシアを崇めたてる宴が開かれていた。コミュ強と診断されたベレーくんも文字から伝わってくるくらいには喜んでいる。

 

 43番に話しかける勇者二号の出現に周囲は驚いたり、その答えを盗み見ようと忙しかったのは言うまでも無い。

 

 そうして最後まで答えを書き終わると、ジールはベレーくんに連れられて二人で解答用紙を提出しに行った。

 

「……随分と仲がいいようね。」

 

 渡された用紙を受け取りながら、ニヤリと笑ったブルーメは二人の事を面白そうに見る。

 どうやらやり取りは丸見えだったようだ。

 

 まあ、隠そうとも思っていなかったのでジールに動揺は無かった。最初のルールで声を出すのは禁止されたが、答えを教えてはいけないとは言われていない。

 揺さぶりもクールに流すジールを見て、なおご機嫌そうなブルーメは判子を押すと最後のドアーを示した。

 

「賢い方なら歓迎するわ。」

 

 入室と同時に渡された解答用紙を見ながら二人はそれぞれの机に着く。

 

 ジールは今、空をも飛べる気分だった。やりたかったことNo.1は伊達ではない。力を合わせて乗り越える強さを知った今ならどんな難問でも越えられる気がする。

 

 お互いに頑張ろうと頷きあい、机に置かれた問題を見る。

 

【第四問】以下のマスに数字を入れ図を完成させなさい。

(俗に言うナンプレが書かれた図)

 

 

 

 ――数秒後、ジールは力が抜けたように机に突っ伏した。

 

(そっかぁ、昔の人もナンプレしてたのね……。)

 

 

 

 なんだろうこの脱力感は、もう一度問題を見直しても少しマスが多くて数字が16まであるナンプレに変わりはない。

 

 ラスボスだからと気合いを入れたのが全て抜けた。麻袋を机に擦り付けながらダラダラと答えを書いていくが、それでさえ今までで一番早く解き終わった。

 

 ジールはガタリと立ち上がりベレーくんの方を見る。困っているようならお返しをしようと思ったが、ゆっくりではあるが着実に解いている姿を見てそれもやめた。

 余計なお節介はやかないのである。

 

 まだ向こうで採点をしているらしいブルーメ達は、こちらの部屋にはやって来ていない。フリップを持ち、いつもよりキレのない歩き方でジールはさっき通ってきたドアーの方へ向かって進んでいく。

 

(これが五月病?……いや違うわ、何もしてないもん。)

 

 それに気づいたベレーくんはなにやら尊敬の念を込めてその背中を見送っていた。

 

 ガチャリ。

 

「なにか不備がありましたか?」

 

『終わった。』

 

 フリップと一緒に渡された解答用紙にブルーメ達が固まった。ついでに採点を待っていた他の受験者達も固まった。

 

 いつものジールなら、ふざけて“俺なんかしちゃいました?”くらいは思ったかもしれないがそれすら無い。

 

 そうして微妙な空気の中で、ジールの解答用紙に判が押された。

 

 二次試験 合格。

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

「今頃、二次試験をやっているんだろうな?」

 

 紅茶やお茶請けなど、様々な軽食が用意されている部屋では数名の男女が話していた。

 

「なんスか、気になるヤツでもいたんスか?」

 

 それぞれが、携帯食やスナックなど好きな物を摘んでいるその空間は和気あいあいとしたものだ。

 

「それがな?見所がある奴が何人かいたんだが、その中でもとびっきりの奴がいたんだぞ?」

 

「へぇー、凄いッスね!!」

 

 干し肉をちぎりながら話す男達の言葉を聞き流しながら紅茶を飲む金髪の女性。

 

「きっとブルーメ達も喜んでいるんじゃないか?あいつはいい男だからな?」

 

 室内でもヘルメットを被ったままの男がそう豪語すると、カップをソーサーに置いた女性が興味を示した。

 

「いい男?それは楽しみだわさ!!」

 

 

 楽しい楽しい三次試験はもうすぐである。

 

 

 

 




試験パートはどんどん進みます。次回は三次試験です。
ちなみにベレーくんはくん呼びしていますが性別は決まっていません。お好きな方でお読みください。ジールは一人称から脳死でくん付けしました。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
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